(はじめに)
前の11−3章では、大山を始めとした、中国地方の火山性の山々について、その形成史を
中心に説明しました。
私、実は中国地方の山々をそれほど歩いてなく、非火山性の山々でどういう山が登山者に人気なのか?詳しくないのですが、この11−4章では、とりあえず中国山地のうち主稜線を形成している山、特に三百名山クラスの山々について、その地質を説明したいと思います。
中心に説明しました。
私、実は中国地方の山々をそれほど歩いてなく、非火山性の山々でどういう山が登山者に人気なのか?詳しくないのですが、この11−4章では、とりあえず中国山地のうち主稜線を形成している山、特に三百名山クラスの山々について、その地質を説明したいと思います。
1)那岐山
那岐山(なぎさん;1250m)は、岡山県と鳥取県との県境にある山です。文献1)によるとこの山には中世の山城もあったようで、歴史のある山です。三百名山の一つでもあります。
さて、この那岐山付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山頂とその周辺は、白亜紀の火山岩(安山岩質の大規模火砕流噴出物)で覆われています。山腹のうち、北側(鳥取県側)は、白亜紀の花崗岩が分布し、南側(岡山県の津山盆地側)は、上記の白亜紀の火山性噴出物が広く分布しています。
地形図を見ると那岐山の南側には、「蛇淵の滝」や「屋敷の滝」など川の上流部が深く浸食している様子が解りますが、この付近は上記の白亜紀の火山岩が分布しており、おそらく比較的硬い火山岩を川が浸食しつつある状況だと思われます(この段落は私見を含みます)。
さて、この那岐山付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山頂とその周辺は、白亜紀の火山岩(安山岩質の大規模火砕流噴出物)で覆われています。山腹のうち、北側(鳥取県側)は、白亜紀の花崗岩が分布し、南側(岡山県の津山盆地側)は、上記の白亜紀の火山性噴出物が広く分布しています。
地形図を見ると那岐山の南側には、「蛇淵の滝」や「屋敷の滝」など川の上流部が深く浸食している様子が解りますが、この付近は上記の白亜紀の火山岩が分布しており、おそらく比較的硬い火山岩を川が浸食しつつある状況だと思われます(この段落は私見を含みます)。
2)道後山
道後山(1271m)は、広島県、岡山県、島根県の3つの県の県境にほど近い場所にある山です。文献1)によると山容はなだらかで、山頂付近は草原状になっていて展望も良い山のようです。この山も三百名山の一つです。
この道後山付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、かなり複雑な地質分布をしている山です。
まず山頂部分と北麓は、白亜紀の花崗岩(深成岩)が分布しています。すぐ西隣の岩桶山(いわおけやま;1271m)付近は部分的にハンレイ岩という深成岩が分布しています。これも白亜紀の岩石です。
山頂の南面は、ペルム紀の付加体型の地質であり、砂岩、泥岩が分布しています。
この山は西側から道路が8合目付近まで延びていますが、この道路沿いの部分は、蛇紋岩という岩石が分布しています。
さらにこれらの岩体が分布する領域を大きく囲むように、麓や周辺の山々は、白亜紀のデイサイト質の火山岩(大規模火砕流噴出物)が分布しています。
中国地方の複雑な地質を縮小したかのような、複雑な地質分布をしている山だと言えます。
なお地形的には前述のとおり、道後山の山頂付近にはなだらかな(=起伏が少ない)部分が広がっていますが、地形学上はこの小起伏面を「道後山面」と呼びます(文献3−a)。
この1100−1200m程度の小起伏面は、中国山地主稜のあちこちに分布しています。
この小起伏面は、今の中国山地が隆起する前の、いわゆる準平原状のなだらかな低地だった時代の名残り(いわゆる「隆起準平原」)と推定されてますが、形成時代や、より低位の「吉備高原面」との関係については諸説あって、良く解っていません(文献3−a)。
この道後山付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、かなり複雑な地質分布をしている山です。
まず山頂部分と北麓は、白亜紀の花崗岩(深成岩)が分布しています。すぐ西隣の岩桶山(いわおけやま;1271m)付近は部分的にハンレイ岩という深成岩が分布しています。これも白亜紀の岩石です。
山頂の南面は、ペルム紀の付加体型の地質であり、砂岩、泥岩が分布しています。
この山は西側から道路が8合目付近まで延びていますが、この道路沿いの部分は、蛇紋岩という岩石が分布しています。
