[山行計画書] 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」
(山行種別:ハイキング, エリア:日光・那須・筑波)
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集合場所・時間09:00 湯元温泉
行動予定
(自由記述)
「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」


11月も終盤と言うのに辺りの斜面には背丈ほどのススキが茂る
独りの女流格闘家が駅のホームに降り立っていた。
名前は「玲央千」格闘界で彼女の名前を知らぬ者はいない。
特に本場ヨーロッパでは熱狂的ファンが「神」と崇めている。

朝日が眩しい早朝、ホームから錦秋の斜面を睨み付けながら呟く言葉は今日もアノ言葉
「今日こそ見つけるわよ!白水山」

誰も居ない改札を出て右に回り沢沿いのアスファルト道を登り始めた。
少し上ると左側に蕎麦屋。
その敷地に入り左に回り込むと登山道に合流する。
此処からは足元も見えないほどの藪。

何故格闘家の玲央千はこれ程までに危険をも顧みず地図にも無い伝説の山
白水山を目指すのか?
この時から遡る事12年前。
神田 神保町の古書店で手に取った一冊の本。此処から物語が始まる。

「将門は奥多摩に@@を埋めた」この本のタイトルだ。
残念ながら@@の部分はシミによって読み取る事が出来ない。
買い求めた古書を自宅の炬燵の上に乗せると愛猫が器用にページを捲った。
すると猫くり坊が爪で或る部分を引掻いた。。。なんと@@の部分はシミで見えないのか
と思っていたが、スクラッチカードの様に張り付いていた木葉が剥がれ落ち
@@の部分が浮き上がってハッキリと「白水」の文字が現れた。
其れはまるで玲央千を手招きするように。

その仕草を見た玲央千は クリ坊を炬燵の上からキッチンまで放り出し落ち葉で隠された
其のページに貪り付く様に顔を近付け一文字づつ鋭い視線で追って行った。
一瞬の出来事 クリ坊は何が起こったか解らない様子でキッチンの片隅で真丸い目を
パチクリさせ乍ら次の瞬間 尻尾を三倍程の太さにして身構え乍らシャァーっとしている。
そんな事も周囲の出来事全て目に入らず古書を貪るように食い入っていた玲央千 
もう他の事に目もくれず一心不乱に読みふけっていたその姿は、マネキンの其れで、身動き一つせず
眼球だけが文字を追い続けていた。

夕暮れから朝日が昇るその時迄、玲央千の部屋は時間が止ったかのような静寂が続いていた。
クリ坊も夕暮れの出来事も忘れこの時間になると玲央千の膝の上で丸く蹲り熟睡していた。

古書を炬燵の上に置いたまま、ザックにパッキングを済ませ早朝の玄関を出て行く。
炬燵の上には古書「将門は奥多摩に@@を埋めた」が最終頁が開かれたままの姿で置かれていた。
其のページには
新皇将門903年没 御年参八歳偲 将頼一筆 と読める

時は疾風の如く過ぎ奥多摩の斜面は壱弐度めの錦秋を纏っていた。
背負っているザックの中には一冊の古書。
もう四〇〇回以上ザックの中に入れ山野を探し回っている。
古書のタイトルには「将門は奥多摩に白水山地図を埋めた」
そしてサブタイトルには「白水山三角岩下には将門の財宝此処に眠る」と記されている。
今日も白水山を探し一人の女性が山に入り白水山を探し求めて彷徨っている。

「今日は此処からね。安寺沢乳房観音」ギラギラ鋭い眼光でその麓を睨み付けている。
その姿は可愛らしい姿とは別に誰も寄せ付けない凍える様な空気が辺りを包んでいた。


著作 ヤマレコID gonzousecond
作品名「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」起の章 一説




    「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」承の章

探し求めて幾年月過ぎたであろうか、行き詰ると古書店を彷徨うようになったのも全て「白水山」の為であった。
此の日も神田神保町に玲央千の姿が在った。
メインストリート靖国通りから一本外れたすずらん通り.
古めかしいその店は在った。細長い敷地に細い階段木造三階建の歴史を感じる佇まい。
此の古書店は、専門分野としては国内の民俗学で特に各地方に語り伝わる「子守唄」を多く扱っている。
誰かに導かれるようにギシギシ撓む階段を登り三階の奥に玲央千の目が鋭く光る一瞬が在る。

一冊の古書に手を伸ばすと背後から同じ本に向かってか細い腕が伸び掴もうとしていた。
背後に気配は全く感じなかった玲央千。「はっ」として思わず伸ばした腕を引き身構えた。
格闘技を生業としている彼女。それなのに気配は全く感じなかったのは「何者」?
振り向くと、帽子サングラスで顔は見えないが一人の女性が立っていた。
彼女は顔を見られたく無さそうですぐに顔を逸らせ階段を小走りに降りて行った。
後々解る事だが、これから繰り広げられる壮絶な戦いの相手「YYシルフ」
未だかつて誰も顔を見た事が無い伝説の美女。いやいや今迄に何人かは彼女の顔を見たものが居る。
彼女の素性は誰も知らない。ただ解っているのは奥多摩の山々を歩いていることが多いらしい。
 別名「伝説の美女YYシルフ」此の時玲央千は未だ此の事を知る由も無い。
解っている事は唯1つ 彼女も此の本を必要としている。

玲央千が手に取った其の本は「奥多摩地方に伝わる子守唄」
YYシルフの事など忘れ、その本を手に愛猫クリ坊が待つ我が家へ帰り翌朝まで奥多摩地方に伝わる
子守唄を熟読していた。

