私は山歩きをする際、冬よりも夏の方が厳しいと感じます。この実感を検証するために、ヤマレコで公開されている夏と冬の山行記録の歩行時間のデータを解析し比較することにより、夏の山歩きの厳しさを検討しました。
私は夏が苦手です。
山歩きをしても、冬は滅多にバテることはなくても、夏はバテるケースが多いようです。
夏山で、蒸し暑い樹林帯や森林限界上で太陽に焼かれて歩くことはとても苦しいものです。
次から次へと汗が噴き出て、喉もすぐに渇いてきます。
風が吹いているときはまだ良いのですが、風がないと不快さこの上ありません。
ひどい時には意識ももうろうとしてきます。
脱水症状になり熱中症にかかる人もいます。
一方、冬山(ラッセルするような雪山は除く)は、天候さえ良ければ、夏山ほどの厳しさは感じません。
どんなに凍てつく日でも、歩くほどに身体は温まり、調子良く歩を進めることができます。
汗もしっとりとかいてきます。
太陽のぬくもりも心地よく、気持ちの良い山歩きができるように感じます。
以上のように、夏の山歩きは冬の山歩きより厳しいという自分の実感を検証するため、
本稿では、首都圏で人気の日帰り2コースについて、ヤマレコで公開されている山行記録のデータを基に、夏冬の歩行時間を解析し、厳しさを比較しました。
1 解析方法
(1) 対象コース
ヤマレコユーザーからの記録が多数挙げられている首都圏の2つの人気コースを対象にしました。
・塔ノ岳(大倉尾根往復)コース
大倉〜堀山の家〜花立〜塔ノ岳(往復)
・雲取山(小袖乗越から往復)コース
丹波山村村営駐車場〜堂所〜(七ツ石山)〜ブナ坂〜雲取山(往復)
山歩きをしても、冬は滅多にバテることはなくても、夏はバテるケースが多いようです。
夏山で、蒸し暑い樹林帯や森林限界上で太陽に焼かれて歩くことはとても苦しいものです。
次から次へと汗が噴き出て、喉もすぐに渇いてきます。
風が吹いているときはまだ良いのですが、風がないと不快さこの上ありません。
ひどい時には意識ももうろうとしてきます。
脱水症状になり熱中症にかかる人もいます。
一方、冬山(ラッセルするような雪山は除く)は、天候さえ良ければ、夏山ほどの厳しさは感じません。
どんなに凍てつく日でも、歩くほどに身体は温まり、調子良く歩を進めることができます。
汗もしっとりとかいてきます。
太陽のぬくもりも心地よく、気持ちの良い山歩きができるように感じます。
以上のように、夏の山歩きは冬の山歩きより厳しいという自分の実感を検証するため、
本稿では、首都圏で人気の日帰り2コースについて、ヤマレコで公開されている山行記録のデータを基に、夏冬の歩行時間を解析し、厳しさを比較しました。
1 解析方法
(1) 対象コース
ヤマレコユーザーからの記録が多数挙げられている首都圏の2つの人気コースを対象にしました。
・塔ノ岳(大倉尾根往復)コース
大倉〜堀山の家〜花立〜塔ノ岳(往復)
・雲取山(小袖乗越から往復)コース
丹波山村村営駐車場〜堂所〜(七ツ石山)〜ブナ坂〜雲取山(往復)
(2) 対象時期
夏山に関しては、直近の7〜8月の晴天又はくもり時の山行データを対象にしました。
冬山に関しては、直近の12〜1月の晴天又はくもり時の山行データを対象にしました。
(3)基礎データの収集
それぞれのコースの基礎データのうち標準コースタイムは、旺文社の「山と高原地図」のコースタイムを計算し記載しました。
歩行距離、累積高度差については、ヤマレコの山行記録を無作為に10件収集し、平均値と標準偏差値を求めました。
勾配については、
勾配(%) = 累計標高差(km)/片道の歩行距離(km)×100
で求めました。
総合的な指標として、ヤマレコユーザーが数値化したEK(えらいきつい)度と、鹿屋体育大学の山本正嘉教授(運動生理学)が数値化したコース定数を標準コースタイム、平均距離及び平均累積標高差から計算しました。
EK度とコース定数は、次のように定義します。
EK度=歩行距離(km)+10×累積標高差(上り)(km)+5×累積標高差(下り)(km)
