(はじめに)
前の2−8章では、「槍穂高連峰」、「後立山山脈」、「立山山脈」の3つの山並みが合流する、北アルプス中央部の山々についてその地質と地形の説明を行いました。
この2−9章以降は、「立山山脈」の山並みに沿って南から順に、その地質と地形について説明します。
まずこの2−9章では、前章で紹介した黒部五郎岳から先に進んだ場所にある北ノ俣岳(きたのまただけ;2662m)の地質について説明します。
北ノ俣岳という山は、写真でもお示ししているように、稜線にあるちょっとした高みという程度で、山としては大した特徴もなく、それほど有名とは言えない山ですが、ここでわざわざ取り上げた理由は、山頂部一帯が、「手取層群(てとりそうぐん)」という中生代の堆積層で覆われており、その手取層群の説明をしたいがためです。
この2−9章以降は、「立山山脈」の山並みに沿って南から順に、その地質と地形について説明します。
まずこの2−9章では、前章で紹介した黒部五郎岳から先に進んだ場所にある北ノ俣岳(きたのまただけ;2662m)の地質について説明します。
北ノ俣岳という山は、写真でもお示ししているように、稜線にあるちょっとした高みという程度で、山としては大した特徴もなく、それほど有名とは言えない山ですが、ここでわざわざ取り上げた理由は、山頂部一帯が、「手取層群(てとりそうぐん)」という中生代の堆積層で覆われており、その手取層群の説明をしたいがためです。
1)手取層群について
化石や恐竜に関して興味のある人にとって、北陸地方一帯に分布する「手取層群」(てとりそうぐん)という地質名は割と有名です。
というのは、日本列島では珍しく、中生代(ジュラ紀、白亜紀)の化石を多産する地層群であるからです。特に、恐竜類の化石が見つかることで恐竜マニアの方には有名だと思います。
以下、主に(文献3)をベースに、手取層群の説明をします。
手取層群は北陸一帯の山間部に分布していますが、大きくは西部と東部の2地区に分けられます。西部は「白山区」とも言われ、石川県南部(白山付近、手取川流域)、福井県東部(勝山市の山間部)、岐阜県飛騨地方北西部に分布しています。東部地域は「神通区」(じんつうく)とも呼ばれ、富山県の有峰湖付近を中心とし、富山県の南東部、岐阜県飛騨地方北東部に分布しています。北の又岳の手取層群は、東部地域の東端にあたります。
日本列島の古い堆積岩の地質体は、その多くが、海洋プレート沈み込みに伴う「付加体」で出来ていますが、この手取層群は、付加体型の堆積層ではなく、主に淡水性の環境(湖、沼地、扇状地など)で堆積した地層です(一部、アンモナイトの化石を含む海成層もあり)。そのために、湖、池へと周辺の川から流れてきた土砂とともに、当時住んでいた恐竜や植物などの化石が混じっているわけです。
手取層群の堆積時期は、ジュラ紀後期(約1.7億年前)から白亜紀前期(約1億年前)と、かなりの期間に及んでいます。そのころの日本列島に相当する地域は、まだユーラシア大陸(中国大陸)と陸続きであり、現在の北陸地方はおそらく、現在の北朝鮮北東部、ロシア沿海州と陸続きだったと思われます。そのため、中国大陸で繁栄していた恐竜や各種動物(陸生、海生)さらに森林の木の葉などが、化石となっているわけです。
特に福井県の山間部(勝山市付近)の手取層群からは、恐竜の化石が多く見つかっており、福井県 勝山市には、「福井県 恐竜博物館」(文献2)があって、恐竜時代(中生代)の化石を多数展示されており、一見の価値があります。
また、石川県 白山の麓あたりに分布する手取層群も、化石を多産することで有名で、「桑島化石壁」と称する、化石が多産する場所もあります(ただし一般の人は採取禁止)。また「白山恐竜パーク白峰」(文献4)という施設もあります(有料ですが、化石発掘体験ができます)。
というのは、日本列島では珍しく、中生代(ジュラ紀、白亜紀)の化石を多産する地層群であるからです。特に、恐竜類の化石が見つかることで恐竜マニアの方には有名だと思います。
以下、主に(文献3)をベースに、手取層群の説明をします。
手取層群は北陸一帯の山間部に分布していますが、大きくは西部と東部の2地区に分けられます。西部は「白山区」とも言われ、石川県南部(白山付近、手取川流域)、福井県東部(勝山市の山間部)、岐阜県飛騨地方北西部に分布しています。東部地域は「神通区」(じんつうく)とも呼ばれ、富山県の有峰湖付近を中心とし、富山県の南東部、岐阜県飛騨地方北東部に分布しています。北の又岳の手取層群は、東部地域の東端にあたります。