「奥多摩地方に伝わる子守唄」の内容はこれだった「白丸城丸白水様将門様は偉い方」
{♪白丸城丸白水様将門様は偉い方
殿様お宝岩の下皆を見守る岩の下
六つ七つの途中にドッケ、七つの玄武は甲斐の国七つの子は甲斐の国
四つのドッケお天道様の通り道、探して村人踊りだす。大御宝は踊りだす。
カゴメカゴメ籠の中、酉は石の下から探し出す。
一つ一つを繋げれば村人皆踊りだす大御宝は踊りだす。
長沢天目長い道、川苔深く降り行けば母ちゃんお乳童が踊り村人皆踊りだす
大御宝踊りだす。
白丸探して踊りだす大御宝踊りだす。
紅ゴンサワガニ守り神、探す鬼ども追い払う。
良い子童はねんねしな今宵は早くねんねしな。観音様に見守られて紅ゴンサワガニ見守って
今宵は早くねんねしな。将門様は良いお方。♪}

ふと どうしても理解出来ない子守唄の一説の気になっていた。
「白丸城丸白水様将門殿様偉い方」

この本を炬燵に残し今日も奥多摩駅に向かう姿が早朝未だ暗い道をチカラ強く歩を進めて行った。
奥多摩駅に降り立つと早朝と言うのに沢山の人々が騒いでいた。警察署員、山岳救助隊、消防署員、
駅員、バス職員、地元住民その数100人は居ただろうか。
レオッチは馴染みのビジターセンター職員に声を掛けた。
「何か有ったんですか?」
「あ!玲央千さんおはようございます。昨日の午後何者かに六つ石山、鷹ノ巣山、七ツ石山、
そして雲取山其々最近新しくした山頂標識が誰かに荒らされたらしいんです」続けて
「山頂標識付近を穴だらけにして。。。今から捜査が始まるらしいですよ」
午前中は何事も無かったらしいが昨日の夕方其々の下山者から通報が有ったらしい。
被害は山頂標識付近が荒らされただけだった。
同じ日に 同じ石尾根続きの主要山頂標識付近が被害に。。。
更に詳しく知り合いの山岳救助隊から状況を聞いた
「昨日何時頃なんです?被害は」
帰ってきた言葉に驚きを隠せない様子の玲央千
「六つ石山が14時頃 鷹ノ巣山が15時半頃 七ツ石山が16時半頃 雲取山が17時過ぎですよ。
 しかしまぁ何でこんな悪戯を。。。」
其れを聴いていた玲央千は、直感していた「悪戯では無い」「間違い無い、犯人は奥多摩の秘密を知っている人物。
私以外に奥多摩の秘密を知っている人物が居たって事なのね」彼女の鋭い視線が石尾根を睨み付けていた。

それにしても単独犯だとしたら驚くべきスピードで山を疾風の如く移動して山頂標識を荒らして行く。。。
おそらく単独犯だ。その後に色々情報を集めると目撃情報が少々有った。
その情報全てが同じ服装同じくらいの年恰好だった。
犯人は間違い無く石尾根を六つ石山から雲取山へと進んでいた。
その後の消息は一切無い。雲取山荘 奥多摩小屋 等にも目撃者は居なかった。

気にはなっていたが今日は安寺沢乳房観音捜索が目的だ。後ろ髪惹かれるが駅から北上し乳房観音に向かった。
見上げる空からは、この季節では早い白い物が降り始めていた。


著作 ヤマレコID gonzousecond
作品名 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」承の章一説







   「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」転の章「白水子守唄」

神田神保町古書店で入手した子守唄は

{♪白丸城丸白水様将門様は偉い方
殿様お宝岩の下皆を見守る岩の下
六つ七つの途中にドッケ、七つの玄武は甲斐の国七つの子は甲斐の国
四つのドッケお天道様の通り道、探して村人踊りだす。大御宝は踊りだす。
カゴメカゴメ籠の中、酉は石の下から探し出す。
一つ一つを繋げれば村人皆踊りだす大御宝は踊りだす。
長沢天目長い道、川苔深く降り行けば母ちゃんお乳童が踊り村人皆踊りだす
大御宝踊りだす。
白丸探して踊りだす大御宝踊りだす。
紅ゴンサワガニ守り神、探す鬼ども追い払う。
良い子童はねんねしな今宵は早くねんねしな。観音様に見守られて紅ゴンサワガニ見守って
今宵は早くねんねしな。将門様は良いお方。♪}

玲央千は子守唄を丸暗記出来る程何度となく読んだ。幾度も幾度も寝食を忘れるほど読みふけっていた。

夕暮れの安寺沢集落付近を歩いている時、何処からか年老いた女性の声で歌声が聴こえた。
其の優しい擦れた歌の歌詞を玲央千は聞き逃さなかった が。。。
その歌声を求めて探し回ると一軒のお世辞にも綺麗とは言えない小屋と表現したほうが
適切に思える木造のあばら屋に出会う。
中からその歌声が零れて来るように聞こえる。その歌詞は正しく古書に認められた「白丸城丸白水様将門様は偉い方」
躊躇無く唄に導かれる様に其の玄関先に立つ「ごめんください」「こんにちはぁ」
暫くすると其の歌声が止み玄関の引き戸が開く。

中から顔を出したのは90歳は唯に超えたであろう老婆の姿。怪しげに此方を見詰めながら「何方さんかのぉ?」
その姿に恐れおののき乍ら玲央千は声を絞り出す「今歌われていた子守唄について御伺いしたいのですが」
老婆の顔は急に穏やかになり玲央千の顔を優しい目で包み込んでいた。

四畳半一間程度であろうか、老女一人が生活している空間に卓袱台を挟んで座っている。
子守唄の最後「観音様に見守られ紅ゴンサワガニ見守って今宵は早くねんねしな。
将門様は良いお方。♪」迄歌い終わると老婆はゆっくりと話し始める。

