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更新日:2022年02月07日 訪問者数:1100
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日本の山々の地質;第10部 近畿地方の山々の地質;10−6章 近畿地方中部の火山岩質の山々
ベルクハイル
室生地域の地質図
[地点の凡例]
・中央下部の赤い▲印;兜岳、鎧岳
・やや左手の赤い▲印;くそろ山
・くろそ山近くの青く着色したゾーン;曾爾高原
・中央の青い筋状の部分;「赤目四十八滝」

[地質の凡例]
・薄いベージュ(青線で囲んだ、中央部に大きく広がっている場所);「室生火砕流堆積物」地域
(新第三紀 中新世)

・周辺部にある濃いめのオレンジ部分;泥質片麻岩(領家変成岩)
・周辺部にある朱色部分;花崗閃緑岩(白亜紀)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
二上山付近の地質図
[地点の凡例]
・中央下部の赤い▲印;二上山(雄岳)
・図の上部の青い筋;大和川
・左手(西)は大阪平野、右手(東)は奈良盆地

[地質の凡例]
・濃い黄色(緑色の線で囲んだ部分);
  安山岩質の溶岩、火砕岩(新第三紀 中新世)
・薄目の黄色;デイサイト質の溶岩、火砕岩
  (新第三紀 中新世)
・朱色;花崗閃緑岩(白亜紀)
・紫色;閃緑岩(白亜紀)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
大和三山付近の地質図
[地点の凡例]
・中央上部の赤い▲印;耳成山
・左手の赤い△印;畝傍山
・やや右手の青い▲印;天乃香久山
・中央部の青く囲った部分;「藤原京」跡

[地質の凡例]
・ベージュ(耳成山と、畝傍山の中央部)
 ;デイサイト/流紋岩質 溶岩(火砕岩)
   (新第三紀 中新世)
・朱色;花崗閃緑岩(白亜紀)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
鎧岳南面の大岩壁
標高 800m程度の山とは思えない、大岩壁がある。
「大規模火砕流堆積物」で形成されている岩壁だが、岩壁には柱状節理(縦筋)が明瞭で、かつ数段に分かれている堆積構造が良く解る

(筆者撮影)
曾爾高原
曾爾高原(そにこうげん)は「大規模火砕流堆積物」からなる、溶岩台地状の地形、その先に、「くろそ山」などがそびえている

(筆者撮影)
二上山
雄岳と雌岳の双耳峰であることが良く解る写真

(ヤマレコ内の山のデータより引用させて頂きました。)
畝傍山
火山岩でできているとは思えない、里山っぽい感じの山

(筆者撮影)
耳成山
火山岩でできているとは思えない、里山っぽい山

(筆者撮影)
耳成山の流紋岩質溶岩シート
耳成山の中腹より上は流紋岩質溶岩で形成されており、ほぼ垂直になった溶岩シート状構造(流理構造)が認められた

(筆者撮影)
(はじめに)
 この章では近畿地方中部(主に奈良県中部)に点在する、(新第三紀 中新世の)火山岩質の山々について、その形成史や地質を紹介します。

  さて、糸静線より西側の「南西日本」において、中部地方には第9章で述べた 御嶽、乗鞍岳、白山などの第四紀火山があります。中国地方には火山は少ないのですが、それでも大山(だいせん)、三瓶山(さんべさん)などの第四紀火山があります(第11部で説明予定)。九州は「火の国」の別称のとおり、阿蘇、雲仙、桜島など、現在でも活動中のものを含め、多数の第四紀火山、活火山があります(第12部で説明予定)。

 一方で近畿地方には、ほとんど第四紀火山が存在しません。わずかな例外は兵庫県北部の神鍋高原(かんなべこうげん)にある、複数の小規模火山(いずれも噴火が1回だけの「単成火山」)くらいです。(文献1−a)、(文献1−b)。

 この、近畿地方に第四紀火山がほとんどない理由は、明確ではありませんが、南側から沈み込んでいるフィルピン海プレートの沈み込み角度が小さく(浅く)、近畿地方北部においてさえも、フィリピン海プレート上面の深さは約40〜約80kmと推定されていて、一般に沈み込み帯でマグマが生じるとされる条件である「深さ100km以下」の深度に達していないためと思われます(文献2)。

 そのように四国地方と並び、近畿地方には火山や火山岩の分布が少ないのですが、近畿地方中部(主に奈良県中部)には、第四紀ではありませんが、新第三紀 中新世(約23〜6Ma)の火山岩質の地質が分布しています。

 古くは、近畿地方中部から瀬戸内海東部にかけ、「瀬戸内火山帯」という火山帯があり、その火山活動の跡が残っているもの、と解釈されていたようです(文献2)。

 しかしながら、火山岩の物理化学的年代測定法(放射性同位元素に基づく元素分析法)が確立されてからは、近畿地方中部の火山岩は、第四紀(現世から約2.6Maまで)ではなく、新第三紀 中新世(約23〜6Ma)の火山岩であることが解り、「瀬戸内火山帯」という用語は、一般的には使用されなくなりました。(但し、(文献1−b)では、「中新世中期の火山帯」という意味で、部分的に用いられています。)

