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更新日:2013年09月16日 訪問者数:24505
ジャンル共通 技術・知識
熊の世界に何が起こっているのか? 人間との距離感をとれない熊たち
 登山者にとってクマはけっこう身近な動物です。糞を見るのは珍しいことではないし、たまにはばったり出会うこともある。登山者はクマの生活圏に入って行動しています。 そのクマの世界に、最近、異変が起こっています。 2つの角度から考えてみます。(2010年から今年5月にかけて、ヤマレコ日記に4回アップした内容をまとめて、報告します。)
tanigawa
執拗に人を襲いつづけたツキノワグマ
 いままでのツキノワグマの事件とくらべても、ちょっと異様だなと思う出来事でした。
 2013年5月、福島県会津地方での事件。被害者の様子は、地元紙のこの記事が詳しい。
死亡男性もクマ被害 県内で今年初の犠牲者
http://www.minyu-net.com/news/news/0530/news7.html

 経過は次のようでした。
 
 5月27日に山菜取りのために入山した男性(78歳)が夕方になっても帰宅せず、家族が捜索願いを出す。

 5月28日、40人の捜索隊が入山。道から約600メートル入った所で遺体を見つけたが、運ぼうとした際にクマに襲われ4人が顔や腕に2週間のけがをした。

 5月29日、再度、捜索隊が山に入り、男性の遺体を収容。
 被害者を収容した捜索隊によると、遺体の様子は次のようだったとのこと。

 *顔や胸にクマによる複数の傷があり、検視の結果、死因は失血死と判明。
 *遺体にはクマにかまれたり、引っかかれたりしたとみられる傷が多数あった。

 この事件で気にかかったことの第1。
 このツキノワグマが1人、および数人の人間に対して、繰り返し攻撃をしていることです。
 大人の男性が4人いるところに攻撃した事例は、ツキノワグマでは今まで、ほとんどなかったと思います。
 この町では、5月3日にも、同じ会津美里町の同じ地域で、男性がクマに襲われ、右足を負傷しています。 同一のクマなら、3回、人を襲ったことになる。
 
 2つめですが、報道の内容から、このクマは亡くなった人の遺体の一部を食べていた可能性があります。
 そして、犠牲者の救出にたいする2度目の攻撃からは、遺体への執着ぶりを感じさせます。
 前例としては2000年ごろの奥志賀での事件がありますが、きわめて珍しい事態でした。

 この町では7月になって、新聞配達中の男性がクマに襲われ、救助の連絡を受けて現場に向かった住民らのうち、女性2人が、再び現れたクマに襲われています。
恐らく5月の事件と同一と思われるこのクマは、数日後に檻で捕獲されました。
ヤマブドウをしっかり食べたツキノワグマのふん。
人間の怖さを体験できず、人間との距離感をとれないクマが増えている
 いま、山里では、人家が廃屋になり、畑も荒廃し、狩猟をする若い人たちも減って、人間とクマとの距離感・緊張感は、双方から壊されかけています。
 だいたい、丹沢の南側の街中や、JR長野駅周辺に熊が出るなんてことは、いままではなかった。
 今年は、仙台市内の広瀬川の河原にも、クマが出ました。

 なぜ、こんなに距離感がとれなくなってきたのか? ハンターの激減で、生まれてこのかた、人間たちに追われたり、銃で脅されたりした経験がないクマたちが増えている。そして、人間の生活圏のなかにまで入り込むクマが増えていると言われてきました。

 しかも、そうやって人家周辺に近づいてみると、村からは働き手がいなくなり、家は廃屋となり、集落ごと消滅している。山間の田畑はクマが動きやすい茂みになり、林にも人はめったに入らない。
 クマと人間との間にあったはずの一定の緊張関係というか、目に見えないバリアーが、失われだしているのではないかと思います。家の中にまでクマが入ってくることも珍しくない。
本来は、クマが先に身を引いていたのに
 考えてみると、クマの側は、たとえば登山者がクマに気がつくよりも、ずっと早い段階で、先に人間の存在を把握しているはずなんです。
 で、先にクマが、身を引いていた。

 ところが接触情報が増えたということは、人間の存在に早くから気づいていても、それを気に掛けないクマが増えたんだと思います。
 あるいは、日常的に人間を遠目、近目で見てきているから、その調子で人家まで到達しても恐れなくなってきた。
 それが、人間の側から見ると、この事態の進行に気づかなかったために、突然いっせいに、クマが人家そばまで、頻繁に現われ始めた! となる。人間がクマをけん制し、クマも人間をかわし近づかず、遠巻きにする。そういう間合いが、人間の生産活動で維持されてきたのに、その人間の営みが山里では大きく衰えてきている。

