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更新日:2022年01月05日 訪問者数:2579
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第4部 南アルプス 4−9章 巨摩山地 −火山性地塊が衝突、付加したのか?−
ベルクハイル
巨摩山地とその周辺の地質図
・赤線で囲った地域;巨摩山地(巨摩地塊)

(巨摩地塊の地質)
・緑色;玄武岩質岩石(中新世、付加体)
・薄いグレー;泥岩(中新世、付加体)
・薄いベージュ(巨摩地塊西部);砂泥互層(中新世初期)
・紫色(巨摩地塊東北部);深成岩類(閃緑岩、石英閃緑岩;中新世後期)


青色太線;糸静線

・中央下部(グレー);富士山山体(玄武岩質)
・中央部の緑色;御坂山地のうち、玄武岩質岩体
・中央やや右の濃いめのピンク色;御坂山地のうち、深成岩類

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
巨摩山地
おそらく、甲府盆地側から望む巨摩山地全体、最高峰は櫛形山

(※ヤマレコ内の、山のデータの項より引用させてもらいました。)
甘利山
レンゲツツジで有名な、甘利山から、富士山を望む

(※ヤマレコ内の、山のデータより引用させてもらいました。)
(はじめに)
 南アルプスの主要な山々の地質について、4−8章までで説明してきました。

 この4−9章では、南アルプスの東北部にあり、地質学的には南アルプス主要部とは異なる上に、この付近のプレート変動の影響を受けている、巨摩山地について説明します。またその南側にある身延山地についても若干説明します。

  なお巨摩山地は、4−2章「南アルプスの地質概要」で説明したうちの、ゾーン5に当たる地域です。
1)巨摩山地の概要
 巨摩(こま)山地は、甲府盆地の西側から、富士川の谷の西側に位置し、地形的、地理的には南アルプス(赤石山地)の一部です。

 北端は鳳凰山の東側あたりから始まり、南北に山々が連なって最高峰 櫛形山に至り、その後徐々に低くなって、南の端は、早川が南アルプス内部からその東側へとでてくる流路あたりで終わりとなっています。南北で約35km、東西方向は最大幅の部分で15kmほどの、紡錘形の山地です。

 この山地で登山対象となっている主な山は、櫛形山(2052m;以前は初夏のアヤメで有名だったが、鹿の食害によりアヤメは激減)、甘利山(約1800m:初夏のツツジで有名)などで、南アルプス主要部にそびえる3000m級の山々に比べると、やや低い山地を形成していますが、軽い山歩きの山として良く登られているようです。

 地質学的には、南アルプス東部を南北に走る、糸魚川静岡構造線(以下「糸静線」と略します)によって、南アルプス主要部を構成する四万十帯(白亜紀―古第三紀付加体)とは隔てられています。
2)巨摩山地の地質
 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、巨摩山地は主に、新第三紀 中新世に噴出した火山岩である、玄武岩質の岩石で出来ており、それ以外には、新第三紀 中新世後期に堆積した泥岩が分布しています。
 なお、(文献2)では、玄武岩質の火山破砕岩を主体とする地質を「櫛形山亜層群」、その上位にある礫岩、砂岩を主体とする地質を「桃ノ木亜層群」と定義しています。「地質図」に記載されている泥岩層には特に地層名が無いようです。

 さて、南アルプス主要部を占める「四万十帯」は、白亜紀(145Ma〜66Ma)から古第三紀(66Ma〜23Ma)にかけて、海洋プレートの沈み込みに伴って形成された付加体であることは明確で、定説となっています。

 一方で、巨摩山地を形成する地質はどのようにしてできたのか? 実は一つの仮説を巡って賛否両論があり、いまだ明確ではありません。このことを以下の第(3)節、第(4)節で説明します。
3)「伊豆―小笠原弧」の日本列島への衝突との関連
 詳細は、次の第5部「関東西部の山々」で説明していますので、ここでは簡単に触れますが、伊豆半島、および丹沢山地(山塊)は、伊豆半島から南へ小笠原列島付近まで延びる「伊豆―小笠原島弧」(以下「伊豆弧」と略します)という、島弧の一部です。

 この伊豆弧はフィリピン海プレートの上に乗っており、フィリピン海プレートが北西方向へと日本列島の下に沈み込みを始めてからは(注1)、伊豆弧上にある火山島や海底火山も日本列島へ向かってと北上し、伊豆半島や丹沢山地は、そのために日本列島に衝突した島弧の一部と考えられています。
 この伊豆弧の衝突は新第三紀 中新世以降の、日本列島にとっての大事件(イベント)の一つであり、かつ現在も続いている地殻変動と言えます。

 ところで話が元に戻りますが、この章で取り上げる「巨摩山地(山塊)」も、伊豆弧の衝突に関連した山塊ではないか?という学説(仮説)があります(文献1)、(文献2)

