白髪山〜カヤハゲ〜みやびの丘☆剣三葉躑躅の花咲く稜線へ
- GPS
- 04:16
- 距離
- 10.5km
- 登り
- 1,063m
- 下り
- 1,042m
コースタイム
過去天気図(気象庁) | 2023年05月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
この週末の高知への出張のついでにどこの山を訪ねようかと情報を集めるが、魅力的な山が多く、出張のための肝心の仕事の準備がなかなか捗らない。この時期は高知の山ではシロヤシオが咲く山があり、石立山、稲叢山と西門山、高板山といった山が知られるようだ。いずれも初めて知る山々ではあるが、山そのものも魅力的なところが多い。問題はどこも非常に奥深く、対向の困難な細道を延々と運転しなければならないことだ。この日は午後の15時頃からは雨の予報であり、長時間の山行は難しい。
どこの山にしようかと思案している間にシロヤシオとは関係がないが、剣山山系の一つ、白髪山の山頂から西に伸びる尾根の笹原の中に小さな池があることを知る。この池を訪れた山行はほとんどないのだが、わずかに得られた情報によると、渇水期には水が枯れるので、水がある季節はわずかであり、幻の池とも呼ばれるらしい。白髪池と呼ばれることもあるようだが、あくまでも俗称らしい。勿論、この池にたどり着く登山道はなく、笹原を藪漕ぎして行くほかない・・・ということを知ると探検心が疼くところだ。白髪山は以前、天狗塚から剣山に至るまで家族で縦走した時に尾根の先にある山が気になるところでもあった。
上越や東北の山では山中に無名の湿原や地動は幾らでもあろうか、峻険な山の多い四国山地においては山上の池は珍しいだろう。思いつくのは三嶺の山頂直下の池だ。天狗塚の山頂直下にも池があるが、以前に訪れた時は池の水は枯れていた。おそらくこの時期であれば、白髪山の池にもほぼ間違いないく水があることだろう。シロヤシオの山々は諦めて、この白髪山の池を訪れることにする。山頂までかなり近いところまで舗装道路が続いているのも有難いところだ。
伊丹から高知への飛行機は剣山山地の上を越えてゆく。気がつくと眼下には山上に木道の整備された剣山が見える。周辺の山々には雲はなく、見晴らしはいいようだ。
高知空港に降り立つと周辺の山々が白く霞んでいる。空気の湿度が高いのだろう。高知市内でレンタカーを借りると、まずは物部川に沿って、東に進む。緑色の水を湛える永瀬ダムにかかる橋を渡ったところで県道に入る。上韮生川に沿った道は谷からかなり高いところを進むようになり、秘境感が半端ない。
五王堂と呼ばれる集落を過ぎると谷が狭隘となる。対向の困難な道路を進んでゆくと、忽然と古い小学校がある。物部存立久保小学校らしい。廃校となったのは1980年、今から50年以上前のようだ。広い校庭には綺麗なトイレと東屋が造られていた。
西熊川にかかる橋を渡ると、舗装はされてはいるものの道路上には多くの石が散乱している。西熊から別府への道路の崩落のために通行不能の立て看板が現れる。通行止めとなっているのは白髪山の登山口の先のようだが、この道路はどこで崩落してもおかしくないだろう。
道は九十九折りで急峻な斜面を登ってゆく。植林を抜けて道路の両側に自然林が広がるようになると、新緑が美しい。既に標高がそれなりに高いのだろう。光石の登山口には一台の車が停められていた。さらに先に進むと道路上に散乱する石も少なくなり、道の状態は良好なようだ。広々とした広地が現れる。西熊渓谷の展望台となっている。天狗塚から三嶺に至るまで谷を取り巻く山々の展望が広がり、壮観という他ない。稜線はいずれも絨毯を敷いたかのような笹原が広がっているが、笹原はまだベージュ色であった。
白髪山の登山口に到着すると車を停めるのが躊躇われるような芝生の広場には一台の車が停められている。香美市消防局とあるので、消防団の方なのだろう。林床には一面に笹が繁茂する樹林の中を登ってゆく。木製の階段が整備されてはいるが、崩壊している箇所が多い。尾根の形が明瞭になるとブナが現れるが、すぐに樹林を抜けて一面の笹原の草原に飛び出す、南側の山々の好展望が広がる。
登山道の周辺にはツツジがちらほらと咲いている。枝先は三葉に分かれているので三葉躑躅の一種のようだが、関西で見かけるコバノミツバツツジに比べて明らかに葉も花も大きく、花の色は鮮やかな紅色に近い。ツルギミツバツツジという剣山山系の固有種らしい。登山口のある峠を挟んだ反対側のp1558はその山頂に小さな東屋が見えるが、その周辺は山肌がツツジの赤紫色に染まっている。山頂が近づくと東側に剣山と次郎笈が目に入る。
白髪山の山頂からは北側に三嶺から西熊山をへて天狗塚に至る稜線が視界に飛び込んでくる。山頂の北には大きな岩があるので、岩によじ登ってみる。眼下に見下ろす西熊谷の右俣の新緑が鮮やかだ。
