羽後朝日岳〜和賀岳縦走(秋田側から)
- GPS
- 32:00
- 距離
- 27.9km
- 登り
- 1,985m
- 下り
- 2,023m
コースタイム
29日 5:10出発-7:30朝食30分(1,284m地点)-8:40和賀岳-10:30薬師岳(休憩30分)-12:25甘露水-14:50関根公園
天候 | 両日共快晴! |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
タクシー 自家用車
通常、大仙観光タクシー(88-1212)や大曲タクシー(88-1155)を使う地域のようだが、両社共繋がらなかった |
コース状況/ 危険箇所等 |
・和賀山塊の秘峰、羽後朝日岳(1,376m)は夏道の無い山。羽後朝日岳〜和賀岳では途中の大荒沢岳〜根菅分岐のみ夏道がある。基本的に積雪期限定の稜線。 ・秋田県側から羽後朝日岳に登るために今回採ったルートは、夏瀬温泉「都わすれ」から入山し、堀内沢を渡渉して1,5キロ程林道を辿ってから尾根に取付き、二ノ沢畚(1190m)に上がって、両側の切れ落ちた細い稜線(包丁峰)を経て羽後朝日岳に登るというもの。難コースだった。 ・羽後朝日岳〜和賀岳〜薬師岳の主稜線は、所々雪が消えているが、まだ十分に残雪があり、ほとんど快適に歩くことができた。すべてツボ足。 |
写真
感想
羽後朝日岳から和賀岳への縦走は、若い頃からの念願だった。羽後朝日岳へは若い頃、残雪期に途中幕営して登ったことがある。二度挑戦して、登ったのは一度だけだった。羽後朝日岳と和賀岳の間は私にとって未知の稜線、夏道がないから残雪期に自分の技量で歩けるのか確かめようもない。今考えると、岩手県側から高下岳そして大荒沢岳まではしっかりした夏道があるのだから、十分偵察できると思うのだが、できるかも・・と思ったのは、昨年ネットで根菅分岐〜和賀岳の残雪期の記録を読んでからだ。以来、実現させる方法をあれこれ思いめぐらしてきた。
残雪期も終盤になり、今シーズンはもう諦めていた。だが先日のkiyoshiさんとtooleさんによる、すばらしい羽後朝日岳レコには本当に感動し、触発された。GW前半は好天が続くようだ。何より、自分に来シーズンは無いかもしれない・・という思いに背中を押された。「よし、行こう」と決めたのは前日だ。
山に行く前の夜、ある人から電話をいただき、予定のコースを聞かれた。何かあったら駆けつけてくれるという。携帯を充電しておくように・・と細かい心遣いだ。ありがたくて、涙が出そうになった。たとえ実現できなくても、絶対に無事帰ってくると、改めて心に誓う。
月末の仕事と山行の準備不足で、前夜の就寝は遅くなり、早朝5時には歩き始めるという予定が狂う。だが日が長くなっているから、今日中に羽後朝日には立てるだろうと、焦らず歩き出す。ザックがやたら重い。
このルート第一の、そして最大のポイントは堀内沢の渡渉だ。雪解け水を集めてゴウゴウと流れている。前日買ったチェストフェルトウェダーってやつを身に着け、山靴は袋に入れて沢に入る。流れに負けないよう、腰を落として立ち向かう。半分程進むと流れは少し緩むが、今度は深さが増してきた。ザックの腰ベルトが濡れ、右手に持ったピッケルも役に立たない。「ええい、突破!」気合で渡り終えると激しい呼吸、沢やさんや渓流釣りの人たちはよくやるな〜と、身をもって感じた。
堀内沢右岸に続く林道は途中崩落個所があったが、ここは上に上がって通過する。クタノ沢を渡ってすぐの尾根取付き箇所にウェダーを置く。これは堀内沢の水量が減る時期に、日を改めて回収に来なければならない。
さて山行の第二のポイントは、ここからの尾根の状況だ。尾根自体はすっきりしていて二の沢畚まで迷うことはないが、当然藪が出ている。地元の人が狩猟で登るのだろうか、昔の空き缶が落ちている。650m付近までヒノキなどの針葉樹が多く、下草は比較的少ないが、数多くの倒木に行く手を遮られる。ふと振り返ると、森吉山そして秋田駒ヶ岳がくっきりと姿を現した。
二ノ沢畚への主稜線に上がると、秋田駒ヶ岳と岩手山が繋がって見える。森吉山の左奥には白神の山々か。ここはすばらしいブナ林のたおやかな登りだ。二ノ沢畚に立つと、細い稜線の先に目指す羽後朝日岳が正面に現れ、がぜん登頂意欲が掻き立てられる。
