(はじめに)
関東西部の山々のうち、群馬県西部の山々は、広い意味では関東山地の一部ですが、登山界用語で「西上州の山々」と古くから言い慣わされています。
(文献1)によると、群馬県南西部、鏑川(かぶらがわ)流域、神流川(かんながわ)流域の山々を西上州の山々としています。
この地域の山々は、標高は低いものの、岩峰が多いことと、鄙びた山村風景が魅力となっています。
また、地質学的にも、5−10章までで紹介した関東山地主要部とは異なり、火山性の岩石、地質がかなりの部分を占めています。
この章では、西上州の山々とその周辺の火山活動の歴史概要を説明したのち、主要な山(妙義山、荒船山)についても説明します。
なお、それ以外にも説明したいことがありますが、長くなるので次章にて説明します。
(文献1)によると、群馬県南西部、鏑川(かぶらがわ)流域、神流川(かんながわ)流域の山々を西上州の山々としています。
この地域の山々は、標高は低いものの、岩峰が多いことと、鄙びた山村風景が魅力となっています。
また、地質学的にも、5−10章までで紹介した関東山地主要部とは異なり、火山性の岩石、地質がかなりの部分を占めています。
この章では、西上州の山々とその周辺の火山活動の歴史概要を説明したのち、主要な山(妙義山、荒船山)についても説明します。
なお、それ以外にも説明したいことがありますが、長くなるので次章にて説明します。
1)西上州での火山活動の歴史
西上州地区での火山活動の歴史は、いくつかの文献を調べてみましたが、それぞれに若干、差異がありました。統一した見解が無いので、私はいずれも「仮説」とみなします。以下、各文献の内容ごとにそれぞれの「仮説」を説明します。
仮説1) (文献2)「日本の地形 第4巻 関東・・」に基づく「仮説」
(文献2)によると、まずこの付近では、新第三紀 中新世末の、約9Ma〜約5Maに火山
活動が活発化し、安山岩質溶岩や凝灰角礫岩からなる地層(ここでは「火山岩層A」と
略称します)が形成された、とされています。
続いて、約3.5Maには、妙義山と荒船山の中間付近、今の本宿(もとじゅく)集落
付近を中心として大火山が巨大噴火を起こし、デイサイト質の溶結凝灰岩層がその周辺
に広く形成され、(火山岩層A)の上を覆った、とされています(ここでは「火山岩層B
」と略称します)。
(文献2)の図によると、現在では上層である(火山岩層B)はかなり浸食を受けて
おり、西上州地区では、本宿集落の南西側に部分的にあるだけで、ほかには長野県佐久
側と、浅間山の東側に分布している、と図示されています。
また(文献2)の図によると、(火山岩層A)は、(火山岩層B)の下層になっていた
ために、西上州地区ではわりと残存しているように図示されています。
わりと広く残っているのは妙義山とその周辺で、この地区の火山岩は約7-5Maに
噴出した火山岩、とされています。
仮説2)(文献3)「下仁田ジオパーク」サイトでの解説に基づく「仮説」
(文献3)の解説に基づくと、まず本宿付近を中心とした大きな火山が形成され、
約9.5Maに巨大噴火を起こしたのち、半径10km程度のカルデラを形成した、
とされています。これは「本宿(もとじゅく)カルデラ」と呼ばれています。
ただし、阿蘇山のようになべ底状の凹みは見られないことから、地形的には
典型的なカルデラ地形ではありません。
(文献3)では、カルデラが形成されたのちに、カルデラ内に火山性堆積物が
溜まって、凹み部分は埋めたてられたと考えられており、
このような埋め立てられたカルデラ(いわばカルデラの化石)は、地質学用語では
「コールドロン」と呼びます。
その後、カルデラ内では引き続きいくつかの火山が生まれ、火山活動が継続した、
とされています。
さらに約7Maにも、ほぼ同じ場所を中心とした、カルデラを形成する巨大噴火が
起き、一回目のカルデラより一回り小さい、半径5kmほどのカルデラが形成された、
とされています。
その後、本宿付近での火山活動は約6Maには沈静化した、とされています。
なお、(文献3)は一般の人向けに書かれた説明であり、
その元となるべき論文は明示されていません。
仮説3) (文献4)(文献5)、産総研 佐藤先生の研究による「仮説」
(文献4)、(文献5)とも、当時 産総研に所属されていた佐藤興平先生に
