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更新日:2021年12月26日 訪問者数:1581
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第8部 北海道の山々の地質、8−4章 北海道の地質の概要(その4)「常呂帯」、「根室帯」
ベルクハイル
「常呂帯」地質分布図
赤い線で囲んだ部分が、「常呂帯」固有の地質の分布域

・薄紫色;「仁頃(にごろ)層群」のうち玄武岩類(白亜紀付加体)
・薄目の茶色;「仁頃層群」のうち、礫岩層(白亜紀付加体)
・濃い緑色;「仁頃層群」のうち、変成玄武岩(白亜紀付加体)
・水色;「佐呂間(さろま)層群」の泥岩層(古第三紀ー中新世 堆積層)

◎印は、主な都市、町の位置
(網走市、北見市、サロマ町、湧別町、遠軽、陸別町)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に、筆者加筆
「根室帯」のうち「根室層群」の分布図
赤い線で囲んだ部分が「根室層群」の分布域

・(右手;根室半島の)くすんだグリーン;砂泥互層(白亜紀堆積層)
・(中央部;厚岸(あっけし)付近のオレンジ色;;礫岩層(古第三紀堆積層)
・(左手の白糠丘陵の)ミントグリーン;砂泥互層(古第三紀堆積層)
・(白糠丘陵の)水色;泥岩層(古第三紀堆積層)

・その他の地域の地層(根釧台地、阿寒岳の南側など)
 ・薄いピンク;第四紀火山の火山灰堆積層
 ・ピンク色、濃いピンク色;第四紀火山の火砕流堆積物

◎印は主な都市、町の位置(釧路市、厚岸町、根室市)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に加筆
(はじめに)
 この第8部「北海道の山々の地質」編では、個々の山々の地質を説明する前に、北海道の地質概要として、6つの「地帯」を西から順に説明してきました。
 この8−4章では、前章の「日高帯」に続き、北海道東部を構成する「常呂帯(ところたい)」と、「根室帯(ねむろたい)」の地質について説明します。
1)「常呂帯」
「常呂帯(ところたい)」という「地帯」は、北海道東部にある「地帯」で、前述の「日高帯」の東側にあり、幅 約40kmの南北に細長いゾーンです(文献1−a)。
 
 「常呂帯」という「地帯」は、北はオホーツク海側から、北海道内陸部へと延び、十勝平野から太平洋側へと続くゾーンとされていますが、実際に「常呂帯」に特徴的な地質は、オホーツク海側と、内陸部にのみ分布しており、十勝側には分布していません。

(文献1−b)、(文献1−c)では、「常呂帯」に含む白亜紀〜古第三紀の地質を、「付加体型」地質と、「前弧海盆型」地質の2つに大別しています。

以下、1−1)節で「付加体型地質」を、1−2)節で「非付加体型地質」を説明します。

 なお「常呂帯」は、幅が狭いゾーンで、登山対象となるような、目立った山は含まれていません。
1−1)常呂帯の付加体型地質
  「常呂帯」のうち、「付加体型」地質とされているのは、「仁頃層群(にごろそうぐん)」という名前がついている地質です。
  「仁頃層群」は、北見市からサロマ湖の間の約30km程度のゾーンと、北見市から南の低山ゾーンに分布しています。

  (文献1−b)によると、「仁頃層群」は、玄武岩質緑色岩由来の火山破砕性堆積岩が主体で、少量のチャート、石灰岩を含んでいます。また産総研「シームレス地質図v2」によると、サロマ湖付近には、変成玄武岩体も分布しています。
 それを元に、「仁頃層群」とは、海山が海洋プレート沈み込み帯で付加したものではないか?と推定されています。

 付加年代は、白亜紀前期という学説と、白亜紀後期という学説があり、明確ではないようです。

  「常呂帯」の「仁頃層群」は、その東側に、「日高帯」に属するとされる「湧別層群(ゆうべつそうぐん)」という付加体性の地質体が隣接しており、どちらも白亜紀の付加体性地質体であることから、「常呂帯」と「日高帯」それぞれの付加体の関係が明確ではなく、その境界についても諸説あるようです。

  ところで、白亜紀〜古第三紀の北海道は、ユーラシアプレートに対し、西側に向かって海洋プレートが沈み込む「島弧(陸弧)―海溝系」によって「西・北海道 地塊」が形成され、一方で、オホーツク地塊(プレート)に対し、北東方向(北方、東方という説もあり)に向かって海洋プレートが沈み込む「島弧(陸弧)―海溝系」が別に存在し、そこでは「東・北海道 地塊」が形成された、という仮説があります(文献1−d)。

  この仮説に基づくと、「常呂帯」の付加体は、「東・北海道 地塊」の一部として、東北方向に向かって海洋プレートが沈み込む、沈み込み帯で形成された、と考えられています。
 
