北アルプスの秘湯高天原温泉から赤牛岳に登頂、読売新道を下る
- GPS
- 74:05
- 距離
- 40.1km
- 登り
- 2,885m
- 下り
- 2,783m
コースタイム
- 山行
- 4:30
- 休憩
- 0:35
- 合計
- 5:05
- 山行
- 6:02
- 休憩
- 0:43
- 合計
- 6:45
- 山行
- 9:58
- 休憩
- 1:10
- 合計
- 11:08
天候 | 全日を通じて晴れたり曇ったりで雨はなし |
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過去天気図(気象庁) | 2014年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
富山駅から折立まで直通バス 下山・・黒部ダムからトロリーバスで扇沢へ 路線バスで信濃大町駅へ 特急スーパーあずさで帰宅 |
コース状況/ 危険箇所等 |
○全般的に危険箇所はありません。 地図上で温泉沢は波線の難コースになっていますが マーキングを見落とさなければ迷うことはありません。 ○赤牛岳の稜線以外は休憩をしようとするとすぐに蚊が寄ってきます。 蚊が気になる場所としては、太郎平テント場、高天原峠、高天原小屋前、 高天原温泉の山側露天風呂、温泉沢、平の渡し場などです。 |
その他周辺情報 | ウィークデイなので太郎平小屋、高天原山荘、奥黒部ヒュッテのいずれも空いていました。 |
写真
装備
備考 | 昔は蚊などいなかったのですが、猛暑のせいか、至る所に蚊が発生しています。虫除けスプレー、ムヒ、モスキーネットを持って行けばよかった。 |
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感想
北アルプスに足を踏み入れた人なら誰もが一度は行ってみたいのが高天原温泉であり、気にはなってもなかなか足が向かないのが赤牛岳ではなかろうか。私も北アルプスの名だたる山には足跡を残すことができたが、案にもれず、高天原温泉と赤牛岳が残ってしまった。地図を見ただけで尻込みするような読売新道を歩くには覚悟がいる。体力の残っているうちに赤牛岳を登っておこうと今回計画を立てた。
最初は、しっかり天気のよさそうな日を見計らって8月6日に夜行バスで富山駅まで行ったものの期待に反して天気は下り坂。前線と近づく台風のおかげで朝から雨模様だし山は真っ黒な雨雲に覆われていた。
定年後の仕事もすべて終わり毎日が日曜日の身分になったので、わざわざ天気が悪い日に登ることはないので、駅前に停まっていた東京行きの高速バスに乗って帰ってきてしまった。ザックの荷物はそのままにして、混雑するお盆の時期を外して再度挑戦することにした。
今年の天気はまったく安定せず、梅雨明け十日などという晴天続きはなかった。一週間まるまる晴れなんて日は考えられないので、1日くらいは雨に降られても仕方がないと覚悟を決め、8月18日の夜行バスで再度富山へ出発した。
8月19日(火) 曇り時々晴れ 折立→太郎平小屋
富山駅前6時20分発の折立行き直通バスの乗客は定員の約半数の20名ほど。予約なしで十分乗れた。2時間かけて着いた折立登山口の駐車場には50台くらいの車が止まっていた。人気のコースなので平日でもかなりの入山者がいる様子だ。
今日は、太郎平小屋までの5時間コースなのでゆっくり準備をして最後の方に出発した。過去3回ほど登り下りしたことのある道なので気が楽だ。天気がよいと照り返しが強いコースだが、今日は曇り空なので暑くなくていい。
福岡から来たというテント泊の若い女性パーティーやおばさんパーティーと前後しながら1870mの三角点ベンチ、五光岩ベンチをほぼコースタイムで通過した。五光岩ベンチでは、それまで雲に隠れていた薬師岳が徐々に姿を見せてきた。思わず「わー」と歓声が上がる。何度見ても薬師はでかい。
五光岩ベンチからは遙かかなたの稜線上に太郎平小屋が見えている。この辺りは展望も開けてくるし花も多い快適なコースである。チングルマはすでに穂になっているが、午後の日差しを浴びて光っている姿もこれまた綺麗である。夏の名残のニッコウキスゲが一輪だけ咲いていた。
太郎平小屋に着いてまずやることは生ビールを飲むことと決めている。汗をかいたあとの生ビールほど美味しいものはない。中ジョッキ一杯が1000円と高くなったが、この高山で生ビールが飲めるのだから背に腹は代えられない。
そして太郎平の醍醐味は、何と言っても薬師岳の眺望だろう。午後から徐々に雲がとれはじめ、いまはそのほとんどが見えている。太郎平から見る薬師はその長大な山並みを縦から見ているので広がりはないもののどっしりした雄大な姿を余すところなく見せている。