 文献1)は、巨摩山地が伊豆弧由来の地塊であるのではないか?という仮説を提案した最初の論文です。文献2)はその補足をしたような文献で、なぜ巨摩山地や御坂山地が伊豆半島、丹沢山地よりも北西側に位置しているのか?という疑問に答える内容の文献です。

 ただし、巨摩山地(山塊)が、伊豆弧由来の地塊だということは、定説にはなっていないようで、異論もあるようです。地質学の教科書ともいえる(文献3)でも、巨摩山地(山塊)は取り上げられていません。


注1)フィリピン海プレートが、日本列島の方向に動き(北方向、のち北西方向)、日本列島の下へと沈み込みを開始した時期については諸説あり、明確ではありません。多くの文献では約15Maとされていますが、(文献3)では、約7Maとされています。


     ※ “Ma”は、百万年前を意味する単位
4)衝突地塊としての巨摩山地(地塊)・・(仮説)
 以下、巨摩山地(地塊)が伊豆弧由来の地塊であり、日本列島弧に衝突した地塊である、という「仮説」について、(文献2)を元に説明します。

 (文献2)によると、巨摩山地(地塊)が日本列島に衝突したのは、ちょうど日本海拡大/日本列島移動イベントがほぼ終了した、約15Maのタイミングで起きたと考えられています。
 巨摩山地の地質のうち、玄武岩質の櫛形山亜層群は、巨摩山地(地塊)の主要構成要素であり、海底火山の噴出物と考えられます。また礫岩主体の桃ノ木亜層群は、巨摩山地(地塊)と日本列島本体との間にあったトラフ(当時のプレート境界でもある細長い深い海)に堆積したトラフ充填物と考えられます。

 なお、巨摩山地(地塊)に広く分布する泥岩層については、(文献2)では言及されていませんが、丹沢山地(地塊)、伊豆半島(地塊)の事例を参照すると、巨摩山地(地塊)が日本列島に衝突する前にあったはずの、海溝(トラフ)斜面に堆積した泥が地層となっているのではないかと思われます。
5)身延山地の地質について
 巨摩山地の南限には、西から東へと、先行河川と考えられる早川が山列を分断して流れていますが、その南側にも南北方向に山列が続いており、主要な山である身延山(みのぶさん:1153m)の名を取って、このあたりの山々は、身延山地(みのぶさんち)と呼ばれています。

 身延山地は、前述の巨摩山地と同様に、糸静線の東側に位置しており、南アルプス主要部とは地質学的には異なる地域になります。
 ここではまず、産総研「シームレス地質図v2」に基づき、身延山地の地質の説明を行います。

 身延山を含む身延山地の多くは、安山岩質の溶岩、破砕岩(中新世後期)で構成されています。これはその北側の巨摩山地(玄武岩質火山岩)とは火山岩の種類が異なりますので、異なる出自を示しているのではないか?と思われます。
 (文献4)によると、身延山を含む安山岩質の火山岩は、現地性の海底火山活動で形成されたと考えられています。

 それ以外には、身延山地中部に、深成岩である閃緑岩、石英閃緑岩体が断片的に分布しています。この深成岩体は、冨士川を隔てた、富士川東部や、やや離れた御坂山地東部にも分布していますが、成因は不明です。上記の安山岩質火山の下にあったはずの、マグマだまり由来かも知れません。

 その他、主に身延山地南部には、礫岩や砂岩/泥岩互層(いずれも中新世後期)が分布しています。これらはまとめて「富士川層群」と呼ばれる堆積岩です。富士川層群は、伊豆弧の日本列島への衝突と関連した、トラフ堆積物と考えられています(文献4)、(文献5)。
(参考文献)
 文献1)天野
     「多重衝突帯としての南部フォッサマグナ」
       「月刊地球」誌、第8巻、 p581-591 (1986)


 文献2)高木、青池、小山
     「15〜10Ma 前後の伊豆・小笠原弧北端部で何が起こったか」
        地質雑誌、第102巻、p252-263 (1993)


 文献3)日本地質学会 編
     「日本地方地質誌 第5巻 中部地方」朝倉書店 刊 (2006)
      のうち、第16部「南部フォッサマグナ」の項
       (この章の執筆担当;新妻先生)


 文献4)町田、松田、海津、小泉 編
     「日本の地形 第5巻 中部地方」東京大学出版会 刊 (2006)
     のうち、2−2章)「富士川谷、御坂山地、天守山地、甲府盆地」 の項 


 文献5)日本地質学会 編
     「日本地方地質誌 第5巻 中部地方」朝倉書店 刊 (2006)
      のうち、
     16ー3章「富士川層群万沢累層の粗粒タービタイト」の項
        (この章の執筆担当;新妻先生)
【書記事項】
初版リリース;2020年11月5日
△改訂1;文章見直し、一部修正。4−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
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