西穂高岳〜奥穂高岳〜北穂高岳〜涸沢〜上高地
- GPS
- 50:26
- 距離
- 19.9km
- 登り
- 1,980m
- 下り
- 2,565m
コースタイム
- 山行
- 7:39
- 休憩
- 1:52
- 合計
- 9:31
天候 | 曇り、晴れ、雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
行き:名古屋駅→飛騨高山BC→新穂高ロープウェイ 帰り:上高地→平湯温泉→飛騨高山BC→名古屋駅 |
コース状況/ 危険箇所等 |
西穂〜奥穂 ・ 間ノ岳は山全体がガレ石で構成されているかの如く、立っているだけで足下から崩れそうなところが多い。 ・間ノ岳〜天狗岩までは落石に注意 ・コース内に設置された鎖が途中で岩の裂け目に噛みこんでいるところがあるので 鎖を使う場合はよく確認してから。 ・ジャンから奥穂へ向かい、ロバの耳をへつって降りるところの鎖が岩の割れ目に噛みこんでいて上半分しか使えず、足場が滑りやすくなっていたらロープを使わないと危ない。穂高小屋のスタッフと主に伝えたので、直してくれていると思う。 ・ナイフリッジ通過時は雨がひどくなったが、手掛かり足がかりがしっかりしているので特に危険を感じることはなかった。 奥穂〜北穂 涸沢〜北穂は3か所コース上に雪渓が残っていて、最初の二つはアイゼンなしでやり過ごせて、あと一週間もすればコース上の雪は完全に融けていると思う。最後の北穂山頂直下の所はアイゼンが必要。小屋のスタッフがスコップと猫車で歩けるようにしてくれているので、楽に通過できるが、万が一横滑りすると涸沢まで一瞬で落ちるので、横着はしない方がいい。 松涛岩のコル〜涸沢ヒュッテ 雪渓の表面がかなりぐずぐずになって滑りやすいので、斜度が緩くなるまではキックピックでしっかりと垂直に降りた方が無難。堆石している場所を狙っていけば途中で休憩できるが、堆石は崩れやすいので、足場を慎重に選んだ方がいい。 |
その他周辺情報 | 徳澤園を初めて利用したが、食事も風呂も贅沢で、館内に徳澤園の歩みや氷壁の舞台の解説もあって楽しめた。 高山駅前の「手打ちそばうどん飛騨」は地元産でその日に石臼で挽いたそば粉にこだわっている。そば粉の販売もしており、在来品種だというそば粉を買って帰った。 |
写真
装備
個人装備 |
ザイル
スリング
カラビナ
ピッケル
アイゼン(10本爪)
長袖シャツ
Tシャツ
ソフトシェル
タイツ
ズボン
靴下
グローブ
防寒着
雨具
ゲイター
着替え
靴
予備靴ひも
ザック
ザックカバー
サブザック
行動食
飲料
地図(地形図)
コンパス
笛
ヘッドランプ
予備電池
GPS
筆記用具
ファーストエイドキット
ロールペーパー
保険証
携帯
時計
タオル
ツェルト
カメラ
ポール
シェラフ
ヘルメット
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備考 | ソールの固い靴と12本爪のアイゼン、防水キャップ |
感想
6月最終週の平日にたっぷりと取った有給を最大限に生かすべく、天気図とにらめっこし、この日程で西穂〜奥穂の稜線チャレンジを決定。確か3年前?に南アルプスに登って以来の3000m級、しかも4か月間ぶっ通しの出張による不摂生で体がついていくか心配だった。
取り敢えず山に入って調子が悪ければ西穂までで引き返すことにして、テントと三脚は装備から外して20圓任離▲織奪。広島駅7:30の新幹線で出発し、ロープウェイ西穂高口駅に着いたのは14:30過ぎ。そこから西穂山荘までたった1時間程度の道のりは曇り空で大した写真が撮れないだろうとカメラをザックにしまっていたら、ミズバショウやツマトリソウ、アカモノなどに出迎えられて途中で慌ててカメラを取り出した。いつもなら汗もかかずに到達できるようなコースなのに、片頭痛がひどく、下手したら山荘で一泊したらそのまま帰る羽目になるかなと思いつつヘロヘロになって山荘に到着。
