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更新日:2026年06月28日 訪問者数:47
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奥多摩でのクマによる人身被害の記録
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1.はじめに
2026年5月に奥多摩で新たな人身被害が発生したのを機会に、奥多摩でのクマによる人身被害情報をまとめてみた。奥多摩というのはどの範囲を指すのか明確な定義があるわけではないが、今回の調査対象範囲は東京都内に加えて、多摩川の源流域である山梨県丹波川村と小菅村、埼玉県秩父市の雲取山から三峰神社に延びる尾根とした。この範囲で、1993年以降2026年5月までに23件24人の人身被害の記録を確認した。このうち登山者は9件10人。

なお、2026年5月に仙元峠で発見された登山者の変死体については、クマが関与した可能性もあるが、結論が出ていないのでこの調査には含めていない。
2.情報源
本調査は主にインターネット上に公開されている情報に基づいている。

奥多摩でのクマによる人身被害に関してインターネット上で確認できる一番古い記録は、奥多摩ツキノワグマ研究グループのウェブサイトに掲示されている「クマによる人身事故事例」というまとめで、2000年頃に作成されたものと思われる。これには1993年から1998年までの4件の事故事例が記載されている。

日本クマネットワークが2011年に作成した「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」には、奥多摩ツキノワグマ研究グループのまとめと重複するものに加えて、2005年から2010年までの6件の事故事例が記載されている。

東京都環境局が2021年に作成した「第24期東京都自然環境保全審議会第2回鳥獣部会 資料1-2」には、2017年から2019年までの3件の事故事例が記載されている。

東京都環境局作成の「東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ 」に、2022年に発生した2件の事故の日時と場所が示されている。その事故内容について東京都環境局に問い合わせて、回答を得た。

奥多摩町のウェブサイトに、2025年8月と2026年5月の事故について記載されている。この2件については東京都ツキノワグマ目撃等情報マップにも記入されているが、なぜか「目撃」という項目になっている。

このほか、山梨県鳥獣管理計画書、山梨県警、埼玉県警、新聞・テレビ報道、ユーザー投稿型クマ情報サイト、書籍で、クマによる人身事故が上記以外に計6件確認された。また、上記について追加の情報が得られた場合もある。

環境省から提供されるクマによる人身被害情報として、「クマ類の出没対応マニュアル」に1980年から2020年までの都道府県毎・年毎の負傷者数と死亡者数をまとめた表が添付されている。また、ウェブサイトの「クマ類による人身被害について [速報値]」という表で、2008年以降の被害件数、被害者数、死亡者数の情報が随時更新されている。両者を東京都について見ると、2005年以前は0または記録なし、2006年は1人となっており、2008年以降は今回の調査結果と同じである。
3.調査結果
1)概要
今回確認できた奥多摩でのクマによる人身被害の中で最も古い事例は、1993年に発生したものである。この事故を記載した奥多摩ツキノワグマ研究グループによると「それ以前の過去数十年間では,人身事故は記録されていない」とのことである。

これ以降、2026年5月までに23件24人の人身被害が確認できた。この他、クマが人間を攻撃しようとしたが人身被害には至らなかったと思われる事例が、1993年に奥多摩町水根で2件あった。この2件は一覧表とマップには示したが、統計情報には加えなかった。各事例の概要を表に示し、詳細はヤマノート末尾に付記する。
2)被害件数の推移
奥多摩でのクマによる人身被害は散発的に発生しており、1993年以降の34年のうち16年(47%)は被害発生がなく、一方で2件発生した年も5回ある。単純に平均すると、1993年以降で0.68件/年となる。

被害者数推移の長期的な傾向を見るために、年間被害件数の後方5年移動平均値と後方10年移動平均値を計算した。人身被害は7〜8年の周期で増減を繰り返しながら、徐々に増加している。最近の10年では1990年代の2ないし3倍の頻度になった、とも見ることができる。
登山者に限って見ればさらに散発的だが、10年ごとの年平均発生件数でいえば、2000年代は0.4件/年、2010年代は0.3件/年、2020年代は0.14件/年と減少傾向にある。

あえて言えば、長い空白の後にやや発生頻度の高い期間がしばらく続く、というサイクルが2回繰り返したようにも見える。今年5月の事故は8年という長い空白の後で起きた。3つ目のサイクルにならなければいいが。
3)被害発生月
奥多摩での人身被害は5月から11月までに発生している。6月が最多だが、特に集中しているというわけではない。

