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更新日:2021年12月27日 訪問者数:1979
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第8部 北海道の山々の地質、8−1章 北海道の地質の概要(その1)「渡島帯」、「礼文ー樺戸帯」
ベルクハイル
北海道の地帯構造区分図
文献1)の、6区分による。


左(西)から右(東)へと順に、

1)「渡島帯」;水色
2)「礼文ー樺戸帯」;黄土色
3)「空知ーエゾ帯」;青色
4)「日高帯」;ピンク色
5)「常呂帯」;緑色
6)「根室帯」;こげ茶色


・赤いマークは、主要都市の位置

※ 文献1)の、図2.1.1を元に、着色、加筆
「渡島帯」の、ジュラ紀の付加体型地質の分布図
緑色に着色した部分が、ジュラ紀の付加体型地質(ブロック)の分布域。
各ブロックごとに、「〇〇コンプレックス」という
名称がつけられている。

・赤いマークは、主要都市の位置

※ 文献1)の図2.2.1を元に、着色、加筆
「礼文ー樺戸帯」の白亜紀火成岩類の分布図
オレンジ色に着色した部分が、白亜紀火成岩類の分布域

・上が礼文島(礼文層群)
・中央やや下が、増毛山地の東部(隈根尻層群)

※文献1)の図2.1.1を元に、着色、加筆
(はじめに)
 この第8部では、第7部の「東北地方の山々の地質」に続き、北海道の山々の地質について、説明していきます。

 北海道は、個々の山や山脈だけでなく全体として、地質学的には非常に興味深い地域です。その地質学的な歴史(以下「地史(ちし)」と略します)は、プレートテクトニクスに基づく解釈により、かなり解ってきていますが、現在でも複数の学説があって、地史は統一されていません。

 そこでこの第8部では、個々の山々の地質を説明する前に、北海道全体の地質学的な側面やその地史について、”概要”を説明します。
 ただし、"概要"とは言っても、内容にボリュームがあるので、数回に分けます。

 まず、この8−1章では、北海道の地質の全体像及び、6つに分けられる「地帯」のうち、西側の2つの「地帯」を説明します。

 さて北海道には、9座の日本百名山を始め、個性的な山々が多数あります。
 が、第8部の東北地方と同様に北海道も、大雪山を筆頭に、登山者が多くて著名な山は火山であることが多いのも、特徴です。
 火山は当然ながら、地質的には火山岩(多くの火山では安山岩)でできていて、詳しい地質学的な説明も必要ないので、本連載では基本的に対象外としています。
 ただ、北海道の火山を全て対象外とすると、内容的に片手落ちになるので、主な火山については、簡単に説明する予定です。


 注1)北海道の地名、地層名には、読みづらい名称が多くあります。
    なので、この第8部では、漢字表記で読みづらい名称には、
    ルビ替わりに、ひらがな読みを、( )で書くことにします。
(1)北海道の地質の、地帯(地体)区分について
 北海道の地質をグループ分けした、各「地帯」(注2)は、ほぼ南北走向に並んでおり、第7部で説明した東北地方の「地帯」の並びが、北西―南東方向の走向を持っているのとは、違いがあります。
 これは、北海道という地域の地史が、本州とはかなり異なっていることに基づく、と考えられています(文献1)。

 北海道の地質の「地帯」区分は、各成書(専門書、一般教養書)や文献ごとにも、統一がなされておらず、まちまちなのが実態です。
 (文献1−a)、(文献1−b)でも、そのような状況が述べられています。

 この連載では、北海道の「地帯」区分を(文献1―b)での6区分法に基づくこととし、それぞれの「地帯」の概要を、この8−1章と、続く8−2章、8−3章、8−4章に分け、各章で説明します。