よる、2004-2005年にかけての論文です。
これらの論文によると、妙義山、荒船山、さらに長野県の佐久地方の一部は、
「本宿カルデラ火山」の噴出物によって形成されている、とされています。
(文献4)では、本宿カルデラ火山の噴出物である本宿層の形成年代について、
十数点の測定データ(K−Ar法による)注1)が示されています。
それによると約6Ma〜約2.5Maにかけて、本宿カルデラ火山が活動して、本宿層と
呼ばれる火山性の地質が西上州一帯に形成された、とされています。
妙義山、荒船山とも、この本宿層と呼ばれる火山岩類でできている、とされて
います。
上記1)2)、3)の各「仮説」ともに、妙義山と荒船山との中間辺りに火山活動の中心があり、中新世末〜鮮新世(9Ma〜2.5Ma)にかけて、そこからの火山噴出物が西上州一帯、および妙義山、荒船山を形成したという点では、類似した「仮説」です。
ただし火山噴出の生じた時代、場所、噴火回数などについて、異なる考え方が示されており、私にはどれが正解かは解りません。
さらに、(3)節「妙義山」の項で触れますが、妙義山を構成している火山岩は、本宿カルデラ噴出物ではなく、独立した火山(古 妙義火山)によるもの、という仮説もあります。
※ ”Ma” は、百万年前を意味する単位
仮説1) (文献2)「日本の地形 第4巻 関東・・」に基づく「仮説」
(文献2)によると、まずこの付近では、新第三紀 中新世末の、約9Ma〜約5Maに火山
活動が活発化し、安山岩質溶岩や凝灰角礫岩からなる地層(ここでは「火山岩層A」と
略称します)が形成された、とされています。
続いて、約3.5Maには、妙義山と荒船山の中間付近、今の本宿(もとじゅく)集落
付近を中心として大火山が巨大噴火を起こし、デイサイト質の溶結凝灰岩層がその周辺
に広く形成され、(火山岩層A)の上を覆った、とされています(ここでは「火山岩層B
」と略称します)。
(文献2)の図によると、現在では上層である(火山岩層B)はかなり浸食を受けて
おり、西上州地区では、本宿集落の南西側に部分的にあるだけで、ほかには長野県佐久
側と、浅間山の東側に分布している、と図示されています。
また(文献2)の図によると、(火山岩層A)は、(火山岩層B)の下層になっていた
ために、西上州地区ではわりと残存しているように図示されています。
わりと広く残っているのは妙義山とその周辺で、この地区の火山岩は約7-5Maに
噴出した火山岩、とされています。
仮説2)(文献3)「下仁田ジオパーク」サイトでの解説に基づく「仮説」
(文献3)の解説に基づくと、まず本宿付近を中心とした大きな火山が形成され、
約9.5Maに巨大噴火を起こしたのち、半径10km程度のカルデラを形成した、
とされています。これは「本宿(もとじゅく)カルデラ」と呼ばれています。
ただし、阿蘇山のようになべ底状の凹みは見られないことから、地形的には
典型的なカルデラ地形ではありません。
(文献3)では、カルデラが形成されたのちに、カルデラ内に火山性堆積物が
溜まって、凹み部分は埋めたてられたと考えられており、
このような埋め立てられたカルデラ(いわばカルデラの化石)は、地質学用語では
「コールドロン」と呼びます。
その後、カルデラ内では引き続きいくつかの火山が生まれ、火山活動が継続した、
とされています。
さらに約7Maにも、ほぼ同じ場所を中心とした、カルデラを形成する巨大噴火が
起き、一回目のカルデラより一回り小さい、半径5kmほどのカルデラが形成された、
とされています。
その後、本宿付近での火山活動は約6Maには沈静化した、とされています。
なお、(文献3)は一般の人向けに書かれた説明であり、
その元となるべき論文は明示されていません。
仮説3) (文献4)(文献5)、産総研 佐藤先生の研究による「仮説」
(文献4)、(文献5)とも、当時 産総研に所属されていた佐藤興平先生に
よる、2004-2005年にかけての論文です。
これらの論文によると、妙義山、荒船山、さらに長野県の佐久地方の一部は、
「本宿カルデラ火山」の噴出物によって形成されている、とされています。
(文献4)では、本宿カルデラ火山の噴出物である本宿層の形成年代について、
十数点の測定データ(K−Ar法による)注1)が示されています。
