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更新日:2013年09月16日 訪問者数:6552
ジャンル共通 技術・知識
09年トムラウシ遭難――「最終報告書」にみる低体温症への対応
トムラウシ遭難については、2010年3月に、山岳ガイド協会の最終報告書が出されました。多くの登山者に読んでいただきたい、たいへん重要な遭難事故報告書となったと思います。私のヤマレコ日記から、当時の内容をそのまま再録します。残念なことですが、低体温症による比較的大きなパーティーの遭難は、その後も後を絶ちません。 真夏の山でも起こりうる、登山者にとってとても身近な山の危険として、多くの方が、トムラウシ、および最近では2012年の白馬岳遭難の事実経過を知っていただきたいと思います。
tanigawa
昨年7月16日のトムラウシ山遭難事故から、まもなく1年になります。
 あのとき私は、事故の救助活動の模様をつたえる翌17日朝のテレビで、この遭難を知りました。状況からすぐ思い浮かべたのは、この数年、北海道のツアー登山などで繰り返されてきた低体温症による遭難死でした。そこで、昼すぎに、次の内容をヤマレコ日記にアップしました。

 トムラウシ遭難――低体温症とツアー登山、2つの問題
 http://www.yamareco.com/modules/diary/990-detail-3691

 この事故の経過が明らかになるにつれて、低体温症の実態、その独特の怖さを私自身も再認識しました。「疲労凍死」「気象遭難」とされた過去の遭難死の、本当の原因について、多くの登山者が新しい認識をすすめる契機になった出来事でもありました。

 その後、日本山岳ガイド協会は、トムラウシ山遭難事故調査特別委員会を設け、昨年11月に「中間報告書」をまとめました。
 トムラウシ山遭難事故。山岳ガイド協会の中間報告書にみる「低体温症」の実際
 http://www.yamareco.com/modules/diary/990-detail-5521

 私はこのスレッドの最後のところで、「中間報告書」の内容と構成にたいして2つ、意見を書きました。
 1つは、低体温症の脅威と対応を登山界全体が認識できる体系的な構成にしてほしい、ということです。
 報告書は、低体温症が、犠牲者の直接の死因であることを指摘しながら、このパーティーが低体温症にたいしてどう認識し、どう備え、どう現場で対応したのかについて、一貫した視点での記述と総括が不十分だったからです。そのために、この中間報告書はマスコミに、ガイドのスキル、力量不足一般に原因があったとして報道されてしまいました。中身はけっしてそういうものではなかったのに。

 この遭難の最大の原因は、ベテランの領域に入ったリーダー・ガイドをふくめ参加者の全員が、低体温症の脅威について認識がなく、無警戒だったことでした。ほんの数年前に、同じ山で同じ季節に、2つのパーティーが低体温症で死亡者を出していたことも、全員が知りませんでした。不幸だったのは、そのリーダーが遭難にいたる最初の段階で、低体温症の症状である判断不能に陥り、別のガイドも渡渉で転倒して低体温症に続いて陥り、パーティが瓦解したことでした。これではガイドのスキルの発揮どころではありません。
 中間報告書は、経過の記録や専門家の詳細な調査から、この原因が読みとれる内容があるのに、大事な問題が部分部分に埋もれてしまっていました。

 2つめは、原因の一端をガイドの力量に求めるのならば、ガイドの水準、認識を向上させ、ガイドが参加者の命にかかわる問題で的確な判断を保障しうる制度が必要ではないか、ということです。
 ガイドは人の命を預かるのですから、当然にも営利優先となる会社からは独立した立場で、安全の可否を判断しなければならない。ツアー登山には、専門的なガイドを配置することを義務付け、ガイドの判断によってその地位や生活が脅かされない立場を保障する、そういう制度を提言してほしいということです。
 実際上は、停滞、中止の判断が保障されていない不安定な地位にガイドはいます。停滞の予備日もないもとで、無理が先に立つ判断を強いられる。避難小屋を出発しないと、同社の次のツアー団体が、その小屋に入ってくる……。
 こういう抜本的な改善がなければ、事故のたびに個々のガイドが司法で裁かれてきただけという状況は、ちっとも変わらず、同じことが繰り返される。


 今年3月、「最終報告書」が出ました。
 http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf
 この間にいろいろなところから意見がよせられ、検討がすすめられたのだと思います。最終報告書では、私が思ってきた第1の点は、大幅と言っていいくらいに内容と構成が拡充されました。
 第2のガイドの地位の問題は、現状ではいけないという認識は反映されて旅行会社に管理運用上の改善策を提起しています。ガイド団体にもスキルアップの角度から提案しています。しかし、これだけでは運用上の範囲にとどまり、旅行会社の自由裁量になってしまう。制度問題と法的なルールに踏み込んだ内実が提言されないと、旅行会社は動かないと思います。もっと大胆に提起して、世論を喚起してほしかったと思います。

 しかし、そういうことはあっても、最終報告書は、多くの登山者がこの大量遭難事故のななから、低体温症の脅威と備え、リーダーが果たすべき役割、日本の登山界のなかでのガイドの地位と力量の向上を考えるうえで、他に替わるものがないほどの、大事な事実と探究、痛切な教訓がおさめられていると思います。登山者にとって、とても大事なレポートです。

 このスレッドでは、最終報告書のなかから、とくに低体温症への対応を中心に、事故にかかわる新しい事実、登山者として学んだ大事な点を、いくつか紹介していきます。 
 形式上、最終報告書からの紹介と検討が順にすすみますが、みなさんとともに考えていきたい問題ですので、いろんな角度からのコメントをいただくのはもちろん歓迎します。

 (画像は、ランドサット衛星画像と国土地理院数値地図をもとに、カシミール3Dで描いたトムラウシ山西面、カウンナイ川)

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トムラウシ山遭難事故調査報告書の構成

はじめに―トムラウシを他山の石として 3
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会設置経緯と経過 4
遭難事故パーティ行動概要 6
遭難事故後の現地調査レポート 28
遭難事故要因の抽出と考察 36
今後のガイド、旅行業界および登山界に対する提言 44
低体温症(Hypothermia)について 49
低体温症の考察 56
運動生理学的の観点から見た本遭難の問題点と今後に向けての提言 64
気象から見た本遭難の状況および問題点 80
伊豆ハイキングクラブの動向 89
空から見たトムラウシ山 23
トムラウシ山現地調査レポート写真 24
トムラウシ山周辺地図 26
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