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更新日:2021年09月05日 訪問者数:1630
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第8部 北海道の山々の地質、8−14章 利尻、礼文、増毛山地
ベルクハイル
利尻島と礼文島の地質図
A)利尻島
 ・濃い茶色;安山岩質の火山岩
 ・紫色;玄武岩質の火山岩
 ・薄いベージュ;火山性扇状地堆積物

B)礼文島
 ・中央部に広がる黄色い部分;「礼文層群」
(礼文島の地質詳細は、以下の図)

※ 産総研「シームレス地質図v2」を引用しました。
礼文島の地質図
・(赤線で囲った)中央部の濃いめの黄色;「礼文層群」(白亜紀の火山岩類、堆積岩類)
・南側の黄色;中新世の火山岩類
・北側のベージュ;珪質泥岩(新第三紀 中新世)
・北西の岬(スコトン岬)やその先の島(トド島)の薄紫色;玄武岩類(新第三紀 中新世)


※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
増毛山地の地質図
・上部(北部)の濃いめの黄色;安山岩質の火山岩(中新世末〜鮮新世)
・北部の薄い水色;玄武岩質火山岩(中新世末〜鮮新世)
・(赤線で囲ったAマークの)くすんだ水色;泥岩質付加体(ジュラ紀;渡島帯)
・(赤線で囲ったBマークの)薄い水色;泥岩類(白亜紀、隈根尻層群)

赤い▲は、上が暑寒別岳、下がピンネシリ山
赤い網掛け〇印は、雨竜沼湿原の位置

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
残雪の利尻岳
フェリー上より、5月、(筆者撮影)
礼文島を遠望
利尻岳の4合目付近より、5月、(筆者撮影)
初夏の暑寒別岳
※ ヤマレコ内の山のデータ集より引用させていただきました。
増毛山地の雨竜沼湿原
※ ヤマレコ内の山のデータ集より引用させていただきました。
(はじめに)
 この章では、ここまでの章で説明してきた北海道の山々の中では、まだ説明できてなかった、道北の利尻島(利尻岳;りしりだけ:1721m:注1)、礼文島(れぶんとう)、および北海道西部にある増毛山地(ましけさんち)の地質、地形について説明します。

 北海道の北の端にある稚内(わっかない)市の西方海上には、利尻島(利尻岳)があり、全島が一つの火山体です。
 
 また利尻島のすぐ北側には、花の島として有名な礼文島があります。こちらは利尻島とは異なり、全島が古い地質よりなり、最高標高点の礼文岳は約490mで、丘陵状の島です。

 増毛山地は、札幌―滝川(たきがわ)―深川(ふかがわ)へと続く、石狩川の作った低地帯の西側にあり、南北 約60km、東西 約30kmの、南北に長い紡錘形状の山地です。その西は日本海に面しており、北海道の他の山地とは孤立した山塊です。最高峰は暑寒別岳(しょかんべつだけ:1491m)です。
 なお、増毛山地は、その一部、あるいは全体が、樺戸山地(かばとさんち)とも呼ばれますが、この連載では、「増毛山地」という名称に統一します。

 注1)利尻岳(りしりだけ)は、利尻山(りしりざん)とも呼ばれますが、
    この章では、「利尻岳」あるいは「利尻火山」という名称を使用します。
1)利尻島(利尻岳)の火山史と地形
 道北の稚内(わっかない)港からフェリーで約4時間のところにある利尻島は、中央部にそびえる利尻岳(百名山の一つ)が作った、島全体が一つの火山島になっており、島の周囲長は約60kmです。
 極北の地、かつ日本海に囲まれた位置のため、特に冬場は豪雪と悪天候により、山のエキスパートでも、山頂を極めるのが難しい山として知られています。初夏まで残雪が残りますが、6−8月は高山植物が多い山としても知られています。

 さて、北海道全体の第四紀火山の分布を見ると、道東地域(知床火山群、屈斜路カルデラ、阿寒カルデラなど)、北海道中央部(大雪山系、十勝連峰など)、胆振(いぶり)―後志(しりべし)地区(羊蹄山、洞庭カルデラなど)の、大きく3つのゾーンに分けられます。いずれも、千島海溝―日本海溝から沈み込んでいる海洋プレート(太平洋プレート)の影響でできた火山地帯で、それらを結ぶ線が、火山フロントを形成しています。