だが第三のポイント、二ノ沢畚から羽後朝日岳への細い稜線の通過は困難を極めた。雪が付いているところは、細いとしても大丈夫だった。雪の落ちたところはすさまじい藪漕ぎになった。暑いのでTシャツ1枚になっていたから、腕は傷だらけになった。それでもサングラスの内側に汗がしたたる。笹だけならいいが、枝の硬い灌木が、まるで女王羽後朝日に人を近づけまいとする衛兵のように波を打って抵抗してくる。たまらず稜線脇の残雪に降りるが、切れ落ちた斜面のトラバースは神経を使う。また藪の稜線に全力で上がる。自分にとっての核心部だった。
羽後朝日岳の肩に立つと、細い踏み跡が山頂へ続いている。夏季、部名垂(ヘナタレ)沢を登る人たちが付けたものだろう。登り始めから8時間以上、ようやく念願の羽後朝日岳に登頂、感激もひとしおだ。
あとは今宵の幕営地を見つければ今日の行程は終了だ。大荒沢岳との鞍部は良いところだったが、まだ日も高いので先に進む。可能なら、高下岳・根菅岳稜線と県境稜線の合流する根菅分岐まで行きたいと考えていたが、その少し手前に良い幕営地があった。風もなく、信じられない程の好コンディションの中、奥深い山で一晩を過ごす喜びにひたる。
だが自分の中で懸念材料はもう一つあった。最後まで歩き通す体力、そして体調面だ。下からの冷え対策が不十分だったこともあるが、ほとんど眠ることができなかった。数年前の飯豊連峰でもそうだったが、ハードに歩いた後は交感神経が過剰になり過ぎるのか、眠くならない。翌朝は頭痛がひどく、吐き気がして朝食をとれない。
なんとか出発準備を整えると、根菅分岐方面から一人の登山者がやってきた。言葉を交わすと、なんと山レコユーザーの nomoshinさんだという。名前は存じ上げていたが、帰宅して確認したら、やっぱり南会津の秘峰丸山岳に登っていた方だった。このレコを丹念に拝見し、拍手を入れた記憶がある。とてもやわらかい雰囲気をお持ちの方だった。今日は羽後朝日ピストン、明日は和賀岳へ縦走する予定とのことだった。
根菅分岐から右へ、残雪豊富、おおらかな主稜線を行く。左手に主峰和賀岳、右には羽後朝日岳、その奥には今日も秋田駒や岩手山がきれいだ。左足元に延びてくるのは和賀川源流部、和賀山塊核心部の一つだ。根菅分岐と和賀岳の中間点、1,284m地点で朝食にする。地図を広げ、山々を見渡す。2万5千図を4枚つなぎ合わせたこの地図を、若い頃から何度眺めたことだろう。ここに今、自分はいる・・
立ち上がって和賀岳に向い登り出して間もなく、一人の登山者と出会った。聞くと昨日は真木林道中途まで車で入り、薬師岳に登って和賀岳手前の小杉分岐にテントを張ったという。今日は和賀岳を越え、羽後朝日までは無理にしても、遊びに来たのだとのことだった。自分と似たような(実力・経験はともかく)、好きな人がいるんだな〜とうれしくなってくる。
和賀岳山頂からの展望は、文字通り360度だ。鳥海・焼石・早池峰、もちろん辿ってきた和賀山塊の奥には岩手山・・あげたらきりがない。
あとは余韻を楽しみながら、長い下山だ。薬師岳へは所々夏道が出ている。二週間前に登った薬師岳山頂で大休止、そこからの下山は経験が生きて、ほとんど迷わず甘露水のある林道に下りた。
「あなたの夢は?」と人に聞かれた時、私は答えることのできないオヤジだった。あえて挙げるなら、羽後朝日から和賀岳への縦走だった。月末の仕事・自宅の冬囲い解き・新社会人となった子供たちの初めての帰省出迎え・・もろもろよりも今回は山を優先させた。タクシー代7千円も、夢の実現のためだ、いいだろう・・
長い林道を歩きながら、次の山のことは考えられなかった。もうしばらくは、この山行の余韻に浸りながら、軽い荷物でのんびり歩きたいと思う。今は充実感と共に、深い感謝をいだいて時間を過ごしている。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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素晴らしい、その一言です。
いつか自分も、羽後朝日岳と都わすれの間を歩いてみたいと考えていました。
同じこと考えている仲間がいるなんてとても嬉しいし、励みなります。
魂の記録
真に読む価値がある記録があるとしたら、これがそうだ
渾身の和賀周回に、心震えた
kamadamさん、私の中では、あなたがヤマレコナンバーワンだよ
私が上司なら、タクシー代10往復分くらいのボーナスだしちゃうね ゆっくり休んで下さい。いつかこれを読むだろう息子さんたち、きっと親父を尊敬すると思う
堀内沢の水量や二ノ沢畚〜羽後朝日の稜線の状態を考えると、あと一か月早い時期がベストだと思います。あるいは荷物を軽くして速攻で登るとか・・
btgrt180さんの先日の羽後朝日岳スキー登山とか、過去の堀内沢遡行の記録、拝見して感動しておりました。私の方こそ、励みになっています
