1.はじめに:長く歩ける力と,何度も登り直せる力は別物と考えられます.
縦走や低山の周回で多くの人が苦しむのは,平坦を長く歩けるかどうかより,「下りを挟んだあとの急な登り返し」です.序盤は軽かった木段が,終盤になると急に重くなり,足が止まり,心拍だけが先に跳ねる,そうした体験は珍しくありません.
近年の運動生理学では,長時間バテずに歩き続ける力(Durability:持続力)と,疲労下で同じ急登を何度でも初期に近い速度で登り直せる力(Repeatability:登り返し耐性)を区別して扱います(Meixner, Joyner, & Sperlich, 2025; Lloria-Varella et al., 2025).前者だけでは,後者の崩壊を防げない,というのが本稿の出発点です.
本稿は,高尾山で実施したお代わり4往復(稲荷山コースと6号路のAB-AB周回,距離約30.8km)におけるN=1のフィールド観察です.120g/h糖質の自作フラスコ,クレアチン,下り前のドロップジャンプ準備,急登でのギアチェンジを同時に入れたときの,同一コース登り速度(VAM)と心拍の変化を整理します.因果の完全証明ではなく,観察と実践上の示唆です.
先に結論だけ示すと,4本目の同一コース登坂VAMは1本目を下回らず,登り返しの崩壊は本試行では起きませんでした.ただし4因子を同時投入しているため,どの因子がどれだけ効いたかは本稿単独では分離できません.
2.登り返しが崩れる力学的・生理学的背景
(1)長時間運動による「燃費の天井(VT1)」の低下
長時間運動で筋グリコーゲンが減ると,限界強度(LT2)より前に,会話を続けながら登れる有酸素の天井(VT1:第1換気性閾値)が先に下がることが報告されています(Dudley-Rode et al., 2024).本人は「さっきと同じペース」のつもりでも,天井が下がったあとは無酸素域へ入りやすくなります.
(2)下り着地衝撃とセンサ・筋の損傷
下りでは着地ごとに自重の数倍の負荷がかかり,大腿四頭筋の伸張性収縮と感覚器への打撃が蓄積します.その直後の登り返しでは,同じ見た目のペースでも心拍が先に上がり,脚が鉛のように感じられることがあります.
(3)対照としての予備観察(飯能アルプス)
著者の別山行(飯能アルプス,約27.8km,累積登り約2,522m,登りバウト16本)では,時間経過とともに登高速度(VAM)が低下する傾向が見られました(Spearman ρ = -0.53,p = 0.038).序盤400〜500 m/h前後だった登りが,後半は300 m/h前半まで落ちる像です.これが「登り返し耐性が崩れた」ときの一例です.
3.高尾山4往復の観察デザイン
(1)AB-AB型クロスオーバー
1ルートだけを4往復すると路面差の交絡は小さい一方で単調になり,毎回違うルートだと比較が壊れます.そこで次の交互周回としました.
・コースA:稲荷山コース(木段・尾根の急登)
・コースB:6号路(沢沿い・不整地)
・順序:A → B → A → B(計4本)
同一コースの1本目と3本目,2本目と4本目を直接比較し,疲労下でのVAM低下幅を見ます.
(2)リサーチクエスチョンと判定基準
RQ:上記の統合処方のもとで,同一コース比較のVAM低下を10パーセント以内に抑え,全日の心拍ドリフトを3パーセント未満に抑えられるか.