それによると約6Ma〜約2.5Maにかけて、本宿カルデラ火山が活動して、本宿層と
呼ばれる火山性の地質が西上州一帯に形成された、とされています。
妙義山、荒船山とも、この本宿層と呼ばれる火山岩類でできている、とされて
います。
上記1)2)、3)の各「仮説」ともに、妙義山と荒船山との中間辺りに火山活動の中心があり、中新世末〜鮮新世(9Ma〜2.5Ma)にかけて、そこからの火山噴出物が西上州一帯、および妙義山、荒船山を形成したという点では、類似した「仮説」です。
ただし火山噴出の生じた時代、場所、噴火回数などについて、異なる考え方が示されており、私にはどれが正解かは解りません。
さらに、(3)節「妙義山」の項で触れますが、妙義山を構成している火山岩は、本宿カルデラ噴出物ではなく、独立した火山(古 妙義火山)によるもの、という仮説もあります。
※ ”Ma” は、百万年前を意味する単位
3)荒船山
荒船山は、平たんな頂稜部を持ち、その周辺は断崖になっている特異な姿をしており、よく航空母艦になぞらえられます。その特徴的な姿は、はるか上越新幹線の車窓からも望めます。
荒船山は南側に最高点(経塚山;1423m、(京塚山とも書く))があり、中間部は平坦で、北端部は艫岩(ともいわ)と言われる大岩壁になっています。
ここではしばしば墜落事故が起きており、有名な漫画家の方もここで墜落して亡くなられたことは、ご承知の方も多いでしょう。
荒船山の地質を詳しく研究した(文献5)によると、荒船山の地質は4層になっています。下から順番に、a)安山岩質火砕岩、b)湖成層の泥岩、砂岩、凝灰岩、c)安山岩質溶岩、d)デイサイト質溶岩という構成になっています。
このうちc層)は、厚さが最大120mほどあり、荒船山の北端である艫岩を含め、荒船山山稜部の平坦な地形を形成しています。
b層)は非火山性の堆積岩ですが、これは本宿カルデラが形成されたのち、火山活動が一時的におさまって、カルデラ内が湖(カルデラ湖)となり、そこに周辺から土砂が堆積したと推定されています。
d層)は、経塚山の山頂部を形成している部分で、(文献5)でのK-Ar法による測定によると、約2.2Maという値が得られています。
荒船山は、本宿カルデラの南西の縁に位置しており、上記の地層のうち、c)層は、本宿カルデラ火山からの噴出物と考えられています。またb)層は湖成層なので、その時代、荒船山が位置している場所はカルデラ湖になっていたことが推定されます。
※ ”Ma” は、百万年前を意味する単位
荒船山は南側に最高点(経塚山;1423m、(京塚山とも書く))があり、中間部は平坦で、北端部は艫岩(ともいわ)と言われる大岩壁になっています。
ここではしばしば墜落事故が起きており、有名な漫画家の方もここで墜落して亡くなられたことは、ご承知の方も多いでしょう。
荒船山の地質を詳しく研究した(文献5)によると、荒船山の地質は4層になっています。下から順番に、a)安山岩質火砕岩、b)湖成層の泥岩、砂岩、凝灰岩、c)安山岩質溶岩、d)デイサイト質溶岩という構成になっています。
このうちc層)は、厚さが最大120mほどあり、荒船山の北端である艫岩を含め、荒船山山稜部の平坦な地形を形成しています。
b層)は非火山性の堆積岩ですが、これは本宿カルデラが形成されたのち、火山活動が一時的におさまって、カルデラ内が湖(カルデラ湖)となり、そこに周辺から土砂が堆積したと推定されています。
d層)は、経塚山の山頂部を形成している部分で、(文献5)でのK-Ar法による測定によると、約2.2Maという値が得られています。
荒船山は、本宿カルデラの南西の縁に位置しており、上記の地層のうち、c)層は、本宿カルデラ火山からの噴出物と考えられています。またb)層は湖成層なので、その時代、荒船山が位置している場所はカルデラ湖になっていたことが推定されます。
※ ”Ma” は、百万年前を意味する単位
3)妙義山
妙義山(最高点標高:白雲岳=1104m)は、赤城山、榛名山とともに、上毛三山に数えられ、古くから奇岩、絶壁の多い山として有名です。
また、登山界用語では、一般にいう妙義山を「表妙義」と言い、その西側に独立して並んでいる岩峰群を「裏妙義」とも言います。
ただし、赤城山、榛名山があきらかに火山らしい姿をしている一方で、妙義山は火山らしい姿ではありません。