「この歌は、もう何百年も昔から此の集落で歌い継がれている歌じゃでなぁ
オラのバァチャンも 其のまたバァチャンも ずぅ〜っと昔から歌い継がれていたでなぁ。」
話しながら視線は窓越しの愛宕山方面に向いていた。

彼女によると「白丸城丸白水様将門様は偉い方」此の歌は
歌詞の意味は解らないが、代々語り部の様に歌い継がれ遺言の様にこの歌は絶やしてはいけない。
此れが我が家の宿命だから。と伝わっているらしかった。
しかし彼女の後を継ぐ者はいない。そう この歌はこの時代を最後にして途絶えてしまう。
彼女は此の事を大いに悲しみ「ご先祖様に顔を合わせる事が出来ねぇ。情けねぇこってす」
っと涙ながらに語ってくれた。
時代の流れ。。。薄っぺらな言葉だがこの言葉で諦めるしかないのであろうか。
安寺沢部落だけに歌い継がれた此の歌は隣部落でさえ誰も知らない。
老婆の俯いた姿に頷きながら玲央千は玄関を後にした。

急いで自宅へ向かう玲央千。彼女は早く古書「奥多摩地方に伝わる子守唄」を手に取りたかった。
早く子守唄の意味を謎解き、安寺沢に住む老婆に伝えねば。此れが私の宿命。

謎めいたフレーズ。位置関係を示すフレーズ等が混在する子守唄。
一つ一つ解明する作業が続く。
此の歌には将門が隠した財宝の在りかを示す大切な物の場所を歌として受け継がせたものであろう。

気になったのが「踊りだす」このフレーズだ。
村人そして大御宝 童までもが踊りだす。
「大御宝」とは古代我が国日本が「大和の国」又は「倭の国」と言われていた頃
「大君」もしくは「大王」つまり後の「天皇(すめらみこと)」が平民を指す言葉だ。
そうなると
「子供も大人も村民全員」が踊りだすほど嬉しい様を指しているのだろう。
それでは 嬉しいとは何か?
山に囲まれ、産業と言えば養蚕と炭焼きの此の地でつまりは、貧しい此の地域での嬉しさとは「お宝」
やはりこの歌は間違い無く「将門の隠し財宝」を示す物だ。

次に着目したのが位置関係を示すと思われるフレーズだ
「六つ七つの途中にドッケ、七つの玄武は甲斐の国七つの子は甲斐の国」
そして其れに続く
「四つのドッケお天道様の通り道」
安寺沢北北西方面に続く長い尾根「石尾根」
此の石尾根氷川の村から雲取山迄繋ぐおよそ20km5里の尾根が在る。
主要な山頂は、六つ石山 鷹ノ巣山 七ツ石山 雲取山で他にも多数名の在る山そして名も無い山が存在する。

歌詞に戻るが
六つ 七つの途中にドッケ
これは恐らく六つ石山 七ツ石山此の二つの山頂付近には其々神社が鎮座ましまして居る。
その祭神は「平将門」驚愕の事実。
六つ石と七ツ石途中に在るドッケ
ドッケとは本来小さな山頂、又は小さな尖った場所を指すが大きく考えれば山頂を指す。
っとすると其れは、将門馬場 城山 水根山 鷹巣山 日陰名栗 高丸山 千本ツツジ
将門馬場
此処は周囲より高い処であるに間違いは無いが、平べったく此の地方で表現される
「でんでいろ(天平)」なのだ。
ドッケ(尖った場所)には当てはまらないので除外する。
この中で標高が一番高い山は「鷹ノ巣山」
しかし気になる山は「城山」しろやま」とは呼ばずに「じょうやま」と呼ぶ。
何故「しろやま」とは呼ばずに敢えて「じょうやま」と呼ぶのだろうか?
っはっとレオッチの目が見開いた。将門の城の特定をさせない為の事か。口元が微かに緩んだ。
石尾根氷川集落に程近い場所に「三ノ木戸」と云う山が在る。
将門の城から三番目の木戸が在ったと伝わっている場所。
そして三ノ木戸から鷹ノ巣山方面に北上すると其処には「城山」
将門が建築した城が在った場所と伝説で云われている場所。
恐らく「六つ 七つの途中にドッケ」のドッケを指す山は「三ノ木戸山」若しくは「城山」又は
「鷹ノ巣山」の何れかだろう。


そして歌中の「七つの玄武は甲斐の国七つの子は甲斐の国」
何処を指している処か?
七つは「七ツ石山」此処には七ツ石神社主祭神は、諸説在るが「将門本人」
又は「将門の側近者七名」そして気になるのが北斗七星が関係しているらしい。
「玄武」「子(ね)」とは方角を表していると思われる。
ズバリ「北」だ。
七ツ石山から石尾根を北上すると其処には「雲取山」が聳え立つ。
「七つの玄武は甲斐の国」
此れも雲取山の北北西側には甲斐の国今で云う「山梨県」
位置関係全てが此の歌に集約されていた。

「長沢天目長い道、川苔深く降り行けば母ちゃんお乳童が踊り村人皆踊りだす
大御宝踊りだす」
このフレーズが難解であった。玲央千は全神経を集中させ「子守唄」を頭の中で歌い
「奥多摩地域の古地図」を鋭いその目で追い続けた。
長沢とは、長沢山が雲取山の東方面に位置する
天目とは、天目山(三つドッケ)その長沢山の東南東に在る。
雲取山〜長沢山を過ぎ天目山迄を、長沢背稜と云い
天目山〜恐らく日向沢ノ峰辺りまでを天目背稜と云うのではないか。