 これらの火山岩質の地質分布域では、いくつか特徴ある山や地形を形成しています。
以下、その火山岩の分布域ごとに解説します。

  ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
1)室生地域の火山岩分布域
 室生(むろう)地域とは、奈良盆地の東側、三重県との県境に近い地域です。2022年現在における行政区画上では、宇陀(うだ)市、曾爾(そに)村を含む範囲です。
  この室生地域には、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、デイサイト/流紋岩質の、大規模火砕流噴出物が広く分布しています。噴出時期は、新第三紀 中新世中期と推定されています。分布域の形状は東西方向に長軸をもつ楕円形状(サツマイモ状)で、東西方向に最大約25km、南北に最大15kmあります。その下の基盤岩は白亜紀の花崗岩です。
 この室生地域の火山岩が分布する領域(の地質)は、(文献1−c)では「室生火砕流堆積物」と呼ばれており、実際の岩質は、(文献1−c)によると、溶結(した)火山礫凝灰岩(=溶結凝灰角礫岩)とされています。

 この室生地域における、上記火山岩からなっている山としては、三百名山の一つである「く留尊山」(くろそやま;1037m)注1)の他、岩峰状の鎧岳(よろいだけ;894m)や兜岳(かぶとだけ、約820m)があります。
 鎧岳や兜岳は名前の通り荒々しい岩峰状の山容で、その断崖部分は柱状節理が良く発達しているのが麓から良く観察できます。(文献4)によるとこの付近での層厚は室生地域で最大の厚さであり、約400mとされています。鎧岳の南面岩壁を見ると、見た目でもだいたい数百mの層厚であることが解ります。
 この柱状節理構造から考えると、(文献1−c)にある岩質の説明のとおり、火砕流堆積物が堆積した後に、堆積物自身が持つ熱によって部分的に再融解し、そのあとに冷却していく過程で、柱状節理が形成されたのだと思われます。

 その他、「くろそ山」に近い曾爾高原(そにこうげん)は、この火山岩で形成された、おそらく溶岩台地状の地形です。またこの地域の北部には、観光名所となっている「赤目四十八滝」という、滝の多い渓谷がありますが、これは火山性台地を川(宇陀川の支流である滝川)が浸食して、渓谷となっているものです。

 この大規模火砕流が噴出した 新第三紀 中新世中期は、ちょうど「日本海拡大/日本列島移動イベント」(約20〜15Ma)が生じた時期でもあります。そのため、その大規模な地質学的イベントに関連して噴出した火山岩だと推定されています(文献1−b)。
 なお(文献4)によると、火砕流堆積物の噴出時期は、約14Maと推定されています。

 この室生地域に広がる珪長質火砕流堆積物の噴出源については、(文献4)によると、1960年代から研究がなされています。

(文献3)においては、火砕流堆積物の基底部(=最初に噴出した部分)に、「秩父帯」由来と推定されるチャート礫が多く含まれることから、この大規模火砕流の元となったマグマ溜りは、南に約30km以上離れた、紀伊半島中部(台高山地中部)の「秩父帯」の地質分布域(現在は、秩父帯の地質体がナップ状に分布している地域)にあったものと推定しています。

 また(文献4)では、他の研究結果も踏まえ、マグマ供給源(=カルデラ式火山)の位置に関し、「台高山地中部」もしくは、より南方の「熊野地域」(「熊野酸性岩類」と呼ばれる花崗岩体の分布域)という学説が紹介されています。

ーーー
 以下は、(文献3)、(文献4)の学説に関する私見ですが、台高山地中部にカルデラ式火山があって、そこで巨大火砕流が発生したとするなら、噴出口から約30kmの範囲内で、噴出口とされる台高山地中部も含め、火砕流堆積物が全く確認されていないのはなぜか? 
 (文献3では、紀伊山地の隆起とそれによる浸食によって全て失われた、としていますが・・)
  また、30km以上離れた室生地域にのみ、最大層厚400m(現存量なので、堆積した時点ではもっと厚かったはず)もの火砕流堆積物が分布しているはなぜか?
 素朴な疑問が湧きます。(この段落はあくまで私見です)。
ーーー

 注1)「くろそやま」の表記で、「く」を表す漢字は、パソコンでは表示できないようなので、しかたなく「く」だけひらがな表記にしています。誤記ではないので、ご了承ください。
2)二上山
 二上山(にじょうさん;517m(=雄岳の標高))は、ちょうど奈良盆地から大阪方面へと流れ下る大和川が、生駒山地と金剛山地との間をすり抜けるように流れている場所の近くにある山です。
  標高は低いものの、丸っこくてかつ、山頂部が雄岳と雌岳との2つに分かれているその山容は特徴的で、大阪平野南部や奈良盆地南部から見ると、良く目立つ山です。