妙義山を構成している火山岩類の噴出時期、噴出場所については、主に2つの説があります。
まず(文献4)では、荒船山が形成されたのと同じく約6-2.5Maに、この周辺で活動した火山(おそらく本宿カルデラ火山)の噴出物で構成されている、とされています。
一方(文献6)では、約8Ma〜5Maの時代に噴出した火山の噴出物と推定されており、また噴出箇所も(後述するように)本宿カルデラではなく、今の妙義山の場所で噴出活動が起きたとされています。
(文献6)による妙義山を構成する火山岩の詳細な開析によると、妙義山を構成している地質は一括して「妙義層」と名付けられています。妙義層のトータル層厚は約2300mと推定されています。
(文献6)では、妙義層はさらに詳しくは4層に細分化されていますが、4層とも地質は、安山岩質の溶岩および火砕砕屑岩類(凝灰角礫岩、軽石凝灰岩、火山角礫岩)です。
そのうち主要な地層は「中ノ岳層」と呼ばれ、表妙義、裏妙義ともに広く分布しています。「中ノ岳層」の地層厚は約1500mと推定されています。また「中ノ岳層」の形成時期は、約6-5Maと推定されています。(文献7)では、これらの安山岩質火山岩類のK-Ar法測定で、6.0Ma、4.8Ma、4.7Maの年代が記載されています。
妙義山を構成する火山岩類の地質で特徴的なのは、全体が断層によって数Kmサイズのブロック状に細分化されている点です(文献6)、(文献7)。
その他の知見も含め(文献6)では、妙義山は、本宿カルデラ噴出物で構成されているのではなく、現在の妙義山(表妙義、裏妙義を含む広い部分)の位置で噴火活動が起きて(文献6では「古妙義火山」と名称されている)、主要な火山性地質である中ノ岳層火山岩類ができたと推定しています。
またその噴出後に、妙義山は陥没してカルデラを形成し(妙義カルデラ)、その際に、上記の断層ができて地質のブロック化が進んだ、と推定しています。さらにその後、火山活動が続き、「中ノ岳層」の上部に「丁須の頭部層」(推定層厚;約300m)が堆積したと推定されています。
火山性地質である「妙義層」の各層が形成されたのち、火山活動は沈静化し、その後の長い時間の中で浸食が進んだと考えられています。
現在見えている奇岩の多い妙義山は、古い「古妙義山火山」の深層部位が露出しているものと考えられています。
ところで地形学的には、荒船山は平坦な溶岩台地状の姿なのに、妙義山は浸食が極端に進んでいる点は、一つの疑問点です。
地形学の専門書(文献2)によると、この一帯の火山活動が終息した約3Ma以降、東の関東平野へと流れる川の水系が徐々に発達するとともに、関東平野の沈降運動(関東造構盆運動)によって東側が沈降し、荒船山よりは東側に位置し、関東平野に近い妙義山は、浸食されるスピードが荒船山より速かったためであろう、と説明されています。
一方、(文献8)によると、荒船山の頂稜部には、浸食に強い分厚い溶岩層(荒船溶岩層)に覆われているために台形状の形状を保ち(地形学用語では「メサ」という)、一方で妙義山は、凝灰角礫岩など、比較的浸食に弱い火砕岩質の地質であるために浸食が急速に進んでいる、と岩質の違いにて説明されています。
また文献9)では、妙義山のうち岩峰状の部分は、上部に溶岩層があるために浸食への抵抗力が強く、それ以外の凝灰角礫岩でできた部分は、浸食によって削れれた、と説明されています。
※ ”Ma” は、百万年前を意味する単位
また、登山界用語では、一般にいう妙義山を「表妙義」と言い、その西側に独立して並んでいる岩峰群を「裏妙義」とも言います。
ただし、赤城山、榛名山があきらかに火山らしい姿をしている一方で、妙義山は火山らしい姿ではありません。
妙義山を構成している火山岩類の噴出時期、噴出場所については、主に2つの説があります。
まず(文献4)では、荒船山が形成されたのと同じく約6-2.5Maに、この周辺で活動した火山(おそらく本宿カルデラ火山)の噴出物で構成されている、とされています。
一方(文献6)では、約8Ma〜5Maの時代に噴出した火山の噴出物と推定されており、また噴出箇所も(後述するように)本宿カルデラではなく、今の妙義山の場所で噴出活動が起きたとされています。
