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更新日:2013年09月16日 訪問者数:10655
ジャンル共通 技術・知識
登山道を歩かない登山体験のすすめ
ヤマレコ・ユーザーの方の奇跡的な生還のニュースを読んで、最後まであきらめないことの大切さを改めて教えられました。  私は現場も事情もまったく知らないので、今度の経過とはまったく関係がない、別個の問題を書いておきたいと思います。  それは、「登山道を歩かない登山のすすめ」です。  (2012年7月のヤマレコ日記から)
tanigawa
みずからすすんで、登山道のないルートに踏み込む
 登山をある程度、長く続けてきた方でも、今までずっと登山道しか歩いたことがない、という人は、かなりの割合でいると思います。
 一方で、長く登山をされてきた方のなかには、道迷いか、その一歩手前のアクシデントに何度か遭遇された方もいるでしょう。
 その場合、自分から求めたわけでないのに、結果的に登山道ではないところや、道から外れたところを、臨機の判断などで行動する羽目に陥った人もいるでしょう。

 私は、山を長く続けるのであれば、山を始めてできるだけ早い段階で、みずからすすんで「登山道を歩かない登山」を体験してほしいと思います。
 もちろんこれは、とくに最初は、経験のあるリーダーのもとで体験することが必要です。
いままで見えてこなかった、いま一つの山へのルートが見えてくる
 例えば、作業道や踏み跡なども、体験としてはいいでしょう。そこは、昔あった集落への道だったり、古い時期の峠越えの往還ルートだったりします。これらを登山計画の一部に積極的に組み入れる方法があります。
 ヤマレコの記録には、こんなルートに魅せられたメンバーの記録もアップされています。

 なかには登山用の市販の地図から完全に消されてしまった踏み跡もあり、そこではガイドブックなどに頼るのではなく、自分の判断と力で、道を求めてゆく体験ができます。
 水場や泊まり場などを求める場合も、地図から沢の流れを判断するなどすることになります。

 いろんな状況に遭遇できる点で、私が一番おすすめしたいのは、入門的な沢登りです。
 沢登りというと、装備をそろえて岩登りこみの行動をするように連想される場合があります。でも、ヘルメットもいらないようなごくやさしい沢は、けっこういっぱいあります。

 そうした沢の中は、もともと、登山道がない時代から、山仕事や物資運搬などで使われてきたルートもあります。だから沢を体験すると、山そのものも、また人がたどるルートも、まったく違った視野が開けてきます。

 日本の山岳開拓の歴史を見ても、先達の登山家らは、猟師など山人や、山里の人々が使った沢と山道とを入山の経路として、山へ分け入りました。
 幕末・明治維新期の、アーネスト・サトウやウェストンらも、沢を遡って北岳へや槍ヶ岳・穂高への道を拓いています。明治期の冠松次郎の黒部紀行も同じ。1920年前後には、小泉秀雄や大島亮吉が、大雪へカウンナイ川から入山しています。
 
 沢から山へいたる視野が生まれると、いままで行動のラインを登山道だけにおいて山を見てきたものが、今度は水の流れをたどるもう一つの行動ラインが見えてきます。

 沢で水線通しで行き詰まるのも、「高巻き」に逃げるのも、また貴重な体験です。ヤブも笹、潅木、草原などいろいろで、遠目にヤブに見えても、水流をたどれば溝道が伸びていて稜線に導かれることもある。
 登山道から離れて山に向き合うことで、地図が示す何が危険で、どういう場合には踏破できるかが、実地の体験を重ねてつかめるようになってきます。

 体験を積んでおけば、気象の変化や増水・崩落時のルートの喪失など、不時の場合の判断と対応に幅が出てきます。
他の登山者もいないし、道標もない。頼りにできるのは自分の力と判断
 遭難の事例を見ていると、道迷いの場合、行動可能性が判断できないまま、沢へ入り込み、立ち往生する場合が多い。沢は、地形によっては良い脱出ルートになりますが、沢の体験がないとその可否が判別できず、ルートを見極めないまま入り込んで、抜け出すこともできなくなるケースが多い。
 登山者にとって、事故や道迷い時に否応なく対面させられる相手が沢なのに、登山者の側では判断の用意さえないまま、こうした場面に立たされる事例があります。

 沢を経験していると、地図と地形の対称の作業が否応なく身についてきます。どういう地形なら自分が上がり下りできるのか? どういう地形は行き詰まるのかが、ある程度予測できるようになってくる。ルートがあればそれが見えてくる。