宿泊の手続きをし、宿泊カードの翌日の行き先に奥穂高岳、下山口に上高地とチェックしたら受付の女性が奥の方にパタパタと行き、男性のスタッフを連れてきた。彼が奥穂からどうやって上高地に行くんですか、と少し険し気な顔で聞くので、穂高山荘まで行って様子を見て前穂高〜岳沢か、北穂〜涸沢で降りますよ、と伝えると安心した様子で「ああ、分かりました」と返事をされる。無計画で山に入る人がいるからこういう質問をするようになったのかなぁ、などと考えつつ、美味しい夕食を頂き、19時には床に着き、朝4時まで熟睡した。
朝起きてみると片頭痛はとれており、胃のもたれも軽くなっていたので、昨夜もらっていた朝食と昼食のお弁当を楽しみに出発してみると、二張り程あったテントの上に半月が出ていて、前穂の方角があけぼの色に染まっていた。こりゃあいい天気になるかな、と期待半分で出発するも丸山に登り始めてすぐにガスに包まれてしまう。小屋の女性スタッフが朝の散歩をしていたのに出くわし、稜線の天気が持つといいですね、と励ましの言葉をもらう。西穂独標までは殆どガスの中で、片頭痛こそないものの、体力の衰えか、5分も続けて歩けないほど呼吸が続かず、何度も深呼吸を繰り返しながらゆっくりと登っていく。独標についたところで、お楽しみのお弁当タイム。おにぎり二つに山菜の天ぷらやお煮しめの贅沢な盛り合わせ。やっぱり山小屋のお弁当は山で元気の出るメニューだなぁ、と弁当グルメに舌鼓を打つ。
弁当でチャージした気力でどうにかピラミッドピークまで辿りついてみると、ちょうどガスが段々晴れてきて、見え隠れしていた笠ヶ岳がはっきりと見えだし、前方の奥穂高の塊が早く来いよと言わんばかりにその全容を現し始め、後ろを振り返れば残雪の乗鞍が霞んで見えていた。贅沢な眺めに早くも底をつきそうだった気力ゲージも一瞬で満タンになり、誰もいないのをいいことに、「おおぅ、やったぁ!」と何度も独り言をつぶやきつつ、ニヤニヤしながら西穂山頂へと向かう。
ようやく晴れてきたので足元の花や黒いナメクジやら色々なものを楽しみつつ、退屈せずに西穂高岳山頂へ到着。気が付けば体も大分山に順応し、呼吸こそ続かないものの、いつもの体力と山登り感覚が戻ってきたのを実感。天候が荒れてビバークする羽目になっても問題なく一夜過ごせるコンディションだと判断できたので、早くおいでと呼んでくれている奥穂へ向かってまっしぐら。
西穂〜奥穂は浮石やガレに注意とあったが、特に間ノ岳のガレ方は今まで歩いた登山道のどこよりも確かに酷かった。立っているだけで足下から崩れそうな箇所がいくつもあり、丁寧なルーティングと体重移動が求められるなと感じた。奥穂へ向かう方は登りがメインなのもあり、そこまで危険を感じるところはなかったが、手足のリーチが短い女性だと辛いだろうなという箇所が何か所かあった。特に濡れて滑りやすい状態ではロープは必須かもしれない。自分も降りで2か所くらいロープを使おうか逡巡する箇所があったが、天気が安定していたので不要だった。大雨だったら間違いなく使っていただろう。
天狗ノ頭までは休み休みでもコースタイムよりずいぶん短かったが、天狗のコルの次のピークで少し早いお昼を食べたら胃もたれしたのと、ジャンまでの長い登りで大分疲れた上に、そこからは天気が崩れたので奥穂まではコースタイムをオーバーした。ジャンからロバの耳を降りる所は鎖が岩の割れ目に噛みこんでいてうまく使えない状態で、なかなかスリリングだった。穂高小屋のスタッフに報告したのでうまく直しておいてくれるだろう。小屋の人達にはルートの整備から見回りから本当に頭が下がる。みんなもっと小屋を利用してしっかりお金を落としていかなきゃいかんとつくづく思う。