(文献6)による妙義山を構成する火山岩の詳細な開析によると、妙義山を構成している地質は一括して「妙義層」と名付けられています。妙義層のトータル層厚は約2300mと推定されています。
(文献6)では、妙義層はさらに詳しくは4層に細分化されていますが、4層とも地質は、安山岩質の溶岩および火砕砕屑岩類(凝灰角礫岩、軽石凝灰岩、火山角礫岩)です。
そのうち主要な地層は「中ノ岳層」と呼ばれ、表妙義、裏妙義ともに広く分布しています。「中ノ岳層」の地層厚は約1500mと推定されています。また「中ノ岳層」の形成時期は、約6-5Maと推定されています。(文献7)では、これらの安山岩質火山岩類のK-Ar法測定で、6.0Ma、4.8Ma、4.7Maの年代が記載されています。
妙義山を構成する火山岩類の地質で特徴的なのは、全体が断層によって数Kmサイズのブロック状に細分化されている点です(文献6)、(文献7)。
その他の知見も含め(文献6)では、妙義山は、本宿カルデラ噴出物で構成されているのではなく、現在の妙義山(表妙義、裏妙義を含む広い部分)の位置で噴火活動が起きて(文献6では「古妙義火山」と名称されている)、主要な火山性地質である中ノ岳層火山岩類ができたと推定しています。
またその噴出後に、妙義山は陥没してカルデラを形成し(妙義カルデラ)、その際に、上記の断層ができて地質のブロック化が進んだ、と推定しています。さらにその後、火山活動が続き、「中ノ岳層」の上部に「丁須の頭部層」(推定層厚;約300m)が堆積したと推定されています。
火山性地質である「妙義層」の各層が形成されたのち、火山活動は沈静化し、その後の長い時間の中で浸食が進んだと考えられています。
現在見えている奇岩の多い妙義山は、古い「古妙義山火山」の深層部位が露出しているものと考えられています。
ところで地形学的には、荒船山は平坦な溶岩台地状の姿なのに、妙義山は浸食が極端に進んでいる点は、一つの疑問点です。
地形学の専門書(文献2)によると、この一帯の火山活動が終息した約3Ma以降、東の関東平野へと流れる川の水系が徐々に発達するとともに、関東平野の沈降運動(関東造構盆運動)によって東側が沈降し、荒船山よりは東側に位置し、関東平野に近い妙義山は、浸食されるスピードが荒船山より速かったためであろう、と説明されています。
一方、(文献8)によると、荒船山の頂稜部には、浸食に強い分厚い溶岩層(荒船溶岩層)に覆われているために台形状の形状を保ち(地形学用語では「メサ」という)、一方で妙義山は、凝灰角礫岩など、比較的浸食に弱い火砕岩質の地質であるために浸食が急速に進んでいる、と岩質の違いにて説明されています。
また文献9)では、妙義山のうち岩峰状の部分は、上部に溶岩層があるために浸食への抵抗力が強く、それ以外の凝灰角礫岩でできた部分は、浸食によって削れれた、と説明されています。
※ ”Ma” は、百万年前を意味する単位
4)その他の西上州の山々の地質
西上州の山々の魅力の一つは、標高は低いながら、あちらこちらに岩峰や、絶壁をもつ山々があることでしょう。
私自身は西上州地域に足を踏み入れたことがないので、どの山がどれくらい険しい岩峰かわかりませんが、登山地図を元に、主だった山を例示します。
まず、南牧川流域の山、岩峰で、登山地図である(文献1)で紹介されている山々としては、鹿岳(かなだけ:約900m)、トヤ山(約1000m)、大屋山(約1000m)、毛無岩(岩峰、約1200m)、立岩(約1200m)、碧岩・大岩(岩峰、1133m)があります。他にも、シラケ山(1274m)、三ツ岩岳(1032m)などがあります。
南の神流川(かんながわ)流域には、高反山(1131m)、笠丸山(1189m)、小倉山(1244m)、諏訪山(三百名山;1549m)などがあり、登山地図である(文献1)で紹介されています。
いずれの山も標高は1000〜1500m級の山々ですが、(文献1)の説明文を見ると、特に南牧川流域の山々は鋭い岩峰や痩せ尾根が多い、小粒でも険しさは一級品の山々のようです。
これらの山々の地質を、産総研「シームレス地質図v2」にて確認すると、南牧川より北にある兜岩山、鹿岳、トヤ山、大屋山、毛無岩は、荒船山や妙義山と同じく、中新世末〜鮮新世(約6〜2.5Ma)にかけて噴出した本宿カルデラ火山由来の安山岩質の火山岩類でできています。妙義山と同じく、古い岩体なので、浸食により岩峰や急斜面ができたものと思われます。
