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更新日:2022年01月14日 訪問者数:1480
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第2部 北アルプス 2-15章 裏銀座の山々−水晶岳、野口五郎岳、烏帽子岳ー  
ベルクハイル
裏銀座コースの地質図
・ベージュ色;花崗岩(白亜紀)

・赤色;花崗閃緑岩(ジュラ紀)

・黄色(雲の平);安山岩、玄武岩質溶岩

中央部の縦長の水色部分は、高瀬ダム湖。
その左側(西側)が裏銀座コース。
中央やや上の▲印が烏帽子岳、ピンク色ゾーンと朱色ゾーンとの境目にある▲印は野口五郎岳、
朱色ゾーンのうち、黄色ゾーンに近い場所にある▲印が水晶岳

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
水晶岳の山頂部
岩の多い山頂部、岩は花崗閃緑岩でできている。

(筆者撮影)
野口五郎岳 山頂部
花崗岩のザレに覆われている。
また写っている尾根筋の手前の斜面は、二重山稜となっている場所。

 (筆者撮影)
野口五郎岳から水晶岳を望む
・眼下の小さい池(影になっている部分の近く)が五郎池、その一帯がカール

・また水晶岳の東面にはやや形が乱れてはいるが、カール状地形が認められる

 (筆者撮影)
烏帽子岳
「烏帽子小屋」のホームページより引用させて頂きました。

・花崗岩でできた小型の尖峰状の山頂であることが良く解る。
(はじめに)
 北アルプスのランドマークといえる槍ヶ岳へ向かうコースはいくつもありますが、代表的な縦走コースは「表銀座コース」と、「裏銀座コース」でしょう。

 「表銀座コース」は、北アルプス入門の山とも言われる燕岳から、大天井岳、東鎌尾根を経由して槍ヶ岳に至るルートで、人気のコースです。

 一方「裏銀座コース」は、七倉登山口から、急登で知られるブナ立尾根を登って烏帽子岳(烏帽子小屋)に至り、野口五郎岳、水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、西鎌尾根を経由して槍ヶ岳に至る、かなり長いルートです。

 この章では、裏銀座コースにある山々についてまとめて説明します。なお、地質について、この地域では説明する内容に乏しいので、加えて地形関係も説明します。
1)水晶岳(黒岳)
 水晶岳は、裏銀座コースの中でも3000mに近い標高を誇り、日本百名山にも選ばれている名峰です。頂上は主稜線上にはなく、水晶小屋がある分岐から北へと延びる岩尾根を30-40分歩くと、水晶岳南峰(2986m)、さらに北へ少し進むと、三角点のある水晶岳北峰(2978m)に到着します。この山頂からの展望は雄大で、南は槍穂高連峰、北には立山、西には薬師岳と名峰に囲まれており、また南西側を見下ろすと、すぐ近くに雲の平の台地が一望できます。

 産総研「シームレス地質図v2」をよく見ると、水晶岳〜赤牛岳への枝尾根と、野口五郎岳へと続く主稜線との間の谷(東沢谷)には、黒部湖まで南北にまっすぐ続く断層が走っています。この断層の活動のセンス(動きの方向)は不明ですが、一般に断層部分は地質(岩石)が破壊されて破砕帯になりやすいものです。そのため浸食に弱く、断層に沿って谷が伸びることがしばしばあります。この枝尾根も、東沢谷沿いに選択的浸食が起きたため、主稜線と別れた枝尾根ができたのだと思われます。
 
 この山の地質(岩石)は、前章で紹介した鷲羽岳と同じく、ジュラ紀の花崗閃緑岩で出来ています。花崗岩類のなかでも、本来の花崗岩より花崗閃緑岩のほうがやや有色鉱物が多いために見た目も黒っぽく、そのために「黒岳」という別名がついたものと思われます。北アルプス中央部は大まかにいうと、西側がジュラ紀の花崗閃緑岩ゾーン、東側が白亜紀の花崗岩ゾーンとなっていますが、水晶岳と野口五郎岳との間が、この2ゾーンの境目となっています。

 水晶岳という名前の由来は、この山の山頂近辺で「水晶」が取れたことから付いたものと言います。水晶は組成式が “ SiO2 ” であり、花崗岩類に含まれる鉱物の石英と同じです。日本では山梨県北部(金峰山付近)が、水晶の産地として有名ですが、金峰山あたりも花崗岩でできており、花崗岩質マグマ溜りから、SiO2 成分が析出して(大きな結晶としての)水晶ができるのだと思います。

 そういえば、ヨーロッパアルプスの最高峰 モンブラン(4810m)の初登頂は、1786年に、ジャック・バルマと、ミシェル・G・パッカールによってなされましたが、バルマの本職は水晶取りだといいます。モンブラン山群も花崗岩でできているので、水晶があちこちに産出したのでしょう。
2)野口五郎岳
 水晶岳の分岐からさらに北東への稜線を進むと、野口五郎岳(標高 2924m)に至ります。この山は標高が高いわりには茫洋とした山容をしており、また花崗岩質のザレが多い山です。

