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更新日:2022年01月27日 訪問者数:1150
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第2部 北アルプス、 2−24章 雪倉岳、朝日岳周辺と、栂海新道沿いの地質 −古生代〜中生代の堆積層からなる山々―
ベルクハイル
図1 白馬岳ー雪倉岳ー朝日岳ー蓮華温泉付近の「地質図」
青い▲印は、中央部;雪倉岳。中央下部;白馬岳、小蓮華岳、中央やや上;朝日岳


[地質 凡例]
・くすんだ水色;「白馬岳層」(ペルム紀 浅海堆積岩層)
・青紫色;蛇紋岩類(超苦鉄質岩類)
・くすんだ濃い緑色;「蓮華変成岩類」(高圧変成岩)
・中央部の、オレンジ色地帯:流紋岩質の火山岩(白亜紀)、(白馬鑓ヶ岳、杓子岳の続きに相当)
・薄い黄色(中央やや下、鉢が岳付近);デイサイトー流紋岩質の溶岩(新第三紀 中新世)
・赤紫色(雪倉岳山頂部など);ハンレイ岩(ペルム紀)

・図の右側のオレンジ、薄いオレンジ色;白馬大池火山の噴出物(第四紀)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
図2 栂海新道沿いの「地質図」
図の中央部の青い▲印;犬ヶ岳、下の青い▲印;旭岳、中央最上部の海と接する場所;親不知

[地質 凡例]
・薄いグリーン;来馬層群(ジュラ紀、陸成堆積岩層)
・くすんだ水色(図の下手);「白馬岳層群」(ペルム紀 浅海成堆積岩層)
・くすんだ濃い緑色;「蓮華変成岩類」(高圧変成岩)
・青紫色;蛇紋岩類(超苦鉄質岩類)
・薄いオレンジ色(犬が岳より北の部分);白亜紀、陸成堆積岩層
・オレンジ色(親不知付近);「親不知火山岩類」(白亜紀、安山岩〜玄武岩質溶岩)
 (※ 文献4では、「安山岩質の礫岩堆積層」とされている)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
雪倉岳を望む
なだらかな稜線で、足元には堆積岩(白馬岳層)由来の礫が多い。

なお雪倉岳の山頂部は、ハンレイ岩でできており、浸食に強いためか、周囲より高い残丘状となっている。

(筆者撮影)
雪倉岳の東北面
カール状地形が望める

(筆者撮影)
雪倉岳ー朝日岳縦走路
「周氷河作用」によって形成された、なだらかな地形であることが良く分かる
遠景は朝日岳


(筆者撮影)
朝日岳
雪倉岳に似て、丸っこいピーク。
山頂部は堆積岩(白馬岳層)で出来ている

(筆者撮影)
朝日岳東面にある、五輪高原
産総研「シームレス地質図v2」によると、この「五輪高原」は蛇紋岩で出来ている。
平坦な地形は、地滑り地形の可能性もある。

またこの高原の一部には、産総研「シームレス地質図v2」によると、蓮華変成岩が顔を出している場所がある。

(筆者撮影)
(はじめに)
 この章では、白馬岳の北の稜線にある、雪倉岳、朝日岳とその周辺、および栂海新道(つがみしんどう)沿いの地質、地形について説明します。

 白馬岳は言うまでもなく北アルプスを代表する名山ですが、その北にある雪倉岳(標高:2610m)、朝日岳(標高:2418m)まで足を延ばす登山者は比較的少なく、静かな山歩きができます。
 一方、この付近は冬場の積雪量が多いためだと思われますが、夏場にも残雪が多く残り、雪田の周辺などにお花畑が広がり、残雪とお花畑が楽しめる領域です。
 この付近は、この連載でいうところの「蓮華帯」ゾーンに属し、古い地質で構成されています。

 また、朝日岳から日本海の親不知まで続く栂海新道(つがみしんどう)は、(私は残念ながら通ったことがありませんが・・)、健脚向けコースとして知られています。
 この登山コース沿いは、標高が低めなので植生で覆われていますが、古い地質が多い場所なので、途中の犬ヶ岳(標高:1592m)付近の地質やその先の親不知までの地質も、この章で説明します。
1)雪倉岳、朝日岳周辺の地質概要
 雪倉岳、朝日岳、蓮華温泉付近は、大まかに言うと、
   1)「白馬岳層」:ペルム紀 海成堆積層
   2) 蛇紋岩類:マントル由来の、超苦鉄質岩類
   3)「蓮華変成岩」;結晶片岩、デボン〜ペルム期に変成。
 の3つが、主な地質です。
 