 さて、(文献1−b)によると、北海道の地質構造区分は、以下6つの「地帯」に分けられています。

  それぞれほぼ南北に並んでいますが、西側から東側への順で、その「地帯」名を列挙します。

   1)渡島(おしま)帯
   2)礼文―樺戸(れぶんーかばと)帯
   3)空知―エゾ(そらちーえぞ)帯
   4)日高(ひだか)帯
   5)常呂(ところ)帯
   6)根室(ねむろ)帯


 注2) 地質学用語;「地帯」、「地体」について
    (日本の)地質学では、いわゆる基盤岩を元に、「地帯」(ちたい)という
     区分分けを行ない、その上で、「地帯」ごとの地質学的研究や、
     ある「地帯」と別の「地帯」との関係に関する研究が行われています。
      文献によっては、「地帯」(ちたい)ではなく、
    「地体」(読みはおなじく“ちたい”)と表記されていることもあります。
     この第8部では、「地帯」という表記に統一します。    
(2) 「渡島(おしま)帯」の概要
 「渡島帯」は、北海道の基盤地質を区分した6つの「地帯」のうち、一番西側にある「地帯」です。
 
 その分布域は、(文献1−b)の図2.1.1によると、渡島半島、羊蹄山や洞爺湖などがある地域(地理学的な地域名称がないので、この連載では、仮の名称として「胆振(いぶり)ー後志(しりべし)地域」という名称にします)、積丹(しゃこたん)半島、石狩平野の西半分、増毛(ましけ)山地(石狩平野の北にある山地)の一部です。

 実際に「渡島帯」を特徴づける地質が地表に分布している地域は、(文献1−b)の図によると、ほとんどが渡島半島であり、胆振ー後志地域、積丹半島、増毛山地では、ごくわずか点在しているだけです。
 なお石狩平野では、古第三紀―新第三紀―第四紀の分厚い堆積層で覆われており、「渡島帯」を特徴づける地質は、地表には分布していません。

 この「渡島帯」を特徴づける基盤岩層は、ジュラ紀の付加体性地質です(文献1−c)。
 主に、陸源性の泥岩、砂岩と、海洋プレート起源性の、石灰岩、チャート、緑色岩類からなるコンプレックスを構成しており、典型的な付加体型の地質構成をもっています。

 この「渡島帯」は一般には、東北地方北部(北上山地の北半分や、青森県の一部)に分布するジュラ紀付加体である、「北部北上帯」の北方延長と考えられています。
 ジュラ紀に、(現世での位置、方角でいうと)東側から、西のアジア大陸側へと、当時の海洋プレートが沈み込む際に形成された地質体(地帯)です。(文献2)


「渡島帯」に含まれる主な山は、以下のような山々です。
 ・渡島半島:大千軒岳、渡島駒ケ岳(※)、恵山(※)、狩場山
 ・胆振地域;羊蹄山(※)、樽前山(※)、ニセコアンヌプリ(※)、有珠岳(※)
      、恵庭岳(※)、手稲山、余市岳 
       (多くが第四紀火山で、一部は活火山)
 ・積丹半島:余別岳
   
    (※)印は、活火山 
       注3)活火山かどうかは、文献3)による。
(3)「礼文(れぶん)―樺戸(かばと)帯」の概要
 この「礼文―樺戸帯」は、渡島帯の東側に位置し、南北に細長く分布する「地帯」です。

 具体的には、石狩平野の南部(苫小牧の東側あたり)から、増毛山地(注4)の東半分を通り、その先は日本海側に没して、日本海に浮かぶ、天売島(てうりとう)、焼尻島(やぎしりとう)、さらに礼文島(れぶんとう)へと続く、南北に細長い「地帯」です。

 この「地帯」を特徴づける地質は、白亜紀前期に活動した火山(海底火山)に由来する火山岩(安山岩質、玄武岩質)、および火山噴出物由来の堆積岩です。(文献1−d)。

 実際に、この「礼文―樺戸帯」を特徴づける地質が地表に分布して場所のうち、比較的広範囲な場所は、増毛山地(注4)の東側(隈根尻(くまねしり)層群)と、礼文島(礼文層群)です。