ナイフリッジを通過するときはだいぶ横殴りの雨になりつつあったが、手掛かり足がかりはしっかりしていて、ゆっくり安全に突破。山頂の祠についたころは横殴りの雨で、のんびり到着感を味わう暇もなく二礼二拍手一礼して小屋へと向かう。西穂山荘と同じくこちらも部屋は貸し切り状態。これを味わうともうシーズン期の山小屋に泊まりたくなくなる。これからはシーズン期=テン泊、オフシーズン=山小屋泊で行こうか。夕食まで大分時間があったので、山小屋のお姉さんに作ってもらったホットココアで冷えた体を温めながら地図を読み込んだり、小屋に置いてある穂高関係の本や記事に目を通したりして贅沢な山時間を過ごす。こんな風に過ごす時間がいつまでも続けばいいのに。
夕食はストーブを炊いた部屋を貸し切り状態で一人ご飯。テントでの自炊も最高にうまいが、山小屋飯も負けないくらい最高にうまい。何より人が作ったご飯というのはありがたみもあり、後片付けまでしてもらえるという特典付きなので、これまた違った味わいがある。食事を終え、夕日を拝めないものかと何度も外を眺めるが、雨もガスも晴れることはなかった。明日の雪渓下りに備えて今日も早く寝ようと布団に入るも、太陽がでていないとはいえ、20時近くまではカーテンのない部屋は明るく、結局暗くなるまで布団の中でまんじりとしながら、ゆっくりと眠りに落ちた。
三日目は明け方からザーザー降りの音が激しく、土砂降りが止まなければ前補から降りるか、北穂の南稜コースで降りるか判断を迫られるなあと思いながら、布団を這い出す。経験則で言えば大体7時くらいには雨が上がるはずだけどと淡い期待をしながら朝食を済ませ、だらだらと出発の準備をしながら、山小屋の主と世間話をする。なんでこの時期はこんなに人がいないのか不思議に思って尋ねると、最近はピッケルやアイゼンを使うテクニカルな登山をする人が少なくなったとのこと。ゴールデンウィークはそれなりの人出だったが、それでも随分少なかったそうだ。何よりびっくりしたのは、Amazonかどこかの通販で買った中華性のエックス型アイゼン?なるものを携えてきた登山客がいたとのこと。一瞬で壊れて用をなさなかったそうだが、命に係わる道具だというのに、聞いていて背筋がぞっとした。そんなものが売れる、使う人がいる世の中というのは恐ろしい。
準備万端、さぁ、と外に出るとちょうどピタリと雨が止み、眼前には峰々の間に雲海が広がっていた。もう鼻血出し過ぎて血が足りなくなりそうだというくらいの風景に今回の登山の目的の満願成就を確信する。ちょっとザイテングラードの方を覗いてから、涸沢岳へ登る。山頂まではあっという間で、360度の素晴らしいパノラマ。分けても槍とその奥に連なる北アルプス中央の主峰たちが得も言われぬ景観を創り出しており、眺めても眺めても飽き足りない。中国語で「百看不腻」(百回見ても飽きない)という言葉があるが、まさにそれ。
涸沢岳まであっという間だったから、北穂までも実はあっさりいけるかなと思ったけど、甘かった。途中で登山道まで雪渓が迫っていて、いちいちアイゼンつけるのは嫌だったので、乗り越すのにちょっと苦労したりして意外に時間を取られた。というよりも道中の景色が良すぎて写真撮ってばかりいたからかもしれない。松涛岩のコルの所は残雪120%で、多分北穂小屋のスタッフがシャベルと猫車で道を作ってくれていた。この雪渓を涸沢へ降りるのかと下を覗くと、見た目垂直の絶壁感に少しビビる。何より表層の雪が柔らかすぎるのと、まだらに固く凍ったのが混じっているのと、あちこちクレバスが出来ているのとで、結構難しそうに見えた。