 これらの地質体は、「白馬岳層」の中に、蛇紋岩類、「蓮華変成岩」が、細切れに入っているような分布を示します。

  白馬岳山頂から稜線沿いに北東に行くと、三国境という分岐がありますが、そこから先の地質を、登山ルートに沿って説明します。

 まず三国境(標高:2751m)あたりは、比較的新しい、第四紀の花崗岩類で出来ています。その先、鉢が岳(標高:2563m)というピークのすそを登山道は通りますが、鉢が岳とその近辺は、新第三紀 中新世の、デイサイト〜流紋岩質の火山岩で出来ています。これは、白馬岳の項で述べた、杓子岳や白馬鑓ヶ岳を作っている火山岩と同じです。地形的には周辺部から急に立ち上がったような感じで、地形学的には「残丘」の一種ではないかと思います。

 そこを過ぎると、少し「白馬岳層」のゾーンを通ったのち、雪倉岳への登りとなりますが、雪倉岳の山頂部は、南側が、火成岩の一種であるハンレイ岩(ペルム期に貫入)でできており、雪倉岳の北側は、蛇紋岩類でできています。
 雪倉岳も、白馬岳層の堆積岩層よりは浸食に強いハンレイ岩で出来ているために「残丘」として、高まりを作っているのではないかと思われます(この段落は私見です)。

 なお、雪倉岳の北東側にはカール状地形があります。山頂部からは見えずらいのですが、少し離れた朝日岳ー蓮華温泉間の登山道からは、良くその形が見て取れます。

 その後、朝日岳までは、蛇紋岩ゾーンと、「白馬岳層」とが交互にでてきますが、足元はザレが多くて岩質の変化はあまり解りません。

 朝日岳の山頂部は、「白馬岳層」でできています。
 朝日岳の頂上の西には、北アルプス北部での最後の有人小屋である「朝日小屋」があります。栂海新道を行く人や、蓮華温泉へと下る登山者たちにとって、良い拠点となっています。


 朝日岳山頂から蓮華温泉へと下る道は、蛇紋岩ゾーンと、「白馬岳層」のゾーンが交互にでてきますが、途中、標高 約1700m付近の「五輪高原」と呼ばれる緩やかな高原状の場所は、産総研「シームレス地質図v2」によると、大部分が蛇紋岩類でできており、地滑りによってできた高原状地形かもしれません(私見を含みます)。

 また五輪高原の一部には、古生代の高圧変成岩である「蓮華変成岩」(結晶片岩)が、蛇紋岩体に囲まれるようにして分布しています。おそらく、北アルプスの一般登山道沿いでは数少ない、「蓮華変成岩」(結晶片岩)が見られる場所ではないか、と思われます。

 「蓮華変成岩」類は、前の章でも説明したとおり、古生代の付加体の一部が地下深部で高圧変成作用を受けたものであり、日本列島における沈み込み帯での付加体としては、最も古い時代のものです。

 全体的にみると、ペルム紀の堆積層である「白馬岳層」の中に、蛇紋岩体と「蓮華変成岩」が、混じっているような分布を示しています。「白馬岳層」も、「蓮華変成岩」も、古生代にできた古い地層群です。

 「白馬層群」、「蓮華変成岩」、蛇紋岩 いずれも前の章で細かい説明をしましたので、詳細は省きますが、ここでいう「蓮華帯」ゾーンの代表的な地質が分布している、興味深いゾーンです。
2)犬ヶ岳、および栂海新道沿いの地質
 朝日岳の山頂から、はるかかなた、日本海沿いの親不知まで、全長 約25kmにわたって栂海新道(つがみしんどう)という登山道があり、健脚者向けのルートとして知られています。

 この栂海新道沿いの地質は、産総研「シームレス地質図v2」によると、まず朝日岳と犬ヶ岳の中間あたりに、地質境界があります。朝日岳から中間点までは、先に述べた「白馬層群」と蛇紋岩が分布しています。

 その先は、「来馬層群」(くるまそうぐん)注1)と呼ばれる、ジュラ紀の堆積岩の地質になります。「来馬層群」の地質は、犬ヶ岳を中心として、東西 約15km、南北 約10km 程度の範囲に分布しています。
 「来馬層群」は構造的下位の、蓮華変成岩類や超苦鉄質岩類を不整合に覆っており、蓮華変成岩や超苦鉄質岩の礫を含んでいます(文献3)。
 ・・ということは、蓮華変成岩や超苦鉄質岩類は、「来馬層群」ができたジュラ紀前半より前にはすでにこの部分の地表に出ており、その後に、「来馬層群」が堆積したと考えられます。

 なお、犬ヶ岳からさらに北方の白鳥山(標高:1287m)あたりまで、「来馬層群」の領域ですが、この付近はおそらく、樹林帯となっているし、地質的にも砂岩、泥岩なので、地表はそれらが風化した土壌になっているため、歩いていても地質的には特徴はないのではないか、と思われます。