川苔山とは昔は名も無き山であった。其の山の西側に切れ落ちている谷が
「川苔谷」と呼ばれ昔は川苔が採れた場所であった。其の川苔谷から繋がる山の存在を
「川苔山」と呼んだ。現在の「川乗山」は当て字である。
其の川苔山から本仁田山へ続き南に降りると其処は「安寺沢」であり、「乳房観音」が祭られている。
全てが繋がった瞬間であった。
山一つづつ点を繋ぎ、今線となり子守唄「白丸城丸白水様将門様は偉い方」の全貌が明らかになったのである。
玲央千は安堵の表情を浮かべ其の侭炬燵で寝入ってしまった。
愛ネコクリ坊が顔をペロペロ舐め餌を要求しても深い眠りから覚めなかった。
部屋にはクリ坊の寂しい「にゃぁぁ〜」の鳴き声がいつまでも続いていた。

玲央千よ眠るが良い。身体と神経を酷使した今は此れからの戦いの為に充分に休息を摂り備えるが良い。


著作 ヤマレコID gonzousecond
作品名  「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」転の章「白水子守唄」一説






  「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」転の章 「真琴鳥鳥巣YYシフル」

白水子守唄 此れは氷川の村から伸びる石尾根を雲取山其処から長沢背稜そして天目背稜を通って
川苔山から本仁田山、安寺沢そして氷川の村を繋げるルートを知らせる為の唄であった。
此の唄のルートの何処かに「白水山」が隠されているのだろう。
白水山が特定出来れば、付近に在る三角岩下には将門の財宝が隠されているのだ。
先ずは「白水山」の特定ね。
レオッチは、眼光鋭く奥多摩駅(旧氷川駅)から石尾根方面を見ていた。

奥多摩駅を右に出で暫く歩くと日原川を渡る。右に其のまま道なりに進むと「安寺沢」部落。
今日も玲央千はあの老婆に会いに来た。子守唄を聞かせてもらってから何度となく会いに来ている。
「御婆ちゃんコンニチハー」
「おやー玲央千さんいらっしゃい。さぁさぁお入りよ、汚く狭い家だけんど入っておいで」
「貴女が来てくれる様になってからオラも元気が出て来てねぇ 嬉しいんだよぉ今お茶淹れるからね」
老婆は玲央千を嬉しそうに迎え入れる。
そう 彼女は奥多摩に来る度に老婆に会いに来て昔の氷川村の事を聴くようになっていた。
老婆の名は「おタネ」
「おタネ婆ちゃん、今日はマメ大福持って来たから一緒に食べようね」
老婆は嬉しそうに何度も頷いた。

卓袱台を挟んでお茶を飲んでいると、おタネ婆さんが玲央千に
「今日はお客さんが沢山来るだでなぁ 貴女さんにも紹介すっからな。楽しみにしてよぉ」
其の時、玄関の戸が荒く無骨に開いた。
「よぉ おタネ婆ぁ居るかよぉー 昨日撃った鹿肉持って来たで皆で喰うでよぉ」
「おぉー真琴そうかい 今日はご馳走だなぁ〜 そんな所つっ立ってねーで中さ入れぇ」
おタネは嬉しそうに笑顔で返した。

「あー玲央千さんこの人初めて見たかい?此の男は真琴って言ってな、日原集落のマタギだぁ」
「ほーれ真琴よぉ挨拶せんか 都会の美女見てキョトンとしてるで。おめぇ嫁っこさ居るのに。。。」
三人の笑い声が小さな小屋から山へコダマした。
其の時、玄関を叩く音が響くと、突然ドアが開いて男が一人入って来た。
「おやぁ どりとすー 早かったなぁ そんな所突っ立ってないで中は入れや」
「おぅ 邪魔すっぞ」レオッチをチラッと見て卓袱台の前に無言で座った。
「玲央千さん此の男も初めて見たかい? 此の男は「鳥鳥巣」と書いて「ドリトス」って云うんだ」

「私 玲央千と言います宜しくお願いします」
二人に挨拶を済ませると、おタネ婆さんが皆の分お茶を入れて来た。
「鳥鳥巣はなぁ藁職人でなぁ 無口じゃが気の良い男じゃで。日原住んどるんよぉ」

彼女は鳥鳥巣を見て思い出した
「ドリトスさん、何時だったか六つ石山の山頂で藁細工していらしていましたよね」
頷くだけのドリトス。無口で無骨な男であった。
持っていた藁束から数本引き出しササッと何やら編んで行く。
「ホレ 此れ被ってけれ」玲央千に編んだ帽子を俯いたまま渡した。
喜ぶ玲央千の姿を見て照れ臭そうにしているドリトス。気は優しい男。

卓袱台を挟んでお茶を飲んでいる内に四人は打ち解けていく。
四人が話している内に、ドリトスと真琴は代々日原に住んで居る事が判った。
しかも二人は遠縁に当たり現在の日原を切り開いた原島一族の末裔だ。
楽しい時間はすぐに流れ夕暮れ時。
笑顔が絶えない四人だったが玲央千は帰る時間になり、また四人で此処に集まる約束をして
帰路につく。「おタネ婆ちゃん、真琴さん、ドリトスさん、今日は楽しかったです。鹿の「紅葉鍋」も
美味しかったでぇーす。来週お会いしましょうね」後ろ髪惹かれながら駅に向かう。

帰り際、玄関外で様子を窺っていた様な女性が一人立っていた。
虚を突かれた様にドキっとしたが、彼女を見てスグに判った。
「こんばんは、貴女何時だったか神田神保町の古書店で一度お会いしましたよね」
無言で立ち去ろうとした女に続ける「待って!」立ち止る女。

歩を止め踵を返しながら女が言う
「貴女が玲央千さんだったのね、私はYYシルフ。どうやら貴女も目的は私と一緒ね」
其の凍りそうに冷たい言葉を聞いた玲央千は、直感した。
「YYシルフさん、六つ石山、鷹巣山、七ツ石山そして雲取山の山頂表示を荒らしたのは貴女ね」