コース定数=1.8×歩行時間(h)+0.3×歩行距離(km)+10.0×累積標高差(上り)(km)+0.6×累積標高差(下り)(km)
(4) 歩行時間データの収集
塔ノ岳コースの夏及び冬のデータは、ヤマレコの山行記録から無作為にそれぞれ、113件及び118件ピックアップしました(日帰りのみ)。
雲取山コースの夏及び冬のデータは、ヤマレコの山行記録から無作為にそれぞれ、105件及び123件ピックアップしました(日帰りのみ)。
ただし、ピックアップした山行記録の中で、トレランと記載のある山行記録は対象から外しました。
(5) 統計処理
塔ノ岳コース(夏冬)及び雲取山コース(夏冬)の歩行時間の分散分布を把握するため、ヒストグラムを作成しました。
各コースについて、夏及び冬の歩行時間の差異を明らかにするため、一元配置分散分析を行い、有意差検定を行いました。
2 結果および考察
(1) 基礎データ
両コースの基礎データを表1に示します。
標準コースタイムは、塔ノ岳コースは5 h 50 min、雲取山コースは8 hです。
歩行距離は、塔ノ岳コースは13.5 km、雲取山コースは21.1 kmです。
累積標高差は、塔ノ岳コースは1225 m、雲取山コースは1695 mです。
平均勾配は、塔ノ岳コースは18.2%、雲取山コースは16.0%です。雲取山コースの方が平均的に勾配は緩やかです。
EK度は、塔ノ岳コースは32、雲取山コースは47です。
EK度のレベルから、塔ノ岳コースは、「日帰りとしてはきつい」となり、雲取山コースは、「日帰りとしては非常にきつい」とランク分けできます。
コース定数は、塔ノ岳コースは28、雲取山コースは39です。
コース定数のレベルから、塔ノ岳コースは「日帰り登山では健脚向き」となり、雲取山コースは「日帰り登山では健脚向き」と「1泊以上が必要」の境界線上にあります。
夏山に関しては、直近の7〜8月の晴天又はくもり時の山行データを対象にしました。
冬山に関しては、直近の12〜1月の晴天又はくもり時の山行データを対象にしました。
(3)基礎データの収集
それぞれのコースの基礎データのうち標準コースタイムは、旺文社の「山と高原地図」のコースタイムを計算し記載しました。
歩行距離、累積高度差については、ヤマレコの山行記録を無作為に10件収集し、平均値と標準偏差値を求めました。
勾配については、
勾配(%) = 累計標高差(km)/片道の歩行距離(km)×100
で求めました。
総合的な指標として、ヤマレコユーザーが数値化したEK(えらいきつい)度と、鹿屋体育大学の山本正嘉教授(運動生理学)が数値化したコース定数を標準コースタイム、平均距離及び平均累積標高差から計算しました。
EK度とコース定数は、次のように定義します。
EK度=歩行距離(km)+10×累積標高差(上り)(km)+5×累積標高差(下り)(km)
コース定数=1.8×歩行時間(h)+0.3×歩行距離(km)+10.0×累積標高差(上り)(km)+0.6×累積標高差(下り)(km)
(4) 歩行時間データの収集
塔ノ岳コースの夏及び冬のデータは、ヤマレコの山行記録から無作為にそれぞれ、113件及び118件ピックアップしました(日帰りのみ)。
雲取山コースの夏及び冬のデータは、ヤマレコの山行記録から無作為にそれぞれ、105件及び123件ピックアップしました(日帰りのみ)。
ただし、ピックアップした山行記録の中で、トレランと記載のある山行記録は対象から外しました。
(5) 統計処理
塔ノ岳コース(夏冬)及び雲取山コース(夏冬)の歩行時間の分散分布を把握するため、ヒストグラムを作成しました。
各コースについて、夏及び冬の歩行時間の差異を明らかにするため、一元配置分散分析を行い、有意差検定を行いました。
2 結果および考察
(1) 基礎データ
両コースの基礎データを表1に示します。
標準コースタイムは、塔ノ岳コースは5 h 50 min、雲取山コースは8 hです。
歩行距離は、塔ノ岳コースは13.5 km、雲取山コースは21.1 kmです。
累積標高差は、塔ノ岳コースは1225 m、雲取山コースは1695 mです。
