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更新日:2013年09月16日 訪問者数:14556
ジャンル共通 技術・知識
毒きのこでも蹴飛ばさないで! 山の守番の菌根菌と樹木との共生
きのこのノート第3回は、森を育むきのこの役割です。 「おや、まあ、きのこシリーズ」の18回めとして、2011年6月15日のヤマレコ日記にアップしたものに、きのこの達人らの体験と探究を折り込んで改定版としてアップします。      (タイトル写真は、登山道でよく蹴飛ばされている、ベニテングタケ=奥秩父にて撮影))
tanigawa
きのこは地下で、木の根とつながってる。100m離れた樹木とも
 登山道脇では、登山者が蹴飛ばしたり、カサをもがれたりした、無残なきのこが目につく秋。花ならば、登山者にもっと大事にされるし、こんな目に遭うことは稀れなのに・・・。
 きのこのパワーと自然界での隠れた貢献を知ってほしいと思います。

 「野ぐそ」の実践者の伊沢正名さんが、きのこ分類学の大家として知られる本郷次男さんと八ヶ岳の森を歩いていたとき、1本のヌメリイグチがありました。
 本郷さん曰く、「ここにはきっとマツが生えているはずだ」。

 ところが、そこはミズナラの森で、マツはない。伊沢さんが懸命に探すと、100m余りも離れた場所に、1本のアカマツが見つかりました。
 伊沢さんは、別のブナ林では、ベニハナイグチ(写真)を見つけ、「それならば」とマツを探して、高い尾根の方にゴヨウマツを確認したことも書いています。(19人の達人による「きのこブック」1998年刊から)
            松の仲間と菌根共生する、ベニハナイグチ (八ヶ岳にて)
共生――樹木の根の先端に「菌根」をつくるきのこ
 実は、ベニハナイグチや、ヌメリイグチは、地下深くで、これらのきのこの菌糸体と、木の根とがつながって、互いに養分や水分をやりとりする共生関係をつくっていたのです。
 樹木と、きのこの本体である菌糸体とは、共同作業で、根の先端に「菌根」をつくります。菌根では、細胞膜1枚を隔てて、木の根はきのこの菌糸体と接しています。きのこは地中の有機物、老廃物を分解して、ミネラルなどを、この「菌根」を介して樹木に送っています。そして樹木からきのこの本体である菌糸へも、水や養分が渡されています。
松枯れ、ブナの「大量枯死」の原因をさぐる
 この共生関係の研究は、年々、進んでいます。
 全国に広がる「山枯れ」もその1つ。森が枯れれば、山はその姿を損ない、谷も里も荒れます。その原因として、樹木ときのこがつくる「菌根」が直面している「災難」があることが、わかってきました。きのこ学者の小川真さんが「森とカビ・キノコ」(2009年)で書いています。サブタイトルは「樹木の枯死と土壌の変化」。

 松枯れや、ミズナラの枯死などが、近年は各地に大規模にひろがり続け、近年ではブナの仲間をふくむ多くの樹種に、「大量枯死」の被害が拡大しています。
 その原因と対策を探るために、各地で多くの研究者が調査に尽力されてきました。

 そこで新たに分かったことは、次のことでした。

*植物・樹木と、きのこなどの菌類は、助け合って森を支えている。
根の先端に菌類がつくる「菌根」からは菌糸(外生菌糸)が伸びて水を吸収し、根を通じて植物に送る。菌糸は、酵素を出して養分を分解し、植物に送るし、有機酸を出して鉱物を溶かし、ミネラル分を植物に送る。

*菌糸は、植物がつくった糖分を得て、菌糸を成長させ、季節にはキノコを地表に形作る。

 きのこと樹木と、互いに深い関係をもって、生きている。
 それだけではありません。
病気にたいする樹木の抵抗力を高め、生長を助ける
*植物・樹木は、きのこから水分やミネラル分を得ることで、病気に対する抵抗力や成長力を増している。

*すでに4億年前の植物化石の根に、菌類との共生のあとが見つかっている。根にキノコが共生して「菌根」をつくることが始まったのは、恐竜が全盛だった1億年前の白亜紀だった。

*隕石衝突、生物大絶滅の時代(7500万年前)も、植物はキノコとともに共進化して、生き抜いてきた。  

 人類が地球に登場するはるか以前から、植物・樹木ときのこは、互いに養分と水を供給し合い、吸収し合うこんな独特の関係を、地下でつくり上げてきたことになります。
まず菌根が失われ、きのこが姿を消して、樹木が生きていけなくなる
 ところが、植物とキノコ・菌類のこの関係に、最近、異変が広がっているというのです。