・改善基準:VAM低下10パーセント以内,全日心拍ドリフト3パーセント未満
・棄却条件:後半本でVAMが15パーセント以上低下し,登り返しの急降下を止められなかった場合
(3)データ源
・軌跡・標高:YAMAP活動GPX
・心拍:同時刻のAmazfit FIT
・VAM定義:谷から峰への登り区間における正の標高取得 ÷ 登り時間(VAM_climb)
4.観察結果
(1)全日サマリ
・距離:約30.8km(Amazfit)
・平均心拍:142.7 bpm,最大心拍:177 bpm
・前後半の心拍ドリフト:+2.2パーセント(基準の3パーセント未満)
(2)登り区間VAMと心拍
・Lap 1 コースA(稲荷山・06:23→07:38):VAM 428 m/h(↑445m)/平均心拍147 bpm
・Lap 2 コースB(6号路・08:51→10:08):VAM 466 m/h(↑472m)/平均心拍147 bpm(区間内最大177 bpm)
・Lap 3 コースA(稲荷山・11:30→12:57):VAM 450 m/h(↑474m)/平均心拍152 bpm
・Lap 4 コースB(6号路・14:07→15:19):VAM 492 m/h(↑474m)/平均心拍148 bpm(区間内最大160 bpm)
(3)同一コース比較
・コースA(1本目 vs 3本目):428 → 450 m/h(+5.3パーセント).平均心拍147 → 152 bpm
・コースB(2本目 vs 4本目):466 → 492 m/h(+5.7パーセント).平均心拍147 → 148 bpm
飯能で見られたような明確な登り返し失速は,この日の同一コース比較では現れませんでした.4本目でも初回以上のVAMを維持し,最大心拍は2本目より抑えられていました.登坂の粗指標(VAM ÷ 平均心拍)は Lap 1 の約2.91から Lap 4 の約3.33へ上がっています.
ただしLap 1は当日最初の登坂でwarm-upが浅く相対的に遅くなりやすい点,および同一コース比較の+5%前後はN=1の日内変動・測定ノイズ帯とも重なる点は留保が必要です.「登り返しで崩れなかった」までは本試行のデータから支持されますが,「明確に向上した」と読むのは踏み込み過ぎです.
(4)主観的体感(測定値ではなく主観記録.因果解釈は不可)
・木段でも足を止めにくく,下りでも踏ん張りが残った印象でした(心拍のオーバーヒート感も少なかった).
・翌日以降の筋肉痛はほぼありませんでした(機序は未特定).
・水分はスポドリ等を含め約6.5L.120g/h(300mlの水に溶解)の糖質を続けると,行動中の空腹感は水分摂水のみにも関わらずほぼ消えます.
・前提として,前半のオーバーペースを抑えるネガティブスプリットと,大臀筋を主動力にした歩行が守れていることが大きいです.
5.実践で入れた3つの処方
(1)補給:自作フラスコ(120g/h糖質)+クレアチン
高用量糖質補給がVT1低下を抑える報告(Dudley-Rode et al., 2024)および 0/30/60/90/120 g?h?? の用量依存的な CP 低下抑制(Norte et al., 2026)を踏まえ,粉飴+果糖の自作液(300mlの水)を時間あたり120gで継続しました.
おにぎりやパンだけだと,小腸のブドウ糖ゲート(SGLT1)しか動かず,吸収はおおよそ60g/hで頭打ちになります.そこを超えるために果糖を足し,別ゲート(GLUT5)を同時に使って120g/hへ上げる,という位置づけです.
1時間分の目安は,粉飴70g+結晶果糖50gを水300mlに溶かす処方です.液なので固形の行動食より胃に残りにくく,粉飴(ブドウ糖系)はおおよそ15〜30分,果糖はおおよそ30〜60分でエネルギーとして使い始められる,という目安です.
クレアチンは急登再開時のATP分解に伴う無機リン酸蓄積を緩衝する候補として併用しています.イメージとしては,糖質が継続補給の燃料,クレアチンが焼き付きを抑えるオイル/冷却寄りの補助です.
配合比(粉飴:果糖)、電解質、フラスコ本数、パッキング量、単価まで、山行時間から自作フラスコの処方一式を出す補助ツール(SLING)を使いました.
https://gpx.ikari.io/demo/sling.html
(2)下り準備:ドロップジャンプ等による着地立ち上がり(RFD)意識
下り着地後に脚が沈んだまま登れなくなるのを避けるため,0.1秒オーダーで力を立ち上げる感覚(RFD)を日頃のドロップジャンプ等で意識しています(関連:Zanini et al., 2024; Monteiro et al., 2023).サスペンションを先に整えておく,という位置づけです.着地の立ち上がりをスマホ動画から見る補助として,RFDランディングアナライザがあります.