平均勾配は、塔ノ岳コースは18.2%、雲取山コースは16.0%です。雲取山コースの方が平均的に勾配は緩やかです。
EK度は、塔ノ岳コースは32、雲取山コースは47です。
EK度のレベルから、塔ノ岳コースは、「日帰りとしてはきつい」となり、雲取山コースは、「日帰りとしては非常にきつい」とランク分けできます。
コース定数は、塔ノ岳コースは28、雲取山コースは39です。
コース定数のレベルから、塔ノ岳コースは「日帰り登山では健脚向き」となり、雲取山コースは「日帰り登山では健脚向き」と「1泊以上が必要」の境界線上にあります。
(2) 歩行時間のヒストグラム
塔ノ岳コースのヒストグラムを図1に示します。
これを見てみますと、夏、冬とも歩行時間が4.5〜5 h程度を中心にした正規分布を示していますが、夏の方がばらつきは大きいようです。
歩行時間が5 h以内の件数割合を見てみますと、夏では47%に対し冬は58%で、冬の方が早く歩く人が多いことがわかりました。
雲取山コースのヒストグラムを図2に示します。
これを見てみますと、夏、冬とも正規分布を示していますが、夏は6.5〜7 hを中心として、冬は5.5〜6 hを中心として分布しており、夏の方は冬の方より歩行時間が長い方に分布はシフトしています。
歩行時間が6 h以内の件数割合を見てみますと、夏では32%に対し冬は49%で、冬の方が早く歩く人が多いことがわかりました。
塔ノ岳コースのヒストグラムを図1に示します。
これを見てみますと、夏、冬とも歩行時間が4.5〜5 h程度を中心にした正規分布を示していますが、夏の方がばらつきは大きいようです。
歩行時間が5 h以内の件数割合を見てみますと、夏では47%に対し冬は58%で、冬の方が早く歩く人が多いことがわかりました。
雲取山コースのヒストグラムを図2に示します。
これを見てみますと、夏、冬とも正規分布を示していますが、夏は6.5〜7 hを中心として、冬は5.5〜6 hを中心として分布しており、夏の方は冬の方より歩行時間が長い方に分布はシフトしています。
歩行時間が6 h以内の件数割合を見てみますと、夏では32%に対し冬は49%で、冬の方が早く歩く人が多いことがわかりました。
(3) 平均歩行時間の比較
両コースの夏と冬の平均歩行時間を比較した結果を表2に示します。
塔ノ岳コースの平均歩行時間は、夏では5 h 12 min、冬では4 h 55 minと冬の方が夏と比べ17 min平均歩行時間が短縮されることがわかりました。
また、統計処理結果もp値が0.027で、冬の方が有意に(p<0.05)平均歩行時間が短いことが示されました。
一方、雲取山コースの平均歩行時間は、夏では6 h 31 min、冬では6 h 13 minと冬の方が夏と比べ18 min平均歩行時間が短縮されることがわかりました。
また、統計処理結果もp値が0.023で、冬の方が有意に(p<0.05)平均歩行時間が短いことが示されました。
また、両コースとも、夏は冬と比べ平均歩行時間の標準偏差は大きい値を示しました。
これは、夏の方が冬の方よりも歩行時間のばらつきが大きいことを示しており、夏の方が各個人の体力差が顕著に表れるのではないかと推察されました。
両コースの夏と冬の平均歩行時間を比較した結果を表2に示します。
塔ノ岳コースの平均歩行時間は、夏では5 h 12 min、冬では4 h 55 minと冬の方が夏と比べ17 min平均歩行時間が短縮されることがわかりました。
また、統計処理結果もp値が0.027で、冬の方が有意に(p<0.05)平均歩行時間が短いことが示されました。
一方、雲取山コースの平均歩行時間は、夏では6 h 31 min、冬では6 h 13 minと冬の方が夏と比べ18 min平均歩行時間が短縮されることがわかりました。
また、統計処理結果もp値が0.023で、冬の方が有意に(p<0.05)平均歩行時間が短いことが示されました。
また、両コースとも、夏は冬と比べ平均歩行時間の標準偏差は大きい値を示しました。
これは、夏の方が冬の方よりも歩行時間のばらつきが大きいことを示しており、夏の方が各個人の体力差が顕著に表れるのではないかと推察されました。