kiyoshiさんとの出会いがなければ、私の夢の実現はなかったし、思いを残すこともなかった、本当にそう思います。感謝の気持ちでいっぱいです。
技量の高い人ならもっとあっさり歩くだろうし、ただの山好きオヤジが一人酔いしれている図なんだけど、私にとっては本当に思い入れのある山域、そしてルートでした。
もっと酔っていたいけど、さて仕事、仕事・・
kamadamさん、はじめまして、ですよね
よく記録を拝見しているので、初めての気がしないのです。
読んでいて気持ちが乗り移ってくるようでした
このような記録をヤマレコで拝見できて、とても嬉しいです。
私は東京ベースですが、ヤマレコでは東北の記録の方が充実してますね。
だから気持ちはヤマレコ東北支部メンバーです
こっちは数は多いのだけど・・・
じつは私も密かに同じルートの羽後朝日〜我賀岳のリサーチをしていました。
だからなおさら臨場感がありました。すばらしいコースのすばらしい記録を
ありがとうございました。
私もGWの後半、東北遠征に出かける予定です
ついについに、やり遂げられたのですね
先週、夏瀬温泉から堀内沢を偵察に行ってきてますが、常人では無理なレベルの濁流でしたよ〜
あれを渡渉されたとは、よっぽどの事だったと僕は想像しますね
二ノ沢畚から羽後朝日岳への細い稜線、ちょっと言葉が無いです。
kamadamさんと虎毛山歩けるかもと僕は楽しみにしていました。
もしこちらに来られていたら、この凄まじい記録は存在しませんでしたね。あぶなかった‥
僕もやっぱり地元秋田から、いつの日か歩きます。
kamadamさんに続きますからね
2年前の二王子岳〜飯豊主脈縦走のレコを見つけ、お気に入り登録してから、時々akoさんのレコはチェックしてましたよ 山への愛着、思いのこもったレコに、いつも感動しています
直接コメントいただいて、とってもうれしいです
まだヤマレコに掲載されていない山やコース、全国的に見たら東北は多いのでしょうか
私は沢は歩けないので、これからの季節はakoさんたちのオリジナルルート踏査を楽しみにしています。
その前にGW後半の東北遠征、どうか好天に恵まれますように
tooleさんから情報をいただいたからこそ、歩く(渡る)ことができました。本当にありがとう。
tooleさんの好きそうな秘峰や難ルート、和賀山塊にはゴロゴロありそうです。お若いから、じっくり歩いてくださいね
kiyoshiさんが虎毛にピッケルを置いてきたかったというお気持ち、私は羽後朝日で感じてました
二日目の朝にお会いしたnomoshinです。記録をじっくり拝見させて頂きました。「痩せ尾根が大変で羽後朝日岳山頂まで8時間かかった」ということは立ち話した際に伺っていましたが、出だしの渡渉のところはこの記録で初めて知りましたし、ハラハラどきどきでした。
私の方もその後もお天気に恵まれ、女神山まで縦走することができました。(山レコに記録をアップしますので、そうしたら立寄って下さい)
コースの選び方などとても共感しています。いつかまたどこかでお会いできるような気がしています。その時もまたよろしくお願いします。
こんにちは。記録を何度も読み返しました。この縦走は思い立ってもなかなか実行に移すことは困難なのではないでしょうか?
念願かなって良かったです。
たくさん気の済むまま余韻に浸ってください。私もkamadamさんが抱いた熱い思いの何分の一かの余韻に浸らせてもらいます。
…でも、こんな記録を見せられると次回も期待してしまいます
女神山まで行かれたのですか
薬師岳から真木林道へ下りられると伺っていましたので、てっきり30日には下山されているものと思ってました。食糧はたくさんお持ちとのこと、そして真昼岳まで縦走できるんだよね・・とお話しされてましたが・・
本当にすごい 驚きです
でもnomoshinさんのキャリアを拝見すると、納得です。
私もnomoshinさんのように、やわらかい雰囲気であっさり歩けるようになりたい・・ちょっと無理?
レコのアップ、楽しみにしています。
そしてこれからもよろしくお願いします
暖かいお言葉、ありがとうございます。
いつまでも余韻に浸っていたいけど、翌日からまた雑用たくさんの日常になりますね
それがあるから、山に入ったときの気持ち良さが感じられるのでしょうけど・・
mokkedanoさんとも、今年はお会いできそうな気がします。神室通いますよ〜
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