https://gpx.ikari.io/demo/rfd_landing_analyzer.html
(3)歩行:急登でのギアチェンジ
急登で無理に水平速度を保たず,歩幅を落として心拍スパイクを避ける歩き方です(Grivas et al., 2026).一定ペース信仰より,地形に合わせた速度切替のほうが後半の登り返しを残しやすい,というのがこれまでの大規模データ観察とも整合します.事前のコースタイム計画には CapStone(スイス山岳会の定義に準拠した静的ペース計画)を使いました.
https://cap.ikari.io
6.本稿の限界
・N=1の事例観察であり,他者への一般化には追加検証が必要です.
・糖質・クレアチン・RFD準備・ギアチェンジを同時投入しているため,どの因子がどれだけ効いたかは分離できていません.
・対照条件(同コース・同ペースでの無介入日)との差は,本稿だけでは示せていません.飯能との比較は別日・別地形です.
・VAMはYAMAP GPXの標高に依存します.気圧高度やサンプリング間隔の誤差が入り得ます.
・Lap 1のwarm-up効果(当日最初の登坂で相対的に遅くなりやすい)を分離できておらず,同一コース比較の+5%を「向上」と断定はできません.
・本稿は診断や競技指導の代替ではありません.
7.まとめ
「長く歩ける(Durability)」と「下ったあとも登り直せる(Repeatability)」は別能力として扱うのが有用です.高尾山のAB-AB 4往復(N=1)では,120g/h糖質+クレアチン,下りサスペンション意識,急登ギアチェンジを同時に入れた結果,同一コースの登りVAMは低下せず+5.3〜5.7パーセント,全日心拍ドリフトは+2.2パーセントでした.
登り返し耐性の崩壊を「本試行では起こさなかった」ことは支持されますが,糖質・クレアチン・下りRFD・ギアチェンジの4因子を同時に入れているため,どの因子がどれだけ効いたかは本稿では分離できません.因子ごとの追試(単独抜きや無介入対照日の設定)と,Lap 1のwarm-up効果を除いた比較設計が今後の課題です.
関連
・東アフリカ型ペーシング(ギアチェンジ)ノート:
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=4123
・下山着地0.1秒の神経筋制御(RFD)ノート:
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=4121
・ELC(GPSによる下山時膝負荷の代理指標)ノート:
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=4124
参考文献
・Dudley-Rode, H., Zinn, C., Plews, D. J., Charoensap, T., & Maunder, E. (2024). Carbohydrate ingestion during prolonged exercise blunts the reduction in power output at the moderate-to-heavy intensity transition. European Journal of Applied Physiology, 125(5), 1349-1359. DOI: 10.1007/s00421-024-05687-w.
・Norte, B., et al. (2026). Graded Carbohydrate Ingestion up to 120 g?h?? Attenuates the Reduction in Critical Power Following 3 h of Moderate-Intensity Exercise in a Dose-Dependent Manner. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 36(6). DOI: 10.1111/sms.70326.
・Meixner, B., Joyner, M. J., & Sperlich, B. (2025). Durability, fatigability, repeatability, and resilience in endurance sports: definitions, distinctions, and implications. Journal of Applied Physiology, 139(6), 1703-1709. DOI: 10.1152/japplphysiol.00343.2025.
・Lloria-Varella, J., et al. (2025). Durability in Trail Running: Coupled Physiological and Biomechanical Responses to Prolonged Submaximal and Repeated Uphill Time Trials in Trained Trail Runners. International Journal of Sports Physiology and Performance. DOI: 10.1123/ijspp.2025-0607. PMID: 42097589.
・Zanini, M., Folland, J. P., & Blagrove, R. C. (2024). Durability of Running Economy: Differences between Quantification Methods and Performance Status in Male Runners. Medicine & Science in Sports & Exercise, 56(11), 2230-2240. DOI: 10.1249/mss.0000000000003499.