 しかし、利尻岳(利尻火山)は、それらの地域から孤立し、海溝側からみて、約400km、火山フロントからも約200km離れた位置にあります。この理由は明確ではありません。

 さて、利尻火山の活動を(文献1−a)、(文献2−a)に基づき、説明します。

 利尻火山の活動開始時期は、約20〜15万年前と推定されています。

 その後、成層火山を形成し、特に約4万年前後が活動の最盛期で、何度も大きな噴火、溶岩流の流下があったと推定されています。その時期の溶岩流は、海岸近くの山麓に広がっています。またこの時期は、成層火山として最大の大きさになったと推定されています。

 その後、徐々に火山活動は落ち着き、山麓部での小型火山の噴火が主となりました。山麓部の火山活動では、鬼脇(おにわき)ポン山、仙法志(せんぼうし)ポン山、沼浦マール(マグマ水蒸気爆発によって形成された小型の池)などを形成しました。〇〇ポン山という名前がついている小型の火山はだいたいが、溶岩ドームか、スコリア丘です。
 また鴛泊(おしどまり)港近くにある「姫沼」という円形の小さい池も、マールの一種ではないかと思います(この段落は私見です)

 サロベツ原野で確認される利尻火山由来のテフラによると、利尻火山の最新の活動は数千年前であり、それ以降、火山としての活動は確認されていません。

 なお、利尻火山から噴出した火山岩の性質としては、(文献2−a)によると、活動時期により変化が多く、(流動性 大)<―玄武岩質、安山岩質、デイサイト質、流紋岩質 ―>(流動性 小)と、噴出物の変化が多い火山です。

 利尻岳は山頂付近が荒々しい岩峰群(たとえばローソク岩、仙法志(せんぼうし)岩稜)で形成されており、標高に比べ、非常に険阻な山容をしています。このうち、ローソク岩という岩峰は、元の火山のマグマが上昇したルート(火道)が、まるで化石のように残存しているものです(文献1−a)(文献3)。
 活動開始時期が約20万年前、活動最盛期が約4万年前の火山にしては、浸食、開析がずいぶんと進んでいる印象があります。
 以下はあくまで私見ですが、利尻岳は極北の地に立地していることで、冬季の多量の積雪、雪庇が、雪崩となって谷筋を下ることが繰り返されこと、および夏場以外の季節に働く「周氷河作用」によって岩石の破砕が進むため、険しい谷筋と、その間の険しい尾根筋ができたのではないか?と思います。
 なお、(文献3)によると、利尻岳の険しい谷地形や岩稜は、主に流水による浸食地形だが、氷期には氷河があった可能性もあり(但し氷河の痕跡は確認されていない)、氷河による浸食も考えられる、と記載されています。

 このように、利尻島は全島がほとんど、利尻火山の噴出物で形成されていますが、ごくわずかの範囲に、その基盤となっている地質が分布しています。
 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、鴛泊港の近くの、オシドマリポン山や、鴛泊港周辺には、新第三紀 中新世〜鮮新世にかけての海成泥岩層がわずかに分布しています。これと同じ地質は、海を隔てた礼文島や、稚内市付近にも分布しています。
2)礼文島の地質と地形
 礼文島は、利尻島のすぐ近くにある島で、標高が低いわりに6−8月には高山植物の花が多く咲き、花の島として知られています。礼文島は利尻島とは対照的に、低い丘陵性の島で、地質的にも利尻島のような第四紀火山ではなく、比較的古い地質からできています。

 礼文島を構成している地質に関しては、産総研「シームレス地質図v2」、(文献2−b)、(文献1−b)とではそれぞれ、記載内容が多少異なります。以下は、地質学の専門書である(文献2−b)に基づいて説明します。

