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更新日:2022年01月05日 訪問者数:1956
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第4部 南アルプス、 4−8章 赤石岳、聖岳、光岳
ベルクハイル
赤石岳〜聖岳付近の地質図
・グレー;四万十帯、白根層群ユニット(メランジュ相)
・黄色;四万十帯、赤石層群ユニット(砂岩/泥岩互層)

・緑色;玄武岩(緑色岩類)
・オレンジ色;チャート

・青い線;赤石沢

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
光岳、茶臼岳付近の地質図
・グレー;四万十帯、白根層群ユニット(メランジュ相)
・黄色;四万十帯、赤石層群ユニット(砂岩/泥岩互層)

・ブルー;石灰岩体(光石付近)

・緑色;玄武岩(緑色岩類)
・オレンジ色;チャート

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
赤石岳
山体はかなり大きい

(筆者撮影)
聖岳
兎平付近より撮影


(筆者撮影)
光岳の近くにある光岩
石灰岩体でできている。


(ヤマレコ内の、山のデータより引用させてもらいました。)
(はじめに)
前章に引き続き、この章では赤石山脈(狭義)にある著名な山、具体的には、赤石岳、聖岳、光岳(てかりだけ)の地質について説明します。いずれも百名山に選ばれています。
1)赤石岳
 赤石岳(3120m)は、荒川三山からさらに南へと延びた稜線上にある3000m峰で、南アルプスの別名である赤石山地の名前の由来にもなっています。
赤石岳の名前の由来は、この山の東側にある赤石沢によるといいます。
さらに赤石沢の名前の由来はというと、この沢に赤い石が多かったから、だといいます(文献1)。

 この赤い石の正体は、赤色チャートという岩石です。チャートという岩石は、海洋プレート上に、海洋プランクトンの一種、放散虫の殻(シリカ=SiO2でできている)が降り積もり、それが数百万年、数千万年という長い間積もって固まった岩石です。チャートの主成分であるシリカは、石英(水晶)と同じ化学組成であり、非常に硬く、浸食に強いのが特徴です(文献2)。
 なお、チャートは、鉄分を含んでいる場合、鉄分が酸化されると、酸化鉄(サビと同じ)となって赤い色を示します。赤石岳付近の赤色チャートは、鉄分を含んでいて、それが酸化鉄になっているために赤い色をしていると思われます。

 さて、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、赤石岳の山頂部には実際にはチャートは分布しておらず、「四万十層 赤石層群ユニット」に属しており、砂岩、泥岩でできています。
 一方、山体の東側、標高約2500-2800m付近に地質境界があり、それより東は、「四万十層 白根層群ユニット」に属しています。このユニットには、チャート層が帯状に分布しています。それ以外に玄武岩(緑色岩類)も帯状に分布しています。この帯状の分布は、北の悪沢岳から続いているものです。
 赤石沢にある赤色チャートは、この、東側の山腹に分布しているチャートが、赤石沢の浸食によって、沢沿いにゴロゴロと転がり落ちて行ったものと思われます。

 (文献2)の赤石岳の項によると、東側から赤石岳に登ると、最初は砂岩、泥岩の地質ですが、標高が2000mを越えたあたりからチャート、緑色岩類(玄武岩由来の岩石)が出てくるようです。
 また山頂部は前に述べた通り、赤石層群ユニットに属するため、砂岩、泥岩でできています。

 赤石岳の山頂部は、険しい悪沢岳とはずいぶんと違い、比較的平坦な地形になっています。これは、元々の岩質が異なることに加え、寒冷気候(周氷河作用)によって岩石が凍結融解作用によって細かく砕かれて、小石を撒いたような平坦な地形になっているものと思われます。また、(文献2)によると山頂部には部分的に線状凹地が見られますが、このような線状凹地(以前は雪窪(ゆきくぼ)とも呼んでいた)は、重力の影響で小さい正断層が生じてできたものです。
2)聖岳
 赤石岳からさらに南へと主稜線を進むと、百間平(ひゃっけんだいら)という平坦な場所にでます。ここは、前節でも述べた「周氷河作用」により、岩石が細かく砕けてできた平坦面と考えられます(文献3)。
 さらに稜線上を進むと、百間洞(ひゃっけんぼら)の山小屋があり、その先、大沢岳(2819m)、中盛丸山(2807m)、兎岳(2799m)といった2800m級の山が続きます。この付近は、「四万十帯 赤石層群ユニット」に属しており、砂岩、泥岩でできています。

