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更新日:2026年06月30日 訪問者数:251
登山・ハイキング その他
思わぬところに昭和8(1933)年の山小屋の宿料などが掲載されていた
 「思わぬところに、昔の山小屋の宿泊料が掲載されていた」というお話です。祖母が90年前に入手した物を見ていて気付きました。
すまし録
 思わぬところに昭和8年の山小屋の宿料が掲載されていた。それは当時の市販の日記帳だ。商品名は「昭和9年版 半圓 當用日記帳 千葉県版」(昭和8年10月発行)。この一般向けの日記帳の巻末付録に、わずかだ登山情報が書いてあった。

 この日記帳は、母方祖母(当時14才)が、昭和9年4月、愛知県豊田市(実家)を離れ、千葉県蘇我の「千葉縣農會立家政女學校」に寄宿していた時のものだ。日記帳の発行は博文館。私の今の手帳も博文館。こんな息の長い会社だとは知らなかった。
 
 初めに断っておくが、山小屋の宿料に関して言えば、当時の書籍に掲載されている場合もある。例えば、当時の山岳会の本がそれで、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できるものもある。

 むしろ、私が日記帳を見て思ったことは、「昭和初期の一般向け日記帳に、なんで山小屋の宿泊料が載っているの?」ということだ。

 本で「昭和初期に登山の大衆化・登山ブームがあった」と読んだことがある。今回の件は、昭和初期の登山ブームと関係あるのか? これを確かめるため、国立国会図書館デジタルコレクションで博文館の日記帳を調べた。すると登山情報の掲載は、「昭和3年(発行は昭和2年)から始まったらしい」ことがわかった。そうなると、当時の登山ブームを反映した企画の可能性もある。もちろん、博文館に登山狂の社員が入社したという可能性もあるけれど・・。
昭和8年発行の日記帳の登山情報
祖母が使っていた日記帳の巻末付録
 日記帳の巻末付録は「當用百科大鑑」といい、64ページもあるが、そのうち登山関係は、わずか半ページだ(注:當用=当用)。

 発行後、93年も経っているので、著作権は大丈夫と思う。
 旧字体がわからなければ、以下の書き下しを参考にして下さい。なお、カッコ内の(注)は私の注釈だ。

------<正確を期す場合は、原本(上写真)を自分で確認下さい>-----------
<<<富士とアルプス>>>

富士山登山者数
  昭和5年 57,687人 (うち女  7,568人)
  昭和6年 78,006人 (うち女 10,111人)

【吉田口登山経路】
 大月駅(中央線)
   −富士山麓鉄道 70銭/23km50分ー
 富士吉田口駅 (注:現在は富士山駅に改名)
   −乗合自動車 10銭/1km5分ー
 浅間神社
   −乗合自動車 登り1円20銭・下り80銭/9km20分ー 
 馬返
   −登り6時間・下り3時間/10kmー (注:上り・下りの矢印が逆。誤植だと思う。)
 頂上泊

 宿泊料その他
   宿泊料:上吉田町 1円80銭〜2円70銭(注:麓の上吉田町の宿代と推測)
       山小屋  1円40銭〜2円50銭
   金剛杖: 並 7銭 上 14銭 特製 23銭
   著茣蓙:並 23銭 (注:きござ=登山者が身につけるゴザ by 「コトバンク」)
   笠 18銭
   餅 7個 22銭
   売店晝食 並50銭 上90銭  (注:晝食とは、昼食の旧字体)


【日本アルプス物価(昭和8年5月)】
 上高地乗鞍方面
   徳本小屋 宿料 1円80銭 弁当30銭
   上高地  宿料 2円   弁当30銭
   冷泉小屋 宿料 1円60銭 弁当20銭 (注:乗鞍の小屋)
   肩の小屋 宿料 1円80銭 弁当30銭 (注:乗鞍の小屋)
   白骨温泉 宿料 1円40銭 弁当30銭
 槍、常念方面
   中房温泉 宿料 1円50銭 弁当25銭
   常念小屋 宿料 2円   弁当25銭
   殺生小屋 宿料 2円30銭 弁当20銭 (注:槍の殺生ヒュッテ)
 立山、剣方面
   針の木小屋 宿料 1円70銭 弁当30銭(注:針の木小屋の完成は昭和5年)
   弘法茶屋  宿料 1円25銭  (注:立山と室堂の間にあった小屋)
   室堂    宿料 2円30銭 弁当30銭