 礼文島の中央部には比較的広く、白亜紀の地質体が広がっており、「礼文層群」という名前がついています。北海道の地帯構造区分では、「礼文―樺戸帯(れぶんーかばとたい)」に属する地質です。
 「礼文層群」は、火山岩類(火砕岩、凝灰岩、凝灰角礫岩など)と、堆積岩(凝灰質砂岩、砂岩、泥岩)からなる複雑な層構造を持った地層群です。この地層群は、海底火山の噴出物及び、海底で形成された堆積岩と推定され、白亜紀には礼文島もしくはその近傍に火山活動があったことを示しています。
 8−1章でも触れましたが、白亜紀には「西・北海道」地塊というものが存在し、その東側で海洋プレートの沈み込みがあったと推定されています。「礼文層群」の白亜紀火山岩類は、その当時の火山噴火の痕跡であり、海洋プレート沈み込みに対応した火山フロントに位置していた、と推定されています。

 礼文島の北側及び南側には、時代が下がって、新第三紀 中新世の地質が分布しています。桃岩(ももいわ)と呼ばれる巨岩を含む南部は、安山岩質の火山岩でできています。北部は主に砂岩などの堆積岩でできていますが、スコトン岬やトド島は玄武岩質火山岩で出来ています。この中新世の地質は、海を隔てた道北の各地にも分布しています。
3)増毛山地の地質と地形
 増毛山地(ましけさんち)は、本章の最初で説明したように、北海道の西側に孤立した立地の山塊です。最高峰は日本三百名山の一つでもある暑寒別岳(しょかんべつだけ:1492m)です。その他、高山植物が多いことで有名な、雨竜沼(うりゅうぬま)湿原が、山地内にあります。
 
 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、増毛山地の地質は割と複雑ですが、大きく以下4つの地質グループに分類することができます。

  (1)主にジュラ紀の、付加体性の泥岩;同山地南西部
  (2)白亜紀の、玄武岩質火山岩、ハンレイ岩、泥岩、礫岩;同山地南東部
  (3)中新世〜鮮新世の、安山岩、玄武岩質火山岩;暑寒別岳を含む同山地北部、西部
  (4)中新世〜鮮新世の、堆積岩(泥岩、砂岩);同山地の中央部〜東部

(1)の地質は、本連載の8−1章や8−5章で説明した、ジュラ紀付加体であり、渡島半島に点在して分布している「渡島帯」の地質の北方延長部です。

(2)の地質は、本連載の8−1章や、この8−14章の中で説明した、白亜紀の海底火山や海底堆積物由来の地質体であり、「礼文―樺戸帯」のうち、隈根尻層群(くまねしりそうぐん)と呼ばれる地質体です。礼文島の「礼文層群」と類似した地質構成です。

(3)、(4)は、北海道の他の地域にも広範囲に分布している、新第三紀 中新世〜鮮新世の地質体です。
 中新世という時代は、北海道の周辺で、日本海の拡大や、オホーツク海の南部での千島海盆の拡大といった地質学的に大きなイベントがあった時期ですが、その時期の地殻変動に伴って形成された火成岩、堆積岩と考えられます(この段落は私見です)。

 以下個々の山の地質と地形を説明します。

 主峰である暑寒別岳は、ほぼ山体の全体が、上記地質区分のうち(3)の、中新世末の安山岩質火山岩で形成されている山です。
(文献1−c)では、「暑寒別火山」という名前が付けられ、第四紀以前の、かなり古い火山ではありますが、元は大きな山体をもつ成層火山だったと推定されています。

 その近くの雨竜沼湿原は、上記地質区分のうち(3)の、地質的には玄武岩質火山岩で形成されています。(文献1−c)によると、この一帯は玄武岩の3層にわたる分厚い溶岩流によって形成された台地状地形であり、その台地の上に、湿原が形成されたと推定されています。
 (文献1−c)ではまた、この湿原の起源は前の氷期に遡り、氷期には永久凍土地帯となっていた台地が、現在の間氷期に入ってから永久凍土が部分的に融解してできたのが湿原(およびその中に点在する池塘)ではないか、と推定されています。

 南東部のピンネシリ山(1100m)や隈根尻(くまねしり)山(971m)は、上記地質区分のうち(2)の、白亜紀の付加体型地質で形成されています。
【書記事項】
初版リリース;2021年9月5日
△改訂1;文章見直し、リンク先修正、書記事項追記(2021年12月27日)
△最新改訂年月日;2021年12月27日
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