縦走や低山の周回で多くの人が苦しむのは,平坦を長く歩けるかどうかより,「下りを挟んだあとの急な登り返し」です.序盤は軽かった木段が,終盤になると急に重くなり,足が止まり,心拍だけが先に跳ねる,そうした体験は珍しくありません.
近年の運動生理学では,長時間バテずに歩き続ける力(Durability:持続力)と,疲労下で同じ急登を何度でも初期に近い速度で登り直せる力(Repeatability:登り返し耐性)を区別して扱います(Meixner, Joyner, & Sperlich, 2025; Lloria-Varella et al., 2025).前者だけでは,後者の崩壊を防げない,というのが本稿の出発点です.
本稿は,高尾山で実施したお代わり4往復(稲荷山コースと6号路のAB-AB周回,距離約30.8km)におけるN=1のフィールド観察です.120g/h糖質の自作フラスコ,クレアチン,下り前のドロップジャンプ準備,急登でのギアチェンジを同時に入れたときの,同一コース登り速度(VAM)と心拍の変化を整理します.因果の完全証明ではなく,観察と実践上の示唆です.
先に結論だけ示すと,4本目の同一コース登坂VAMは1本目を下回らず,登り返しの崩壊は本試行では起きませんでした.ただし4因子を同時投入しているため,どの因子がどれだけ効いたかは本稿単独では分離できません.
2.登り返しが崩れる力学的・生理学的背景
(1)長時間運動による「燃費の天井(VT1)」の低下
長時間運動で筋グリコーゲンが減ると,限界強度(LT2)より前に,会話を続けながら登れる有酸素の天井(VT1:第1換気性閾値)が先に下がることが報告されています(Dudley-Rode et al., 2024).本人は「さっきと同じペース」のつもりでも,天井が下がったあとは無酸素域へ入りやすくなります.
(2)下り着地衝撃とセンサ・筋の損傷
下りでは着地ごとに自重の数倍の負荷がかかり,大腿四頭筋の伸張性収縮と感覚器への打撃が蓄積します.その直後の登り返しでは,同じ見た目のペースでも心拍が先に上がり,脚が鉛のように感じられることがあります.
(3)対照としての予備観察(飯能アルプス)
著者の別山行(飯能アルプス,約27.8km,累積登り約2,522m,登りバウト16本)では,時間経過とともに登高速度(VAM)が低下する傾向が見られました(Spearman ρ = -0.53,p = 0.038).序盤400〜500 m/h前後だった登りが,後半は300 m/h前半まで落ちる像です.これが「登り返し耐性が崩れた」ときの一例です.
3.高尾山4往復の観察デザイン
(1)AB-AB型クロスオーバー
1ルートだけを4往復すると路面差の交絡は小さい一方で単調になり,毎回違うルートだと比較が壊れます.そこで次の交互周回としました.
・コースA:稲荷山コース(木段・尾根の急登)
・コースB:6号路(沢沿い・不整地)
・順序:A → B → A → B(計4本)
同一コースの1本目と3本目,2本目と4本目を直接比較し,疲労下でのVAM低下幅を見ます.
(2)リサーチクエスチョンと判定基準
RQ:上記の統合処方のもとで,同一コース比較のVAM低下を10パーセント以内に抑え,全日の心拍ドリフトを3パーセント未満に抑えられるか.
