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更新日:2022年03月07日 訪問者数:2416
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日本の山々の地質;第11部 中国地方の山々の地質 11−1章 中国地方の地形の概要
ベルクハイル
「中国地方」の地形区分図
・赤い線で囲った部分;狭義の「中国山地」
・緑の線で囲った部分;「吉備(きび)高原」
 (岡山、広島の瀬戸内に近い部分)
・青い線で囲った部分;「丹波高原」
  (兵庫、京都北部)
・茶色の線で囲った部分;「岩見高地」
  (山口、島根の日本海側)

※ 地形区分は、文献1の「図1.3.2 日本の地形区分」による。

※産総研「シームレス地質図v2」のうち地形図レイヤーを使用。
(はじめに)
 この第11部では、中国地方の山々の地質と地形について説明します。
 ただ、中国地方の山々(中国山地など)は正直なところ、他の地方に比べ登山対象として人気の高い山や標高の高い山が少なく、説明が少し難しい感があります。

 そこで第11部では、個々の山々の地質説明というよりは、中国地方(中国山地)全体の地形、地質を主に説明することにします。具体的には以下の構成で説明予定です。
 (1)中国地方の地形概要
 (2)中国地方の地質概要
 (3)中国山地の火山性の山々の形成史
 (4)中国山地、主稜線の山々の地質

ということで、まずこの11−1章では、中国地方の地形の概要を説明します。

 なお、この第11部で説明する範囲ですが、一般的(行政区画的)にいう「中国地方」とは、山口県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県の5つの県を含むエリアを指しますが、地形的、地質的なつながりで見ると、その東側の兵庫県の大部分、京都府の北部も、中国地方と類似性が高い地域です。
 そこでこの第11部では、氷ノ山(ひょうのせん)など、兵庫県の中部・北部、及び京都府北部の地域も含めて説明します。
 
 一方、島根県の一部で、日本海に浮かぶ隠岐諸島は、地質学的には興味深い場所ですが、登山の対象にはあまりなっていないと思いますので、この第11部では省略します。
1)中国地方(中国山地)の地形概要
 中国地方は兵庫県も含めると東西に約400kmもある東西に長い地域です。かつ中国地方には岡山平野を除くと大きな平野が少なく、ほとんどが山地、高原状で、その中に小さな盆地が点々とするような地形となっています。

 中国山地は広い山地ではありますが、山地、高原部には中部地方のような目立った山脈や、大きな盆地も少なくて地形的な区切りがあまりなく、大山など火山性の一部の山を除くと、全体として標高500―1200m程度の低めの山並みが延々と続いており、やや単調な構造の山地とも言えます(文献2−a)。

 さて(文献1)の「日本の地形区分」図では、中国地方の地形区は、平野部、盆地部を除くと以下4つに分けられています。
 (1)「中国山地(狭義)」;山陽側の広島、岡山と、山陰側の島根、鳥取との境となっている分水嶺を含む東西約300kmの山地部
 (2)「吉備(きび)高原」;広島、岡山の中部を含む、標高500m前後の高原状部分
 (3)「丹波高原」(丹波高地);兵庫県の中北部、京都部の中北部を含む、標高500m前後の高原状部分
 (4)「岩見高原」;山口県の北部、西部、島根県の日本海に近い部分の細長い地域

 この章および第11部全体を通して、上記(1)〜(4)を含めて「中国山地(広義)」と定義し、(1)の「中国山地(狭義)」と使い分けることにします。

 「中国山地(広義)」の地形的な特徴としては、小起伏地形(谷も山も険しさがなく、なだらかに広がっている地形)が広く存在していることが挙げられます。実際、中国山地中心部を縦断する「中国道」を車で走ると、周辺の山々は比高が小さいものばかりで、同じような風景が続きます。

 この小起伏地形は、古典的地形学では「隆起準平原」と呼ばれる地形です。「中国山地(狭義)」の主稜線部には、1100m前後の小起伏地形(標高が似通った山々の列)が点在しており、「道後山面(どうごやまめん)」と呼ばれています。
 また「吉備高原」は全体が標高300〜700mの高原状地形ですが、そのうち標高500−700mの部分は小起伏地形となっており、「吉備高原面」と呼ばれています(文献2−b)、(文献2―d)。

 なお「中国山地(狭義)」と、「吉備高原」の地形的な境目には、東部では山崎断層がつくる構造谷があり、中部、西部では津山盆地、三次盆地などの小規模な盆地群が境目をつくっています(文献2−d)。

 これらの小起伏地形(「道後山面)、「吉備高原面」)の一部には、新第三紀 中新世中期(おおよそ 15−10Ma)の海成堆積層が点在していることから、少なくとも中新世中期(さらにそれ以前も)には、中国地方一帯はかなり平坦で、一部は海没していたと推定されています(文献2ーd)。

