(はじめに)
この12−2章は、九州地方の地形に関する章のうち、12−1章の続きになります。
12−1章では、九州地方の地形概要、区分と、そのうち「北部九州地域」の地形について説明しました。
この12−2章では引き続き、「中部九州地域」、「南部九州地域」の地形について説明します。
12−1章では、九州地方の地形概要、区分と、そのうち「北部九州地域」の地形について説明しました。
この12−2章では引き続き、「中部九州地域」、「南部九州地域」の地形について説明します。
1)「中部九州地域」の地形学的範囲と概要
ここでの「中部九州地域」とは、大分県の北西部(耶馬渓(やばけい)や玖珠(くす)盆地付近)、大分県と福岡県との県境付近(英彦山(ひこさん)付近)、大分県中部から熊本県中部(由布岳、九重連山、阿蘇火山を含む部分)、さらに長崎県の島原半島(雲仙岳)、および佐賀県/長崎県県境の多良岳を含む、東西に延びた帯状の地帯とします。
「南部九州地域」との境界は、「臼杵(うすき)―八代(やつしろ)構造線」と呼ばれる、地質境界 兼 地形境界とします(文献1−a)。
添付の図1、図2もご参照ください。
この一帯は火山性の地質でできた山々、および活火山を含む火山が非常に多いことが特徴で、地形的にも火山性の地形が多いことを特徴としています。
というか、第四紀火山が多い場所及び、第四紀火山噴出物が分布している場所を逆に、「中部九州地域」と定義したものです(文献1−a)、(文献1−b)。
さらにこの「中部九州地域」は細かく分けると、英彦山(福岡/大分県境)、耶馬渓(大分県)、玖珠盆地付近(大分県)を含む「中部九州地域・北部ゾーン」と、それ以外の、活火山が多い領域である「中部九州地域・中軸ゾーン」に分けることができます。
(これらの地域区分名称は(文献1−a)を参照した上で、説明を解りやすくするために独自に名称を付けました)
「南部九州地域」との境界は、「臼杵(うすき)―八代(やつしろ)構造線」と呼ばれる、地質境界 兼 地形境界とします(文献1−a)。
添付の図1、図2もご参照ください。
この一帯は火山性の地質でできた山々、および活火山を含む火山が非常に多いことが特徴で、地形的にも火山性の地形が多いことを特徴としています。
というか、第四紀火山が多い場所及び、第四紀火山噴出物が分布している場所を逆に、「中部九州地域」と定義したものです(文献1−a)、(文献1−b)。
さらにこの「中部九州地域」は細かく分けると、英彦山(福岡/大分県境)、耶馬渓(大分県)、玖珠盆地付近(大分県)を含む「中部九州地域・北部ゾーン」と、それ以外の、活火山が多い領域である「中部九州地域・中軸ゾーン」に分けることができます。
(これらの地域区分名称は(文献1−a)を参照した上で、説明を解りやすくするために独自に名称を付けました)
2)「中部九州地域・中軸ゾーン」の地形的特徴
まず「中部九州地域・中軸ゾーン」から説明します。
このゾーンの地形的特徴はともかく、活動的な第四紀火山が多いことです。
主な火山は東から、鶴見岳(つるみだけ;1375m)、由布岳(ゆふだけ;1583m)、くじゅう連山(最高点;1791m)、阿蘇山(最高点;1592m)、雲仙岳(最高点;1483m)など、九州を代表するような山々が挙げられます。
いずれも登山対象としても人気があり、さらに観光地としても著名で、「火の国・九州」を代表する山々ばかりです。
またこのゾーンの中心部にある阿蘇山からは、数万年〜数十万年前に数度の大規模火砕流が噴出し、それがかなり広域に広がって、なだらかな高原状地形を形成しています。代表的なのは阿蘇山の外輪山のさらに外側の緩やかな斜面で、これもこの地域の地形的特徴をなしています。
この地域の火山ののうち、阿蘇火山は、中学、高校の教科書にも載るような、カルデラ地形の代表といえるカルデラ式火山です。それ以外の火山は、溶岩ドーム型火山(群)や成層火山です。個々の火山の詳細はのちの章で説明します。
いずにしろ、この地域の火山は、標高は1300−1700m台とそれほど高いわけではありませんが、独立峰あるいは火山群として良くまとまっており、標高以上に大きさを感じる火山群です。
なおこのうち、鶴見岳、由布岳、くじゅう連山、阿蘇山、雲仙岳、は活火山に認定されています。(文献3)。
このうち阿蘇火山は中岳火口が常に活動的です。また雲仙岳は1990年代に火山活動があり、溶岩ドーム崩壊型の火砕流が発生して犠牲者がでたことも良く知られていると思います。いずれの火山も地下にマグマだまりが確認されており、活動的な火山です。
この「中部九州地域」に火山が多い理由や、その原因の一つである「別府ー島原地溝帯」に関しては、説明が少し専門的になるので、この章の末尾に「補足説明1」として記載しました。ご興味のある方はご覧ください。
このゾーンの地形的特徴はともかく、活動的な第四紀火山が多いことです。
主な火山は東から、鶴見岳(つるみだけ;1375m)、由布岳(ゆふだけ;1583m)、くじゅう連山(最高点;1791m)、阿蘇山(最高点;1592m)、雲仙岳(最高点;1483m)など、九州を代表するような山々が挙げられます。
いずれも登山対象としても人気があり、さらに観光地としても著名で、「火の国・九州」を代表する山々ばかりです。
またこのゾーンの中心部にある阿蘇山からは、数万年〜数十万年前に数度の大規模火砕流が噴出し、それがかなり広域に広がって、なだらかな高原状地形を形成しています。代表的なのは阿蘇山の外輪山のさらに外側の緩やかな斜面で、これもこの地域の地形的特徴をなしています。
この地域の火山ののうち、阿蘇火山は、中学、高校の教科書にも載るような、カルデラ地形の代表といえるカルデラ式火山です。それ以外の火山は、溶岩ドーム型火山(群)や成層火山です。個々の火山の詳細はのちの章で説明します。
いずにしろ、この地域の火山は、標高は1300−1700m台とそれほど高いわけではありませんが、独立峰あるいは火山群として良くまとまっており、標高以上に大きさを感じる火山群です。
なおこのうち、鶴見岳、由布岳、くじゅう連山、阿蘇山、雲仙岳、は活火山に認定されています。(文献3)。