・改善基準:VAM低下10パーセント以内,全日心拍ドリフト3パーセント未満
・棄却条件:後半本でVAMが15パーセント以上低下し,登り返しの急降下を止められなかった場合
(3)データ源
・軌跡・標高:YAMAP活動GPX
・心拍:同時刻のAmazfit FIT
・VAM定義:谷から峰への登り区間における正の標高取得 ÷ 登り時間(VAM_climb)
4.観察結果
(1)全日サマリ
・距離:約30.8km(Amazfit)
・平均心拍:142.7 bpm,最大心拍:177 bpm
・前後半の心拍ドリフト:+2.2パーセント(基準の3パーセント未満)
(2)登り区間VAMと心拍
・Lap 1 コースA(稲荷山・06:23→07:38):VAM 428 m/h(↑445m)/平均心拍147 bpm
・Lap 2 コースB(6号路・08:51→10:08):VAM 466 m/h(↑472m)/平均心拍147 bpm(区間内最大177 bpm)
・Lap 3 コースA(稲荷山・11:30→12:57):VAM 450 m/h(↑474m)/平均心拍152 bpm
・Lap 4 コースB(6号路・14:07→15:19):VAM 492 m/h(↑474m)/平均心拍148 bpm(区間内最大160 bpm)
(3)同一コース比較
・コースA(1本目 vs 3本目):428 → 450 m/h(+5.3パーセント).平均心拍147 → 152 bpm
・コースB(2本目 vs 4本目):466 → 492 m/h(+5.7パーセント).平均心拍147 → 148 bpm
飯能で見られたような明確な登り返し失速は,この日の同一コース比較では現れませんでした.4本目でも初回以上のVAMを維持し,最大心拍は2本目より抑えられていました.登坂の粗指標(VAM ÷ 平均心拍)は Lap 1 の約2.91から Lap 4 の約3.33へ上がっています.
ただしLap 1は当日最初の登坂でwarm-upが浅く相対的に遅くなりやすい点,および同一コース比較の+5%前後はN=1の日内変動・測定ノイズ帯とも重なる点は留保が必要です.「登り返しで崩れなかった」までは本試行のデータから支持されますが,「明確に向上した」と読むのは踏み込み過ぎです.
(4)主観的体感(測定値ではなく主観記録.因果解釈は不可)
・木段でも足を止めにくく,下りでも踏ん張りが残った印象でした(心拍のオーバーヒート感も少なかった).
・翌日以降の筋肉痛はほぼありませんでした(機序は未特定).
・水分はスポドリ等を含め約6.5L.120g/h(300mlの水に溶解)の糖質を続けると,行動中の空腹感は水分摂水のみにも関わらずほぼ消えます.
・前提として,前半のオーバーペースを抑えるネガティブスプリットと,大臀筋を主動力にした歩行が守れていることが大きいです.
5.実践で入れた3つの処方
(1)補給:自作フラスコ(120g/h糖質)+クレアチン
高用量糖質補給がVT1低下を抑える報告(Dudley-Rode et al., 2024)および 0/30/60/90/120 g?h?? の用量依存的な CP 低下抑制(Norte et al., 2026)を踏まえ,粉飴+果糖の自作液(300mlの水)を時間あたり120gで継続しました.
おにぎりやパンだけだと,小腸のブドウ糖ゲート(SGLT1)しか動かず,吸収はおおよそ60g/hで頭打ちになります.そこを超えるために果糖を足し,別ゲート(GLUT5)を同時に使って120g/hへ上げる,という位置づけです.
1時間分の目安は,粉飴70g+結晶果糖50gを水300mlに溶かす処方です.液なので固形の行動食より胃に残りにくく,粉飴(ブドウ糖系)はおおよそ15〜30分,果糖はおおよそ30〜60分でエネルギーとして使い始められる,という目安です.
クレアチンは急登再開時のATP分解に伴う無機リン酸蓄積を緩衝する候補として併用しています.イメージとしては,糖質が継続補給の燃料,クレアチンが焼き付きを抑えるオイル/冷却寄りの補助です.
配合比(粉飴:果糖)、電解質、フラスコ本数、パッキング量、単価まで、山行時間から自作フラスコの処方一式を出す補助ツール(SLING)を使いました.
https://gpx.ikari.io/demo/sling.html
(2)下り準備:ドロップジャンプ等による着地立ち上がり(RFD)意識
下り着地後に脚が沈んだまま登れなくなるのを避けるため,0.1秒オーダーで力を立ち上げる感覚(RFD)を日頃のドロップジャンプ等で意識しています(関連:Zanini et al., 2024; Monteiro et al., 2023).サスペンションを先に整えておく,という位置づけです.着地の立ち上がりをスマホ動画から見る補助として,RFDランディングアナライザがあります.
https://gpx.ikari.io/demo/rfd_landing_analyzer.html
(3)歩行:急登でのギアチェンジ
急登で無理に水平速度を保たず,歩幅を落として心拍スパイクを避ける歩き方です(Grivas et al., 2026).一定ペース信仰より,地形に合わせた速度切替のほうが後半の登り返しを残しやすい,というのがこれまでの大規模データ観察とも整合します.事前のコースタイム計画には CapStone(スイス山岳会の定義に準拠した静的ペース計画)を使いました.
https://cap.ikari.io
6.本稿の限界
・N=1の事例観察であり,他者への一般化には追加検証が必要です.