 そこで、(文献2−d)に基づき中国地方主要部の地形的な歴史をまとめると、新第三紀 中新世、もしくはそれ以前、地殻変動が少なく、低い平地及び海の下になっていた時代が長く続いて、浸食によって起伏が緩やかになり、海没した部分は海成層が堆積しました(=小起伏面の形成)。

 その後、(隆起開始時代は不明ですがおそらく第四紀になって;注1)、曲隆状の隆起活動が始まって山地を形成しましたが、隆起速度がそれほど大きくなかったために、河川浸食もそれほど力強くなく、元の時代の小起伏地形がかなり広く残っているのだと推定されています(文献2−a)、(文献2−d)。
 ただし、「吉備高原」では、高原部が比較的なだらなな一方、主要河川沿いはかなり浸食作用(下刻作用)が働いて、標高に似合わないような、わりと深いV字谷(最大標高差;数百m)を形成しています。これは、主に第四紀における主要河川の浸食作用(下刻作用)であると推定されています(文献2−b)。
 
 また「中国山地(狭義)」が標高約1000ー1300mであるのに対し、「吉備高原」、「丹波高原」の標高が約700〜400mなのは、前述の「中新世 海成層」の分布を元に、個々の地域の隆起量の違いだという学説が提案されています。

 一方、「中国山地(狭義)」の東部延長である「丹波高原」(文献2−c)や、「中国山地(狭義)」の北西部(日本海側)の「岩見高原」(文献2−e)に関しては、その隆起時期や、小起伏面の形成時期については研究例が少ないようで、詳しいことは解っていないようです。


 上には(文献2ーa)、(文献2−b)、(文献2−d)を元に、「中国山地(狭義)」と「吉備高原」の地形的な歴史の推移に関する代表な仮説を紹介しました。
 ただし(文献2−a)によると、「中国山地(広義)」の隆起や、小起伏面の形成時期については、これまで少なくとも11個の学説が提案されており、その全容は明確になっているとは言い難いようです。
 

   ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
2)プレートテクトニクスからみる中国地方
 さて、プレートテクトニクスの観点から中国山地の成り立ち、地形を考えると、この一帯は北側から順に、中国地方(中国山地)、瀬戸内海、四国地方(四国山地)、そしてその南には海洋プレート沈み込み帯である南海トラフがあります。中国地方と四国地方を合わせ、プレートテクトニクス上は「西南日本弧」と呼ばれます。また南海トラフと西南日本弧を合わせ、典型的な「島弧―海溝系(システム)」(Island arc-trench system) 注2)を形成しています(文献2−d)。

 日本列島では、「東北日本弧」(主に東北地方)が、同じような「島弧―海溝系(システム)」を形成しています(文献4−a)、(文献5−a)。

 中国地方、四国地方あたりの「西南日本弧」を細かく見ると、陸地のうち南海トラフに近い四国山地は、「外弧隆起帯」(あるいは「外帯山地」)と呼ばれる隆起帯です。瀬戸内海は「中央低地帯」と呼ばれるゆるい沈降帯です。中国山地は「内弧隆起帯」(あるいは「内帯山地」)と呼ばれる隆起帯になります(文献2−d)、(文献2−f)。

 この地域での「島弧―海溝系(システム)」では、フィリピンプレートが島弧の並びである東西方向に対し、北西へと「斜め沈み込み」を行っています(文献2−d)。
 このフィリピン海プレートの沈み込みに伴う力のうち、北向きベクトル成分が、四国山地、中国山地を隆起させたと考えられます。
 また西向きベクトル成分は、四国中央部における「中央構造線」の右横ずれ断層(活断層)としての動きをもたらし、それに伴い、石鎚山地、阿讃山地(讃岐山地)の隆起をもたらしています。また外帯における、東西方向の波打った地形構造を作っています(文献2−d)。

 一方、中国地方は「中央構造線」より北側にあるため、西向きベクトル成分の影響はほとんどないと思われます(この段落は私見です)。

 
 また「島弧海溝系(システム)」では多くの火山がつきもので、「東北日本弧」では奥羽山脈上に多数の活火山があります(文献4−b)、(文献5−b)、(本連載の第6部にも記載)。

 「島弧海溝系(システム)」では、沈み込む海洋プレート(スラブ)が約100kmの深さに達すると、そこでの圧力、温度条件化で、スラブの上面に含水鉱物の形で含まれていた水分(H2O)が脱離して、スラブ直上にあるマントルに浸透し、マントル物質(カンラン岩の高圧型)の融点を下げて、初生マグマが形成されると考えられています(文献8)。
 (※ マグマ生成には他にもいくつかのメカニズムが関与していると推定されています;文献8)
 