 さらに白鳥山より北の栂海新道は、親不知に向け標高を下げていきますが、足元の地質は複雑に変化します。
 産総研「シームレス地質図v2」で地質を細かく見てみると、白鳥山より先は、まず、蓮華変成岩と蛇紋岩が交互に分布する地域があり、その先は白亜紀の堆積層(砂岩、礫岩が主体)になります。
 この白亜紀堆積層は、(文献4)によると、一部は手取層群最上部に相当する層(水上谷層、黒菱山層:123-109Ma)ですが、一部は手取層群とは堆積年代が異なるさらに若い層(尻高山層、内山層;110-97Ma)に、2区分されるようです。
 最後に、入道山(標高;約400m)から親不知の海岸部までは「親不知層」注2)と呼ばれ、白亜紀の、安山岩質堆積岩(凝灰角礫岩を主体とする)で出来ています(文献4)。
 

 「来馬層群」は、(文献1)によると、ジュラ紀前半(約2.0億年前〜約1.8億年前)の、内陸性(河川堆積物、扇状地堆積物)の正常堆積層(整然層)であり、前に述べた白亜紀の手取層群と、時代は違いますが、性状はよく似ています。堆積層は主に砂岩、泥岩からできており、ジュラ紀の生物化石(植物化石、アンモナイト化石や、恐竜の足跡化石 :(文献5))が見つかっています。当時のこの一帯は、淡水性の盆地状地形だったと考えられており、層厚はトータル 約5000mにのぼるといいます。
 



注1)来馬層群;
 「来馬(くるま)」とは、姫川流域の地名です。犬が岳付近以外に、来馬地区にも来馬層群が分布しているために、「来馬層群」という名がつけられたようです。

注2)親不知層;
  「親不知層」は、産総研「シームレス地質図v2」では、「安山岩系の火山岩」と書かれています。


   ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
3)白馬北方稜線部の山々の、地形学的な特徴
 雪倉岳、朝日岳付近の地形は、白馬岳付近の顕著な非対称山稜とは違い、緩やかな稜線や丸っこいピークが特徴的です。

 これらの地形は、氷河期において、強い寒冷な気候で働く「周氷河作用」にて、地表の岩石が細かく砕かれて、穏やかな山容になったものです。
 現在でも、夏場でも残雪が多いところを見ると、「周氷河作用」が継続して作用しているように思われます。

 (文献5)によると、雪倉岳付近は、日本の地形学において、20世紀初め頃に、高山地形の研究が始まった場所だそうです。特に氷河期の「周氷河作用」の研究のフィールドとしてかなり研究されたようです。

 また前の節でも述べたように、雪倉岳の北東側には小規模なカールも確認されています。
(参考文献)
文献1)町田、松田、海津、小泉 編
    「日本の地形 5 中部」 東京大学出版会 刊(2006)
     のうち、第4部  「来馬層群・手取層群」の項。


文献2)中野、竹内、吉川、長森、刈谷、奥村、田口
     「地域地質研究報告 金沢(10)第25号 NJ-53-5-4」
     (独)産業技術総合研究所 地質調査総合センター 刊 (2002)
    「白馬岳地域の地質」のうち、
     「超苦鉄質岩」、「蓮華変成岩類」、「白馬層群」、「来馬層群」の各項     
 
   https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_10025_2002_D.pdf
     

文献3)長森、竹内、古川、中澤、中野
     「地域地質研究報告 金沢(10)第19号 NJ-35-5-3」
      (独)産業技術総合研究所 地質調査総合センター 刊 (2010)
     「小滝地域の地質」のうち、
     「超苦鉄質岩」、「蓮華変成岩類」、「白馬層群」、「来馬層群」の各項。
   
   https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_10019_2010_D.pdf


文献4)竹内、大川、川原、富田、横田、常盤、古川
     「ジルコン U-Pb年代からみた、富山県北東部 白亜系陸成層の再定義」 
      地質学雑誌、第121巻、p1-17 (2015)

  https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/121/1/121_2014.0046/_article/-char/ja/
      (J-stage のページにリンク)


文献5)小谷村 ホームページより 「恐竜足跡化石」の項  
                         (2020年8月 閲覧)
    
  https://www.vill.otari.nagano.jp/www/contents/1001000000200/index.html

    
文献6)小泉、清水 共著
    「山の自然学入門」古今書店 刊 (1991)
     のうち、「雪倉岳」の項。
【書記事項】
初版リリース;2020年8月31日
△改訂1;文章見直し、一部加筆修正。
     山のデータ追加。2−1章へのリンクを追加。
書記事項の項を新設、記載。
△最新改訂年月日;2022年1月27日
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