このうち阿蘇火山は中岳火口が常に活動的です。また雲仙岳は1990年代に火山活動があり、溶岩ドーム崩壊型の火砕流が発生して犠牲者がでたことも良く知られていると思います。いずれの火山も地下にマグマだまりが確認されており、活動的な火山です。
この「中部九州地域」に火山が多い理由や、その原因の一つである「別府ー島原地溝帯」に関しては、説明が少し専門的になるので、この章の末尾に「補足説明1」として記載しました。ご興味のある方はご覧ください。
3)「中部九州地域・北部ゾーン」の地形的特徴
福岡県/大分県県境部の英彦山(1200m)やその一帯、大分県北部の耶馬渓(やばけい;観光地としての名称)、それと大分県北西部の、玖珠(くす)盆地周辺の一帯を、ここでは「中部九州地域・北部ゾーン」と呼ぶことにします。
この「中部九州・北部ゾーン」の地形的特徴は、火山岩性(溶岩性)の地質が浸食によっていろいろに削られて、様々な特徴ある地形が形成されている点です。活動的な火山で形成された「中部九州・中軸ゾーン」とは地形的にかなり異なりますので、(文献1−a)、(文献1−b)も参照して別の地域(地形区)として区分しました。
この「北部ゾーン」は地形的特徴によりさらに3つの小ゾーンにわけることができます。以下その3つの小ゾーンについて順番に説明します。
a)英彦山ゾーン
英彦山(ひこさん:1200m)を含む一帯は、約6Ma〜1Maに火山活動で形成された古い火山群です(文献1―c)。
浸食によって形成された険しい岩峰群が多いのが特徴であり、そのためだと思いますが、九州では有数の「修験道」の場所となっています。
なお英彦山周辺の岳滅鬼岳(がくめきだけ;1037m)、鷹ノ巣山(たかのすだけ;979m)などは、英彦山本峰も含め、約4−3Maに形成された溶岩ドームであり、周辺から浸食されて周辺に断崖を形成しています。
また英彦山から福岡/大分の県境沿い東へ向かうと犬が岳(1131m)や、求菩提山(くぼてさん;782m)という山々がありますが、これらも同時期の火山活動で形成された地域で、地形的特徴も類似しており、特に求菩提山は岩峰状の特徴的姿をしています。
b)耶馬渓ゾーン
英彦山から見ると南東側である「耶馬渓(やばけい)」の一帯は、火砕流堆積物(溶結凝灰岩、溶結凝灰角礫岩)で形成されている一帯です(文献1−d)
目立った高い山はありませんが、溶結した火砕流噴出物なので浸食にも強いようで、その地域を流れる川が深い渓谷を形成して、古くから観光地として有名です。
なおこの火砕流噴出物の元は英彦山ではなく、くじゅう連山の近くにあったと推定されている猪牟田(いむた)火山(現在は火山地形としては残っておらず、「猪牟田カルデラ」と呼ばれる)です(文献1−d)。
このカルデラからの大規模火砕流型噴火は約100万年前に起こったもので、阿蘇山の巨大噴火(Aso−4;約9万年前)と同レベルの破局的噴火だったと推定されています。この噴出物(広域テフラ)は四国、大阪、房総半島まで確認されています。
c)玖珠(くす)ゾーン
湯布院盆地から西へと向かうと、日田盆地の手前に、玖珠盆地(くすぼんち)という小さな盆地がありますが、この周辺の地形は独特です。
溶岩台地状の山々が周辺部から浸食を受け、台地状や切り株状になった山々が多数あります。これらは地形学的にはメサ(台地状のもの)や、ビュート(尖峰状のもの)と呼ばれるものです(文献1−d)。
この地域での代表的な山は、万年山(はねやま;1140m)、青野山(851m)、切株山(きりかぶやま;934m)です。標高はさほどではありませんが、それらの特徴的な山容は独特の景観を作っており、中学、高校の地理の教科書にも載っているものがあります。
なお、これらのメサ状の山々を作った溶岩の元(火山)がどこにあったかは不明ですが、(文献1−d)では、猪牟田カルデラや他の大型火山からの噴出ではなく、この地域内の、小型の火山群の噴出物と推定しています。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
この「中部九州・北部ゾーン」の地形的特徴は、火山岩性(溶岩性)の地質が浸食によっていろいろに削られて、様々な特徴ある地形が形成されている点です。活動的な火山で形成された「中部九州・中軸ゾーン」とは地形的にかなり異なりますので、(文献1−a)、(文献1−b)も参照して別の地域(地形区)として区分しました。
この「北部ゾーン」は地形的特徴によりさらに3つの小ゾーンにわけることができます。以下その3つの小ゾーンについて順番に説明します。
a)英彦山ゾーン
英彦山(ひこさん:1200m)を含む一帯は、約6Ma〜1Maに火山活動で形成された古い火山群です(文献1―c)。
浸食によって形成された険しい岩峰群が多いのが特徴であり、そのためだと思いますが、九州では有数の「修験道」の場所となっています。
なお英彦山周辺の岳滅鬼岳(がくめきだけ;1037m)、鷹ノ巣山(たかのすだけ;979m)などは、英彦山本峰も含め、約4−3Maに形成された溶岩ドームであり、周辺から浸食されて周辺に断崖を形成しています。
また英彦山から福岡/大分の県境沿い東へ向かうと犬が岳(1131m)や、求菩提山(くぼてさん;782m)という山々がありますが、これらも同時期の火山活動で形成された地域で、地形的特徴も類似しており、特に求菩提山は岩峰状の特徴的姿をしています。
b)耶馬渓ゾーン
英彦山から見ると南東側である「耶馬渓(やばけい)」の一帯は、火砕流堆積物(溶結凝灰岩、溶結凝灰角礫岩)で形成されている一帯です(文献1−d)
目立った高い山はありませんが、溶結した火砕流噴出物なので浸食にも強いようで、その地域を流れる川が深い渓谷を形成して、古くから観光地として有名です。
なおこの火砕流噴出物の元は英彦山ではなく、くじゅう連山の近くにあったと推定されている猪牟田(いむた)火山(現在は火山地形としては残っておらず、「猪牟田カルデラ」と呼ばれる)です(文献1−d)。
このカルデラからの大規模火砕流型噴火は約100万年前に起こったもので、阿蘇山の巨大噴火(Aso−4;約9万年前)と同レベルの破局的噴火だったと推定されています。この噴出物(広域テフラ)は四国、大阪、房総半島まで確認されています。