全国のクマ被害の月別発生傾向を見ると、平常年では夏が最多、大量出没年では秋が最多となる。奥多摩は平常年型のパターンということになる。
4)被害発生時刻
被害発生時刻が確認できるものは23件中19件。ほとんどは昼間に発生しているが、早朝、夕方、夜間に1件ずつある。
5)被害発生地点
被害件数・人数の市町村別内訳は以下の通り。

東京都奥多摩町:16件17人
埼玉県秩父市 :1件1人
山梨県丹波山村:3件3人
山梨県小菅村 :3件3人

多摩川下流の青梅市、秋川流域の檜原村、あきる野市、日の出町では、人身被害は記録されていない。

奥多摩町内で発生したもののうち3件3人は具体的な発生地点が不明なため、マップには示していない。これに関して奥多摩町に問い合わせてみたが、回答はなかった。
奥多摩町内を東西に流れる多摩川本流と日原川を境として、北部、中部、南部の3つの地域に区分し、さらに北部を川乗谷を境として東西に区分して考える。各地域のクマによる人身被害数は以下の通りである。

北西部:長沢背稜:2件
北東部:川乗山、本仁田山、棒ノ折山、高水三山:4件
中部:石尾根(雲取山、七ツ石山、鷹ノ巣山、六ツ石山):7件
南部:奥多摩三山(三頭山、御前山、大岳山)、御岳山:0件
登山者が最も多いのは奥多摩三山と北東部であり、石尾根の南面(多摩川支流域)がこれに次ぎ、石尾根の北面(日原川支流域)と長沢背稜は最も少ない。クマの生息密度は、ツキノワグマの本来の生息域である落葉広葉樹林の分布から考えて、この逆の順番になっている可能性が高い。大局的には、登山者とクマ、両方の密度がほどほどのところで事故が発生しやすいように見える。

登山者と観光客を合わせた年間の訪問者数は、高尾山で200万人以上、御岳山で40万人、三頭山で18万人と言われている。こういう非常に人が多い場所でもクマの目撃情報はあるが、人身被害は発生していない。それではどういう場所で発生しているのか。2014年9月28日日曜日に事故が発生した川乗山は、年間の登山者数が2万人から4万人と言われている。その半数程度は事故発生地点(山頂東の肩)を通るだろう。このほかの登山者の事故のうちで、発生箇所がほぼ分かるものについて、2025年にそこを通過したヤマレコの山行記録数を調べてみた。()内は事故発生年。

六ツ石山分岐点付近の登山道(1995年):477件
鹿倉山・大寺山間の登山道(2004年) :88件
後山川青岩谷出会いの登山道(2005年):236件
狩場山の登山道(2017年)      :162件
三ノ木戸集落奥の登山道(2025年)  :50件

ヤマレコの山行記録数が全登山者のどの位の割合をカバーしているか分からないし、事故発生当時と2025年では傾向が違っているかもしれない。しかしまあ、この10倍くらいが年間の全通過者数の目安ではなかろうか。そうであれば、事故は平均して1日に百人くらいの登山者が通る賑やかな所でも、1人通るかどうかというような所でも発生している、ということになる。沢登りやわさび田での事故は、もっと人気のない場所で発生したのだろう。

奥多摩は私のホームグラウンドであり、事故発生箇所の半数は歩いたことがあって、そうでない場所もどういう所か大体想像できる。事故のほとんどは特にどうということはない、奥多摩のどこにでもありそうなごく普通の場所で起きている、ということだと思う。
6)行動区分
・地元住民:6件6人         
  ・ワサビ栽培作業:2件2人 
  ・帰宅途中:1件1人  
  ・ジョギング:1件1人
  ・水道施設清掃:1件1人           
  ・山林作業:1件1人                                      

・レジャー:13件14人
  ・登山:9件10人
    ・一般登山:6件6人
    ・沢登り:2件3人
    ・トレイルランニング:1件1人
  ・釣り:3件3人  
  ・キノコ採り:1件1人                      

・その他:4件4人  
  ・シカの管理捕獲:2件2人
  ・野生動物観察:1件1人 
  ・山小屋管理:1件1人
登山者の割合は奥多摩では42%、全国のデータでは5.5%(1990年以降の平均)。登山者の割合が非常に高いのは埼玉県、神奈川県、兵庫県も同様で、大都市近郊型のパターンと言える。

