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更新日:2013年09月16日 訪問者数:13353
ジャンル共通 技術・知識
座学:山に吹く風の話
山に吹く風は気圧配置ばかりでなく地形にも大きく影響を受けます。台風の風を考えてから山に吹く風のメカニズムを考えてみましょう!
山に吹く風は、いろいろな要素が働いています。
まず、「風」を理解するために一番いいのは何と言っても台風です。
台風の風についてのクエスチョン!!
さて、問題です。
台風18号が今どんどんと接近しています。南東の風が現在秒速15メートルで吹いています。
さて、この南東の風はどこから吹いているのでしょうか?

A男さん:「アホかおっさん、台風から吹いているに決まってんじゃん!」

B子さん:「台風から吹いている風じゃないのですか?」

ブブー。両者不正解です。
答えというか、少し違いますが、「この風は台風に向かって吹いているのです」。
(ね、理解できますよね?)

台風は気流の渦です。お風呂の栓を抜くと渦が出来る時がありますが、そんな感じで台風に向かって風が吹きます。それが暴風になるのです。この暴風は台風から吹いている風ではなく、台風に向かって吹いている風です。

A男さん、B子さん:「なぁ〜るほど!」
(と、納得できましたね)

※ちなみに、暴風警報の基準は都道府県ごとに設定しており、東京地方で「暴風」と言うのは風速25m/s以上の風を指しているのだそうです。(気象庁HPより引用)
風は気圧の高い所から低い方に向かって吹く
気象庁が発表する天気図は「等圧線」を使って書かれています。(外国の天気予報番組では違う場合もあるようです。)

先ほどの台風の風の質問の答えとして言うなら、風は、気圧の高い所から気圧の低い台風に向かって吹きます。風が集まるところに雲ができるという現象も理解しやくなります。

台風は、いくつもの同心円で等圧線が書かれています。
地図の等高線を立体視すると地形が分かりやすくなるように、天気図を立体視すると、気圧の谷や気圧の尾根が見えてきます。台風はまるで蟻地獄(ありじごく)のような穴に見えてくるかと思います。
地図のように天気図を立体視してみる
左は富士山の山頂付近の立体地図です。
(カシミール3Dによる)
風は等圧線にほぼ平行に吹く
風は気圧の高い所から気圧の低い所に吹きますが、地球が自転をしているために風には「コリオリの力」という力が働きます。コリオリの力は海流などにも影響しているようです。

難しく考えると頭が痛くなりますが、コリオリの力によって北半球では進行方向に対して右に曲がる力が働きます。よって、台風のように吸い込む渦は反時計回りになります。高気圧から吹き出す風は時計回りになります。コリオリの力によって結果的に風は等圧線にほぼ平行に吹くようになります。(※南半球では渦の方向は反対になります。)

風が等圧線に平行に吹いていることを利用する方法で、「風を背にして左手方向が台風の方向」というのはご存じだと思います。

あらためて言うと、風は等圧線にほぼ平行に吹くのです!

注:地表付近で吹く風は地表での摩擦のために等圧線に対し30度ぐらいずれ、海上では20度ぐらいずれますが、高い所に行くにしたがって等圧線に平行に風が吹くようになります。
高層天気図
700hPaの高層天気図は海抜約3千メートルの高さに相当します。これくらいの高さになると左の高層天気図の風向のように等圧線とほぼ平行に風が吹いています。
(※天気図記号の矢羽根の方向が風向です。矢羽根が西を向いていれば西風を表わします。)
台風の方向
風を背にして、左手方向が台風の方向になります。
山に吹く風
さて、山の中で吹く風は地形の影響をものすごく受けます。

稜線を歩いていると”冷たい風”に交じって”暖かな風”を顔に感じることがあります。これは明らかに地形的な理由で生まれた風です。こういう風を含めて「微気象(びきしょう)」と言うことがあります。

冷たい風の中の暖かな風は「サーマル」と呼ばれものです。日本語で言えば「熱上昇気流」とか「熱上昇風」と呼ばれる風です。「熱」を省略して単に「上昇気流」とか「上昇風」と言う場合もあります。

学校の授業で習ったような「海風、山風、谷風」なども微気象になります。
谷風は谷から山にのぼる風です。これは昼間、山が先に暖められることによって吹きます。
反対に夜間山頂付近が先に冷えるために山から吹きおろす風を山風と呼びます。

森が昼間の間に太陽熱を吸収して夕方になると放出する「静かな上昇気流」のことを「アーベントテルミック」と言います。この上昇気流は尾根筋に流れていく場合もあります。夕方、急峻で高い場所にある山小屋のテラスで休んでいると、気付く人は気付く風です。この「アーベントテルミック」も微気象です。

