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記録ID: 52342
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トレイルラン
甲信越

粟ヶ岳 ぶなのみち

2009年11月29日(日) [日帰り]
 - 拍手
GPS
03:25
距離
14.7km
登り
1,412m
下り
1,404m

コースタイム

2009/11/29 4:50w
長禅寺 6:30s 33.0km
33'21
袴腰山 33'21
21'52
五百川分岐 55'13
33'36
小俣分岐 1゜28'50
35'12
五百川分岐 2゜04'03
42'51
袴腰山 2゜46'54
35'45
長禅寺 09:55g 3゜22'39
過去天気図(気象庁) 2009年11月の天気図
アクセス
2009年11月29日 06:34撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 06:34撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 06:54撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 06:55撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 07:01撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 07:19撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 08:05撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 08:22撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 08:33撮影 by  DSC-M1, SONY
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2009年11月29日 09:58撮影 by  DSC-M1, SONY
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撮影機器:

感想

近年、嫌な咳が始まると長引く。この3週間も、咳に苦しんだ。走ると激しく咳き込むから、仕方なくじっとする。走れない日が1日、2日ならなんともないが、4,5日経ち、1週間、2週間過ぎるとストレスが溜まってくるのを自覚する。こうなるとビールを飲みたいとは思わず、酒を飲んでもうまくない。生活が面白くなくなり、経済情勢でも最近よく言われる“負のスパイラル”が自分のなかで始まる。せいぜい寝る前にスクワット、腹筋などの補強運動をして気を紛らすのが精一杯で、堪らず昼休みにウォーキングをするが、案の定、咳き込んで、自分に悪態をついて手短にやめる。近々、レースがあるわけでなし、むしろ今季は全て終了したばかり。焦りなど感じることは無い。体を仕上げたいのではなく、ただ走れる体をキープしていたい。その気持ちがやっぱり強い。
三条市の営業戦略室から送ってもらった下田山塊山岳地図は実に分かりやすく、山に行きたい気持ちを掻き立てるものだ。走れない時に地図を見ると気が休まった。このポイントまで行くには何分かかるか、あそこに車を停めてスタートすれば、何時間あれば家に帰ってこれるか。自然と山行計画を頭の中で練り上げていた。
メジコン15mg(咳鎮静)、テオドール100mg(気管支拡張)は毎食後1錠。セルテクト30mg(抗アレルギー薬)は就寝前1錠。そしてツロブテロールテープ2mgを胸にぺたり。処方された2週間しっかり飲み切った。一体いつになったら治るかと思った咳も2、3日前にようやく沈静化。昨日、60分jogを無事にこなし、思い立って粟ヶ岳に出掛けた。病み上がり、ワークアウトすることなく走り終えるつもりだった。山を感じることができればそれで充分だった。長禅寺近くからゆっくり走り始めた時は、少なくともそんなつもりでいた。
ヒメサユリの小径は入口に入った途端、期待できるコースだとすぐに分かった。進行方向右に雄大な守門岳。左には弥彦山塊が遥か向こうにある。師走目前というのに紅葉がまだ美しい。霧が低く広がって、たいして登ってもいないのに、高度感がある。ルートは決して痩せ尾根ではなく、恐怖は全くない。袴腰までのいくつかの急登は長くない。袴腰を過ぎてすぐの下りには要注意。見返りの丘からは、これぞトレイルランと言わんばかり。落ち葉の量は多く、ふかふか。湿りがあり、所々注意した。前方から照らしてくる朝日に向かって走る感覚は、どこか別の世界にきたような錯覚を伴った。右斜めから聞こえる銃声は猟をしているのだろう。どんな動物がいるのか。今、通勤で読んでいる本「光の山脈 樋口明雄著」の世界に思いを巡らせた。時々立ち止まり、写真を撮った。見上げると粟の頂がとにかくでかい。あそこには辿りつけそうもない。病み上がりだろうが、調子が良かろうが、逆行で黒々としている稜線が冷え冷えして近寄り難いものを感じた。
誰もいないトレイルを快調に走れることに静かに興奮した。
それが失敗だった。素晴らしいトレイルと雄大な景色に自制ができなかった。完全に体が回復していないのに、深く入り込んでしまった。自分を見失っていた。目の前のことしか見えていなかった。
気温は数ヶ月前に比べればやはり低く、空気が締まっていた。日が当たる時には感じていなかったが、何回か谷に下り、登り返してまた下りを繰り返すと日影が予想以上に寒いことが遅まきながら気づいた。粟薬師まで行くのはやめて小俣登山道分岐で折り返した。この時、だいぶきつかった。振り返り、来た道を戻り始めると急に心細くなった。今しがたの高揚感はきれいさっぱりない。とても静かだ。今思えば、この時点でガソリンは底をついていた。「やばいな…」の感覚が次第に強くなる。普段なら、苦しくてもちょっとしたトレイルの傾斜で動きがしっくり来て、ペースを取り戻すことが何度もあったのに、今日はその糸口すら見出せなかった。ワークアウトしないように走り始めたつもりが、無事に下山できるかどうかも分からなくなっていた。
水分も全て飲み干した。遥か向こうに見える袴腰がとにかく遠く、遠く見えた。喉が乾きどうしようもなく赤い小粒の実を食べる。土の味がするが噛み続けると甘酸っぱい。腐って茶色くなった実ですら貪った。赤い実を探し探し歩いたが、無いところには何もない。仕舞には緑の葉っぱも口に入れた。とても飲み込めず吐き捨てた。ブナに肩がぶつかり弾かれる。ふらつくが前に進むしかない。誰かに救いを求めたかった。ふと人の声がしたと思ったら胸元にとめ忘れていたハイドレーションの飲み口が、ブラブラして体にあたっていた音だった。そんな状態で歩く。木の枝も目に入らず突っ込み、ニット帽が脱げる。惨めに後戻りして帽子を拾う。ロープを頼りに急坂を登ろうとしたら体がふられてしまいくるっと回転して危険。足元が覚束ない状態では危ない。何度も滑り、尻餅を付く。屈んだ状態からすぐに立ち上がることができずに腰を下ろす。呼吸が速いことに気づく。
いよいよきつくなって来た。両手を地面について、突っ伏した。気分も悪くなって来た。寒気もする。最悪の状態を改善させる術が全くない。こんな風にして遭難するのだ。
今まで俺は傲慢だったかもしれない。すぐにイライラしてしまい、子供たちに笑顔ができなかったり、両親に冷たく接したり、妻に愚痴っぽくなったり。後悔した。田部井淳子さんは非行に走った息子と北アルプスに登り困難を超えたという。どんな会話をしたのだろうか。息子は何を思ったのか。
とにかく自分の浅はかさをなじった。罵った。懺悔の念を持っても、山を降りることができるわけではない。ただ一歩づつ進むしかない。泣きたいが涙も出ない。どうにもこうにも足が進まず、横たわって寝たくなった。辛うじてその衝動は耐え忍んだ。
人が来た。袴腰手前で中年の男性にお茶をもらう。袴腰過ぎて中年の女性二人に黒糖飴、羊羹、チョコをもらう。その後、70代くらいの男性に水と氷砂糖、バナナ半分をもらう。
言葉どおりの命の恩人だ。優しい人ばかりだった。こんな醜態を晒して思うのは、絶対に無理をしてはいけないことだ。過信してはいけない。山は挑むものではない。記録を競う場ではない。
山を走る。心身ともに自分に向き合うことができる時間だ。だから惹かれる。

やっと冬眠できる。

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