登山者の割合は全国では上昇傾向、奥多摩では低下傾向だが、2020年台でもまだ奥多摩の方が高い。
7)被害者のパーティー構成
単独7件、2人以上3件、記載なし13件。
8)被害者の性別
男性19人、女性1人、記載なし4人。男性の割合が高いのはクマによる人身被害に共通しているが、奥多摩の95%というのは特に高い。
9)被害者の年齢
被害者全体の平均年齢は50.4歳(記載なし9人)。うち登山者は43.2歳、登山者以外は56.7歳。
10)クマの構成
単独4件、2頭7件、3頭4件、記載なし8件。親子クマの割合は頭数の記載がある中では73%、記載なしがすべて単独だったとしても48%ということになる。
11)受傷部位
頭2件、顔9件、肩3件、腕5件、腹1件、背中1件、足4件、記載なし4件(複数記載)。記載があるうちの47%で顔に受傷している。
4.関連情報
1)クマの目撃情報
東京都のツキノワグマ目撃件数は増加傾向にあり、平成26年度に100件を超え、令和6年度、7年度は300件を超えた。
市町村別では奥多摩町が49%を占める。奥多摩町では痕跡の割合が47%で、他の市町村より高い。
「東京都ツキノワグマ目撃等情報」の令和5年度以降の記録については、一覧表がCSVファイルとして提供されており、これには緯度経度の情報が含まれている。これをQGISでマップ上に表示するとともに、標高値を取得した。

痕跡は尾根上に多く、目撃・撮影は谷ないし平地の縁に多いように見える。標高と月でクロス集計してみると、痕跡と目撃・撮影は明らかに異なるパターンを示すことが分かる。
痕跡は5月に標高600〜800m台で増加し、6月に800〜1100m台に移り、7月以降は減少して、10月、11月に200m台で多くなる。

クマの痕跡とは、足跡、糞、樹皮への爪痕、樹皮剥ぎ(クマ剥ぎ)、クマ棚等で、東京都の情報にはそのいずれであるかは示されていない。しかし、一般に初夏はクマ剥ぎの最盛期として知られているので、この時期の痕跡の多くはクマ剥ぎだと推測される。

10月、11月の痕跡は、主にあきる野市と日の出町の里山で報告されている。
目撃・撮影は6月に標高200m台で急増し、7月に最多になる。11月にやや増えるが、冬眠前に人里に大量出没するという事態にはなっていない。

標高800m以上での目撃・撮影はごく僅か。クマが山中で目撃されることは稀で、人里に降りて来ると目撃されやすいというようにも見える。

ただし、この数字は行政に報告された目撃件数であって、目撃数そのものではない。クマが山中にいるのは当たり前なのでいちいち報告しない、人里にいるのは異常事態なので報告する、というバイアスはあるだろう。
2)クマの捕獲
東京都内でのクマの捕獲に関しては、平成19年度は狩猟の自粛を要請、平成20 年度以降は狩猟禁止だが(令和9年度に解禁する方針)、人身被害等防止のための許可捕獲は実施されている。

東京都内でのクマの捕獲数は、平成14年度から平成30年度までの間は平均1.8頭/年だったが、令和に入って急増して10.4頭/年となっている。

令和2年度以降については、東京都ツキノワグマ目撃等情報に捕獲地点が記載されている。市町村別に集計すると、令和7年度末までに、奥多摩町46頭、八王子市4頭、青梅市3頭、檜原村3頭、あきる野市2頭である。
奥多摩町内での内訳を見ると、石尾根西部・鷹ノ巣山南方の峰谷川流域で18頭、石尾根東部・六ツ石山周辺で14頭が捕獲されている。この2地域の占める面積は奥多摩町全体の2割程度だが、捕獲数では70%を占めている。これは人身被害の多い地域とほぼ一致している。

捕獲は標高500m台前後で最も多い。これは捕獲の多くが奥多摩湖北岸の集落付近で実施されることを反映している。
3)クマの生息域と個体数の推定
東京都の調査では、都内のツキノワグマの個体数は以下のように推定されている。