 兎岳の次の大きなピークが聖岳(ひじりだけ:3013m)です。日本最南端の3000m峰でもあります。頂上部から東へと枝尾根が伸びており、その先に奥聖岳(2978m)があるので、北側や南側から望むと、山頂部は台形状に見えます。

 さて産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、兎岳と聖岳との間のコルの部分に地質境界があり、聖岳の山頂部は「白根層群ユニット」に属します。
 産総研「シームレス地質図v2」によると、聖岳の山頂付近は、玄武岩(緑色岩類)や石灰岩といった硬い岩石で構成されています。また(文献3)の聖岳の項によると、山頂部には緑色岩類の他に赤色チャートもあるとのことです。荒沢岳の項でも述べましたが、これらの硬い岩石が山頂部に多いために浸食への抵抗力が強く、兎岳などの山よりもやや高くなっているのではないか、と思われます。
(3)光岳(てかりだけ)
 南アルプス、赤石山脈(狭義)の主稜線も、聖岳(3013m)を最後に、その先は徐々に高度を落としていきます。この稜線では、上河内岳(2803m)、茶臼岳(2604m)が比較的目立つ山です。また茶臼岳の手前には畑薙ダムからの登山道が合流しており、茶臼小屋という山小屋もあるので、この付近までは登山者が多い場所です。

 地質的には、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、上河内岳も茶臼岳も、「四万十帯 白根層群ユニット」に属しています。
 上河内岳付近にはチャートが、茶臼岳は頂上部にチャートと玄武岩(緑色岩類)が分布しており、これらの硬い岩石が、ピークを形成するのに寄与しているのでは、と思います。
 なお上河内岳と茶臼岳との間に、「竹内門」と呼ばれる岩峰がありますが、(文献3)の聖岳の項によると、これはチャートでできた岩峰で、表面は、褶曲した層状の地層が良く見えるそうです。

 茶臼岳から先の稜線は、標高も2500m前後となって、徐々に樹林帯も交えるようになります。

 光岳(てかりだけ)は、イザルガ岳(2540m)という、ハイ松の多い丸っこい山のさらに西側にあり、その間には光小屋という山小屋があります。イザルガ岳から光小屋あたりまでは、ザレの多い比較的平坦な面になっていますが、これも「周氷河作用」で平坦化したものではないかと思われます。

 光岳(2591m)の山頂は、百名山にしては思いのほか地味で、樹林におおわれていて展望もほとんどありません。展望だけでいうと、イザルガ岳のほうが優れています。
 光岳を有名にしているのは、光岳の山頂ではなく、その西側斜面にそびえる、「光岩(てかりいわ)」という名の岩峰です。これは石灰岩でできた白い岩峰で、西側の山麓(遠山郷あたり)から見ると、晴れた夕方には夕日が当たって良く目立つため、光岩(てかりいわ)という名前が先に付き、その後に光岩のある山ということで光岳(てかりだけ)という山名が付いたといいます(文献3)。

 この付近の地質も、聖岳、上河内岳、茶臼岳などと同じく、「四万十帯 白根層群ユニット」に属します。この地質ユニットはベースがメランジュ相で、その中に玄武岩(緑色岩類)やチャート(赤色チャート)といった、海洋プレート起源の岩体が多く含まれますが、この光岩を作っている石灰岩の岩体も、海洋プレート由来の岩体です(文献3)。
(参考文献)
文献1)「山渓カラー名鑑 日本の山」 山と渓谷社 刊(1981)
     のうち、「赤石岳」の項


文献2)西本 著
   「観察を楽しむ 特徴がわかる 岩石図鑑」ナツメ社 刊(2020)
    のうち、「チャート」の項


文献3)「飯田市 美術博物館」ホームぺージのうち
   南アルプスの山旅 −地形・地質観察ガイド−」の章、(作成;村松武氏)
   「赤石岳」の項、「聖岳」の項、「光岳」の項、  2020-10 閲覧


 3−1)赤石岳
  https://www.iida-museum.org/user/nature/pics/akaishi.htm

 3−2)聖岳
  https://iida-museum.org/user/nature/pics/hijiri.htm

 3−3)光岳
   https://iida-museum.org/user/nature/pics/tekari.htm
【書記事項】
初版リリース;2020年10月31日
△改訂1;文章見直し、一部修正。4−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
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