c)玖珠(くす)ゾーン
湯布院盆地から西へと向かうと、日田盆地の手前に、玖珠盆地(くすぼんち)という小さな盆地がありますが、この周辺の地形は独特です。
溶岩台地状の山々が周辺部から浸食を受け、台地状や切り株状になった山々が多数あります。これらは地形学的にはメサ(台地状のもの)や、ビュート(尖峰状のもの)と呼ばれるものです(文献1−d)。
この地域での代表的な山は、万年山(はねやま;1140m)、青野山(851m)、切株山(きりかぶやま;934m)です。標高はさほどではありませんが、それらの特徴的な山容は独特の景観を作っており、中学、高校の地理の教科書にも載っているものがあります。
なお、これらのメサ状の山々を作った溶岩の元(火山)がどこにあったかは不明ですが、(文献1−d)では、猪牟田カルデラや他の大型火山からの噴出ではなく、この地域内の、小型の火山群の噴出物と推定しています。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
4)「南部九州地域」の地形的区分および概要
前節まで「中部九州地域」の地形について説明してきましたが、以降は「南部九州地域」の地形的特徴について説明します。この節では(文献1―f)をベースに(文献2−b)も参照しつつ、「南部九州地域」の概要を説明します。
図1,図3もご参照ください。
まず「南部九州地域」の範囲とその区分ですが、「中部九州地域」との境目は、地質学的な境界線でもある「臼杵―八代構造線」とします。
この構造線は本来、「西南日本外帯」に属する「秩父帯(主にジュラ紀付加体)」、「四万十帯(白亜紀付加体)」の分布域の北限という意味の「地質的境界線」ですが、九州においては「地形的境界線」にもなっています。
すなわち「中部九州地域」は第四紀火山が卓越する地形区であり、かつ陥没帯(別府―島原地溝帯)」であったのに対し、「南部九州地域」は大きく隆起した非火山性山地(九州山地)がかなりの範囲を占める範囲となっており、その地形的境界線が「臼杵―八代構造線」にほぼ一致します。
「臼杵―八代構造線」を地形的境界線として見ると、その北側は伸張場による陥没帯で、その南側は圧縮場による隆起帯、と言うこともできます。
さて「南部九州地域」は地形区分としては、(文献1−a)によるとさらに6つの中区分に分けられていますが、この連載の趣旨が「日本の山々の地質と地形の解説」であることを踏まえ、 以下に説明するのは「九州山地」と「南九州火山地帯」、「屋久島・種子島地域」の3つのゾーンとします。
図1,図3もご参照ください。
まず「南部九州地域」の範囲とその区分ですが、「中部九州地域」との境目は、地質学的な境界線でもある「臼杵―八代構造線」とします。
この構造線は本来、「西南日本外帯」に属する「秩父帯(主にジュラ紀付加体)」、「四万十帯(白亜紀付加体)」の分布域の北限という意味の「地質的境界線」ですが、九州においては「地形的境界線」にもなっています。
すなわち「中部九州地域」は第四紀火山が卓越する地形区であり、かつ陥没帯(別府―島原地溝帯)」であったのに対し、「南部九州地域」は大きく隆起した非火山性山地(九州山地)がかなりの範囲を占める範囲となっており、その地形的境界線が「臼杵―八代構造線」にほぼ一致します。
「臼杵―八代構造線」を地形的境界線として見ると、その北側は伸張場による陥没帯で、その南側は圧縮場による隆起帯、と言うこともできます。
さて「南部九州地域」は地形区分としては、(文献1−a)によるとさらに6つの中区分に分けられていますが、この連載の趣旨が「日本の山々の地質と地形の解説」であることを踏まえ、 以下に説明するのは「九州山地」と「南九州火山地帯」、「屋久島・種子島地域」の3つのゾーンとします。
5)「南部九州地域・九州山地ゾーン」の地形的特徴
前節のとおり、「南部九州地域」は「臼杵―八代構造線」の南側になりますが、そこには「九州山地」と呼ばれる非火山性の大きな山地が広がっています。
以下、(文献1−g)をベースに九州山地の地形的特徴を述べます。
まず九州山地の範囲ですが、前述のとおり、北辺は「臼杵―八代構造線」に区切られます。この構造線は、「秩父帯」の北限としての地質境界線として定義される線ですが、断層系でもありその南側(九州山地側)が隆起するような活動センスを持っている断層系(かつ地形境界線)だと推定されています(横ずれの活動センスも含むと推定されていますが詳細は不明です)。この山地の東部は宮崎平野へと緩く落ち込んでおり、山地の西部も八代湾へと緩く落ち込んでいます。南辺には人吉盆地と霧島火山群がありその手前が九州山地の南限となっています。
九州山地は、その主稜部が比較的標高が似ていることや、「臼杵―八代構造線」沿いが最も標高が高く、南西側(宮崎平野側)に向けて標高が低くなる傾向があるため、北西側が隆起した傾動山地と推定されています。
また、祖母山など一部の山を除く主稜線部が比較的なだらかなのに対し、周辺部から河川浸食が進んで、深い渓谷(V字谷)を形成しています。例えば熊本県の「五ヶ瀬村(ごかせむら)」(「五木の子守唄」で有名)や、宮崎県の「椎葉村(しいばむら)」は日本有数の秘境として知られており、奥の深い、いわゆる「壮年期山地」の形状を示しています。
なお、九州山地のうち、祖母山(そぼさん:1756m)、傾山(かたむきやま;1605m)、大崩山(おおくえやま;1643m)、市房山(いちふさやま;1721m)、尾鈴山(おすずやま;1405m)は、周辺の山々より少し標高が高く、かつ険しい山容をしていますが、これは地質的に古い火成岩(形成時期=新第三紀 中新世;15Ma前後、地質=火山岩、火砕流堆積物、花崗岩類など)で形成されており、そのために浸食に抗して高く、やや険しい山容を形成しているものと思われます。
なお九州山地の隆起は、隣接する人吉盆地での山地由来堆積物の研究から、約100万年前から本格的な隆起が起こったと推定されています。
※ “Ma”は百万年前を表す単位
