剱岳 池ノ谷右俣スキー
- GPS
- 11:13
- 距離
- 17.5km
- 登り
- 2,556m
- 下り
- 2,564m
コースタイム
天候 | 快晴 |
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過去天気図(気象庁) | 2019年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
早月尾根 シール歩行は1850mから。 池ノ谷ゴルジュ手前からツボ足下山。池ノ谷の雪は1050mで切れる。 |
写真
装備
共同装備 |
特筆する装備
ロープ×2 ハーネス ピッケル 登攀具 |
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感想
5/29 同行者(大魔人さん)の写真も追記しました。
下界は真夏日の日曜日。今日は剱岳の池ノ谷右俣スキーに出かけた。今回のパーティは剱岳をこよなく愛し剱のメジャーなコースは滑り尽くしている父と剱の登攀専門の大魔人そして僕である。池ノ谷は剱尾根など登攀のアプローチによく使われるようだが、滑降の記録は少ない。二俣から上、特に右俣の滑降記録はあるにはあるが詳しいものががないので未知。それだけでメンタルが削られる。剱岳山頂からの滑降ルートといえば剣沢に落ちる大脱走ルンゼと池ノ谷の2つだろう。大脱走ルンゼは以前に滑降歴があるが、池ノ谷はそれよりも条件は難しい。いけぬ谷が訛って付けられてとも言われる池ノ谷。コース概要は早月尾根ー頂上ー池ノ谷右俣ー下山とシンプル。今回の挑戦にあたり重要なのが天候と気温である。右俣は上部のオープンは日当たりが良いので太陽が出れば緩むが、中間部は日が当たらず日陰となる為、気温が高いことが条件であった。万が一の事に備え、普段のスキーでは持たないロープ、アックス、ハーネスや登攀具を用意した。
ひたすら早月尾根を登っていく。0時半スタートだが、気温は10℃を超え、汗が滴り落ちる。早月尾根上は水は取れないのでいつもより多めに水分を担ぐ。重荷+高温でこの急登は拷問だ。父と私は兼用靴で、大魔人は兼用靴を背負ってトレッキングシューズで黙々と標高を上げた。どこから雪が出るか、部分的にある雪渓で時折冷たい空気を感じる。標高1800mくらいでやっと雪が繋がった。気温は高いので早月小屋までクトーなしのシールのみで登った。早月小屋にはテントが一張り。すでに出発していた。下の駐車場にはたくさん車が停車していたが、登っているパーティーは少ないようだ。
早月小屋でまともな休憩。これからが本番、エネルギージェルを補給しておく。気温は高くても早月小屋からはさすがに硬くなったのでクトーを付けていく。下から九州から来て初めて剱岳に登る若者も小屋にきた。若者の足元はトレッキングシューズでノーアイゼンノーピッケルで頂上を目指すという。とにかくご無事で行かれてくださいと一言。池ノ谷を控えている僕らは人のことを気にする余裕などない。
標高2450mくらいから尾根上で雪が切れている箇所もあったので早々にアイゼンに替えた。グズグズラッセルを強いられたが大魔人さんが先頭でルートを伸ばしていった。徐々に山頂に近づき池ノ谷はどこから入るか考えなければいけない。山頂からはどうか。直下は雪が切れており、小尾根が段差になっている箇所がありそうだ。おまけに直下は日が当たっていない。あんな急斜面では途中でロープを出すのは不可能で、残念だが山頂からは却下とした。では標高2900mの獅子頭の鞍部からはどうか。鞍部から落ちるオープンバーンは、丁度日が当たる境界になっており緩んでいそうだった。それより上の斜面は日陰だったので迷わず2900mからエントリーすることとした。鞍部でスキー等不要な荷物はデポした。別山尾根からは沢山の登山者が上がっている。こちらの方が人気なのか。アイゼンのまま最後のガレ場を落石をしないように慎重に登る。というより岩でアイゼンの歯が鳴くのでそっと足を置いた。山頂にはすでに10人くらいが寛いでいた。僕らは荷物をおろす事なく、腰も落とす事なく写真を撮ったらすぐに山頂を後にした。