日本列島の古い堆積岩の地質体は、その多くが、海洋プレート沈み込みに伴う「付加体」で出来ていますが、この手取層群は、付加体型の堆積層ではなく、主に淡水性の環境(湖、沼地、扇状地など)で堆積した地層です(一部、アンモナイトの化石を含む海成層もあり)。そのために、湖、池へと周辺の川から流れてきた土砂とともに、当時住んでいた恐竜や植物などの化石が混じっているわけです。
手取層群の堆積時期は、ジュラ紀後期(約1.7億年前)から白亜紀前期(約1億年前)と、かなりの期間に及んでいます。そのころの日本列島に相当する地域は、まだユーラシア大陸(中国大陸)と陸続きであり、現在の北陸地方はおそらく、現在の北朝鮮北東部、ロシア沿海州と陸続きだったと思われます。そのため、中国大陸で繁栄していた恐竜や各種動物(陸生、海生)さらに森林の木の葉などが、化石となっているわけです。
特に福井県の山間部(勝山市付近)の手取層群からは、恐竜の化石が多く見つかっており、福井県 勝山市には、「福井県 恐竜博物館」(文献2)があって、恐竜時代(中生代)の化石を多数展示されており、一見の価値があります。
また、石川県 白山の麓あたりに分布する手取層群も、化石を多産することで有名で、「桑島化石壁」と称する、化石が多産する場所もあります(ただし一般の人は採取禁止)。また「白山恐竜パーク白峰」(文献4)という施設もあります(有料ですが、化石発掘体験ができます)。
2)北ノ俣岳とその周辺の地質分布
さて、北ノ俣岳に話が戻りますが、産総研「シームレス地質図v2」によると、北ノ俣岳の頂上部および西側山腹は、手取層群の泥岩、砂岩、礫岩で覆われています(堆積時代は、白亜紀前の、約1億年前〜1.2憶年前)。
またこの地層群は、北へと延び、太郎平小屋のある、太郎平あたりまで続いています。また太郎平への登山口でもある折立(おりたて)までの登山道も手取層群に覆われています。
この一帯は目立った岩場、崖などなく、緩やかな稜線が続きますが、おそらくは、浸食されやすい堆積岩でできているためだと思います。
なお、手取層群は前述のとおり、中生代の化石を多産する地層群ですが、この北アルプスの稜線で化石が見つかったという話は聞きません。北アルプス全体が国立公園で、岩石も含めて自然物の採取が禁止されているために、北ノ俣岳付近での化石採掘は行われてないのでしょうが、ひょっとしたら、この山のどこかに、恐竜の化石がひそかに眠っているかも知れませんね。
またこの地層群は、北へと延び、太郎平小屋のある、太郎平あたりまで続いています。また太郎平への登山口でもある折立(おりたて)までの登山道も手取層群に覆われています。
この一帯は目立った岩場、崖などなく、緩やかな稜線が続きますが、おそらくは、浸食されやすい堆積岩でできているためだと思います。
なお、手取層群は前述のとおり、中生代の化石を多産する地層群ですが、この北アルプスの稜線で化石が見つかったという話は聞きません。北アルプス全体が国立公園で、岩石も含めて自然物の採取が禁止されているために、北ノ俣岳付近での化石採掘は行われてないのでしょうが、ひょっとしたら、この山のどこかに、恐竜の化石がひそかに眠っているかも知れませんね。
(参考文献)
文献1)ウイキペディア 「手取層群」
2020年6月閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%8F%96%E5%B1%A4%E7%BE%A4
文献2)「福井県 恐竜博物館」のホームページ
2020年6月 閲覧
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/
文献3)松川正樹, 小荒井千人, 塩野谷奨 ほか,
「手取層群の主要分布域全域の層序と堆積盆地の変遷」
地質学雑誌、第109巻 p.383−398 (2003)
文献4)「白山恐竜パーク白峰」のホームページ
2020年6月 閲覧
https://hakusan-geo.jp/area/420/
文献5) 小泉 著
「日本の山ができるまで」 エイアンドエフ社 刊 (2020)
のうち、第9章「手取層(礫岩層)にできた山々」の項