以下、(文献1−g)をベースに九州山地の地形的特徴を述べます。
まず九州山地の範囲ですが、前述のとおり、北辺は「臼杵―八代構造線」に区切られます。この構造線は、「秩父帯」の北限としての地質境界線として定義される線ですが、断層系でもありその南側(九州山地側)が隆起するような活動センスを持っている断層系(かつ地形境界線)だと推定されています(横ずれの活動センスも含むと推定されていますが詳細は不明です)。この山地の東部は宮崎平野へと緩く落ち込んでおり、山地の西部も八代湾へと緩く落ち込んでいます。南辺には人吉盆地と霧島火山群がありその手前が九州山地の南限となっています。
九州山地は、その主稜部が比較的標高が似ていることや、「臼杵―八代構造線」沿いが最も標高が高く、南西側(宮崎平野側)に向けて標高が低くなる傾向があるため、北西側が隆起した傾動山地と推定されています。
また、祖母山など一部の山を除く主稜線部が比較的なだらかなのに対し、周辺部から河川浸食が進んで、深い渓谷(V字谷)を形成しています。例えば熊本県の「五ヶ瀬村(ごかせむら)」(「五木の子守唄」で有名)や、宮崎県の「椎葉村(しいばむら)」は日本有数の秘境として知られており、奥の深い、いわゆる「壮年期山地」の形状を示しています。
なお、九州山地のうち、祖母山(そぼさん:1756m)、傾山(かたむきやま;1605m)、大崩山(おおくえやま;1643m)、市房山(いちふさやま;1721m)、尾鈴山(おすずやま;1405m)は、周辺の山々より少し標高が高く、かつ険しい山容をしていますが、これは地質的に古い火成岩(形成時期=新第三紀 中新世;15Ma前後、地質=火山岩、火砕流堆積物、花崗岩類など)で形成されており、そのために浸食に抗して高く、やや険しい山容を形成しているものと思われます。
なお九州山地の隆起は、隣接する人吉盆地での山地由来堆積物の研究から、約100万年前から本格的な隆起が起こったと推定されています。
※ “Ma”は百万年前を表す単位
6)「南部九州地域・南九州火山地帯(ゾーン)」の地形的特徴
「南部九州地域」のうちほぼ北半分を占める「九州山地」地域は非火山性の山地でしたが、その更に南、鹿児島県に入ると急に火山が多数でてきます。この火山の多いゾーンを(文献1−h)では、「南九州火山地帯」と呼んでいます。
以下、(文献1―h)をベースに、このゾーンの地形的特徴を説明します。
図3もご参照ください。
具体的には、この火山地帯の北辺にはまず霧島連山があります。その南には鹿児島県の中央部に深く湾入している鹿児島湾(=鹿児島地溝帯)沿いに、桜島、開聞岳があります。
また、鹿児島湾(鹿児島地溝帯)自体が、カルデラ式火山の活動によって形成された地形であり、湾の奥側から、「姶良(あいら)カルデラ」、「阿多(あた)北カルデラ」、「阿多(あた)南カルデラ」があり、それらの、海没したカルデラ地形が繋がって、南北に長い湾ができています。
さらに霧島連山の近くにも古いカルデラ火山があり、北西部のカルデラは「加久藤(かくとう)カルデラ」と呼ばれています。霧島連山の北東側、小林市付近もカルデラではないか?という学説があり、「小林カルデラ」とも呼ばれます。
さらに鹿児島の離島である(薩摩)硫黄島付近には海没カルデラである「鬼界(きかい)カルデラ」があります。
これらの火山群のうち、霧島連山、桜島、開聞岳、薩摩硫黄島(鬼界カルデラの一部)、池田湖(開聞岳の近くにある、カルデラ湖)は活火山に認定されています(文献3)。
このように、この「南九州火山地帯」はカルデラ型の大規模火山が多数並んでいることが地形的な特徴です。一部は海没しているので目に見える火山は霧島連山、桜島、開聞岳程度ですが、これだけの活動的カルデラ式火山が林立しているのは、地下からのマグマ供給量がかなり多いのだと思われます(この段落は一部、私見を含みます)。
なおこの「南九州火山群」の並びは基本的に、宮崎県〜鹿児島県の南東沖合にある、フィリピン海プレート沈み込み帯である「琉球海溝」の向きと並行であり、沈み込んだフィリピン海プレート由来の火山列であることは明らかです。
ところで前述の「中部九州地域・中軸ゾーン」の火山群の一部(具体的には由布岳、くじゅう連山、阿蘇山)の列は北北東から南南西へと並んでおり、この火山列の並びも四国西部沖−豊後水道沖から沈み込んでいるフィリピン海プレートの向きと整合的であり、火山フロントを形成しています。また供給されているマグマも、フィリピン海プレート由来と考えらます。
しかし、阿蘇山から霧島連山まで、約100kmの間には非火山性山地である「九州山地」があって火山列を分断しています。
この「九州山地による九州火山フロントの断裂」について、明確な理由は良く解っていないようです。
ところで、鹿児島県を含む「南部九州地域」の地形的な特徴としては、いわゆる「シラス台地」と呼ばれる非溶結火山灰堆積層が多いことも特徴です。この「シラス」と呼ばれる堆積物の大部分は約2.5万前に姶良(あいら)カルデラが大噴火を起こした際に噴出した堆積物です。総噴出量は約500km^3と推定されており、阿蘇山の最大噴火(Aso−4;約9万年前)の総噴出量 約100km^3(文献1−e)よりさらに大きい噴火です。
以下、(文献1―h)をベースに、このゾーンの地形的特徴を説明します。
図3もご参照ください。
具体的には、この火山地帯の北辺にはまず霧島連山があります。その南には鹿児島県の中央部に深く湾入している鹿児島湾(=鹿児島地溝帯)沿いに、桜島、開聞岳があります。
また、鹿児島湾(鹿児島地溝帯)自体が、カルデラ式火山の活動によって形成された地形であり、湾の奥側から、「姶良(あいら)カルデラ」、「阿多(あた)北カルデラ」、「阿多(あた)南カルデラ」があり、それらの、海没したカルデラ地形が繋がって、南北に長い湾ができています。
さらに霧島連山の近くにも古いカルデラ火山があり、北西部のカルデラは「加久藤(かくとう)カルデラ」と呼ばれています。霧島連山の北東側、小林市付近もカルデラではないか?という学説があり、「小林カルデラ」とも呼ばれます。
さらに鹿児島の離島である(薩摩)硫黄島付近には海没カルデラである「鬼界(きかい)カルデラ」があります。