3 結論
以上、2コースのヤマレコで公開されている山行記録の歩行時間に対する数多くのデータを解析した結果、夏の方が冬の方より歩行時間が長くなる傾向があり、夏の山歩きの方が冬の山歩きより厳しいことが推定されました。
4 おわりに
以上、実際の歩行時間という尺度から、冬の山歩きと比べた夏の山歩きの厳しさについて検証を試みました。
やはり夏の山歩きの方が、冬の山歩きと比べ厳しいようです。
しかし、夏山は冬山にはない魅力もあります。
うだるような暑さの中で、ふと木陰に入った時の涼しさ、涼しい風に吹かれたときの心地よさ、清流の冷たい水で顔を洗ったときの爽快感・・・
夏山ならではの醍醐味です。
眩しいばかりの風景、大空に浮かぶ入道雲、緑の中を流れ落ちる清流・・・
夏山ならではの風物詩です。
日ごろの鍛錬を怠りなく(私はこれができない(泣))、体調にも気を配り、残り少ない夏山シーズンを楽しみたいものです。
以上、2コースのヤマレコで公開されている山行記録の歩行時間に対する数多くのデータを解析した結果、夏の方が冬の方より歩行時間が長くなる傾向があり、夏の山歩きの方が冬の山歩きより厳しいことが推定されました。
4 おわりに
以上、実際の歩行時間という尺度から、冬の山歩きと比べた夏の山歩きの厳しさについて検証を試みました。
やはり夏の山歩きの方が、冬の山歩きと比べ厳しいようです。
しかし、夏山は冬山にはない魅力もあります。
うだるような暑さの中で、ふと木陰に入った時の涼しさ、涼しい風に吹かれたときの心地よさ、清流の冷たい水で顔を洗ったときの爽快感・・・
夏山ならではの醍醐味です。
眩しいばかりの風景、大空に浮かぶ入道雲、緑の中を流れ落ちる清流・・・
夏山ならではの風物詩です。
日ごろの鍛錬を怠りなく(私はこれができない(泣))、体調にも気を配り、残り少ない夏山シーズンを楽しみたいものです。
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Swan_songさんの記事一覧
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※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
どなたでも、山に関する知識や技術などのノウハウを簡単に残して共有できます。
ぜひご協力ください!
データの見方を変えると、冬は気象条件(気温や日照時間)が厳しくなるので、ある程度経験のある登山者の割合が増え、その結果歩行時間が短くなっているのかも?と思いました。
tetsumaroさん
ご興味を持っていただき嬉しく思います。
そうですね。冬は日照時間が短いまたは寒いので、早く歩いちゃおうと心理的な理由から、歩行時間が短くなる可能性はあると思います。
経験の方はどうでしょう。この2コースは冬の方が歩いている人が多いので、何とも言えないところですね。
たくさんのサンプル数からヒストグラムと結果に楽しませていただきました。
私が夏と冬で登山時間が異なる理由で思いついたのは
・温度的な披露の違い
・水分による重量増加
・登山道の混雑ぐあい
・花などの観察時間の増加
・冬は日が短いので時間を気にして登山する。(不安感から早くなる)
もし自分がこのコースを登った場合は、春夏に比べ秋冬のほうが山行時間は
短くなりそうです。色々冬の方が早足になりそうな理由はありますが
夏と冬どっちが楽か?といえば表題の通り冬だと思いました。
kobeiさん はじめまして
本調査にご興味を持っていただき、大変うれしく思います。
おっしゃる通り、これらの複数の要因により、冬の歩行時間が短縮されると考えます。
大倉尾根なんかは、夏に登ると考えただけでもしんどいと思ってしまいます。
やはり冬がいいですね。
鍋割山の鍋焼きうどんなんかも楽しみですし。
冬は、みんな鍋焼きうどんを食べたいと思うから早くなる?
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