令和2年度:128〜181頭(平均値161頭)、生息密度 0.32頭/km2
令和7年度:120〜378頭(平均値235頭)、生息密度 0.47頭/km2

令和7年度の結果について東京都は「過年度の調査は推定方法が異なるため直接比較はできないが、専門家や市町村へのヒアリングの結果なども加味すると、都内のツキノワグマの個体数は増加傾向にあると考えられる」としている。どちらもヘアトラップ法(体毛採取用の仕掛けにより採取したクマの体毛をDNA解析し、個体識別や行動範囲を分析することにより個体数を推定する手法)を用いた調査ではあるが、トラップの設置場所など具体的な点が異なっているのかもしれない。

なお、生息密度とは推定した個体数を森林面積で割った値であり、東京都の個体数推定で使用された森林面積を逆算してみると、令和2年度、7年度とも約500km2となる。これは西多摩地域と八王子市の森林面積の全てにほぼ等しい。
1996年の時点では、ツキノワグマ分布域の東限は現在より5〜7kmほど西にあるとされていた(山崎晃司・奥多摩ツキノワグマ研究グループ 1996「多摩川集水域におけるツキノワグマの生態に関する研究」)。東京都内の生息面積は約400km2だったということになる。その後、生息域が東に広がって多摩地域の市街地の西縁に達した。さらに、生息域内での生息密度が高くなりつつあり、稀に市街地にも出没するようになった、ということのようである。
多摩地域の森林の6割は人工林だが(東京都産業労働局「東京の森林・林業」令和7年度版)、人工林の割合は奥多摩町51%、八王子市62%、檜原村65%、青梅市74%、あきる野市76%、日の出町83%と地域によってかなり異なる。人工林内でも多くの目撃情報があるので、クマの行動域に人工林が含まれているのは間違いない。しかし、天然林と人工林で生息密度が同じであるとも考えにくい。トラップをどこに設置して生息密度を推定し、それをどのように外挿して個体数を推定したのか、具体的な情報の公開が望まれる。

山梨県では、県内を富士・丹沢、中央・南アルプス、関東山地の3地域に分け、ヘアトラップ法によってそれぞれのクマの個体数を推定している。このうち関東山地は、奥多摩の西部とそれに隣接する奥秩父および大菩薩連嶺を含む中央自動車道より北側の地域である。令和7年度の生息密度は東京都の推定とかなり近い値になっている。

令和2年度:生息密度の平均値 0.156頭/km2、推定個体数 47〜364頭(平均値189頭)
令和7年度:生息密度の平均値 0.42頭/km2、推定個体数 273〜1010頭(中央値540頭)
4)全国との比較
全国でのクマによる人身被害の情報はヤマノート「登山者のクマによる人身被害に関する調査」でまとめたので、そちらも参照していただきたい。1990年度から2025年度までの全国のクマによる人身被害者数は2926人。奥多摩は23人で0.8%に過ぎない。登山者の被害に限ると、2026年5月までで全国では147件160人、奥多摩では9件10人で人数ベースで6.3%を占める。
人身被害者数の2000年以降の推移を見ると、全国では前半(2000年-2012年)の合計1046人に対し、後半(2013年-2025年)の合計は1520人で、1.45倍に増えている。

東京都は前半5人から後半7人に増加し、全国の順位は22位と23位。山梨県は前半33人から後半28人に減少していて、全国の順位は13位と15位。
登山者の被害に限って見ると、全国では前半(2000年-2012年)の合計44人に対し、後半(2013年-2025年)の合計は104人で、2.4倍に増えている。都道府県別に見ても、多くの道県で後半に大幅に増えている。

しかし、東京都は前半4人から後半3人にやや減少し、全国での順位は5位から16位に下がった。山梨県は前半7人から後半4人へと減少し、全国での順位は1位から9位に下がった。埼玉県では0から6人に増えているので、関東山地全体の傾向というわけではないようだ。
最近、多くの県から令和7年度の個体数推定の結果が公表されつつある。前回(多くは令和2年度頃)から大幅に増えた県もあれば、やや減った県もある。現時点で各都道府県の最新のツキノワグマ個体数推定値の中央値を合計すると約5万6千頭となる。相当不確かな値であろうことは認識しつつ、これに基づいて少し計算してみる。

まず、この個体数を森林面積12.8万km2で割ると、平均の生息密度は0.44頭/km2となる。2016年から2025年までの10年間に全国で発生したツキノワグマによる人身被害者数は合計1227人。これを現在の推定個体数で単純に割り算すると、0.0022人/頭/年となる。言い換えると、ツキノワグマが445頭につき年に1人の人身被害が発生するという計算になる。