これらの火山群のうち、霧島連山、桜島、開聞岳、薩摩硫黄島(鬼界カルデラの一部)、池田湖(開聞岳の近くにある、カルデラ湖)は活火山に認定されています(文献3)。
このように、この「南九州火山地帯」はカルデラ型の大規模火山が多数並んでいることが地形的な特徴です。一部は海没しているので目に見える火山は霧島連山、桜島、開聞岳程度ですが、これだけの活動的カルデラ式火山が林立しているのは、地下からのマグマ供給量がかなり多いのだと思われます(この段落は一部、私見を含みます)。
なおこの「南九州火山群」の並びは基本的に、宮崎県〜鹿児島県の南東沖合にある、フィリピン海プレート沈み込み帯である「琉球海溝」の向きと並行であり、沈み込んだフィリピン海プレート由来の火山列であることは明らかです。
ところで前述の「中部九州地域・中軸ゾーン」の火山群の一部(具体的には由布岳、くじゅう連山、阿蘇山)の列は北北東から南南西へと並んでおり、この火山列の並びも四国西部沖−豊後水道沖から沈み込んでいるフィリピン海プレートの向きと整合的であり、火山フロントを形成しています。また供給されているマグマも、フィリピン海プレート由来と考えらます。
しかし、阿蘇山から霧島連山まで、約100kmの間には非火山性山地である「九州山地」があって火山列を分断しています。
この「九州山地による九州火山フロントの断裂」について、明確な理由は良く解っていないようです。
ところで、鹿児島県を含む「南部九州地域」の地形的な特徴としては、いわゆる「シラス台地」と呼ばれる非溶結火山灰堆積層が多いことも特徴です。この「シラス」と呼ばれる堆積物の大部分は約2.5万前に姶良(あいら)カルデラが大噴火を起こした際に噴出した堆積物です。総噴出量は約500km^3と推定されており、阿蘇山の最大噴火(Aso−4;約9万年前)の総噴出量 約100km^3(文献1−e)よりさらに大きい噴火です。
7)「屋久島・種子島ゾーン」の地形的特徴
この節では、「九州南部地域」のうち、九州本島から少し離れた場所にある2つの島、すなわち屋久島と種子島を、「屋久島・種子島ゾーン」という一つの地形区して説明します。
ご存じの通り九州本島の最南端 佐多岬から南へ約30〜50kmの位置に、屋久島と種子島があります。
いずれもプレートテクトニクス的観点でいうと、奄美、沖縄諸島、先島諸島まで続く「琉球弧(りゅうきゅうこ)に属する島で、非火山性の「外弧山地(外弧隆起帯)」に相当します。
このうち屋久島は、九州地方最高峰である宮之浦岳(1936m)を筆頭に多数の険しい山々からなり、「洋上アルプス」の別名をもつほど山が多い島です。巨木である屋久杉(やくすぎ)が林立していることでも有名で、世界遺産にもなっている場所です。
地形的には険しい山容と深い谷が特徴です。また標高1700m以上は、屋久杉も育つことができず、笹原の中に花崗岩でできた巨岩が点在する独特の高山的景観を示します。これは屋久島が海上にあり、かつ中央部の標高が高いために、風が強いことで形成された「偽高山帯」だと思います(この段落は一部、私見を含みます)。
なお、標高の高い中央部に多数ある花崗岩の巨岩や岩峰(地形学的には「トア」と呼ばれる)は、(文献1−j)によると、氷期に働いた「周氷河作用」により形成されたと推定しています。
一方、屋久島の東方にある細長い恰好をした種子島は、丘陵性の島で、登山対象となるような山はありません。
(文献1−j)によると、屋久島は中新世(約15Ma)に地下で形成された大きな花崗岩体(マグマ溜りが冷却固化した岩体)でできており、理由は明確ではありませんが、この花崗岩体が地下から上昇し、さらに隆起を続けて形成された山群です。
また種子島も全体に隆起によってできた島ですが、地質が付加体型の堆積岩でできているためか、屋久島ほど強い隆起作用は働かず、標高が低めで平坦な地形となっています。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
ご存じの通り九州本島の最南端 佐多岬から南へ約30〜50kmの位置に、屋久島と種子島があります。
いずれもプレートテクトニクス的観点でいうと、奄美、沖縄諸島、先島諸島まで続く「琉球弧(りゅうきゅうこ)に属する島で、非火山性の「外弧山地(外弧隆起帯)」に相当します。
このうち屋久島は、九州地方最高峰である宮之浦岳(1936m)を筆頭に多数の険しい山々からなり、「洋上アルプス」の別名をもつほど山が多い島です。巨木である屋久杉(やくすぎ)が林立していることでも有名で、世界遺産にもなっている場所です。
地形的には険しい山容と深い谷が特徴です。また標高1700m以上は、屋久杉も育つことができず、笹原の中に花崗岩でできた巨岩が点在する独特の高山的景観を示します。これは屋久島が海上にあり、かつ中央部の標高が高いために、風が強いことで形成された「偽高山帯」だと思います(この段落は一部、私見を含みます)。
なお、標高の高い中央部に多数ある花崗岩の巨岩や岩峰(地形学的には「トア」と呼ばれる)は、(文献1−j)によると、氷期に働いた「周氷河作用」により形成されたと推定しています。
一方、屋久島の東方にある細長い恰好をした種子島は、丘陵性の島で、登山対象となるような山はありません。
(文献1−j)によると、屋久島は中新世(約15Ma)に地下で形成された大きな花崗岩体(マグマ溜りが冷却固化した岩体)でできており、理由は明確ではありませんが、この花崗岩体が地下から上昇し、さらに隆起を続けて形成された山群です。
また種子島も全体に隆起によってできた島ですが、地質が付加体型の堆積岩でできているためか、屋久島ほど強い隆起作用は働かず、標高が低めで平坦な地形となっています。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
【補足説明1】 「別府―島原地溝帯」について
※ この補足説明の項は、ただ筆者自身の興味に基づいて調べた結果をまとめたものです。
ところで第2節で説明した「中部九州地域・中軸ゾーン」にはなぜこのような活発な火山活動が起きているのでしょうか?