 昭和の名歌手「野口五郎」氏の名前(芸名)が、この山の名前から取られたと言うのは、有名な逸話です。

 この山の地質(岩石)は、水晶岳とは違い、白亜紀の花崗岩でできています。この花崗岩ゾーンは、常念山脈中北部の常念岳、大天井岳、燕岳からの続きになります。花崗岩は花崗閃緑岩よりも有色鉱物が少ないので、ザレの色も白っぽい感じです。

 この山は、地形的には、山頂付近に「二重山稜」があることが特徴の一つです。
 二重山稜とは、稜線部が部分的に左右二つに分かれ、その間は船底状の細長く低い形状をしています。さらに何重にも山稜が別れている場合は「多重山稜」とも呼びます。
 二重山稜地形は、北アルプスに特に多いのですが、南アルプスにも見られます。この地形の生成原因として、以前は積雪(残雪)の影響ではないか?と言われていました。というのは、2つの山稜の間の凹地(船窪、あるいは雪窪とも言いますが、現在では「線状凹地」と呼ぶことが一般的)には、長期間 残雪がたまっていることが多く、残雪が溶ける際に地面の土砂を外に出すのではないか?という説です。

 しかし、近年になって、二重山稜地形は、実は小規模な断層(正断層)によってできた地滑り状の地形であることが解りました。
 北アルプスの稜線のように、標高が高く、かつ両側が急角度の傾斜を持っている場所は、地形としては不安定であり、地滑りのようにして、山稜の一部が側面にずり落ちた結果、二重山稜地形が生まれたと考えられています。(文献1)(文献2)

 このほか、野口五郎岳の地形的な特徴としては、北側に大きなカールを持っており、カール底には小さな五郎池がアクセントになっています。鷲羽岳のカール底にある鷲羽池は火山噴火口ですが、この五郎池は火山性のものではなく、カール内にある堤状の部分(モレーン)によって、雪解け水がカールから流れ出さずに池を作ったものです。(文献2)。
3)烏帽子岳
 烏帽子岳は、裏銀座コースの起点にある、標高 2628mの山です。烏帽子小屋からは北へ20分ほど歩いた場所にあります。

 烏帽子岳はその名のとおり、頂上部が尖った岩峰状となっています。
 花崗岩でできた山では、例えば南アルプス 鳳凰三山の地蔵岳(通称;オベリスク)や、奥秩父の金峰山(五丈岩)、屋久島の宮之浦岳山頂部など、花崗岩の巨岩が立っている場所はいくつかあります。花崗岩はもともと、地中深くのマグマだまりにあったマグマがゆっくりと冷え固まってできた岩石(岩体)で、本来は硬い岩石です。また堆積岩や変成岩のような層状構造はもっていません。ではなぜ、ザレた稜線の途中に、このような巨岩がしばしば見られるのでしょうか?

 花崗岩の風化について調べてみると謎が解りました。
 文献3)、文献4)によると、花崗岩は地表にでると、地中でかかっていた圧力から解放されるため、自然とクラック(割れ目)ができやすいようです。その割れ目のことを「節理」(せつり)と呼びますが、花崗岩の場合、上から見て縦横に節理ができやすく、節理部分から雨水や雪解け水が侵入して、風化が進みます。
 風化した部分は山の用語でいうとザク、ザレ、土木用語でいうとマサ土となります。一方、節理と節理との間の部分は風化しにくく、硬い岩石の状態を保ちます。この部分を土木関係では「コアストーン」と呼ぶようです。
 コアストーン部分は本来の硬い花崗岩の性質を持っているため、土木関係ではじゃまもの、防災関係では土石流で破壊力を増すものとして重視されているようです。

 で、山の話に戻ると、花崗岩地帯の山頂や稜線に時々見られる、鋭い岩峰や巨岩は、このコアストーンの一種ではないか?と思われます。
(参考文献)
文献1)法橋、大塚 
   「飛騨山脈 蝶ヶ岳に発達する多重山稜の
      地形・地質学的研究」
    信州大学環境科学年報 第31号 (2009)

http://www.shinshu-u.ac.jp/group/envsci/Vol31/Paper2009/10_Hohashi.pdf


文献2)小泉、清水 共著
   「山の自然学入門」古今書院 刊(1992)
    のうち、
   ・「山の自然ミニ知識」の章のうち、「山稜の形」の項
   ・No。39「野口五郎岳」の項

文献3)日本応用地質学会 中国四国支部 
     「花崗岩のコアストーンによる土木的な注意点」
    同支部のホームページの、「Q/A」のうち 「土-16」の項
                            (2020年7月 閲覧)
    
https://www.jseg.or.jp/chushikoku/Q&A/116.pdf#search='%E8%8A%B1%E5%B4%97%E5%B2%A9+%E9%A2%A8%E5%8C%96'
 

文献4)池田 
  「花崗岩地形の特徴」 
    奈良大学寄稿 第26号(1998)

 http://repo.nara-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/AN00181569-19980300-1004.pdf?file_id=233
【書記事項】
初版リリース;2020年7月23日
△改訂1;文章見直し、一部加筆修正。
     2−1章へのリンクを追加。山のデータ追加。
     書記事項の項を新設、記載。
△最新改訂年月日;2022年1月14日
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