これを東京都に適用すると10年間で5.2人の人身被害が発生することになるが、実際の被害者は6人で大体合っている。つまり、東京都はクマの生息密度に関しても、クマ1頭あたりの人身被害の発生確率に関しても、全国の平均程度ということになる。
5.終わりに
奥多摩でのクマによる人身被害は、最初の記録がある1993年以降、今年5月までに23件24人。人身被害の頻度は緩やかに増加しつつある。クマの生息数は増加しているようだが、大量出没という事態には至っていない。登山者に限定すると、奥多摩での人身被害は9件10人で、その頻度はむしろ減少傾向にある。1990年台に1件1人、2000年台に4件5人、2010年代に3件3人の被害があって、今年5月17日の三ノ木戸山での事故は9年ぶり、2020年代になって初めて起きたものだった。

昨今の全国的なクマ被害に対する危機感の高まりの中でこの事故が起きたので、大きく報道されて登山者に動揺が広がった。しかし、「ついに奥多摩でも」というような受け止め方をするのであれば、それは単に過去の事実を知らなかっただけのこと。過去の奥多摩でのクマによる人身被害で全国的に報道されて注目を集めたのは、おそらく2008年の登山家山野井氏の事故くらいで、それ以降に登山を始めた人は、そもそも過去に奥多摩でクマによる人身被害があった、ということを知らない場合も多いのだろう。

クマが人間を攻撃する原因としては、偶然の遭遇の際に防御的に攻撃する場合がほとんどである。クマの生息域に人間が入り込む以上、このタイプの事故は極めて小さい確率ではあるが、いつかは発生する。人間由来の食物に依存したクマの場合は、人間への警戒心が低下するので事故のリスクが高くなる。さらに、人間を殺害し食害したクマは、それが偶然であっても、次からは人間を食料とみなして積極的に襲うようになるので、極めて危険となる。

奥多摩の場合、1993年奥多摩町水根の民家で人を攻撃しようとしたクマはハチミツに誘引されたものだが、そのほかの事故のほとんどは偶然の遭遇の結果と思われる。今年5月17日の事故もその一つであり、被害者は大変お気の毒だが、特に異常なことが起きたわけではないし、事態の急激な悪化を示しているというわけでもない。登山者の対応としては従来通り、偶然に遭遇する確率を下げるために、クマ鈴等を使用する、なるべく多人数で賑やかに歩く、といった対策を継続するべきだろう。

しかし、5月19日に仙元峠付近で発見された登山者の変死体に本当にクマが関与しているのであれば、話は全く違う。遺体発見から1月以上経っても警察・行政からは何も公表されないが、広い範囲の通行止めが継続されている限り、クマが関与した可能性を否定できていないと考えざるを得ない。このままいつまで待つことになるのか分からないというもどかしい状況だが、その間に奥多摩での過去のクマによる人身被害に関する情報を整理しておこうと思い、このヤマノートを作成した。
付記:各事故の詳細な記述
事故の記述の精粗は情報源によって大幅に異なる。情報源が複数ある事故については、一番詳しいものを中心に、少し整理して記述した。負傷の程度について統一的に記載するのは難しく、「重傷」「軽傷」「大けが」という記載は情報源の記載をそのまま使用した。

1993/7/17 奥多摩町 水根沢の民家:ミツバチの巣を狙ってきたクマが家の中にいた人に襲い掛かろうとした。このクマは翌日箱罠にかかり、駆除された。(奥多摩ツキノワグマ研究グループ「クマによる人身事故事例」)

1993/9/19 奥多摩町 水根沢キャンプ場:友人と共に釣りをしていたところ、背後の斜面から小さなクマが転げ落ちるようにして男性に接触し、シャツの左腕部分を10cmほど引き裂いた。男性らが大声を出すと、クマは驚いて山に逃走した。(奥多摩ツキノワグマ研究グループ「クマによる人身事故事例」)

1993/7/11 丹波山村 ムジナ沢:沢を遡行中の釣り人が、進行方向にクマがいることに気が付いたが遡行を強行し、背部から襲われ咬みつかれた。(奥多摩ツキノワグマ研究グループ「クマによる人身事故事例」)