 この山も、前節で説明した「室生火砕流堆積物」が形成されたのとほぼ同じ時期(約15Ma)に噴出した安山岩質の火山の名残です。

 産総研「シームレス地質図v2」では、雄岳はほぼ全体が安山岩質の溶岩で形成され、雌岳は花崗閃緑岩(深成岩)で形成されているように表示されています。一方(文献1−d)には、二上山とその周辺の詳細な地質図の記載があり、それによると、雄岳は安山岩質の溶岩からできている一方、雌岳の山頂部は、雄岳の安山岩質溶岩噴出の後、流紋岩質の溶岩の噴出によって形成されたピークとされています。

 いずれにしろ1500万年も昔の火山でありながら、火山っぽい山容を保っている、以外と珍しい山だと思います。
3)大和三山
 畝傍山(うねびやま;199m)、耳成山(みみなしやま;139m)、天乃香久山(あまのかぐやま;152m)注1)の3つの小さな山は、奈良盆地の南部にある、丘陵状の小さな山ですが、飛鳥/奈良時代の昔から、和歌(注2)に詠まれたりした有名な山で、3つ合わせて「大和三山」と呼ばれます。
 大和三山は歴史的には有名ではありますが、正直なところ登山の対象としては物足りなく、どの山も、麓から15−20分も登ると山頂部に着きます。

 これらの山を取り上げたのは、実はこのうち、畝傍山と耳成山は、約15Maに形成された火山の名残であるからです。
 なお「天乃香久山」は、その東側にある丘陵地帯が奈良盆地側に岬状に出っ張った地形ですが、地質的にも花崗岩類(実際は風化が進んでザレ状になっている)です。

 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、畝傍山、耳成山ともに、山頂部付近の狭い領域ではありますが、デイサイト/流紋岩質の火山岩で形成されています。実際に登ってみるとどちらも、麓部分は風化した花崗岩でできていますが、中腹から急に登山道が岩っぽくなり、溶岩シート状の構造(流理構造)が認められます。それがデイサイト/流紋岩質溶岩(注3)です。(文献1−d)によると、この溶岩も、「室生火砕流堆積物」や二上山と同じころ(約15Ma)に活動した火山の名残です。あまり知られていない事実で、以外な感じがしますので、ここで紹介しました。

(なお以下は私見ですが、、、
 溶岩シート状構造(流理構造)がほぼ垂直になっている状態から見ると、畝傍山、耳成山とも、火山「本体」というわけではなく、別の場所にあった火山から流れ出た流紋岩質の溶岩流で覆われた場所であり、その後、まず地殻変動で全体が変形して流離構造がほぼ垂直方向に立ち、その後長い間の浸食によって、周辺部は浸食され、この場所は「残丘」として残っているものだと思われます。)


注1)「あまのかぐやま」は、漢字で表記する場合、「天乃香久山」、「天の香久山」、「天香久山」と、複数の表記があるようです。

注2) 大和三山のうち、天乃香久山を詠んだ和歌として有名なのは、「百人一首」にも選ばれている、以下の持統天皇の歌です。ご存じの方も多いかと思います。

 「春すぎて 夏 来にけらし しろたえの 衣ほすてふ 天の香久山」

注3) (文献1−d)では畝傍山、耳成山とも、火山岩の種類は「流紋岩」としています。


  ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
(参考文献)
文献1)日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第5巻 近畿地方」朝倉書店 刊 (2009)

   文献1−a) 文献1)のうち、4−3章「(近畿地方の)新生代火成作用」の、
     4−3−2―(c)―(2)―5項 「神鍋火山群」の項

   文献1−b) 文献1)のうち、4−3章「(近畿地方の)新生代火成作用」の、
     4−3―1節 「概説」の項

   文献1−c) 文献1)のうち4−3章「(近畿地方の)新生代火成作用」の、
     4−3−4―(a)項 「室生火砕流堆積物」の項

   文献1−d) 文献1)のうち4−3章「(近畿地方の)新生代火成作用」の、
     4−3―3節 「瀬戸内地域の火山活動」の項


文献2) ウイキペディア「瀬戸内火山帯」の項
                      (2022年2月 閲覧)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E6%88%B8%E5%86%85%E7%81%AB%E5%B1%B1%E5%B8%AF


文献3)室生団体研究グループ、八尾
     「室生火砕流堆積物の給源火山」
      地球科学 第62巻 p97-108 (2008)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/62/2/62_KJ00004888645/_article/-char/ja/


文献4)佐藤、中条、和田、鈴木
     「中新世の室生火砕流堆積物」
      地質学雑誌 第118巻(補遺) p53-69 (2012)

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/118/Supplement/118_2012.0039/_pdf
【書記事項】
初版リリース;2022年2月6日
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