南牧川はほぼ地質境界になっており、その南側は火山性地帯ではなく、秩父帯の付加体性地質ゾーンです。このあたり全体にはメランジュ相の付加体ですが、所々に海洋プレート由来のチャート岩体や玄武岩岩体があります。
このうち、三ツ岩岳は頂上部が硬いチャート岩体、玄武岩岩体でできているために険しい山容だと思われます。三ツ岩岳の南東側にあるシラケ山(烏帽子山)や、南牧川最上流部の碧岩・大岩付近も、三ツ岩岳と同じで、山頂部やその付近の崖記号の部分は、硬いチャート岩体で出来ています。
さらに南へ下って、神流川流域の地質を確認すると、神流川上流部の川沿いは「山中地溝帯」と呼ばれる特殊な一帯で、白亜紀の海成礫岩でできています。
このあたりの山々は崖記号が少なくて、岩峰状の山は少ないように見えます。小倉山と高反山は秩父帯メランジュ相でできている山、諏訪山は、両神山から続くチャート岩体でできている山、笠丸山は、山体のほとんどがメランジュ相ですが、頂上付近がチャート岩体で出来ている山です。
※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
私自身は西上州地域に足を踏み入れたことがないので、どの山がどれくらい険しい岩峰かわかりませんが、登山地図を元に、主だった山を例示します。
まず、南牧川流域の山、岩峰で、登山地図である(文献1)で紹介されている山々としては、鹿岳(かなだけ:約900m)、トヤ山(約1000m)、大屋山(約1000m)、毛無岩(岩峰、約1200m)、立岩(約1200m)、碧岩・大岩(岩峰、1133m)があります。他にも、シラケ山(1274m)、三ツ岩岳(1032m)などがあります。
南の神流川(かんながわ)流域には、高反山(1131m)、笠丸山(1189m)、小倉山(1244m)、諏訪山(三百名山;1549m)などがあり、登山地図である(文献1)で紹介されています。
いずれの山も標高は1000〜1500m級の山々ですが、(文献1)の説明文を見ると、特に南牧川流域の山々は鋭い岩峰や痩せ尾根が多い、小粒でも険しさは一級品の山々のようです。
これらの山々の地質を、産総研「シームレス地質図v2」にて確認すると、南牧川より北にある兜岩山、鹿岳、トヤ山、大屋山、毛無岩は、荒船山や妙義山と同じく、中新世末〜鮮新世(約6〜2.5Ma)にかけて噴出した本宿カルデラ火山由来の安山岩質の火山岩類でできています。妙義山と同じく、古い岩体なので、浸食により岩峰や急斜面ができたものと思われます。
南牧川はほぼ地質境界になっており、その南側は火山性地帯ではなく、秩父帯の付加体性地質ゾーンです。このあたり全体にはメランジュ相の付加体ですが、所々に海洋プレート由来のチャート岩体や玄武岩岩体があります。
このうち、三ツ岩岳は頂上部が硬いチャート岩体、玄武岩岩体でできているために険しい山容だと思われます。三ツ岩岳の南東側にあるシラケ山(烏帽子山)や、南牧川最上流部の碧岩・大岩付近も、三ツ岩岳と同じで、山頂部やその付近の崖記号の部分は、硬いチャート岩体で出来ています。
さらに南へ下って、神流川流域の地質を確認すると、神流川上流部の川沿いは「山中地溝帯」と呼ばれる特殊な一帯で、白亜紀の海成礫岩でできています。
このあたりの山々は崖記号が少なくて、岩峰状の山は少ないように見えます。小倉山と高反山は秩父帯メランジュ相でできている山、諏訪山は、両神山から続くチャート岩体でできている山、笠丸山は、山体のほとんどがメランジュ相ですが、頂上付近がチャート岩体で出来ている山です。
※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
注1)元素分析を元にした、地質(岩石)の形成年代測定について
古くは地質の形成年代は、堆積岩に含まれる化石によって判断されていました。
よって火山岩や変成岩など、化石を含まない地質の年代測定は困難なものがありました。
20世紀後半になって、元素分析技術の進歩に伴ない、地質(岩石)に含まれる元素の量や
比率に基づいて、その地質(岩石)の形成年代を測定する方法が大きく進歩しました。
地質学で使われる代表的な手法は、K−Ar(カリウムーアルゴン)法(文献10)、U−Pb(ウランー鉛)法(文献11)などです。