1995/6/27 奥多摩町 境(ハンノキ尾根):帰宅のため山林内の山道を歩行中、自宅から50m程の地点で右手の藪から唸り声が聞こえた。振り向くといきなりクマが飛び出してきて、顔面をはたかれ転倒した。クマはすぐに反転して元の藪に戻り、子グマの鳴き声が聞こえた。顔面を50数針縫う全治1ヶ月の重傷を負った。(金邦夫「侮るな東京の山」)

1995/8/2 奥多摩町 石尾根 六ツ石山分岐手前:単独で登山中、30m離れた斜面を登る親子グマを発見した。まもなく母グマも気づいて突進して来た。男性は走って逃げたがすぐに追いつかれ、振り向いた瞬間、顔面をはたかれた。クマは男性と一緒に斜面を転げ落ちた後、子グマの方に走り去った。男性は右顔面に全治10日間の割創を負った。(奥多摩ツキノワグマ研究グループ「クマによる人身事故事例」)

1998/6/5 奥多摩町 中山沢:ワサビ田へ作業に出向く途中、親子グマに遭遇し母グマに襲われた。男性はラジオを携帯し、ボリュームをあげていた。額、頭部、腕などに全治14日間の重傷。(奥多摩ツキノワグマ研究グループ「クマによる人身事故事例」)

2002/6/5 奥多摩町(詳細な事故発生地点は不明):単独のクマに襲われる。登山者。全治14 日間の重傷。(日本クマネットワーク「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」)

2004/7/19 小菅村 鹿倉山と大寺山の間:一人で鹿倉山から大寺山に向かって下山途中、親グマ1頭と子グマ2頭が突然登山道に現れた。親グマに襲われ、右目じりに軽傷を負った。(読売新聞)

2005/8/14 丹波山村 後山川 青岩谷出合付近:急斜面を下降中に後方から吠え声を聞き、振り向くと2.5mの距離にクマがいた。思わず大声を出し、足場を確認するために下を向いた途端、クマが跳びかかり、左上腕部を咬み、右耳横を爪で引っ掻き、腹部両脇に爪が刺さり、被害者は4m程斜面をずり落ちた。クマはその6〜7m下に落ち、そのまま去った。被害者はクマ避け対策としてザックに鈴を付け胸にホイッスルをかけており、また落石対応にヘルメットをかぶり腰に山鉈を携帯していた。(編者注:後山林道終点の橋の手前から青岩谷に下る作業道を下降中の事故。林道終点で前泊して、青岩谷を遡行する計画だったのかもしれない。)(日本クマネットワーク「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」)

2006/5/12 奥多摩町 日原林道 八丁橋:釣り人。林道脇でシカの死体に付いているクマを見つけ、写真撮影のため接近して襲われた。(日本クマネットワーク「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」)

2006/6/23 奥多摩町 小川谷 割谷:沢登り中にクマに遭遇して負傷。(編者注:21時に発生したということは、幕営中か?)(日付はクマ出没ブログによる。「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」では2005/6/23に発生となっている。)

2008/9/17 奥多摩町 犬麦代(倉戸山南東):急斜面をトラバースする狭い山道を、足元に注意を払いながら全力で走っていると、前方で吠え声がして、顔を上げるとクマが突進してきた。その後ろには子グマがいた。右腕をかまれて引き倒され、覆い被さって身体中を引っ掻かれ、さらに顔面を咬まれた。肘をクマの顔面に打ち付けるなどの抵抗をした。抵抗を止めるとクマが口を離したので、両足で蹴って体を離し、起き上がって走って逃げた。クマは威嚇を続けたが、追い付いて攻撃しようとはしなかった。クマは体長約1m、体重60kgくらい。顔面と右腕を合わせて90針縫合、1週間入院。(金邦夫「すぐそこにある遭難事故」)

2010/9/9 奥多摩町 赤指尾根 尾平山:2人で野生動物の調査中、登山道横の斜面に3頭のクマを発見して、大声を出した。母クマがBさんに突進して来て、目前で一瞬停止した。Bさんがクマの頬を蹴飛ばすと、クマはAさんの方に向かった。Aさんは走って逃げたが追いつかれ、右大腿部を咬まれて転倒した。そこにBさんが走って来ると、母クマは子グマが登った木の方に移動した。Bさんがザックの中のクマスプレーを出そうとしている間に、母クマが2mまで接近して来たが、ザックを振り回して叫んだところ、クマは去った。Aさんは右大腿部の穿孔で20日間通院した。(日本クマネットワーク「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」)