地形学、地質学に基づく研究によると、この「中部九州地域・中軸ゾーン」では、南北方向に引っ張られるような力が働いており(「伸張場」:しんちょうば)、その力のためにこの一帯が陥没、沈降しつつある場所です。地形学や地質学ではこの一帯は「別府―島原地溝(帯)」と呼ばれています。
この地溝帯は沈降を続けているだけなら、おそらく水深1000m〜2000mの深い海になっていてもおかしくない場所なのですが、南北両側から引っ張られて開く分を埋め合わせるかのように、地下深くからマグマが継続的に上昇してきており、そのために多数の火山が形成されていると考えられています。
つまり、沈降して地面が低くなっている部分に、火山が多量の火山噴出物を盛り土して、陸地状態を保っている、ともいえる地域です。
なおこの「別府―島原地溝帯」は直線状ではなく、(文献1−k)によるとさらに、
(1)九重―別府地溝、(2)北阿蘇地溝、(3)雲仙地溝の3つの小地溝帯に分けられています。上記の小地溝帯ゾーンでは正断層(引っ張り応力が働く場で形成されることが多い断層)が多数、東西走向に分布しており、南北方向への地溝の拡大と、沈降が多い地域です。
それらの正断層は活動的(一部は活断層)で、しばしば正断層起因による地震が発生しています。
火山や地震が多い点も含め、テクトニックには穏やかな「北部九州地域」とは対照的に、テクトニックには非常に活動的なゾーンと言えます。
この、「別府―島原地溝帯」の特徴は、火山活動が非常に活発である点と、南北に延ばされるような伸張場にある、という2点ですが、そもそもプレートが4つもぶつかり合っている日本列島ではほとんどの地域が圧縮場にあります。その中でこの地溝帯は珍しく伸張場であることは不思議なことです。
この南北に引き裂かれるような地溝帯が形成、維持されているメカニズムについて、定説はないようですが、(文献1)では、以下2つの仮説(「仮説1」,「仮説2」)が提示されています。また(文献4)、(文献5)では(仮説1)と(仮説2)の折衷案のような仮説(「仮説3」)が提示されています。
(仮説1;沖縄トラフの延長部説)(文献1−k)
沖縄や奄美大島などを含む琉球列島は、南東側からフィリピン海プレートが沈み込んでいます。が、一方で、その裏手の北西側(東シナ海側)には「沖縄トラフ」と呼ばれる、地殻が開裂しつつある帯状の地溝帯(最大水深=約2000m)があります(文献1−m)。このような島弧の裏手(背弧側)に伸張場が形成される理由ははっきりしてはいませんが、いずれにしろ深い線状の凹地が形成されている伸張場であり、かつマグマの活動(熱水活動)も確認されています。
この「沖縄トラフ」は、琉球列島に沿って九州西側の東シナ海まで延びており、その延長部が、この節で説明している「中部九州地域・中軸ゾーン」にある「別府―島原地溝帯」である。というのが、この「仮説1」です。
地質図などを見ると確かに、九州西部には沖縄トラフ北端部から拡大型プレート境界に似た断層帯が伸びてきていており、島原半島の西側へとつながっているように見えます。
例えば(文献7)では、この「仮説1」を採用し、「別府―島原地溝帯」を沖縄トラフの延長部と説明しています。
(仮説2;フィリピン海プレートの斜め沈み込み説)(文献1−k)
この仮説では、九州、中・四国、近畿地方を含む南西日本弧の南側で、南海トラフからフィリピン海プレートが、北西方向へと斜めに沈み込んでいるという事実を元にした仮説です。
この斜め沈み込みによってもたらされる応力が、島弧会合部である九州の中部では、引っ張り応力場の元となっている、という考え方です。
ただし、この斜め沈み込みは、四国から近畿地方の中央構造線の左横ずれ断層としての動きの原動力ということはほぼ定説とはなっていますが、九州中部において引っ張り応力場となる仕組みは明確ではありません。
(仮説3;複数のメカニズムが総合的に働いている説)(文献4)、(文献5)
この論文は、2016年の熊本地震を受けて研究された比較的最近(2018年)のものですが、「別府―島原地溝帯」を含む、「中部九州地域」、「南部九州地域」の地震波トモグラフィーのデータを元に、この地溝帯の地殻(上部、下部)およびさらにその下にあるマントル部分(一般的に「ウエッジマントル」と呼ばれる部分)の構造を詳細に分析したものです。
データは沢山図示されている一方、考察の部分がやや物足りませんが、「別府―島原地溝帯」でのリフティングの原因として(a) 地下(ウエッジマントル部)からのマグマ上昇、(b) フィリピン海プレートの沈み込み方向の変動による、中央構造線の活動と、広域応力場の変化、(c)沖縄トラフの北方延長としての性格、の3つの要因が複合しているため、としています。
このほか、「別府―島原地溝(帯)」という名称を始めて提唱した松本先生による論文(文献6)は、少し古い論文のせいかテクトニックな考察があまりありませんが、この地溝帯の起源を中新世後期(約10Ma)からとし、それ以降、3−4回の隆起/沈降のサイクルを繰り返してきたという仮説が提示されています。
「別府―島原地溝帯」は現在でも沈降と南北への伸張が継続しており、(文献1−k)によると、水平方向では、直近100年間での南北方向へ約1−2cm/年(=10−20mm/年)と、プレートの移動量にも近い大きな変動を示しています。また垂直方向へは直近100年間で、約2−3mm/年という量で沈降が続いています。
さらにこの地帯の下部では、地殻が薄くなりマントルとの境界線(モホ面)も上昇しているという観測結果が得られています。
(文献1―k)では両論併記の形を取っており、(文献4,5)では複合的な作用を考えていたりと、「別府―島原地溝帯」の活動(地殻伸張、活発な火山活動)メカニズムはいまだ明確ではありませんが、いずれにしろ、地殻変動が多い日本列島の中でも特色ある地殻変動が激しい地域といえます。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
ところで第2節で説明した「中部九州地域・中軸ゾーン」にはなぜこのような活発な火山活動が起きているのでしょうか?