さらにこれらの岩体が分布する領域を大きく囲むように、麓や周辺の山々は、白亜紀のデイサイト質の火山岩(大規模火砕流噴出物)が分布しています。
中国地方の複雑な地質を縮小したかのような、複雑な地質分布をしている山だと言えます。
なお地形的には前述のとおり、道後山の山頂付近にはなだらかな(=起伏が少ない)部分が広がっていますが、地形学上はこの小起伏面を「道後山面」と呼びます(文献3−a)。
この1100−1200m程度の小起伏面は、中国山地主稜のあちこちに分布しています。
この小起伏面は、今の中国山地が隆起する前の、いわゆる準平原状のなだらかな低地だった時代の名残り(いわゆる「隆起準平原」)と推定されてますが、形成時代や、より低位の「吉備高原面」との関係については諸説あって、良く解っていません(文献3−a)。
3)冠山
広島県の北西部、島根県や山口県との県境付近は、中国山地のなかでも若干、標高が高くなっており、1300m台の山がいくつかあり、「冠山山地(かんむりやまさんち)」、あるいは「西中国脊梁山地」(文献3−a)とも呼ばれます。
そのうち、冠山(かんむりやま;1339m)の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、この山もまた、複雑な地質構成を持っています。
まず山頂付近の半径2kmほどの領域は、中国地方の地質としては割と若い部類に入る、新第三紀 中新世の、安山岩質火山岩からなります。
西側、すぐ隣の寂地山(じゃくちやま;1337m)付近や冠山の南側は、ペルム紀の付加体型地質(メランジュ相、及び砂岩)からなり、地帯構造区分でいうと「秋吉帯」の地質です。
北側は比較的広くペルム紀の玄武岩(海洋性)からなり、これも「秋吉帯」に属する地質です。
東側は、山頂部と同時期の、新第三紀 中新世の玄武岩からなります。
なお地形的には、冠山から恐羅漢山にかけての「冠山山地」は、すぐ南側に、北東―南西方向の走向を持つ直線的な谷状地形があって、そこをちょうど「中国自動車道」が通っています。標高差は約600mほどあります。
産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、この谷状地形部分は北東ー南西方向の走向を持つ長い断層が走っており、断層によって形成された地形と推定されます。
なおこの山塊の北側や南側にも同じ東北ー南西方向の走向を持つ断層多数確認できます。
これらの断層群は現在では活断層ではありませんが、「冠山山地」は、これらの断層群によって部分的に隆起した山塊と考えられています(文献3−a)。
そのうち、冠山(かんむりやま;1339m)の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、この山もまた、複雑な地質構成を持っています。
まず山頂付近の半径2kmほどの領域は、中国地方の地質としては割と若い部類に入る、新第三紀 中新世の、安山岩質火山岩からなります。
西側、すぐ隣の寂地山(じゃくちやま;1337m)付近や冠山の南側は、ペルム紀の付加体型地質(メランジュ相、及び砂岩)からなり、地帯構造区分でいうと「秋吉帯」の地質です。
北側は比較的広くペルム紀の玄武岩(海洋性)からなり、これも「秋吉帯」に属する地質です。
東側は、山頂部と同時期の、新第三紀 中新世の玄武岩からなります。
なお地形的には、冠山から恐羅漢山にかけての「冠山山地」は、すぐ南側に、北東―南西方向の走向を持つ直線的な谷状地形があって、そこをちょうど「中国自動車道」が通っています。標高差は約600mほどあります。
産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、この谷状地形部分は北東ー南西方向の走向を持つ長い断層が走っており、断層によって形成された地形と推定されます。
なおこの山塊の北側や南側にも同じ東北ー南西方向の走向を持つ断層多数確認できます。
これらの断層群は現在では活断層ではありませんが、「冠山山地」は、これらの断層群によって部分的に隆起した山塊と考えられています(文献3−a)。
4)恐羅漢山
冠山山地を構成する山の一つとして、恐羅漢山(おそらかんざん;1346m)があり、周辺にはスキー場もあります。前項の冠山から北東に約15kmほどの距離にある山です。
恐羅漢山は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山体がすべて、白亜紀の大規模火砕流噴出物(デイサイト/流紋岩質)でできています。
冠山と恐羅漢山とは、同じ冠山山地を構成する、距離も近い山同志なのですが、地質を確認するとお互いの山を構成する地質が全く異なることに驚きます。