 何べん「山には地形図と磁石をもっていきましょう!」と言われても、なかなか使う機会がなく、身につかないのですが、現場で自分がルートを拓く判断を体験、始終現在地を確認し頭に置く体験を重ねると、地図もいよいよ必需品になってきます。
 要所で行動時刻を記録するくせもつきます。

 沢では、あてにできる他の登山者もいないし、道標もない。依拠できるのは、自分の力と判断になる。その条件が、山に向き合う自分の力を伸ばしてくれるように思います。
 
沢を立ち入り禁止ゾーンにしての山登りも、もちろんできますが、沢の便利さと危険とを知ると、危険回避のときにも選択の幅や判断が違ってきます。
 「そんなことまで体験しなくとも」と考える方もいると思いますが、沢や谷を知らずに山へ入ることの方が、実は怖いのではないかと、私は逆に思います。

 沢から上がる稜線は、とびきり美しい。沢に「山の素顔のもう半分」があります。山の楽しみが広がります。
 私は、奥多摩、奥秩父や上越のエリアで、花やきのこ、山菜の撮影などをするとき、沢ヤさんらが目もくれないようなやさしい沢と森とをつないで、歩き回っています。尾根をすすむ登山者が対面できない水と森に守られた世界が、そこにはあります。
四季の山を体験することで、残雪期、無雪期の対応も懐が深くなる
 「登山道を歩かない登山」としては、藪山と沢以外でも、冬山、残雪の山も、同じ訓練の場になります。自分でルートを見出して行動することは、ごくふつうに行なわれています。
 地図と磁石とは、現場での地形、ルート判断と一体で、ここでも、自然体で繰り返し使われます。ルートの変更や微調整も臨機に繰り返されます。

 冬山・残雪の山では、登山者が多い一部の山岳地域を別にして、ルートはもちろん、テントで泊まる場所の選定も、自分で行うことになります。不時露営(ビバーク)頻繁に採用されます。

 積雪期の山の体験も、無雪期の山での判断にとって、大きな体験と力になります。
 「私は雪山は行かない」、「沢登りはしない」という登山者はけっこうおられます。でも、もし自分が、入山者が少ない山を含めて、何十年にもわたる山との付き合いをしていくのならば、残雪期、積雪期、初冬の山、そして沢など、山のいろんな様子を体験しておくと、山の醍醐味と危険、その四季おりおりの変化に懐深く対応することができるように思います。

 登山道に加えて、枝分かれする沢を視程に加え、さらに雪面に自由にルートを探す雪山を視程に加える。
 こうして新しい視野を加えてくると、登山道から見ていた山と異なる、山の新しい立体的な姿と奥行きがつかまれてきます。
 すると、そこに登山道があることの意味も、新しくつかまれてきます。

 山では、ほんらい、道は失ったり、迷ったりするものではなく、自分で拓くものだと思います。こう言っている私も、何度も道迷いは体験してきました。
http://www.yamareco.com/modules/diary/990-category-7
 大事なことは、迷ったり、探したりする段階からが、地図と地形を読み、ルートを見出す自分の力を試すときだということだと思います。道といってもいろいろあるし、なければないなりに、そこから次善の策を見出せばよい。そういう場面は、山では遅かれ早かれ誰もが経験します。ならば、最初から自分で道を拓くことを目的にした登山を経験しておくのは、理にかなっています。
 その体験は、事前の調査や地図の用意はもちろん、山の装備や食糧の面でも、いざというとき本当に必要なものが見えてくるように思います。

 個人の方がそのための体験を重ねるためには、最初は山岳会、ガイド、登山用品店の講習会や催しなど、参加することになるかもしれません。山岳会はどんどん活用したいし、ヤマレコにも良い指導役がおられます。
 知り合いの経験者に指導を受ける場合も、講習会に参加する場合も、指図されるのではなく、先を読む、自分で考えることだと思います。
 そして一通り学んだうえで、自分でルートファインディングする登山を体験してみることをおすすめしたいです。
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コメント

低山ですが、今日 道に迷って、よせばいいのに、強行突破して、藪の中を息を切らしてたぶん30分位彷徨い、何とか登山道まで辿り着くという体験をしたばかりなので、とても身にしみてコメントさせていただきました。
まさに、おっしゃる通りでした。
スマホの地図見ながら、倒木を乗り越え、藪をかき分け、大袈裟ですが、生きた心地がしませんでした。
まだ、初心者なので、早いうちにこういう体験ができて良かったと思います。
木をだいぶ折ってしまったと思うので、山には申し訳無い気持ちなので、今日の体験を糧にします。
2023/5/3 17:52
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