帰りの青梅線内、車両にはYYシルフそして玲央千しか乗客は居ない。
誰にも聞かれたくない話をするには打って付の状況だった。
お互い、重い口を開きながら東京駅に到着する頃にはお互いの事が全て解かった。

YYシルフはおタネ婆さんの遠縁だった。昔は安寺沢に住んでいたが、都会暮らしに憧れ
村を捨てて都内で暮らしている。両親とも病死した事を風の便りに聴いたが一度捨てた村に
戻る事が出来ないでいた。
最近になって、昔おタネ婆さんが唄っていた「白水子守唄」
うろ覚えだったが微かに記憶の奥底に。
そんな時、神田神保町の古書店で見つけた「奥多摩地方に伝わる子守唄」だったが
玲央千に先を越された。
日本全国の古書店を探し回り青森の鯵ヶ沢に在る古書店で同じ本を見付け、
解読作業をしていたらしい。

車内で殆ど同時に同じ言葉をお互いに問いた。
「財宝見付けてどうするつもりなの」 寂しい車内に2人の声が響いていた。

電車が四谷駅を発車して神田駅に向かう途中
YYシフルは言った。財宝は、安寺沢部落の物。部落発展と将門の為に使いたいと話した。
神田駅を出て東京駅に停車しドアが開く直前に二人とも同じ
思いだったことを話した。

深夜の山手線外回り、東京駅を発車し田町駅に到着する頃までに
YYシフルは トレイルランのランナーで六つ石山 鷹ノ巣山 七ツ石山 雲取山の
山頂標識荒らしを独りで行い、長沢背稜を通って下山した事を明かした。
此れも全て将門が埋めた財宝を探す為。

二人の目的が重なり再開を誓いお互いの掌を強く握り品川駅で別れた。

著作 ヤマレコID gonzousecond

作品名 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」転の章 「真琴鳥鳥巣YYシフル」一説






  「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」転の章 「大休場尾根の謎」


或る日の昼下がり、おタネ婆さんの家に集まって世間話に興じる「乳房観音守のおタネ婆さん」
「日原のマタギ真琴」「日原の藁職人鳥鳥巣」。
何時しか話は、大昔先祖から聴いた出来事の話になっていた。

真琴とドリトスは、同じ日原に先祖代々住んでいた。おタネ婆さんは安寺沢で代々居を構えている。
日原の二人は不思議な事に同じ話を始め、お互いに相手の話を聞きながら驚いた様子。
ドリトスが話す
「大昔、爺さんの爺さん其の又爺さんの大昔の話だでな。日原の若い衆は、裏山から石灰岩を背負って
たくさん安寺沢部落まで運んだってぇ聞いた事が有るだでな」

其れを聴いていた真琴は
「あぃやぁー おめぇもかドリトス! 実はオラッチのご先祖もな同じ事したって言われているでな」
その話を聴きながら おタネ婆さん突然慌てたように話に首を突っ込んだ。そして
「ドリトスっさん マコッちゃん驚いたなやぁ〜 オラのご先祖の話じゃ昔日原から沢山の石灰岩を
運んで安寺沢から大休場尾根に撒いたってえこった。しかも日原の若い衆には理由を告げず協力してもらった
ってえ事じゃった。オラあそう聴いてるぞ。日原の二人はどうじゃ 理由聴いてるんかぁ?」

日原の二人は口を揃えて頭を振りながら言った
「いやぁ 誰も知らんこってす。誰に聞いても何故なのかは解らんこってすぅ」

其れを聴いていたおタネ婆さんが姿勢を正し突然押し殺したような声で二人に呟いた。
「良いかドリトス、真琴。此れから話す事は誰にも云っちゃなんねぇ。ええな?」
今まで見た事も無いおタネ婆さんの怖い顔に姿勢を正し二人は神妙な顔を揃えて頷く。

其れを見たおタネ婆さんは話を続ける
「この話はオラの家に伝わる話でな、誰にも云っちゃなんねぇっと云われているだで。
 昔大昔、大休場尾根に誰も入れちゃならねぇっと云われたんだぁ。それだけじゃねぇ
 今の本仁田山には誰も入れるなって厳しい掟があるだよ。理由は解らんが
 そんだらこって山に入れないように日原から石灰岩を山ほど運んで本仁田山に入る
 尾根にばら撒いたってぇこったすぅ。理由は誰も知らんで、そったらこって日原の
 若い衆も訳も解らんで毎日毎日何年もかけて石はこんだらしいっす」

マタギのマコトが囁く
「ははぁ〜 其れで大休場尾根には無数の石灰岩が散らばって歩き難いのか。
 人を山に入れない為に日原から岩を運んでまでして。。。。。」

三人は揃って窓の外に見える「大休場尾根」を見上げていた。
何を思っての事であろう。たぶん三人の心には「何故本仁田山に入っちゃならなかったのか」
夜が更けていく奥多摩安寺沢部落。

著作 ヤマレコID gonzousecond
作品名 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」転の章 「大休場尾根の謎1」一説




「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章 「二つの城山」


玲央千の部屋は、床が見えない程の地図が開かれて在った。
其の地図は勿論奥多摩地区の其れであった。
五万分の1 二万五千分の1地形図 登山地図 ロードマップまで開かれていた。
その中の一枚を手に取り角度を変えながら目で遠くから時には近くから追っていた。
其の地図は、山の名前が詳しく記入されている其れで、彼女が自ら引いた線が
多数見られる物だ。

二つの山を目で追いながら手を停める。視線の先には「城山」もう一方の先にも
「城山」。奥多摩には二つの「城山」と呼ばれる山が存在していた。
一方は「鳩ノ巣駅と白丸駅中間」から南に向かった標高759.8m
もう一方は鷹ノ巣山から石尾根沿い東南東方向標高1523m。此方の城山から奥多摩駅方向へ
降ると、将門馬場そして将門の築いた城の三番目の木戸跡とされる「三ノ木戸」が在る。