3千メートルの稜線だと、こうした地形的な風と高層の気圧配置による風とがぶつかりあって独特の風になる場合があります。風と風がぶつかり合うと雲ができやすいので高い山には雲が湧きやすい訳です。

あと、高い山に吹く風は特に冬は夜間風が強く昼間の方が穏やかになります。平地では反対に昼間風が強く夕方ぐらいから風が収まり夜間は静かになります。
上昇気流が雲をつくる
晴れた日の昼間、太陽によって地面は暖められます。
地表付近の空気も暖められていきます。
まるでシャボン玉が膨らむように暖められた空気は地面にあぶくを作り、そのあぶくはさらに膨らみ、やがてバルーンのように地面から離れていきます。バルーン同士がくっつき合ってさらに大きなバルーンを作りながら上昇していきます。これが熱上昇気流(サーマル)というものです。稜線付近で感じる暖かな風は、この風(サーマル)が流れてきたものです。

空気の湿度が高いと上昇にともない雲ができてきます。
水蒸気が水滴になるときに液化熱という熱を出すので上昇気流は衰えることなく上昇していきます。上昇気流によって出来た積雲はさらに発達すると入道雲(雄大積乱雲)になります。

入道雲がさらに発達して上昇して1万メートル以上の成層圏まで達すると上空の風に流されて頭が金床のようになる“カナトコ雲”になることがあります。このカナトコ雲の中では強烈なカミナリが発生しています。

このように強力な上昇気流や高い湿度は雲ができやすい要因です。
巨大な台風の雲の渦も、熱い水蒸気が上昇してできたものです。
観天望気は風向も大切
天気図や天気予報ばかりでなく、空を見上げて天気を予測する「観天望気(かんてんぼうき)」も山では必要となる場合があります。その場合、雲の形や方向だけでなく、風向に注意するといい場合があります。「○○から風が吹くと山は荒れる」というようなその地方ならではの言い習わしもあります。

どの地方も東よりの風が吹くと雨の前兆になるかと思います。高い山では常に西寄りの風が吹いていますが、それが南西の風にぶれ出すと天気が悪くなる場合が多いと思います。天気が悪くなるなる前に後ろ立山あたりは冬なら無風でポカポカの春山のような晴天になる場合もあるかと思います。

一方、冬型の気圧配置で風は西寄りでも八ヶ岳や木曽の御嶽山あたりだと晴天確率が高くなります。その地その地で風向と天気の関係を一番よく知っているのは地元の人だと思いますので、機会があったらそういう話を地元の人としてみるのもいいもんだと思います。
(写真はフランス、シャモニのパラグライダーのランディング場にて。雲の中にモンブランが隠れています。)
地上天気図について
「地上天気図」というのは海抜ゼロメートルの天気図のことを言います。

前橋市の前橋気象台の標高は海抜112メートルですが、地上天気図を作成するためには、そこで観測した気圧を海抜0メートルの気圧に換算します。同じように、各地の観測所の気圧を海抜ゼロメートルの気圧に換算してから等圧線をむすむのが地上天気図と言いう訳です。

テレビの天気図も、yahooの天気図も、全部「地上天気図」です。地上天気図は高層天気図と区別する言葉です。

ですから、地上天気図では長野県の北アルプスに高気圧の中心があるように書かれていても、その上空にも高気圧の中心があるとは言えない訳です。

同じように、地上付近の風と上空との風とは大きく異なる場合が多い訳です。

山で吹く風は、地上とは違うことが多いのはそのためです。
地上天気図
地上天気図というのは海抜ゼロメートルの天気図のことを言います。
高い山では高層天気図が有効ですが、気象庁のホームページ以外ではなかなか見る機会も少ないので地上天気図を有効利用することが大切になります。

NHK第二のラジオで天気図を書くことは登山の基本の一つです。天気図用紙は通販でも買うことが出来る時代ですので是非とも練習して武器の一つにしてください。
それぞれの季節の山の風
冬の風は、エビの尻尾を成長させ、シュカブラを作り、雪庇を大きくします。

春の風は、あたたかければ雪崩を起こし、ときには嵐になる場合もあります。

山に吹く風は、時にはとても厳しい試練を登山者に与えることがあります。

夏の三千メートルに吹く風は気持ちよく、秋の風は強ければ登山者を震え上がらせます。

風は、どの季節でも体感温度に影響を与えるもっとも大きい要因です。

たかが風、されど風。風のことを少し考えてみれば、鳥や動物たち山の自然に少しは近づくことになるかも知れません。彼らはそういう厳しい自然の中で生きているのですからね。
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