日本アルプス登山者数
  昭和5年 201,889人
  昭和6年 195,638人
-----------------------------------------------------------------------
<以下、所感>
●宿泊料に食事代が含まれるのか、わからないのが残念。
●「日本アルプス物価(昭8年5月)」と日付が書いてある。博文館が調査した月だろう。丁寧な仕事だ。
●どのような基準で、これら山小屋が選ばれたのだろう。さっぱりわからない。
(コメント1)現在の価格に換算してみると・・・
 これらの料金は、今の価値でいくらになるのだろう。私は経済の素人なので、批判されそうだが、この日記の巻末付録に記された物の値段等から類推した。具体的には、鉄道運賃(富士山麓鉄道や国鉄)の今昔の値段を基準にしてみた。

【換算方法1】・・・富士山麓鉄道の運賃を基準
 この日記帳には、上述の通り、大月駅から富士吉田駅の鉄道運賃が70銭とある。今も富士山麓鉄道は存在し、同区間の運賃は1040円なので、比例換算すると、当時の1円は現在の1486円に相当することになる。
 これに基づけば、例えば、以下のように換算できる。
                  昭和8年       令和8年
    徳本小屋 宿料      1円80銭   →   2675円           
         弁当        30銭   →   446円  

【換算方法2】・・・国鉄運賃(JR)を基準
 次は国鉄を基準とした比較だ。この日記帳には、当時の国鉄運賃が掲載されており(下写真)、64.1kmの運賃が1円だ。一方、現在のJRの64.1kmの運賃は1230円(注:幹線・切符)だ。この場合、
                  昭和8年       令和8年
    徳本小屋 宿料      1円80銭   →   2214円           
         弁当        30銭   →   369円  となる。

【換算方法3】・・・ネットの”円タイムマシン(明治・大正・昭和・平成・令和の円を換算)”
 上記サイトで調べると、昭和8年の1円は今の1090円と出てきた。これを基にすると、
                  昭和8年       令和7年
    徳本小屋 宿料      1円80銭   →   1962円           
         弁当        30銭   →   327円  となる。

 基準の選択で結果は大きく変わると思うが、上記の3つの換算方法で、同じような結果(宿泊料2000〜3000円)を得た。しかし、現在の北アルプスは、素泊まりでも1万円近い。この食い違いをどう考えればよいのか。経済にうとい私には解釈できない。

 下図は、参考にした昔の国鉄運賃。
日記帳の巻末付録の国鉄運賃(鐵道規則適要)
 1等、2等、急行、寝台料金のほか、計算方法まで書いてある。
(おまけ)鉄道運賃以外、日記帳に、物価比較の参考になりそうな情報は少ない。ピンとこないが、武官俸給などを引用しておく。
武官俸給・兵器価格・航空運賃
 価格が、山小屋宿料に近いのは、兵隊さんの帽子1円20銭だ。

 ついでに、東京、大阪、福岡、蔚山、京城、平壌、新義州、大連の航空運賃も載せておく。6人又は8人乗り旅客機。東京-大阪が30円だ。
(コメント2)登山者数について
 前述のとおり、この日記には富士山とアルプスの登山者数が書いてある。信頼性が疑問だが、より信頼が置けそうな富士山について考えてみる。
 日記帳では、
  昭和5(1930)年 57,687人 (うち女  7,568人)
  昭和6(1931)年 78,006人 (うち女 10,111人)
と書いてある。

 一方、現在、環境省によれば、開山日〜閉山日の富士山の登山者数は以下の通りだ。
  令和7(2024)年 204,136人
  令和8(2025)年 205,100人