とにかく池ノ谷右俣のオープンバーンの先はどうなっているのか。核心部は見えない。滑り出す直前、足がすくんで攣った。何があっても良いようにハーネス、登攀具を装着し、ロープもザックに括り付けて意を決して滑り出した。上部は広く、緩んでいるので問題なかった。標高2650mあたりから細くなる。事前に右右に滑ると良いと情報をもらっていた。情報通り二手に別れた微沢は小尾根から右を選択する。剱尾根が正面に迫る。物凄い圧迫感だ。核心部は2550mから標高差で100m。幅は10mくらいはあるが、真ん中は岩が出ている。走路は分断されている。しかも所々、氷化しているのでターンはできない。絶対転倒することは許されない。片方のウィペットは常に刺しながら横滑りでジリジリと慎重に高度を落とした。滑り終えて安全地帯で呼吸を整えた。上からずっと緊張していたので気づいたら喉がカラカラになっていた。万年雪マーク部分の滑降は緊張から解放され、自然と声が出た。雄叫びをあげて綺麗な面のスキーを楽しんだ。気が緩んで顔から雪面に転倒する場面もあり要反省。池ノ谷ゴルジュ手前で雪が泥に覆われてきたので板を担いだ。ゴルジュ通過もこの山行の懸念事項だったが、雪が残っており難なく通過することができた。落石に会わずにホッとした。両サイドに積雪でもあろうものなら落石の巣だっただろう。
ゴルジュを過ぎたら、雪が切れてしまったので何度か渡渉を繰り返した。雪解け水たっぷりでかなりの水量だったが、それよりも水が冷たくて足の感覚が鈍った。最後は作業道に合流して余韻に浸りながら下山。
二度目はない、山行が終わった。
池ノ谷(行けぬ谷)ゴルジュから始まるこの険悪な谷は左俣を詰めれば三の窓に出る。右俣を詰めれば長次郎の頭のコルや山頂にせり上がる。左俣を詰める人は多いが右俣を詰める人は殆どいない。右俣を滑走した人も過去に数えるくらいだろう。劔岳の山頂から滑走するより難易度は高い。情報がほとんど無く謎めいた右俣、劔をこよなく愛して子供の名前にまでした自分にとってこの右俣は人生の課題と言っても過言ではなかった。
いつかは滑走しなければずっと思い続けてきたがその時がきた。週末は異常高温の絶対快晴が確約されるまだ雪は多い、行くしかない!以前から地図を眺めてこのコースしかないだろうと探っていた。日の当たらないルンゼが凍っていたら滑れないから万が一に備えてロープや登攀具も全て揃えよう。メンバーも岩のスペシャリストが揃いもうお膳立てが揃った。
昨日はまさに狙い通り雪は緩み早月尾根から何度も眺めてきた池ノ谷へスキーで吸い込まれるように滑走した。これが人生、墓場にも自慢して持っていけるそんな一日になった。長年恋い焦がれた彼女に再開したそんな一日でもあった。
無事右俣を通過して本谷に合流しても池ノ谷ゴルジュの通過が待っている。ここを三ノ窓から滑走して通過したのはもう10年以上も前、怖かった、地獄のような光景しか覚えていない。昨日は滝も出ていてマジで緊張したが流石に剱岳、ゴルジュに落ちてきた多量のデブリで無事白萩川に合流できた。
もう何も望まない、本当に完全燃焼できた。生きてて良かった。そんな一日であった。
こんばんわ。はじめまして。
ただただ驚くだけです。
学生の時、三の窓に天泊してチンネを登りましたが、池の谷をスキーで滑降する方がいらっしゃるとは、、、。
時々、テレビで見ます。世界的に有名なプロスキーヤーかボーダーが垂直に近い斜面を滑降する場面を。自分はスキーはしないので分かりませんが、池の谷滑降はインターナショナルのレベルに思えるのですが、、、。
唖然。言葉が出ません。
皆様の益々のご活躍を祈念しております。
fujikita様 メール有難うございます。
スキーは雪質が全てで緩んでいればかなりの急斜面でも滑れます。
ただ池ノ谷右俣上部は日当たりが悪くて雪が緩む判断が非常に難しいです。
また全く情報がない滑降だったので神経をすり減らしました。
まあ一度滑ればもう二度目はないでしょう。
これからも安全第一で精進いたします。
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