地形学、地質学に基づく研究によると、この「中部九州地域・中軸ゾーン」では、南北方向に引っ張られるような力が働いており(「伸張場」:しんちょうば)、その力のためにこの一帯が陥没、沈降しつつある場所です。地形学や地質学ではこの一帯は「別府―島原地溝(帯)」と呼ばれています。
この地溝帯は沈降を続けているだけなら、おそらく水深1000m〜2000mの深い海になっていてもおかしくない場所なのですが、南北両側から引っ張られて開く分を埋め合わせるかのように、地下深くからマグマが継続的に上昇してきており、そのために多数の火山が形成されていると考えられています。
つまり、沈降して地面が低くなっている部分に、火山が多量の火山噴出物を盛り土して、陸地状態を保っている、ともいえる地域です。
なおこの「別府―島原地溝帯」は直線状ではなく、(文献1−k)によるとさらに、
(1)九重―別府地溝、(2)北阿蘇地溝、(3)雲仙地溝の3つの小地溝帯に分けられています。上記の小地溝帯ゾーンでは正断層(引っ張り応力が働く場で形成されることが多い断層)が多数、東西走向に分布しており、南北方向への地溝の拡大と、沈降が多い地域です。
それらの正断層は活動的(一部は活断層)で、しばしば正断層起因による地震が発生しています。
火山や地震が多い点も含め、テクトニックには穏やかな「北部九州地域」とは対照的に、テクトニックには非常に活動的なゾーンと言えます。
この、「別府―島原地溝帯」の特徴は、火山活動が非常に活発である点と、南北に延ばされるような伸張場にある、という2点ですが、そもそもプレートが4つもぶつかり合っている日本列島ではほとんどの地域が圧縮場にあります。その中でこの地溝帯は珍しく伸張場であることは不思議なことです。
この南北に引き裂かれるような地溝帯が形成、維持されているメカニズムについて、定説はないようですが、(文献1)では、以下2つの仮説(「仮説1」,「仮説2」)が提示されています。また(文献4)、(文献5)では(仮説1)と(仮説2)の折衷案のような仮説(「仮説3」)が提示されています。
(仮説1;沖縄トラフの延長部説)(文献1−k)
沖縄や奄美大島などを含む琉球列島は、南東側からフィリピン海プレートが沈み込んでいます。が、一方で、その裏手の北西側(東シナ海側)には「沖縄トラフ」と呼ばれる、地殻が開裂しつつある帯状の地溝帯(最大水深=約2000m)があります(文献1−m)。このような島弧の裏手(背弧側)に伸張場が形成される理由ははっきりしてはいませんが、いずれにしろ深い線状の凹地が形成されている伸張場であり、かつマグマの活動(熱水活動)も確認されています。
この「沖縄トラフ」は、琉球列島に沿って九州西側の東シナ海まで延びており、その延長部が、この節で説明している「中部九州地域・中軸ゾーン」にある「別府―島原地溝帯」である。というのが、この「仮説1」です。
地質図などを見ると確かに、九州西部には沖縄トラフ北端部から拡大型プレート境界に似た断層帯が伸びてきていており、島原半島の西側へとつながっているように見えます。
例えば(文献7)では、この「仮説1」を採用し、「別府―島原地溝帯」を沖縄トラフの延長部と説明しています。
(仮説2;フィリピン海プレートの斜め沈み込み説)(文献1−k)
この仮説では、九州、中・四国、近畿地方を含む南西日本弧の南側で、南海トラフからフィリピン海プレートが、北西方向へと斜めに沈み込んでいるという事実を元にした仮説です。
この斜め沈み込みによってもたらされる応力が、島弧会合部である九州の中部では、引っ張り応力場の元となっている、という考え方です。
ただし、この斜め沈み込みは、四国から近畿地方の中央構造線の左横ずれ断層としての動きの原動力ということはほぼ定説とはなっていますが、九州中部において引っ張り応力場となる仕組みは明確ではありません。
(仮説3;複数のメカニズムが総合的に働いている説)(文献4)、(文献5)
この論文は、2016年の熊本地震を受けて研究された比較的最近(2018年)のものですが、「別府―島原地溝帯」を含む、「中部九州地域」、「南部九州地域」の地震波トモグラフィーのデータを元に、この地溝帯の地殻(上部、下部)およびさらにその下にあるマントル部分(一般的に「ウエッジマントル」と呼ばれる部分)の構造を詳細に分析したものです。
データは沢山図示されている一方、考察の部分がやや物足りませんが、「別府―島原地溝帯」でのリフティングの原因として(a) 地下(ウエッジマントル部)からのマグマ上昇、(b) フィリピン海プレートの沈み込み方向の変動による、中央構造線の活動と、広域応力場の変化、(c)沖縄トラフの北方延長としての性格、の3つの要因が複合しているため、としています。
このほか、「別府―島原地溝(帯)」という名称を始めて提唱した松本先生による論文(文献6)は、少し古い論文のせいかテクトニックな考察があまりありませんが、この地溝帯の起源を中新世後期(約10Ma)からとし、それ以降、3−4回の隆起/沈降のサイクルを繰り返してきたという仮説が提示されています。
「別府―島原地溝帯」は現在でも沈降と南北への伸張が継続しており、(文献1−k)によると、水平方向では、直近100年間での南北方向へ約1−2cm/年(=10−20mm/年)と、プレートの移動量にも近い大きな変動を示しています。また垂直方向へは直近100年間で、約2−3mm/年という量で沈降が続いています。
さらにこの地帯の下部では、地殻が薄くなりマントルとの境界線(モホ面)も上昇しているという観測結果が得られています。
(文献1―k)では両論併記の形を取っており、(文献4,5)では複合的な作用を考えていたりと、「別府―島原地溝帯」の活動(地殻伸張、活発な火山活動)メカニズムはいまだ明確ではありませんが、いずれにしろ、地殻変動が多い日本列島の中でも特色ある地殻変動が激しい地域といえます。
※ ”Ma”は百万年前を意味する単位
(参考文献)
文献1)町田、太田、河名、森脇、長岡 編
「日本の地形 第7巻 九州・西南諸島」 東京大学出版会 刊 (2001)
文献1−a) 文献1)のうち、
1−1章「九州の地形・地質の概要と地形区分および研究史」の、
1−1−(1)節 「(九州地方の)大地形の概要と地形区分」の項
及び 口絵 図2「九州・南西諸島の地形区分図」およびその説明表
文献1−b) 文献1)のうち、
2−1章「北部および中部九州」の、
2−1−(2)節 「中部九州、特異な火山性地溝」の項
および 図2.0.2「中部九州の地形分類図」
文献1−c) 文献1)のうち、
2−3章「別府―島原地溝帯周辺の古い火山」の、
2−3−(1)節 「英彦山」の項
文献1−d) 文献1)のうち、
2−2章「別府―島原地溝帯中心部の火山群」の、
2−2−(1)―1)項 「耶馬渓火砕流堆積物と猪牟田カルデラ」の項
文献1−e) 文献1)のうち、
2−2章「別府―島原地溝帯中心部の火山群」の各項、および
2−3章「別府―島原地溝帯」周辺の古い火山」の各項
文献1―f) 文献1)のうち、
第3部「南部九州」のうち
概説(1)「南部九州の範囲と地形の特性」の項
文献1−g) 文献1)のうち、
3−3章「九州山地と人吉盆地」の、
3−3−(1)節 「九州山地」の項
文献1−h) 文献1)のうち、
3−1章 「鹿児島地溝」、及び
3−2章「鹿児島地溝の火山群」の項
文献1−j) 文献1)のうち、
3−6章 「屋久島・種子島−隆起する山地と台地の島」の項
文献1−k) 文献1)のうち、
2−1章 「別府―島原地溝帯」の項
文献1−m) 文献1)のうち、
4−1−(1)節「東シナ海大陸棚と沖縄トラフ」の項