 こうなると、人とクマとの距離感・緊張感が変なことになってきて、
 ヒトから見て意外な行動に出るクマや、
 クマから見て、ちっとも怖くない人間、
などが、多くなってきて、
 それで、今度のような事件が起こるのかな? と、また考えてしまいました。

 尾瀬などでは捕獲したクマにお仕置きを見舞って、人の怖さをしっかり刷り込んでから解放しているそうです。

 登山者は、熊に遭遇しかけたり、出合ったときの自分個人のおこないで、
 わが身を守ったとか、
 不幸にも襲われたとか、
 いろいろ教訓化をするわけですが、実はずっと深い双方の関係づけの変化のなかで、今の異変が起こっているように感じます。
クマがすむ森でも、いままでにない変化が進行している
 変化は、クマがすむ森でも進んでいます。
 本州のツキノワグマについては、次のような証言があります。

 「世界自然保護基金」のサイトの、「地球温暖化を防ぐ」シリーズから、「目撃者の証言:失われる白神山地・ブナの森」というレポートを紹介します。
http://www.wwf.or.jp/activities/climate/witness/2008/10/20081015jpn.html

 証言者は、白神山地でブナの森とつきあってきた元マタギ(猟師)工藤光治さん。
工藤さんは、クマの出没数の増大などにふれたうえで、次のように述べています。

*********

さまざまな森の異変の中で、私が最も気になっているのは、ブナの実を食べる虫が白神全体で大発生していることです。
ブナの実は、三角の形をした爪の先程の小さな実ですが、栄養価が高く、味も良いのが特徴です。秋になると、小鳥やネズミ、サルなどが好んで食べますし、私たちも山へ入ったときは、おやつ代わりによく食べます。特にクマはこの実が大好きで、わざわざ ブナの木に登って食べるほどです。

平均寿命が約250年のブナは、育ちの早い木でも、50年経たなければ実をつけません。実をつけるようになると、3年から5年ごとに栄養を蓄えながら花を咲かせます。豊作の年には、1本のブナで2万個の種を落とすと言われています。
しかし、近年のように、実るまでに虫に食べられてしまうと、ブナは子孫を繁栄させようとして、その次の年も花を咲かせてしまいます。その繰り返しが8年くらい続いています。これを見ていると、私は、ブナが疲れて実をつけなくなってしまうのではないかと心配しています。また、周辺の栄養源もなくなってしまうのではないかと心配です。

影響はクマにも及んでいます。クマは、初夏に交尾をし、秋にたくさん食べて、栄養満点になると初めて受精卵が子宮に着床し妊娠します。しかし、ブナやどんぐりの実が不作だと、十分な食べ物が得られず、仔が産まれません。里に出てくるクマが多くなったのは、ブナの森に限らず、何か森に異変が起きている影響なのではないでしょうか。

・・・(以下は、「世界自然保護基金」の解説)
 環境省が2008年6月18日に発表した「気候変動への賢い適応〜地球温暖化影響・適応研究委員会報告書〜」によると、環境要因からブナ林の分布確率を予測する分類樹モデルによる解析では、現在ブナ林が分布する地域における分布領域は、2031〜2050年には、最悪のシナリオでは44%に減少し、そして2081〜2100年には、最悪シナリオで7%にまで減少すると予測されています。白神山地でも、ブナ林の分布適域は大きく減少すると予想されます。
 引用終わり。
***********
クマもまた、森のすみかを狭められつつある
 やはり、日本の森でクマを結果的に追いたてるような何かが起こっているのだと思います。
 その原因は、どこでも一律ということでなく、地域ごとにいろいろな現われをしているのでしょう。
 温暖化の進行とブナ林の急激な縮小の問題は、ここで紹介した虫の介在の問題のほかに、積雪量や降水量の変化の角度からも、研究がすすめられています。

 森のなかで、クマもまた、今の時代の試練に直面しているのかもしれません。
 こういうときに大事なことは、出没したクマの対処で悩むだけでなく、いまクマの生息地や生活に何が起こっているのか、おおもとをしっかり調べることではないかと思います。

 人間と接触するのは、クマにとっても不幸な結果になる場合が多い。
 ふつうでない行動に出るクマもいることもある。
 登山者の側でも、ときに相手を落ち着かせ、またときには毅然と対することが必要です。大雪や知床で奨励されているように、結果的にクマの餌付けにならぬよう、登山者の食糧や生ごみの管理も重要です。

 そして、クマがなぜ、人間との距離感をとれなくなってきたのか? 
 その原因と背景を考えながら、森で暮らす生き物たちに接していきたいと思います。
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