ふぅ〜 深く息を吐きながら席を立ち書棚から一冊の厚い本を手に取る。
ページを開き「白丸」を探す。手に取った本は「奥多摩町誌」奥多摩町の歴史が事細かに
書いてある本。
長い時間の後パタっと分厚い本を閉じる音が部屋に響く。

「やっぱりそうだったのね」予想通りの結果を裏取した玲央千の顔は薄笑いを浮かべる。
つまりこうだ
本当の意味の「城山」此れは石尾根に存在する城山。
鳩ノ巣と白丸中間の南に存在する城山は、ダミー。
その裏付けが三ノ木戸 将門馬場の存在だ。しかも呼び方は「しろやま」ではなく「じょうやま」
「城」の字を隠そうとしていたように感じる。
「そうまでして隠したかったのね将門さん。私は貴方が隠した物きっと見つけ出すわよ」
愛ネコを抱き上げ束の間の休息。

再び地図を手に取り一点を凝視する厳しい視線。
視線の先には「七ツ石山」
以前から気になっていた山そして七ツ石神社。
此の七ツ石山は、標高1757.3m北斜面はやや急だが東側斜面は緩やかで肩の部分には「七ツ石神社」
しかしこの神社今では祭られている祭神は、麓の小袖集落に建立されている「黒羽神社」に
合祀されている。
此の七ツ石神社の祭神は「将門本人」又は「将門の家臣7人」と諸説ある。

普通に考えれば、城山に将門。七ツ石神社には将門の城を守る為に家臣を此処に鎮座するのではないだろうか。

そして気になる点がもう1つ。「七」と言う数字。「北辰信仰」此れは北斗七星に関係が深い。
北斗七星の七つの星は、北極星を守る家来又は乗り物だとする。
此の北辰とは、つまり北極星の事だ。北辰つまり北極星は天地創造の中心に位置する。
又は宇宙の根源の神とも伝えられているらしい。
北辰信仰とは、元々印度から渡来した信仰らしいが我が国では古の頃「陰陽師」が使っていたとも聴く。

目指す「白水山」地図に無い山。最古の国土地理院五万分の一地形図にも記載は無い。
奥多摩に古くから居を構えている人々も知らない。忘れ去られた山「白水山」
いや隠された山「白水山」だ。
白丸集落南奥にあるお寺「白水山本源院」だけが古の「白水」の冠が名残。


著作 ヤマレコID gonzousecond

作品名 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章 「二つの城山」一説








「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章 「平将門と陰陽師安倍晴明」



平将門   903年ー940年没
安倍晴明  921年ー1005年没
諸説あるが大凡この年代に活躍した二人 但し活躍場所はお互い遠く離れている。

しかし二人には接点が存在していたのだ。
晴明が修業時代、師匠から全国行脚の旅を命ぜられ武蔵の国の山中で道に迷う。
其処に、将門が現れ道案内をし無事に麓まで降りる事が出来た。
此の事が後に語り継がれ、現在の「御嶽神社」と成る事は誰も知らない。
因みに現在の縁起は、
ヤマトタケルノミコトが東征中に御岳山で道に迷い其処に白い狼が道案内し無事下山した。
そこで道案内した狼を祀り「御嶽神社」となった。

話は戻るが
此の時、道案内の礼に晴明が北辰信仰を将門に伝承したのである。

道が開けた瞬間が訪れた。白水子守唄、北斗七星、北極星そして七ツ石山、城山。
此のジグソーパズルを組み立てれば解決の糸口が見える。

急いで地図を開き定規であらゆる角度に線を引き始めるレオッチ。
目指すのは、地図上で「北斗七星」と「北極星」を探し出す事。
レオッチの考えはこうだ。
隠された白水山の位置は北極星。その場所を特定する為には七つの山として
北斗七星を当てはめる事で自ずと白水山が特定出来る。


その頃、YYシルフは安寺沢のおタネ婆さんと再会を果たしていた。
おタネ婆さんは、涙を流しながら喜び、シルフは畳に頭を擦り付けながら
部落を捨て都会へ逃げた事を悔いた。
優しい婆さんは「良かった良かった。元気そうで何よりだで。腹減ってないか?
病気はしていないか?今は幸せに暮らしているのか?」優しさでシルフを包んでいた。

二人は一晩中話し込んで気が付けば安寺沢は朝を迎えていた。
眩しい朝日が部屋で寄り添っている二人を照らし、導かれる様に
手を取り「乳房観音」に手を合わせていた。
「観音様、帰って来てくれましたよ。ありがとうございました」
「観音様、部落を捨て都会へ逃げてしまいまして申し訳ありませんでした。」
詩瑠布は、悪くねぇだ。若いんだからしょうがねぇだ。戻ってきてくれたんだから
みんな喜ぶだでな。婆さんは詩布留を庇い、帰って来た事を観音様にお礼した。
YYシフル 本名 詩布留。安寺沢乳房観音守そして「白水子守唄」の伝承者の誕生。

おタネ婆さんは、伝承者の詩瑠布に全ての事を伝承した。
「白水子守唄」そして「本仁田山には誰も入れるなって厳しい掟」の事も。
そして最も重要な謎の言葉も。
「本仁田山は昔には無かった。日原の若い衆が盛り土をして「こさえた」山が本仁田山。
其処から少し降りた処に「白水山」が在ったと聴く」

詩布留と玲央千は同じ目標に其々の立場から向かって行く。
そして、日原マタギの真琴と藁職人の鳥鳥巣を迎え
白水山探しが新たに始まった。


奥多摩安寺沢の出来事など知る由も無い玲央千。
地図に線を多数引きながら「北斗七星」「北極星」を探している。
5日目の朝、引いた線を遠目に見ると繋がっていた。
見事に北斗七星に線が引かれていたのである。
其の線に引かれた柄杓型の先端から、線を延ばすと北極星の場所が特定できる。
玲央千は、両の掌を強く握り肩を震わせながら喜びを全身で表していた。