2014/9/28 奥多摩町 川乗山 山頂東の肩:登山道の脇から唸り声が聞こえ、すぐに1m先の登山道にクマが飛び出して来て威嚇した。ストックでクマの顔面を叩いた瞬間にクマが立ち上がり、眉間と胸を叩かれ、(意識的に)うつ伏せに倒れ込んだ。クマは覆い被さり、ザックを掴んで引きずり回そうとしたが、結局そのまま立ち去った。目の周囲、鼻、左胸、左腕、頭部を損傷し、約40針縫合。鼻は粉砕骨折。(羽根田治「人を襲うクマ」)

2017/7/28 小菅村 狩場山:1人でトレイルランニングをしていて、親子と思われる2頭のクマに遭遇した。親クマが正面から男性に襲いかかり、腕をかんだ後、山中に去った。(産経新聞)

2017/9/1 奥多摩町(詳細な事故発生地点は不明):男性が沢登り中にクマと接触し、斜面から転落して擦過傷を負った。(東京都環境局「第24期東京都自然環境保全審議会第2回鳥獣部会 資料1-2」)

2018/10/13 秩父市 霧藻ヶ峰 お清平手前:5人で太陽寺側から雲取山荘に向かう途中、お清平手前で熊の親子に遭遇した。木の上に子グマがいるのを見つけた直後に体長1mほどの親グマが突進して来て、先頭を歩いていた男性が襲われた。登山用ストックでクマを追い払おうとしたが、何度も向かってきて揉み合いになり、両手を負傷した。(産経新聞)

2019/8/18 奥多摩町 川乗谷 聖滝:ワサビ田で作業中、崖崩れの様な音がして後ろを振り返ると、140cm位のクマが滑り落ちて来て、尻餅をついていた。クマは直ぐに襲いかかって来て、並んで座る形で殴る咬むの攻撃を受けた。クマの首を掴んで水中に押し込むと、クマは起き上がって去って行った。両腕損傷、右手人差し指骨折、左手2本指欠損、小指脱臼、両足引っ掻き傷。(クマ出没ブログ)

2019/10/1 奥多摩町(詳細な事故発生地点は不明):水道施設の清掃中に、クマと鉢合わせして揉み合いになり、崖から落ちて肩を打撲した。(東京都環境局「第24期東京都自然環境保全審議会第2回鳥獣部会 資料1-2」)

2020/10/31 小菅村 橋立:山中でキノコ採りをしていて体長約1mの熊に襲われ、左足の骨を折る大けが。(クマ出没ブログ)

2022/6/25 奥多摩町 峰谷の山中(留浦) :シカの管理捕獲を実施中に、勢子をしていた従事者が母グマに襲われ、左肩甲骨下を引っ掛かれた。(東京都環境局「令和4年度 東京都ツキノワグマ目撃等情報一覧」および東京都環境局への問い合わせ)

2022/7/20 奥多摩町 氷川の山中(ゴンザス尾根) :シカの管理捕獲を実施中に、従事者が母グマに襲われ、左肩をひっかかれ、右肩をかまれた。(東京都環境局「令和4年度 東京都ツキノワグマ目撃等情報一覧」および東京都環境局への問い合わせ)

2023/11/17 丹波山村 国道411号大萩谷橋西250m:ごみ置き場で作業中に、体長およそ1.3メートルのクマに背後から襲われ、頭や足をかまれたり、ひっかかれたりした。クマは近くの山林で猟銃で駆除された。(YBS NEWS)

2025/8/23 奥多摩町 大丹波川 棒ノ嶺登山口の200m上流:大丹波川の河川敷で渓流釣りをしていて、子グマとみられるクマに顔を引っかかれた。(読売新聞)

2026/5/17 奥多摩町 三ノ木戸山 小中沢林道終点約300m先:一人で登山道を歩いていて音がして振り返ると、20mほど先に黒い影が見えた。その場を動かずにいると、クマは徐々に近づき、5mほどの距離に。クマから目を離さずに静かに後退りしたが、クマは猛スピードで向かって来て立ち上がり、左腕と顔を引っ掻いて、去って行った。クマ鈴、クマスプレーは持っていなかった。(日本テレビ「バンキシャ」)
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