2020年6月閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%8F%96%E5%B1%A4%E7%BE%A4
文献2)「福井県 恐竜博物館」のホームページ
2020年6月 閲覧
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/
文献3)松川正樹, 小荒井千人, 塩野谷奨 ほか,
「手取層群の主要分布域全域の層序と堆積盆地の変遷」
地質学雑誌、第109巻 p.383−398 (2003)
文献4)「白山恐竜パーク白峰」のホームページ
2020年6月 閲覧
https://hakusan-geo.jp/area/420/
文献5) 小泉 著
「日本の山ができるまで」 エイアンドエフ社 刊 (2020)
のうち、第9章「手取層(礫岩層)にできた山々」の項
「福井県にある恐竜を中心とする地質古生物学専門の博物館のWebサイト。館内には44体もの恐竜全身骨格をはじめ、化石やジオラマ、大迫力の復元模型等が数多く展示されています」
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2020年6月13日
△改訂1;章立ての見直し。本文の文章見直し、一部修正。地質図の説明文を見直し。
山のデータを追加。2−1章へのリンクを追加。 書記事項の項の新設。
△最新改訂年月日;2022年1月8日
△改訂1;章立ての見直し。本文の文章見直し、一部修正。地質図の説明文を見直し。
山のデータを追加。2−1章へのリンクを追加。 書記事項の項の新設。
△最新改訂年月日;2022年1月8日
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bergheilさん、こんにちわ。
以前、bergheilさんは「ご自分は地学の素人で独学をしています」とおっしゃっていましたが地学のご専門家ですね。
「日本の山々の地質」を教材として使用させていただきます。
自分もどうして福井県で恐竜化石が多く見つかるのか調べました。
日本海形成前、大陸東縁に位置していた日本の中では、bergheilさんがご説明されていますように、手取層群が覆う飛騨帯は他の日本の位置に比しやや内陸にあり、恐竜にとっては良い生活環境(推測ですが)で、かつその地域はその後に火成活動や変性作用を免れたためと考えました。
40年程前に北の又岳に行きましたが残念ですがどのような山だったか覚えていません 。
fujikitaさん、コメントありがとうございました。"読者" からコメントを頂くと、投稿しているかいがあって、ありがたいです。
私は地学(地質学、地形学)を、あくまで独学でやっているので、本当の専門家の方から見られると恥ずかしいレベルですが、山歩きを長くやっていると、山の地形や地質に自然と興味がでてきました。
全国各地の地質図もデジタル化されて、パソコンで容易に見れる時代になったので、素人レベルでも山の地質を確認できることはありがたいです。
bergheilさん、たった今帰宅してご返事を拝見いたしました。
今後、bergheilのご報告を勉強させていただきます。
それから、はじめの私のコメントに訂正があります。飛騨帯は間違えです。飛騨地域(富山、石川、福井)です。お詫び申し上げます。
話は変わるのですが、吉野川は四国山地を横切っていますが不思議に感じます。大歩危、小歩危付近では南北に流れています。先行河川だったのでしょうか。
やはり、四国に行って観察が必要ですね。
fujikitaさん、いつもコメントありがとうございます。こういうやり取りは楽しいですね🎵
さて、四国第一の河川である吉野川は、ご指摘の通り、「先行河川」と考えられています。その他にも、四国の南西部にうねうねと流れている四万十川も、先行河川とされてます。
山より川の方が先輩と言うのは、ちょっと不思議な気もしますが、吉野川もおそらく、数百万才なんでしょうね。
なお、その辺りのことは、地質学ではなく、地形学の領域です。学問の世界は思う以上に細分化されてます。私は両方とも興味がありますので、地質学の教科書以外に、地形学の教科書(※)も参考にしてます。
※「日本の地形」シリーズ、東京大学出版会 編、
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