 確かに今より登山者数は少ない。だが、私は「予想より多い」という印象を抱いた。
 貧弱な登山道具・交通環境。しかも、当時は、昭和4年の世界恐慌に端を発した昭和恐慌の最中。昭和6年に満州事変、昭和7年には5・11事件。何より、昭和6年の日本の人口は、たった6千5百万人(注:内地のみ)しかいないのだから・・・。
 まぁ、そもそも、この登山者数が信用おけるかという問題もあるけれど・・・。
-------------------------------------------------------------------
 信頼性は低いと思うが、日本アルプス登山者数についても現在と比較する。
日記帳には、日本アルプスとして、
  昭和5(1930)年 201,889人
  昭和6(1931)年 195,638人 と書かれている。

 一方、現在は、長野県・岐阜県の統計(登山届に基づく)から、北アについて以下のとおり(富山県はネットで見当たらないので合算せず)。
  令和4(2025)年 191,634人 (長野県151,932 岐阜県39,702人)
  令和5(2025)年 198,187人 (長野県150,411 岐阜県47,776人)
日本アと北アの違いとは言え、さすがに昭和初期の登山者数は過剰見積りではないか。
 
(参考1)我が家・親戚の昭和初期の登山
 ここからは参考。
 我が家関係では、2つの昭和初期の登山が判明している。両祖父とも他界しているので、当時の登山ブームとの関係はわからない。

【1】父方祖父の場合
 昭和6-9年頃のアルバムに、高山帯の稜線を背にした父方祖父の写真が1枚残っている。丸めたムシロをリュックに取り付けている。私が十数年前に、この写真を見つけた時、昭和初期に一般人(=祖父)が北アルプスのような所を歩ける環境であったことを知り驚いた。
 場所を特定しようと努力しているが、わからない。どうしてもわからなければ、写真を公開し、ヤマレコで有識者の力をお借りしたいと思っている。

【2】母方祖父の場合
 次は母方の場合。母方実家のアルバムに、「昭和14年8月 富士登山、修善寺」と書かれた母方祖父の写真がある。職場同僚との旅行だ。写真は富士山頂で、5枚すべて同じ場所で撮影されたものだ。
 標識は、官幣大社浅間神社奥宮と読める。

 基本、下が、草鞋・足袋・脚絆で、上が襟付きシャツのようだ。ただ、上下がスーツ?みたいな人が1名いる! なんちゅう服装だ。今でも、ごくごく稀にスーツで登山している人を見かけるが、それでもねぇ。

 あと、荷物はこの写真に写っているものだけなのだろうか。もしそうならUL装備で、現在なら、五合目で係員さんに、「お客さん、山をなめてもらっちゃぁ困りますねぇ メッ!」と言われて、入山禁止を申し渡されそうだ。 
背景左側は、剣ヶ峰付近の稜線かな?
(参考2)約50年前の宿泊料  古いアルパインガイドから
 我が家には、アルパインガイド「上高地・槍・穂高・常念・燕・乗鞍」(昭和52(1977)年)、「立山・剣・薬師」(昭和55(1980)年)が残されている。そこに記された宿泊料を、前述の日記帳の山小屋について書き出しておく。
 前述の日記帳が約100年前なら、これは約50年前の情報になる。

 上高地乗鞍方面
   徳本小屋 素2100 3100
   上高地  (5500-8000 ←西糸屋) 
   冷泉小屋 休業中
   肩の小屋 素2000 2800
   白骨温泉 4500-12000
 槍、常念方面
   中房温泉 3500-
   常念小屋 素2000 3200
   殺生小屋 素2200 3200 (注:槍の殺生ヒュッテ)
 立山、剣方面
   針の木小屋 素2700 3800
   弘法茶屋  (多分、廃止)
   室堂    (素2500 3900 ←室堂山荘の場合)

注:上高地と室堂は、昭8以前から営業している西糸屋と室堂山荘を記載した。

注:”円タイムマシン(明治・大正・昭和・平成・令和の円を換算)”というサイトによれば、1977年の2000円は、現在(2025年)の約 3585 〜 3887 円の価値ということらしい。
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