北斗七星の線の始まりは、将門の城が在ったであろう石尾根に在る城山。
此処が柄杓型の起点だ。
次のポイントは、将門を守る七人が鎮座する七ツ石山。そして雲取山、水松山(あららぎ)
天目山、蕎麦粒山、日向沢の峰(ひなたさわのうら)。
此れらを繋ぐと見事に北斗七星と同じ形を成す。全ての山頂は石尾根、長沢背稜、天目背稜を
繋げて「白水子守唄」を受け入れている。
「間違いないわ」玲央千が呟く。

難解な謎解きが終わった彼女は、最後の仕事に手を付けた。
柄杓型の先端。地図で表すと「城山」
此処から、北斗七星と北極星を繋ぐ角度と同距離比率の直線を震える手で引いた。

将門を守る七人の家臣が配置されている北斗七星型に配置された山。
其処から導き出された将門の財宝が隠されている北辰つまり北極星。
北極星が物事の中心。古事記で表せば「天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)」
其処が将門の財宝が眠る秘密の場所。


著作 ヤマレコID gonzousecond

作品名 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章 「平将門と陰陽師安倍晴明」一説







「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章  「新たな乳房観音守」


笹の小舟に乗って日原川を遡るのは、少名毘古那を祖とする「紅ゴンサワガニ」
神代の時代 大国主命の国造りに参加した「少名毘古那」。
「古事記」によると、後に常世国へと渡り去る。となっているが実は、国造りの後
常世国では無く氷川安寺沢へ向かった。勿論その目的は氷川村の「国土造成」。
氷川村民が国造の感謝の意として根本神社を建立し少名毘古那を祀った
現在も奥多摩駅付近に位置する「杤久保」に其の神社は村の鎮守として鎮座している。

氷川の国造りを果たした後は乳房観音守の祖に仕えて現在に至る。
現代の「少名毘古那」それは「紅ゴンサワガニ」
普段は「杤久保の根元神社」に鎮座ましましている。

おタネの祖より代々仕えているが、其の事をおタネは知らない。
陰からそっと見守り乳房観音を汚す者が現れると動物を使い追い払うのが現代の少名毘古那。
「紅ゴンサワガニは、時に鳶に跨り空から。時に熊の背に乗り斜面を駆け上り又は駆け降り乳房観音を見守る。

平将門が氷川村(現在の奥多摩)に移り住むようになった頃から
将門にも仕えた「少名毘古那」初代紅ゴンサワガニ。現在は32代目に数えられる。
或る日は鳶に跨り上空から、そして或る夜は熊に乗り斜面を駆け登り石尾根、長沢背稜に在る
「城山」「七ツ石山」「雲取山」「水松山」「蕎麦粒山」「天目山」「日向沢の峰」
そして現代未だ誰も発見出来ていない「白水山」の無事を確認する。其れはもう気の遠くなる年月。32代続く定め。
気が落ち着く日は唯一祭礼の日。「村の氏子」が担ぐ神輿に乗り村中を練り歩き神楽、酒等で崇め奉る。

将門終焉が近付く頃、彼の命により紅ゴンサワガニを中心に村人達と協力して財宝を「白水山」に埋めた。
将門を看取ったのは、紅ゴンサワガニと沢山の村人。最後の言葉は「良いか皆の衆、白水山に埋めた物は村の為に使う事。
使わないに越した事は無いが村が発展する為ならば使って良し。後は頼んだぞ 少名毘古那」
最後の言葉を残し将門は崩御。深い悲しみが氷川全体を包んだ。其の悲しみは一年間続いたと伝えられている。
現在、奥多摩の地名に「将門」の名が付く処が少なくない。「将門伝説」と言う言葉だけでは片付けられるであろうか。
多くの村人に親しまれ村の為に尽力された人物像が窺える。

とある日、紅ゴンサワガニはいつものように鳶に跨り上空から石尾根、長沢背稜を見ていた。すると
独りの女性が物凄いスピードで走り過ぎる姿を確認した。
其の姿を上空から追って行くと「六つ石山」「七ツ石山」「雲取山」其々の山頂標識付近を掘っている姿が確認出来た。
誰だ!鳶に命を出し急降下。紅ゴンサワガニは其の犯人を間近で確認すると乗っていた鳶に急上昇させる。
「詩瑠風」だったか。
安心して其処を離れて安寺沢に帰って行った。
そう。 紅ゴンサワガニは「詩瑠風」が乳房観音守の末裔だった事を唯一知っていた。
此の時は未だ「詩風瑠」自身も此の後自分が「乳房観音守」になる事を勿論知らない。

白水山の存在 其れを知っている唯一の「生き字引」それも紅ゴンサワガニだけであった。
何故 現在は白水山の存在が知られていないのか。各種の地図そして国土地理院が発行している
地形図等にも其の存在は記されていない。

実は 古の頃将門の財宝を埋設する作業の途中の事。紅ゴンサワガニの祖「少名毘古那」が将門に
そっと耳打ちをした。
「将門様、此処の白水山頂上にお宝を埋めると存在場所が直ちに解明されてしまうでせぅ。」
将門は返す言葉で問うた。
「では少名毘古那に問う。如何にしたら解明される事も無く村人だけの場所に出来ると思ふか。其方に問ふ」
少名毘古那は直ちに答える
「将門様、即ち白水山を消せば良いのです。白水山頂上付近に盛り土を、其処に新たな山を存在させれば。如何に?」
将門は、即座に膝を打ち
「良きに計らえ。少名毘古那よ良き仲間じゃ」
二人は目を合わせ深く頷いた。