 隈根尻層群は、砂岩、泥岩、安山岩、玄武岩、およびそれらの火山岩由来の破砕岩から構成されています(文献1−d)。
 礼文層群は主に、安山岩質の火山噴出物で構成されており、海底火山の活動によるものと考えられています(文献1−d)。

 なお、利尻岳のある利尻島は、この「地帯」の範囲内にありますが、第四紀火山であり、この地帯特有の地質は、海岸沿いのわずかな部分以外、ほとんど分布していません。

 この「礼文―樺戸帯」を特徴づける火山性の地質は、白亜紀前期にこの一帯の東側に、海洋プレート沈み込み帯が存在し、その影響で形成された火山地帯(火山フロント)と考えられています(文献1−d)。

 なお、本章(1)節で述べた「渡島帯」は、ジュラ紀の付加体性地質(堆積岩)で特徴づけられますが、白亜紀の火成活動は、現在の「渡島帯」に相当する場所でも起こり、火成活動の名残である深成岩体(主に花崗岩類)が、「渡島帯」には点在しています(文献1−e)。


 「礼文―樺戸帯」のゾーンに含まれる山、山地は、あまり多くなく、増毛山地(の東部分)と、利尻岳(実際は第四紀火山)、礼文島、程度です。

 
注4) 「増毛山地」と「樺戸山地」という名称に関して
    石狩平野の北側、日本海に面し、
   暑寒別岳(しょかんべつだけ:1491m)を主峰とする山地の名前は、
   一般に「増毛山地(ましけさんち)」と呼ばれますが、
   「樺戸山地(かばとさんち)」とも呼ばれます(文献4)。
    「礼文ー樺戸帯」の”樺戸”は、樺戸山地という山地から命名されていると
   思われます。
    本連載では、この山地の名称は「増毛山地」で統一します。


  (※ 次の8−2章では、引き続き「空知―エゾ帯」について説明します)
  
(参考文献)
文献1)日本地質学会 編
 「日本地方地質誌 第1巻 北海道地方」 朝倉書店 刊 (2010)

  文献1−a)
    文献1)のうち、第1部「北海道概説」、1-3章「北海道の地質概要と地域区分」

  文献1−b)
    文献1)のうち、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」、
      2−1章 「概説」の項、
    および 図2.1.1 「北海道における基盤岩類の分布と地帯区分」

  文献1―c)
    文献1)のうち、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」、
     2−2―2節 「渡島帯のジュラ紀付加体概説」の項

  文献1−d)
    文献1)のうち、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」、
     2−4章「白亜紀火成岩類とその随伴岩類」、   
      2−4―3節「礼文―樺戸帯の白亜系」の項

  文献1−e)
    文献1)のうち、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」、
     2−4章「白亜紀火成岩類とその随伴岩類」、
      2−4―2節 「渡島帯の白亜紀火成岩類」の項


文献2)日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第2巻 東北地方」朝倉書店 刊 (2017)
    のうち、
     3−1−10節「アジア大陸東縁の中生代沈み込み帯」、及び
     4−4−1節「北部北上帯 概説」の項

文献3)気象庁ホームページより、
   「日本活火山総覧(第4版)」の項
 
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/souran_jma_hp.html

                  2021年7月 閲覧

文献4) ウイキペディア 「増毛山地」の項
   
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%97%E6%AF%9B%E5%B1%B1%E5%9C%B0

                    2021年7月 閲覧

文献5)木村、宮坂、亀田 共著
   「揺れ動く大地、プレートと北海道」 北海道新聞社 刊 (2018)
 ※ 文献5は、全般的に参照した。
(以下のリンクは、この第8部「北海道の山々の地質」各章へのリンクです)
【書記事項】
初版リリース;2021年7月4日
△改訂履歴1;各章へのリンクを順次追加
△改訂2;書記事項を追記
△最新改訂日:2021年12月27日
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