詳細を述べると、煩雑になりすぎるので、細かい説明は省略しますが、いずれも、
放射性同位元素が時間とともに別の元素に変化するという原理を元にした、
岩石(鉱物)の形成年代を推定する測定方法です。
これらの年代測定測定法の詳細は、文献10,文献11をご覧ください。
よって火山岩や変成岩など、化石を含まない地質の年代測定は困難なものがありました。
20世紀後半になって、元素分析技術の進歩に伴ない、地質(岩石)に含まれる元素の量や
比率に基づいて、その地質(岩石)の形成年代を測定する方法が大きく進歩しました。
地質学で使われる代表的な手法は、K−Ar(カリウムーアルゴン)法(文献10)、U−Pb(ウランー鉛)法(文献11)などです。
詳細を述べると、煩雑になりすぎるので、細かい説明は省略しますが、いずれも、
放射性同位元素が時間とともに別の元素に変化するという原理を元にした、
岩石(鉱物)の形成年代を推定する測定方法です。
これらの年代測定測定法の詳細は、文献10,文献11をご覧ください。
(参考文献)
「下仁田ジオパーク」サイトにおける、本宿カルデラの形成過程に関する説明
妙義、荒船地域の火山岩類の形成年代をK=Ar法で調査した論文
主に、荒船山を構成する火山岩類の形成年代を調べた論文
妙義山の火山活動を調べた論文
文献1)打田 著
「山と高原地図 No21 西上州、妙義山、荒船山」昭文社 刊(2011年版)
の解説冊子
文献2)貝塚、小池、遠藤、山崎、鈴木 編
「日本の地形 第4巻 関東・伊豆小笠原」東京大学出版会 刊 (2000)
のうち、3−1章「関東山地と秩父盆地」の項
文献3)ネット上のサイト「下仁田ジオパーク」のうち、
ジオストーリー 第4部
「たび重なる火山活動「本宿陥没」と「妙義火山」」の項、
2020年12月 閲覧
https://www.shimonita-geopark.jp/geosite/geo04.html
文献4)佐藤
「妙義―荒船―佐久地域の火山岩類の
K−Ar年代と火山フロントの後退」
群馬県立自然史博物館 研究報告 第8巻 p109-118(2004)
http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin08_10.pdf
文献5)佐藤
「荒船山の火山岩のK-Ar年代と本宿カルデラの
火山活動史における意義」
群馬県立自然史博物館 研究報告 第9巻 p11-27 (2005)
http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin9_2.pdf
文献6)妙義山団体研究グループ 著
「群馬県西部の妙義山域における後期中新世火山層序と陥没構造」
「地球科学」誌 74 巻,p21―38 (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/74/1/74_21/_pdf/-char/en
文献7)中島、柿沼 (妙義団体研究グループ)
「日本の露頭 No. 12; 奇岩の山―妙義山」
「地球科学」誌 第64巻 p54 (2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/64/2/64_KJ00006164255/_pdf
文献8)高木 著
「年代で見る日本の地質と地形」 誠文堂新光社刊(2017)
のうち、3−4―1節「〜前期更新世の火山活動、荒船山と妙義山」の項
文献9)小泉 著
「日本の山々ができるまで」エイアンドエフ社 刊 (2020)
のうち、第17章「600〜300万年の岩からなる山々」の項
文献10) ウイキペディア「カリウム-アルゴン法」の項
2020年12月 閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%0-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B4%E3%83%B3%E6%B3%95
文献11) ウイキペディア「ウランー鉛年代測定法」の項