少名毘古那は、石灰岩を日原から運び入れた民と、氷川の民を集め頭を垂れ乞うた。
「此処に集まった大御宝達よ、もう一働きを乞う。白水山の後ろに石灰岩と土にて大きな山を作ってくれぬか。
 将門様の願いじゃ」
寸刻を争い人々は頷きながら「御意」「御意」「御意」「お任せくだせぇ。将門様のご希望と在れば命も
惜しまず必ずや新たな山を造ってお見せ致しませぅ」

こうして、現在の本仁田山の頂上と、大休場尾根花折戸尾根出合い。此の二点からの中間点付近に在った
「白水山」は存在から消された。
現在でも、その場所には幾つかの置き石で其の名残を残している。
今現在、地図に記されている処は「本仁田山」であり「白水山」の其れは、跡形も無い。


著作 ヤマレコID gonzousecond

作品名 「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章 「新たな乳房観音守」一説








「将門の秘密は奥多摩安寺沢白水子守唄から」結の章 「完結」


地図上で「白水山」を特定した玲央千が早朝の青梅線奥多摩に降り立ち安寺沢のおタネ婆さん宅へ急いでいた。
玄関を入ると其処には「鳥鳥巣」「真琴」「おタネ婆さん」「詩瑠風」が玲央千を迎えた。
早速地図を広げ北斗七星の形に繋がった線を見せながら話した。
「此処が白水山よ」彼女の指す指先には本仁田山から50M程大休場尾根に降りた処。
其れを見ていた四人が顔を見合わせ微動だにしない。
数分間沈黙の後全員の顔が、緊張した其れから安堵の表情に変わった。

「玲央千さん大手柄じゃ」四人が声を揃えて笑顔で彼女を見ている。

玲央千が持参した地図は、国土地理院地形図1/25000そして其れに引かれた線は寸分の狂いも無く
丁寧に引かれた其れは、北斗七星其の物だった。
そして、北斗七星の柄杓の先端つまり「城山」からの北極星を特定する線の延長には「白水山」の場所。
つまり「本仁田山」から南へ50M降りた処を正確に示していた。
その場所の座標を読み取り地形図に書き込む玲央千。

玲央千を先頭に「おタネ婆さん」「日原のマタギ真琴」「日原の藁職人鳥鳥巣」「新しい乳房観音守詩瑠風」
身支度を終え急いで大休場尾根に向かった。
「奥多摩三大急登」の一つに数えられている「大休場尾根」険しい斜面を登って行く。
詩瑠風はおタネ婆さんを気遣い手を引く。其の微笑ましい光景を皆が笑顔で見守りながら登る。

大休場尾根と花折戸尾根の出会い迄登ると突然歩を止める。
ザックからGPSを出し座標を読み取り「もう少し上ね」震える声で皆に伝え歩き出す。
目はGPSの座標と地形図に書き込まれた座標。合致する場所を求めて一歩一歩歩を進める。
固唾を?みながら静に後に続く四人も緊張している。

っと 其の時玲央千は止った。其処には五つばかりの苔生した石灰岩の塊が登山道を塞ぐように積み上がっていた。
「此処ね」「とうとう見つけた」「此処じゃったか」「うぉーー」様々な気持ちを表す声が轟く。
「此処からはおタネ婆さんと詩瑠風さん鳥鳥巣さん真琴さんのお仕事ね」玲央千は言うと一歩下がった所で停まった。

四人は辺りの斜面に在ると云われている三角岩を探す。其の下には「将門の財宝」が眠っているのだ。
暫くすると「在った!!」真琴の大きな声が大休場尾根に響く。
四人が集まりその三角岩を取り巻き感慨深そうに佇んでいた。
「玲央千さんやりましたよ見つけましたよとうとう三角岩を見付けましたよ」誰とも無くレオッチに伝えた。。。が

其処にはもう女流格闘家の姿は無かった。
安寺沢に降り奥多摩駅に向かう姿が其処に在る。
「みなさん良かったですね。私の仕事は終わりました。どうか此れからもお元気で」
そう呟くと青梅線に乗り込みクリ坊が待つ自宅へ向かっていた。
其の後玲央千の姿は奥多摩で一度も目撃されていない。

三角岩に残された四人は玲央千に感謝の念を送り呆然と三角岩を見詰めている。

日原のマタギ真琴は「いけねぇ嫁様に買い物頼まれていただ。オラア降りるでな」
そう言うと降りてしまった。
日原の藁職人鳥鳥巣は「さぁてと、日原の権蔵爺さんの屋根の茅葺準備せにゃいかん」
そう言うと急いで降りる。
残された、おタネ婆さんが詩瑠風に「みんな優しい人達じゃなぁ。此のままそっとして置くのが
ご先祖様方の願いじゃろ」そう言うと二人で手を取りユックリゆっくり降りて行く。

空には、鳶に乗った少名毘古那を祖とする紅ゴンサワガニが上空から優しい視線を送り見守っていた。
何度も何度も降り行く二人を温かい目で見送りながら何度も何度も上空を旋回していた。
空は真っ赤に染まった秋の夕暮れ。
間も無く奥多摩は寒い、そして白い冬が訪れる。

未だ三角岩の下を掘り起こした形跡がない。「白水山」の存在を誰も口にしない。
ただ 奥多摩安寺沢の子守唄だけが伝承され続けている。

今でも夕暮れが近付くと安寺沢集落に「白水子守唄」が流れる。
声の主は、詩瑠風。
優しい沢のせせらぎに包まれながらゆっくり時が流れる中

彼女の腕の中には黒い縁取り写真の「おタネ婆さん」が微笑んでいた。


著作 ヤマレコID gonzousecond

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住所 携帯電話 /
緊急連絡先
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ココヘリID
 



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