北穂山頂に着くともう槍には雲がかかり、涸沢からはたっぷりとガスが上がり始めていた。とりあえずは北穂小屋のテラスでいそいそとお弁当を開けると、朴葉寿しにアユ(だったか?)の幼魚の甘露煮などが付いていて、降りの体力チャージ完了。天気が完全に崩れるまでに早い所降りようと松涛岩のコルへと引き返す。それにしても下を見ると本当に崖に雪がへばりついているだけにしか見えないから不思議だ。ピッケルをしっかりと差し込み、斜面に正対して一歩ずつキックピックで階段状にゆっくりと降りていく。表層が柔らかすぎて5回蹴り込まないと、ステップごと真下にずり落ちるので、かなり体力を使う。次に雪渓降りをするなら6月上旬までだなと思いながら、ひたすら蹴り込み続ける。
堆石地帯をうまく経由して休み休み降るも、なかなか九十九歩きできる所まで行かない。かかとをかなり強く蹴り込んでようやくサイド歩きが出来るくらいなので、垂直にキックピックで降りるほうがまだ早かった。休憩ポイントまで5mくらいだなと気を抜いたら一瞬で滑り落ち、この時期の雪渓歩きの難しさを実感。休憩ポイントから雪渓に戻るときも一瞬滑ってしまい、全力でピッケルとアイゼンつま先で制動し、肝を冷やした。そういえば雪渓歩きは数年のブランクがあったから、当然と言えば当然かもしれない。やっぱり安全なところで訓練して感を取り戻してから行かないと、危ないと反省。
ようやく斜度が落ち着いたところで滑落停止訓練なんかで遊びながらヒュッテへ向かっていたら、南鐐ルートとの合流点を少し行き過ぎてしまい、引き返すのに堆石地帯を使ったらこれまた足下確認不足で足下の堆石がまるごと崩れ落ちて見事に一回転し2mほど転落した。ザックとヘルメットとグローブに守ってもらったが、諭吉一人では足りないグローブに見事な穴をあけてしまった。山場を越えて気が抜けていたとこれまた反省。
南稜ルートに乗っかり、ウラジロナナカマドやミヤマハンノキ、コバイケイソウなど木々や花々を楽しみながら降る。ヒュッテについたころは雨が降り出し、時間も15時近かったので徳澤園で泊まることにし、連絡を入れる。コースタイムだと夕食時間を過ぎるので、横尾で一度連絡を入れてくれと言われる。本降りになってもいいように土砂降り対応完全装備を整え、ヒュッテを出発したのは15時過ぎ。道がハイキングルートばりに良かったのでいいペースで歩けて、夕食時間にギリギリ間に合った。
徳澤園、お風呂があるとは知らず、夕食もステーキや川魚の塩焼きなどスペシャルコースだとも知らず、ただただ感動して疲れを癒した。井上靖の氷壁の舞台ということで館内に色々と掲示物があり、楽しめた。氷壁は読んでいたけど、ナイロンザイル事件が実際にあった出来事だということを、ここに泊まって初めて知った。自分は氷壁を読んで冬季はおろか、クライミングはするまいと思ったクチだが、他の人はどうなんだろう。
最終日は雨だったのでカメラをザックにしまって歩いたが、あまりに花がきれいなので、途中でカメラを出し、傘を差しながら写真を撮りまくった。上高地バスセンターに着いて名古屋行きがないか尋ねると、今は便がなく、夏の間だけだという。自分の中では今はもう夏だと思っていたけど、どうやら違うらしい。結局上高地→平湯→飛騨高山BC→名古屋駅と三便使った。飛騨高山ではバスの待ち時間でちょうどお昼をゆっくり食べることができ、駅前の「手打ちそばうどん飛騨」の暖簾に惹かれてふらりと店内へ。飛騨地元産で石臼挽きにこだわっているという案内に期待度Max。が、十割蕎麦も山菜セットも完売とのことで、がっかりしつつも二八の天ざるそばを注文。山菜たっぷりの天ぷらで、南瓜も蒸かしてから天ぷらにしたらしい柔らかさで、なんだかんだと大満足。そば粉販売してますとの張り紙をみてお土産にそば粉を注文。地元産で在来種のこだわり品と説明され、思わずニヤけてしまった。家に帰って早速蕎麦掻にして食べたら、くらくらするほどの蕎麦の香りと最高の粘り具合に感激したのは言うまでもない。
最高の有給休暇を過ごすことが出来て幸せ一杯夢いっぱいの日々だった。
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