薬師沢を隔てた対岸には雲ノ平の高原が広がり、その後には、水晶岳から鷲羽岳の山並みが広がっているが、わき立つ雲に見え隠れしてなかなか全貌を見せてくれない。かつて歩いたことのある山ばかりなのでとても懐かしく思えて見飽きることがない。やっぱり山はいいなあ。とつくづく思うひと時である。
8月20日(水) 曇りのち晴れ 太郎平小屋→高天原山荘
昨日、山小屋で隣り合わせになった東京から来たという71歳の男性は、「弱気の虫が出てきたので下山します」と言って下山して行った。どうやら夕飯時に富山県警の山岳警備隊員が話したカミナリ情報を聞いて黒部五郎岳へ行くのが心配になったようだ。
小屋を出るときは、山々はガスに隠れて何も見えなかった。しかし、薬師沢に下るにつれ天気は急回復し青空が広がってきた。薬師沢小屋へ行くこの道は花が多くて快適な道だ。トリカブトやハクサンフウロが沢山咲いている。特にカベッケヶ原などは谷間の別天地の様相で、狭苦しい薬師沢小屋のベンチで休むよりか、こちらで休む方が遙かに気持ちがよい。現に若い女性グループがカベッケヶ原で楽しそうに朝食をとっていた。
薬師沢小屋からは黒部川沿いの大東新道を行く。増水したら歩けそうもない道だが今日は快適である。第一水の色が違う。いくら深くても水底の石の模様が見えるくらい澄んでいる。今回、山行のお供をするスイス製のマグカップですくって飲んでみたらこれが旨い。自制して飲まないとついつい飲み過ぎてしまうくらい旨い。
大東新道は、一カ所、A沢の先に濡れた滑りそうな岩場をへつる場所があるものの全体的には安心して利用できる道である。B沢出合で黒部川から離れ、しばらくB沢を登ると山腹の道へと変わる。C、D、E沢と順次越えていくと急登となり、やがて高天原峠へと出る。雲ノ平からの道を合わせたこの峠で昼食にしようかと思ったら、この峠には蚊が沢山いて、獲物が来たとばかり容赦なく襲ってくる。昼食どころではない。
ここ数年の猛暑つづきで蚊が異常発生しているようだ。そういえば、太郎平のテント場にも蚊がいたそうだ。太郎平では、むかし二度ほどテントを張ったことがあるが、蚊なんぞいなかった。出かけるときに妻から「虫除けスプレーとムヒを持って行けば」と言われたが「3000mの山には虫なんかいない」と言って忠告を一蹴したが、今となっては持ってくれば良かったと後悔するばかりである。
蚊に追われるように峠を下って高天原の湿原に降り立った。薬師岳と水晶岳に挟まれた湿原で別天地の感がある。水芭蕉は巨大な葉を茂らせ、ワタスゲが申し訳程度に見られるだけであるが静かでなかなか良い雰囲気だ。湿原の外れに高天原山荘はあった。赤い屋根のこぢんまりした山小屋である。小屋の前のベンチからは水晶岳の眺めがよい。
高天原へ来る目的のひとつに天然掛け流しの露天風呂がある。受付を済ませて荷物を預け、カメラとタオルをもって早速ひとっ風呂入りに行くことにする。小屋から行きが20分。帰りが上り坂なので30分ほどかかるのが難点であるが、時間を掛けて行くだけの価値は十分ある温泉である。
流れに沿った高台に男女別の風呂と、流れを挟んだ対岸に、全く囲いもない露天風呂がひとつある。開放感抜群でこれが最高に気持ちがよい。女性客がいないので、男達は素っ裸で、川を渡ってあっちに行ったりこっちに来たりして露天風呂を楽しんでいる。湯温もちょうどいいし、後々まで硫黄臭さが躰に残る快適な白濁の湯であった。今回の山行の第一の目標達成である。
8月21日(木) 高天原→赤牛岳→奥黒部ヒュッテ
今日は、今回の日程中で一番悪い予報が出ている日である。難コースの温泉沢から赤牛岳に登り、読売新道を下る11時間のロングコースを歩く日なのだ。風雨の3000mの稜線を歩くのは嫌だがこればかりは仕方がない。覚悟を決めて小屋を出発する。
夜中の0時にトイレに起き時には満天の星空だったのに、午前3時に福岡のパーティーが起きた時には、大粒の雨が屋根を叩く音がした。誰もが目覚めるくらいの雨音だったが、ほんのわずかな時間でやんだようだった。
小屋を出るときは、青空こそなかったがどうやら雨は大丈夫そうな空模様だった。温泉沢は登山道というよりか沢登りのようだった。しかし、心配したルートもペンキマークが随所についていたので迷うことはなかった。
露天風呂から1時間ほど登ると左手の土手にロープが垂れ下がっており、ここから沢を離れて尾根に取り付く。河原の真ん中の大きな岩に左向きの大きな矢印があるから見落とすことはない。と思ったら、私より若干先行していた男性が、この矢印を見落としたのか、どんどん沢を詰めていくではないか。100mほど先にいたので大声で呼んだが沢の流れにかき消されて気が付かない。何度も何度も大声で呼びかけたらやっと気が付いて戻ってきた。こんな大きな目印を見落とすことがあるのだから気を付けなければいけない。