山頂から正面に綱付森を眺めながら笹原の中につけられた踏み跡を辿ると、すぐに尾根の先には広々とした笹原の展望が広がるようになる。笹原の中には無数の白骨木が立ち並び、幻想的な光景だ。踏み跡は明らかに鹿のものだろう。繁茂する笹はミヤコザサであり、丈がせいぜい膝下ほどだ。茎も柔らかいので、歩行に苦慮することはない。この笹は鹿が好んで食べるらしい。
笹原の中には防鹿のためと思われるネットが張られている。尾根は二重尾根となるが、南側の尾根を辿る。尾根の端から下を覗き込むと、笹原に抱かれて微睡むかのような小さな池が目に入る。池の周りを縁取るように草が生えているので、緑色に変わっている。
池を目指して斜面を下降すると、一匹の蛙の鳴き声が聞こえる。池の周囲の泥濘(ぬかるみ)には鹿のものと思われる多数の足跡がある。池に水がある間は鹿たちの楽園となっているのだろう。蛙の鳴き声が止むと、あたりは途端に静寂に包まれる。雨の予兆を孕んだ湿った風が静かに通り過ぎてゆく。まさに桃源郷と呼びたくなるような場所だった。
池からは左手のなだらかな斜面を登り、再び尾根に乗ると、ここでも防鹿ネットが張られている。白髪山に向かって尾根を戻ると、鹿の一個体のほぼ完全な白骨がある。ネットには角が絡まった鹿の頭蓋骨があった。ここで苦しみながら死を迎えたのだろう。おそらくはこの山頂一帯に広がるミヤコザサの保護のためにネットを張っているのだろうが、このような鹿の遺体を見るのは痛ましい。そもそもこのネットは果たしてその目的を達しているのだろうか。
再び白髪山の山頂に戻るとカヤハゲを目指して尾根を北上する。笹の草原はすぐに終わるが、尾根は疎林が広がり、尾根の雰囲気はどことなく大峰の釈迦ヶ岳を思い出させる。考えてみるといずれも太平洋岸からの湿った空気がぶつかるところでもあり、標高もほぼ同じなので植生が似るのも不思議はない。
鞍部が近づくと紺色の制服を着た若い男性二人と遭遇する。聞くまでもなく消防団の方々であることが判る。この日はトレーニングということで登山をされておられるらしい。登り返してジャンクション・ピークに至ると東に剣山へと続く長い尾根が目に入る。壮麗な山容を広げる三嶺の手前にカヤハゲの小さなピークが見える。標識によるとジャンクション・ピークからは丁度2.0kmらしい。
正面に三嶺、左手には綱付森に至るまで西熊谷を取り巻く稜線を眺めながら、鞍部に下降してゆく。。鞍部では西側斜面を花盛りのミツバツツジの樹々が周囲の新緑の樹々と鮮やかなコントラスを見せてくれる。すぐにも新緑の樹林を抜けて文字どおりのカヤの草原の広がるカヤハゲのピークに至る。
風が一層、冷たく感じられる。西に見える綱付森の山頂には雲がかかり始めている。ピークから目の前に見える三嶺までは道標によると2.0kmとあとわずかであるが、往復には1時間近くを要すルだろう。雨の降り出しが近いことを考えて諦めることにする。
ジャンクション・ピークに登り返すと尾根を東にたどり、広々とした笹原に下降する。小さな避難小屋がメルヘンチックな印象だ。小屋に立ち寄らず、その手前から林道に下降する道に入る。斜面をトラバースする道はところどころ崩落気味だ。やがて道が尾根を下るようになると斜面にはブナの疎林となり、大樹が次々と現れるようになるが、すぐに林道と合流する。
登山口が近づくとみやびの丘登山口という案内がある。白髪山から見えていたp1558の名称のようだ。まだ雨は降り出してはいなかったので、山頂まで往復することにする。登山道に入ると、樹林の中には早速にもブナの大樹が現れる。尾根に乗るとミツバツツジに混じって一白いツツジ系の花が咲いている。シロヤシオであった。
ブナの大樹の林を抜けて草原の広がる山頂に至ると360度の好展望が広がる。背後に見上げる白髪山を南西の方角から押し寄せる雲が遮ってゆく。山頂の小さな東屋は八角形をしており、開閉式の窓を備えているので小屋と呼んだ方がいいのかもしれない。入口にはレールがあるのでかつては扉があったのだろう。山頂の周辺では花盛りのミツバツツジが斜面を鮮やかな紅色に染めていた。
駐車場に戻り、林道を下ってゆくと道路のすぶ近くに可愛らしいモコモコとした小動物がいる。アナグマであった。林道の脇から珍しいものを見つめるかのようにジッとこちらに視線を向けている。慌てて後部座席に置いてあったカメラを取り出すが、途端に近くの古いトイレの下に潜り込んでしまう。少し林道を下ると今度は次々と鹿が現れた。
再び上韮生川に沿いの県道を下り、国道に入ったところで本降りの雨が降り出した。湖畔荘という温泉を訪ねるが日帰り入浴は16時までとのことだった。その先にある夢野温泉で入浴し、高知に戻る。
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