  なお、前節で述べた「日高帯」の付加体型地質が、文献1−d)の仮説において、どちらの沈み込み帯で形成されたのか?は 明確になっていません。
  そもそも、(文献1)では暫定的に「日高帯」に属するとしている、「湧別層群」は、「常呂帯」に属する、という学説もあり、なかなか複雑です。
1−2)「常呂帯」の非付加体型堆積層
「常呂帯」には、付加体型地質とされる「仁頃(にごろ)層群」とは別に、非付加体型地質とされる「佐呂間(さろま)層群」という地質が分布しています。

 (文献1−c)によると、「佐呂間層群」は、砂岩、泥岩、砂泥互層、礫岩からなり、地質状況は付加体型ではなく、いわゆる「正常堆積層」です。層厚は1300mに及びます。
 分布域は比較的狭く、「仁頃層群」分布域のうち、オホーツク海側の一部に分布しています。また前述の「仁頃層群」の上に、不整合で乗っています。

 堆積環境としては、前弧海盆が推定されており、堆積時代は、産出する二枚貝化石やイノセラムスの化石より、白亜紀前期〜後期と推定されています。

 ということは、まず海洋プレートが陸側プレート下へ沈み込みむ「沈み込み帯」で、付加体である「仁頃層群」が形成され、その後、堆積活動が中断した時期(陸化?)があり、さらにその後、この一帯が(沈み込み帯ではなく)海盆状の海となって、海盆堆積層である「佐呂間層群」が形成された、
という地史が推定されます(この項は私見です)。
2)「根室帯」
 「根室帯」とは、北海道の6区分法による「地帯構造区分」では、最も東に位置する「地帯」です。以下、文献1−e)に基づき、説明します。

 実際に「根室帯」に属する地質体が分布しているのは、根室半島、そこから西へ厚岸(あっけし)付近から釧路市手前までの太平洋側、及び 釧路平野を隔てて、十勝平野との境となっている白糠(しらぬか)丘陵にも分布しています。
 これらの地質は一括して「根室層群(ねむろそうぐん)」と名付けられています。

 そのほか、「北方領土」の一部である、歯舞(はぼまい)群島、色丹島(しこたんとう)にも「根室層群」と同じような地質が分布していることが、戦前(1930-40年代)の地質調査で解っています。

 文献1−a)の図では、「根室帯」は、網走付近のオホーツク海側、太平洋側との間の山地(火山地帯)、および知床半島も含まれていますが、おそらく第四紀火山による火山性地質が地表をおおっているためと思いますが、それらの地域の地表には、「根室層群」の地質は分布していません。

 「根室帯」と、その東側の「常呂帯」との境は、網走構造線(あばしりこうぞうせん)という地質境界とされています。

 「根室層群」を構成する地質は、砂岩、泥岩、礫岩が主要構成要素で、正常堆積層であることから、前弧海盆堆積層と考えられています。
 「根室層群」の総厚は、根室半島付近で3000m以上、白糠丘陵地域では4000m以上に及びます。

 また地質形成時代は、含まれる、アンモナイトや二枚貝などの化石より、白亜紀末(カンパニアンーマーストリヒチアン期:84−66Ma)が堆積時代の中心であり、一部は古第三紀の暁新世(ぎょうしんせい:66―56Ma)、及び始新世の始め(ヤプレシアン期:56−49Ma)に及ぶと推定されています。

 文献1−d)によると、「根室帯」を構成する「根室層群」は、現在は千島弧の一部ですが、白亜紀末から古第三紀においては、オホーツク地塊への海洋プレート沈み込み帯に近接した、オホーツク地塊の一部(「東・北海道 地塊」)として形成された、という仮説が説明されています。

 なお「根室帯」は北海道東部の広い地域であり、その中には知床半島の羅臼岳、硫黄岳、道東の斜里岳、阿寒岳などが含まれますが、いずれも第四紀火山であり、「根室帯」を特徴づける「根室層群」の分布域には、登山対象となるような、目立った山はありません。
(参考文献)
文献1)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第1巻 北海道地方」 朝倉書店 刊 (2010)

  文献1−a)
    文献1)の、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」のうち、
     2−1章「概説」
     及び 図2.1.1「北海道における基盤岩類の分布と地帯区分」

  文献1−b)
    文献1)の、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」のうち、
     2−2−5節「常呂帯の付加体」

  文献1−c)
    文献1)の、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」のうち、
     2−3−3節「常呂帯の佐呂間(さろま)層群」の項

  文献1−d)
    文献1)の、第15部「(北海道の)地質体の形成モデル」のうち、
     15−3章「白亜紀末―古第三紀の収束域」の項、
     及び 図15.3.1 「白亜紀末〜古第三紀の復元モデル」

  文献1−e)
     文献1)の、第2部「中生代〜古第三紀収束域の地質体」のうち、
      2−3−4節「根室帯の根室層群」の項、
      及び 図2.3.13「釧路―根室地域の根室層群の層序と対比」
【書記事項】
初版リリース;2021年7月21日
△改訂1;内容見直し、書記事項追記(2021年12月26日)
△最新改訂年月日;2021年12月26日
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