**調査に入った小川さんらは、必ず、その樹木の根を調べています。すると、「枯死」あるいはその寸前の弱った樹木は、共通して根から菌根が失われている。樹木の根の側でも、細根の部分が黒ずんだりして、失われて、水分さえ吸い上げられなくなっている。

**そうした森では、樹木と共生し菌根をつくるキノコ(菌根菌)の数が著しく少ないか、消えている。

**クリや松などを人工的に植林した地域で、枯死が起こるのは、原因の一つとして、樹勢が弱ったからと化学肥料を過度にやりすぎて、土が過度に養分をもちすぎ、菌根菌が生きられず、逆に殺されてしまった場合が多い。

 こういう場合は、腐葉土を除き、水はけも考慮して、菌根がよく育つ木炭を入れてやると樹勢が回復できたという経験が、確認されています。
 森の土壌の中で、「菌根」が減ってゆくというのは、森の樹木が不健康になる赤信号ということになります。
             北関東で愛されるチチタケは、代表的な菌根菌の一つ(奥利根のブナ林で撮影)
きのこを移植して、樹木の手当をする治療法も
 最近では、菌根が活力を失う原因として、大気中の亜硫酸ガスの影響や、温暖化にともなう樹木の害虫の北日本への進出も、注目されています。

**自然林での枯死の場合は、石炭・石油など化石燃料の大量使用による酸性雨(亜硫酸、亜硝酸等をふくむ)が、土壌中の菌根を弱めることが、大量枯死の条件の一つ。
 そうして、樹勢が弱ったところへ、温暖化で北上し大量発生してきた「松くい虫」やブナ科の木を傷める害虫が、最後のとどめを指している。
 病害虫が主因にされる場合が多いが、元気な木には虫はつきにくい。

**欧州でも、針葉樹林の大量枯死は、酸性雨による樹勢の衰えなどのあと、ひきこ起こされ、ドイツでは、キノコの菌を移植する治療法も採用されている
きのこと植物・樹木の共生があって、日本の山がある
 森のなかで人知れず世代を重ねているキノコたちも、まさに生態系の主人公の一角に位置づいているのだなあ、と思いました。

 実際、最近では、奥秩父でも、奥多摩でも、強風があると樹木はバタバタと大量に倒れ、森が弱ってきているのを感じます。

 きのこの仲間には、ここで紹介した樹木と共生する「菌根菌」のほかに、樹木や植物・動物遺体を分解して養分を森に返す「腐生菌」の仲間がいます。
 共生型の「菌根菌」は、マツタケ、ホンシメジ、テングタケ科の毒きのこ、ハツの仲間、ベニハナイグチなどがそのグループ。人工栽培が難しいのが、この仲間の特徴です。
 分解役の「腐生菌」は、ナメコ、ヒラタケ、ムキタケ、ブナシメジ、ツキヨタケ、そしてサルノコシカケの仲間など、たくさんの種類があります。

 どちらも森の生態系の物質循環のなかで、重要な役目を果たしています。
 山でキノコに出会うときは、キノコの数や種類を通じて、その森の元気度も考えてみたいです。

 人間は、食べられるか、毒きのこかで、きのこを分けたがりますが、そうした二分割のモノサシでは計り知れない役割を、きのこは担っています。
       菌根菌の一つ、テングタケ科のタマゴタケ(岩手山)
        腐生菌の一つ、ヒラタケ(奥秩父の森のブナの朽木に)
きのこは、植物に例えれば、花です。愛でてください
 きのこは、植物に例えれば花であり、胞子をつくるところです。地下の菌糸体から生え出してきたきのこ(子実体)は、胞子を飛ばして森に子孫を残す大事な器官です。
 山道できのこに出会ったら、自然の森のなかでのそれぞれの役割に思いをはせて、山の花々と同等に、いつくしみ、ほめてあげてください。

 きのこの達人らは、きのこと森を傷めないいろいろな流儀で、きのこに親しんでいます。
 出会ったきのこは、細心の注意で観察し、食べる分以外は採集しない。もし採集するときも、一般登山道を避けて、できるだけ人気がない、採集圧の小さな森で。その日に食べ切れる分だけ。

 観察・撮影では、カサの裏側は、ひっこ抜かなくとも、寝そべって見ることができますし、最近のデジカメはカメラを地面において下からの接写も優秀です。写真撮影は、きのこが自然に生えているままが、いい。花と同じです。知らないきのこは、そっとしておく。
 登山道そばで折り取ってしまったら、他の登山者が観察できません。無残な跡は、後から来る登山者、観察者を悲しませます。
 登山者のきのこにたいする理解とマナーの向上へ、力を合わせましょう。
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※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
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