2020年12月 閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E9%89%9B%E5%B9%B4%E4%BB%A3%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E6%B3%95
「山と高原地図 No21 西上州、妙義山、荒船山」昭文社 刊(2011年版)
の解説冊子
文献2)貝塚、小池、遠藤、山崎、鈴木 編
「日本の地形 第4巻 関東・伊豆小笠原」東京大学出版会 刊 (2000)
のうち、3−1章「関東山地と秩父盆地」の項
文献3)ネット上のサイト「下仁田ジオパーク」のうち、
ジオストーリー 第4部
「たび重なる火山活動「本宿陥没」と「妙義火山」」の項、
2020年12月 閲覧
https://www.shimonita-geopark.jp/geosite/geo04.html
文献4)佐藤
「妙義―荒船―佐久地域の火山岩類の
K−Ar年代と火山フロントの後退」
群馬県立自然史博物館 研究報告 第8巻 p109-118(2004)
http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin08_10.pdf
文献5)佐藤
「荒船山の火山岩のK-Ar年代と本宿カルデラの
火山活動史における意義」
群馬県立自然史博物館 研究報告 第9巻 p11-27 (2005)
http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin9_2.pdf
文献6)妙義山団体研究グループ 著
「群馬県西部の妙義山域における後期中新世火山層序と陥没構造」
「地球科学」誌 74 巻,p21―38 (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/74/1/74_21/_pdf/-char/en
文献7)中島、柿沼 (妙義団体研究グループ)
「日本の露頭 No. 12; 奇岩の山―妙義山」
「地球科学」誌 第64巻 p54 (2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/64/2/64_KJ00006164255/_pdf
文献8)高木 著
「年代で見る日本の地質と地形」 誠文堂新光社刊(2017)
のうち、3−4―1節「〜前期更新世の火山活動、荒船山と妙義山」の項
文献9)小泉 著
「日本の山々ができるまで」エイアンドエフ社 刊 (2020)
のうち、第17章「600〜300万年の岩からなる山々」の項
文献10) ウイキペディア「カリウム-アルゴン法」の項
2020年12月 閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%0-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B4%E3%83%B3%E6%B3%95
文献11) ウイキペディア「ウランー鉛年代測定法」の項
2020年12月 閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E9%89%9B%E5%B9%B4%E4%BB%A3%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E6%B3%95
このリンク先の、5−1章の文末には、第5部「関東西部の山々の地質」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第5部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第5部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2020年12月22日
△改訂1;文章見直し、一部修正。5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月4日
△改訂1;文章見直し、一部修正。5−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月4日
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