北岳バットレス ヒドゥンガリー滑走
- GPS
- 32:00
- 距離
- 10.3km
- 登り
- 1,730m
- 下り
- 1,735m
コースタイム
天候 | 両日とも快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年04月の天気図 |
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
標高1950mぐらいまではツボ足、それ以降はシール歩行可能。藪多く面倒。 |
写真
感想
ついに北岳バットレスを滑れました。
三浦大介さんが難攻不落のバットレスに見出した唯一の合理的なライン、日本のスティープルートの金字塔。可能性を信じ、スキーと己の技術を武器に深く切れ込んだガリーに飛び込んだ事は今なお驚異的です。
絶対にトレースしたかった偉大なライン。本当に嬉しいです。
■4月9日(土)快晴
0510広河原→0840大樺沢二俣→0940白根御池小屋/1830就寝
実は2週間ほど前にも挑戦していたのだが、最高にしょうもない理由で敗退してしまった。(詳細は割愛)
この土日は高気圧にすっぽりと覆われる予報。急激な昇温を含め、この週末を逃したら今シーズン中のチャンスは無いだろう。何とか色々と調整を付けて挑戦することにした。
広河原からしばらくは夏道を歩き、残った雪を拾って1900mあたりからシール歩行を開始する。上越や北アルプスの雪は多いようだが南アの雪は少ないように感じる。沢沿いの行動は難しいので夏道を辿るが、藪が多く閉口した。二俣〜白根御池の間も藪が多い。
10時前には白根御池小屋に到着し、初夏を思わせる陽気の下で翌日の準備を進める。下から見る限りガリーの雪は繋がっているようだ。後は、雪の状態と自分の技術を信じるだけ。担いできた酒で緊張をほぐし、18時半頃に就寝。
■4月10日(日)快晴
0305白根御池小屋→0400二俣→0630肩の小屋→0740北岳/0820滑走開始→0920二股/1000→1200広河原/1220
二俣に荷物をデポして大樺沢右俣を詰める。気温が高く、夜明け前から雪が緩み始めている。できるだけ急ぎたいところだが山頂に着いたのは8時前だった。
ドロップポイントからガリーを覗くと眼下にはまっさらなオープンバーンが広がっている。斜度は平均して45°、遥か下方にはガリーの屈曲点。転倒すれば下まで止まらないだろう。落石や雪崩が集まることも容易に想像できる。絶対に転ばずスピーディーに降りられるのか?地形的なリスクが非常に高いのでプレッシャーは凄まじい。今シーズン、ここまで積み上げたものを信じてガリーに飛び込んだ。
まずは雪面の状況を判断するため慎重にジャンプターン。エッジから伝わる雪の感触は良い。これなら大丈夫そうだ。次は思い切って連続ターンを決める。急斜面に吸い込まれるような感覚さえ感じるが恐怖は感じない。自分の身体の延長としてスキーを捉えられ、一種のゾーンに入ったような感覚だ。
いっしーとトップを交代しながら順調に高度を落としていくと屈曲点が近づいてくる。ここが核心となる「Hidden」部だろう。
第一関門となるF3は55°ほど。ここは横滑り〜斜滑降で無難にいなす。
少し幅広になったと思うのもつかの間、次の核心のF2が登場。ここは過去記録の通り氷瀑が露出しており板を脱ぐしかなさそうだ。アイゼンに履き替え、ダブルアックスでクライムダウンしていく。気温はグングンと上昇して小規模な落石や落氷が起き始めた。慎重に、しかし極力無駄を排除した動きで板を履ける場所まで移動する。
そして、最後のノド部のF1(50°)をデラパージュからの斜滑降で脱出すると眼下には大樺沢の大スロープが広がっていた…。ついにバットレスを滑ったのだ。
山岳スキーを志すものとして、三浦さんのラインを再トレースしたいと思っていた。緊張から開放されて自然と雄叫びが出る。
自分の山スキー人生の中でも忘れられない1本になった。
記録を読んでもイメージのできない、別世界なルートがある。鹿島槍北壁やbum's life、、、そしてこのヒドゥンガリーも自分とは無関係な、触れてはならないルートの一つだと思っていました。
今シーズン、不帰2峰や前沢奥壁など色んなスティープを滑る中で、ある程度の可能性を感じ取ることができました。先人たちの記録もあり選択肢の一つとして上がるまでになってきました。
SNS等を見るに今年の雪付きは上々。そしてやってきた週末は快晴高温!!
さあ行くぞ。何が出ても下りてこられる装備を詰め込んで北岳へと向かいました。
初日は白根御池まで。下部は藪やぐさぐさな雪に苦戦して何とか泊。
2日目は三時発で山頂へ。
凍り切っていないモナカラッセルをハッチさんにしてもらい、何とか目標の8時前ドロップポイントへ。
見下ろした感覚、斜面の雪を確かめた感触は完ぺき。
程よく柔らかいザラメだったので、安心して飛び込んでいくことができました。
意外と少ないスラフや程よく緩んだ雪のおかげか安心してターンをつなげていくことが出来ました。問題は落石。両脇にいくつも連なる岩塔からひっきりなしに落ちる落石。滑りやリグループポイントはリスクを減らしていくことが可能でしたが、核心部のF2では完全に落石や雪崩の通り道の中をクライムダウンする必要があります。
ここは日ごろの行いを信じて念仏を唱えながら下るしかありませんでした。
今回F3はしっかりつながっていたので思い切って岩を踏まないように滑れば残りは安全圏。
雄たけびを上げながら大樺の斜面を楽しみました。
実際に滑り降りてみて、初滑走者である三浦氏の凄みを感じ取ることが出来ました。
何とも合理的で美しく、どこからも見ることのできない冒険性までをも兼ね備えたこのライン。
かつて自分の中では神話でしかなかったこの記録を追体験することができ、あらゆるものが満ち足りた、そんな週末になりました。
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