文献2) 日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第8巻 九州・沖縄地方」朝倉書店 刊 (2010)
文献2−a) 文献2)のうち、
第5部 「(九州地方の)火山」の、
5−1−5節 「(九州地方の)第四紀の火山とカルデラ」の項
文献2−b) 文献2)のうち、
第5部 「(九州地方の)火山」の、
5―2章 「(九州地方の)フロント上の火山」の項
文献3) 気象庁ホームページより、
「日本活火山総覧 第4版」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/menu_jma_hp.html
文献4)東北大学 プレスリリース記事 (2018年10月23日)
「九州を南北に分裂させる地溝帯の構造を解明
-2016年 熊本地震の発生とも関連-」
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_20181023_rift.pdf
文献5)D. Zhao, K.Yamashita, G. Toyokuni
“Tomography of the 2016 Kumamoto earthquake area and the Beppu-Shimabara graben“
Scientific Reports
DOI 番号: 10.1038/s41598-018-33805-0 (2018)
https://www.researchgate.net/publication/328390327_Tomography_of_the_2016_Kumamoto_earthquake_area_and_the_Beppu-Shimabara_graben
文献6)松本
「別府―島原地溝の発想とその後の発展および課題」
地質学論集 第41巻 p175−192 (1993)
(国会図書館 デジタルコレクション;このリンク先に本論文のPDFファイルあり)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10810084?tocOpened=1
文献7)A.Taira
“ Tectonic Evolution of The Japanese Island Arc System”
“Annual Review of Earth Planet” , Vol.29, p109-134 (2001)
(このリンク先より、論文のPDF版がダウンロードできる)
https://www.researchgate.net/publication/228931405_Tectonic_evolution_of_the_Japanese_island_arc_system
「日本の地形 第7巻 九州・西南諸島」 東京大学出版会 刊 (2001)
文献1−a) 文献1)のうち、
1−1章「九州の地形・地質の概要と地形区分および研究史」の、
1−1−(1)節 「(九州地方の)大地形の概要と地形区分」の項
及び 口絵 図2「九州・南西諸島の地形区分図」およびその説明表
文献1−b) 文献1)のうち、
2−1章「北部および中部九州」の、
2−1−(2)節 「中部九州、特異な火山性地溝」の項
および 図2.0.2「中部九州の地形分類図」
文献1−c) 文献1)のうち、
2−3章「別府―島原地溝帯周辺の古い火山」の、
2−3−(1)節 「英彦山」の項
文献1−d) 文献1)のうち、
2−2章「別府―島原地溝帯中心部の火山群」の、
2−2−(1)―1)項 「耶馬渓火砕流堆積物と猪牟田カルデラ」の項
文献1−e) 文献1)のうち、
2−2章「別府―島原地溝帯中心部の火山群」の各項、および
2−3章「別府―島原地溝帯」周辺の古い火山」の各項
文献1―f) 文献1)のうち、
第3部「南部九州」のうち
概説(1)「南部九州の範囲と地形の特性」の項
文献1−g) 文献1)のうち、
3−3章「九州山地と人吉盆地」の、
3−3−(1)節 「九州山地」の項
文献1−h) 文献1)のうち、
3−1章 「鹿児島地溝」、及び
3−2章「鹿児島地溝の火山群」の項
文献1−j) 文献1)のうち、
3−6章 「屋久島・種子島−隆起する山地と台地の島」の項
文献1−k) 文献1)のうち、
2−1章 「別府―島原地溝帯」の項
文献1−m) 文献1)のうち、
4−1−(1)節「東シナ海大陸棚と沖縄トラフ」の項
文献2) 日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第8巻 九州・沖縄地方」朝倉書店 刊 (2010)
文献2−a) 文献2)のうち、
第5部 「(九州地方の)火山」の、
5−1−5節 「(九州地方の)第四紀の火山とカルデラ」の項
文献2−b) 文献2)のうち、
第5部 「(九州地方の)火山」の、
5―2章 「(九州地方の)フロント上の火山」の項
文献3) 気象庁ホームページより、
「日本活火山総覧 第4版」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/menu_jma_hp.html
文献4)東北大学 プレスリリース記事 (2018年10月23日)
「九州を南北に分裂させる地溝帯の構造を解明
-2016年 熊本地震の発生とも関連-」
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_20181023_rift.pdf
文献5)D. Zhao, K.Yamashita, G. Toyokuni
“Tomography of the 2016 Kumamoto earthquake area and the Beppu-Shimabara graben“
Scientific Reports
DOI 番号: 10.1038/s41598-018-33805-0 (2018)
https://www.researchgate.net/publication/328390327_Tomography_of_the_2016_Kumamoto_earthquake_area_and_the_Beppu-Shimabara_graben
文献6)松本
「別府―島原地溝の発想とその後の発展および課題」
地質学論集 第41巻 p175−192 (1993)
(国会図書館 デジタルコレクション;このリンク先に本論文のPDFファイルあり)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10810084?tocOpened=1
文献7)A.Taira
“ Tectonic Evolution of The Japanese Island Arc System”
“Annual Review of Earth Planet” , Vol.29, p109-134 (2001)
(このリンク先より、論文のPDF版がダウンロードできる)
https://www.researchgate.net/publication/228931405_Tectonic_evolution_of_the_Japanese_island_arc_system
このリンク先の、12−1章の文末には、第12部「九州地方の山々の地質」の各章へのリンク、及び、「序章―1」へのリンク(序章―1には、本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第12部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2022年4月1日
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