 一方で「西南日本弧」に含まれる中国地方では火山の数がかなり少なく、かつ中国山地の主稜線上ではなく、日本海側に偏って分布しています。活火山もわずか2つです(文献6)。
 
 この、「東北日本弧」と「西南日本弧」とでの火山分布の差異の原因は、沈み込んでいるプレート(「太平洋プレート」と「フィリピン海プレート」)の特性の違いが原因と考えられていますが、細かいところは良く解っていないようです。
 なお、この中国地方の火山やその分布状況に関しては、第11−3章「中国地方の火山」の章で改めて取り上げます。
[注釈説明の項]
注1)中国山地の隆起開始時期;
  中国山地がいつ頃から隆起し始めたのか?という課題について、古くから
 「小起伏地形 (小起伏面)」や、そこにある地層(礫岩層など)を元にした研究が
 行われています(文献2−a)。
  しかし、新第三紀、第四紀の、鍵となる地質、地形が明確でないことから、いつ頃から
 隆起が開始したのか諸説あるようで、現在でも明確にはなっていないようです。


注2)「島弧海溝系(システム)」という用語について;
   英語では”Island arc-trench system”で、日本語では通常「島弧海溝系」あるいは
 「島弧−海溝系」と呼びます(文献7)。
  「系」と「システム」は同義語ですが、この章では、解りやすくするためにあえて
 「(システム)」という言葉を付け加えました。


注3)「スラブ」とは;
   海洋プレートが沈み込み帯で沈み込んだ場合、地中へと沈み込んだ部分のプレートの
  ことを、プレートテクトニクス(や地球物理学)では「スラブ」(Slab)と呼びます
   (文献7)。
(参考文献)
文献1)米倉、貝塚、野上、鎮西 編
    「日本の地形 第1巻 総説」のうち
    1−3章「日本列島とその周辺の地形区分」の章の、
     図1.3.2「日本の地形区分」図 (原図作成は貝塚先生(1988))


文献2) 太田、成瀬、田中、岡田 編
    「日本の地形 第6巻 近畿・中国・四国」 東京大学出版会 刊 (2004)

   文献2−a) 文献2)のうち、
     3−2章 「中国山地とその周辺」の項

  文献2−b) 文献2)のうち、
     3−4章 「吉備高原」の項

   文献2−c) 文献2)のうち、
     3−1章 「丹波高原とその周辺」の項

   文献2―d) 文献2)のうち、
     1−1章「近畿・中国・四国の大地形」の項

   文献2−e) 文献2)のうち、
     3−5章「岩見高原、周防高原」の項

   文献2−f) 文献2)のうち、
     1−3―(3)項「(中国地方の)テクトニックな背景」の項
    

文献3) 日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第6巻 中国地方」 朝倉書店 刊 (2009)

   文献3−a) 文献3)のうち、第7部「(中国地方の)ネオテクトニクス」の、
       7−1−1―a)項 「(中国地方の)テクトニックな視点」の項


文献4) 小池、田村、鎮西、宮城 編
    「日本の地形 第3巻 東北」東京大学出版会 刊 (2005)

   文献4−a) 文献4)のうち、1−1章「島弧としての東北日本」の項

   文献4−b) 文献4)のうち、4−1章「奥羽脊梁山脈における火山の大局的分布」 の項


文献5) 日本地質学会 編
     「日本地方地質誌 第2巻 東北地方」 朝倉書店 刊 (2017)

  文献5−a) 文献5)のうち、第2部「東北地方の基本構造」の、
     2−2章「地形と火山」の章、
     2−6章「(東北地方の)マントル構造」の章、及び、
     2−8章「島弧火山活動と地殻・マントル構造」の章

  文献5−b) 文献5)のうち、第9部「(東北地方の)活動的な火山」の、
     9−1章 「(東北地方の)第四紀火山概説」の項
    

文献6) 気象庁ホームページのうち 「活火山総覧 第4版」
                         (2022年2月 閲覧)
 
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/souran_jma_hp.html#tyugoku


文献7) 地質団体研究会 編 
      「新版 地学事典」 平凡社 刊 (1996)のうち、
        ・「スラブ」の項 
        ・「島弧海溝系」の項


文献8)吉田、西村、中村 共著 (大谷、長谷川、花輪 編)
   「現代地球科学入門シリーズ 第7巻 火山学」共立出版 刊(2017)の、
      4−5−3節 「プレート収束境界での火山活動」の項、
      図4.32「東北日本弧におけるマグマの発生モデル」の項、及び
      4−3章「マグマの成因」の項、など
    
【書記事項】
初版リリース;2022年2月19日
△改訂1;第11部の各章へのリンクを随時追加(2022年2月〜3月)
△最新改訂年月日;2022年3月7日
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