樹林帯を抜けて森林限界を超えるとハイマツと砂礫の道になる。予想に反して稜線の雲が取れ始めた。これから向かう赤牛岳の山頂付近の雲も消えかかっている。雨にさえ降られなければ超ラッキーだと思っていたのに、まさか日差しまで出てくるとは思わなかった。
温泉沢の頭に登り着いたときには、雲が多いもののほぼ360度の展望が得られた。何と常念岳の脇には富士山までが顔を出しているではないか。もう大満足である。
赤牛までの尾根道はまさに稜線漫歩の雰囲気だ。太郎平ではすでに散っていたチングルマがここではまだ咲いていた。ハクサンイチゲも咲いているし綺麗なヨバシオガマも見ることが出来た。
赤牛岳の山頂には誰もいなかった。北アルプスに足を踏み入れても最初に赤牛岳に登ろうとする人は皆無ではなかろうか。赤牛岳がどこにあるのがよくわからない人も多いのではなかろうか。たとえわかったとしても、水場がなく、エスケープルートもない長大な読売新道を見ただけで二の足を踏んでしまうのである。それだけ人気がない山だが、黒部ダムの奥に見えるのが赤牛岳だと知れば、その立派な山容からして、いつかは登ってやろうという気になるのではないだろうか。赤牛岳とはそんな山である。
いま、その赤牛岳の山頂に立っている。これで今回の山行の第二の目標達成である。それも悪天候の予報に反して360度の展望である。わき立つ雲に見え隠れしているものの、北アルプスの名だたる山々がずらりと見えているのだから実に壮観である。眼下には、これから下る読売新道の稜線とその先には今回の山旅の終着点である黒四ダムも見えている。ダムサイトからこの山を見返したら山行終了である。
読売新道は実に長い。最初は周りの景色を見ながらの下りであるからいいものの、森林限界から先がいけない。苔むした大岩がゴロゴロしたあるづらい道だ。途中から一緒になった東京の若者なんぞは膝は痛くなるし、滑ったり転んだりで「もう絶対にこの道は歩かない」とぼやいていた。確かに登山道は、内蔵助平からハシゴ谷乗越へ抜ける道に匹敵するくらい歩きづらい嫌な道だった。
しかし、2/8の標識を越えると次第に道は歩きやすくなり、やがて沢音が近くなってくると奥黒部ヒュッテに到着する。
8月22日(金) 晴れ 奥黒部ヒュッテ→黒四ダム
黒部ダムへ出るには平の渡しに乗らなくてはいけない。針ノ木側からの発着時間は6時20分と早い。次発は4時間後の10時20分なので話にならない。渡船場までは2時間の道のりなので始発に乗るにはゆっくり小屋で朝食などを食べている時間はない。夜のうちに朝食弁当を作ってもらい午前3時25分、ヘッドランプの明かりを頼りに小屋を出発した。ヘッドライトで早朝歩くのは本当に久しぶりだ。しかし、道はしっかりしているので不安はないし、第一涼しくて快適だ。
この日は雲一つない快晴で空には降り注ぐばかりの星空だった。きっとこれが雪山だったら星明かりで歩けそうなくらいの星数だ。早起きは三文の徳というが、この星空を見られただけでも早起きした甲斐がある。
谷間の夜明けは遅い。日の出時間がとっくに過ぎた5時を回ってやっと東の空が明るくなってきた。天気の良い日の夜明けというのは実に気持ちがよいもので、清々しい空気が直に肌で感じられる。
黒部湖の水面にオレンジ色の朝焼け雲が映っていると思ったら、モルゲンロートの燃えた獅子岳から龍王岳が映っているのだった。写真を撮るのも忘れてその壮麗さにしばし見とれてしまった。ふと思い出してカメラを向けたときには、あの燃えるような色合いはすーっと色あせてしまい元の岩山に戻ってしまった。でも龍王岳のモルゲンロートがみられたのも三文の徳のひとつだろう。
平の渡しには、テント泊まりの3名が一緒に乗った。この渡しを降りたらまもなく今回の山旅は終わりである。二人は先を急ぐのか、それとも足が速いのかどんどん先へ行ってしまったが、私は読売新道で一緒になった若者と前後しながら、今回の山行を思い出しながら一歩一歩のんびり黒部ダムまで歩いた。
雨を覚悟で出かけた今回の山行。雨衣を使うことなく4日間歩けたのはこの時期としては珍しいことではないだろうか。人生の楽しい思い出がまたひとつ増えた感じがする。
youjiさん、お疲れ様でした。
40数年前、初めての北アルプス登山ルートの中に赤牛岳が含まれていて、読売新道を一日で登らずに途中でテン泊した時の満天の星空や、赤牛岳から見た北アルプスの山々を、昨日の事のように思い出しました。
ご報告、ありがとうございました。
これからも元気で山登りをお楽しみ下さい。
私と同い年ですね。
お互いに、健康に気を付けて頑張りましょう。
赤牛はすごく不便な山ですが、静かでいい山でした。
年が年なので蝸牛山行です。
なんせ私のHPの名前が蝸牛の足跡ですから。
この秋は、谷川岳3泊4日の全山縦走を計画しています。
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