・糖質・クレアチン・RFD準備・ギアチェンジを同時投入しているため,どの因子がどれだけ効いたかは分離できていません.
・対照条件(同コース・同ペースでの無介入日)との差は,本稿だけでは示せていません.飯能との比較は別日・別地形です.
・VAMはYAMAP GPXの標高に依存します.気圧高度やサンプリング間隔の誤差が入り得ます.
・Lap 1のwarm-up効果(当日最初の登坂で相対的に遅くなりやすい)を分離できておらず,同一コース比較の+5%を「向上」と断定はできません.
・本稿は診断や競技指導の代替ではありません.
7.まとめ
「長く歩ける(Durability)」と「下ったあとも登り直せる(Repeatability)」は別能力として扱うのが有用です.高尾山のAB-AB 4往復(N=1)では,120g/h糖質+クレアチン,下りサスペンション意識,急登ギアチェンジを同時に入れた結果,同一コースの登りVAMは低下せず+5.3〜5.7パーセント,全日心拍ドリフトは+2.2パーセントでした.
登り返し耐性の崩壊を「本試行では起こさなかった」ことは支持されますが,糖質・クレアチン・下りRFD・ギアチェンジの4因子を同時に入れているため,どの因子がどれだけ効いたかは本稿では分離できません.因子ごとの追試(単独抜きや無介入対照日の設定)と,Lap 1のwarm-up効果を除いた比較設計が今後の課題です.
関連
・東アフリカ型ペーシング(ギアチェンジ)ノート:
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=4123
・下山着地0.1秒の神経筋制御(RFD)ノート:
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=4121
・ELC(GPSによる下山時膝負荷の代理指標)ノート:
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=4124
参考文献
・Dudley-Rode, H., Zinn, C., Plews, D. J., Charoensap, T., & Maunder, E. (2024). Carbohydrate ingestion during prolonged exercise blunts the reduction in power output at the moderate-to-heavy intensity transition. European Journal of Applied Physiology, 125(5), 1349-1359. DOI: 10.1007/s00421-024-05687-w.
・Norte, B., et al. (2026). Graded Carbohydrate Ingestion up to 120 g?h?? Attenuates the Reduction in Critical Power Following 3 h of Moderate-Intensity Exercise in a Dose-Dependent Manner. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 36(6). DOI: 10.1111/sms.70326.
・Meixner, B., Joyner, M. J., & Sperlich, B. (2025). Durability, fatigability, repeatability, and resilience in endurance sports: definitions, distinctions, and implications. Journal of Applied Physiology, 139(6), 1703-1709. DOI: 10.1152/japplphysiol.00343.2025.
・Lloria-Varella, J., et al. (2025). Durability in Trail Running: Coupled Physiological and Biomechanical Responses to Prolonged Submaximal and Repeated Uphill Time Trials in Trained Trail Runners. International Journal of Sports Physiology and Performance. DOI: 10.1123/ijspp.2025-0607. PMID: 42097589.
・Zanini, M., Folland, J. P., & Blagrove, R. C. (2024). Durability of Running Economy: Differences between Quantification Methods and Performance Status in Male Runners. Medicine & Science in Sports & Exercise, 56(11), 2230-2240. DOI: 10.1249/mss.0000000000003499.
SLING(自作フラスコの分量・パッキング計算)
GPXから東アフリカ型の動的ペーシングを算出.スイス山岳会(SAC)標準CT,コース定数,区間ETA,予測HR(Zone2志向),3D地形マップとPDFレポートを提供する登山ペーシングツール.
RFDランディングアナライザ(着地立ち上がりの補助)
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