中国地方の非常に複雑な地質構造と、それとは対照的な、わりとメリハリの少ない地形構造とのコントラストが良く解ります。
恐羅漢山は、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山体がすべて、白亜紀の大規模火砕流噴出物(デイサイト/流紋岩質)でできています。
冠山と恐羅漢山とは、同じ冠山山地を構成する、距離も近い山同志なのですが、地質を確認するとお互いの山を構成する地質が全く異なることに驚きます。
中国地方の非常に複雑な地質構造と、それとは対照的な、わりとメリハリの少ない地形構造とのコントラストが良く解ります。
5)安芸の宮島(弥山)
広島市に近い位置に浮かぶ宮島は、「安芸の宮島」とも呼ばれ、世界遺産にもなった厳島神社で有名な観光地です。が、ただの観光地ではなく、宮島は全島が山で出来ており、最高点の弥山は標高535mあります。瀬戸内海に浮かぶ島々の中では、比較的標高がある島で、山歩きも楽しめる島です。
この島の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、全島が、白亜紀の花崗岩で構成されています。(私は宮島に行ったことがないのですが)ガイドブックによると宮島のあちこちに花崗岩の岩峰もあるようです。
宮島を含め、広島市とその周辺はほぼ全て、同じ白亜紀の花崗岩(形成時代は約90−80Ma)が分布しており、これらは「広島花崗岩」とも呼ばれます(文献2−a)。
花崗岩は風化してなければ結構硬い岩石ですが、地表に出ると雨水などの影響で風化して、荒い砂状の真砂土(まさど)となりやすい傾向があります。中国地方に分布する花崗岩地帯では表層は比較的深い場所まで風化しているようです(文献2−b)。
広島市付近では過去に何度か、豪雨の際に土石流や斜面崩落が多発して、多くの被害が出ましたが、これは地質的に、風化した花崗岩由来の真砂土が多いことも関係していると思われます(文献2−b)。
※ “Ma”は百万年前を意味する単位
この島の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、全島が、白亜紀の花崗岩で構成されています。(私は宮島に行ったことがないのですが)ガイドブックによると宮島のあちこちに花崗岩の岩峰もあるようです。
宮島を含め、広島市とその周辺はほぼ全て、同じ白亜紀の花崗岩(形成時代は約90−80Ma)が分布しており、これらは「広島花崗岩」とも呼ばれます(文献2−a)。
花崗岩は風化してなければ結構硬い岩石ですが、地表に出ると雨水などの影響で風化して、荒い砂状の真砂土(まさど)となりやすい傾向があります。中国地方に分布する花崗岩地帯では表層は比較的深い場所まで風化しているようです(文献2−b)。
広島市付近では過去に何度か、豪雨の際に土石流や斜面崩落が多発して、多くの被害が出ましたが、これは地質的に、風化した花崗岩由来の真砂土が多いことも関係していると思われます(文献2−b)。
※ “Ma”は百万年前を意味する単位
(参考文献)
文献1)山と渓谷社 編集部 編
「日本三百名山 登山ガイド 下巻」 山と渓谷社 刊 (2001)
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第6巻 中国地方」朝倉書店 刊 (2009)
文献2−a) 文献2)のうち、
第5部「(中国地方の)白亜紀―古第三紀の火成活動」の、
5−1−2節「山陽帯の火成岩」の項
文献2−b) 文献2)のうち、
第8部「(中国地方の)災害地質」の、
8−3−2節「風化花崗岩地域の土砂災害」の項
文献3) 太田、成瀬、田中、岡田 編
「日本の地形 第6巻 近畿・中国・四国」 東京大学出版会 刊 (2004)
文献3−a) 文献3)のうち、
3−2−(3)節 「中国(脊梁)山地の地形概要」の項、及び
3−2−(4)節 「(中国山地の)地形と断層との関係」との項
「日本三百名山 登山ガイド 下巻」 山と渓谷社 刊 (2001)
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第6巻 中国地方」朝倉書店 刊 (2009)
文献2−a) 文献2)のうち、
第5部「(中国地方の)白亜紀―古第三紀の火成活動」の、
5−1−2節「山陽帯の火成岩」の項
文献2−b) 文献2)のうち、
第8部「(中国地方の)災害地質」の、
8−3−2節「風化花崗岩地域の土砂災害」の項
文献3) 太田、成瀬、田中、岡田 編
「日本の地形 第6巻 近畿・中国・四国」 東京大学出版会 刊 (2004)
文献3−a) 文献3)のうち、
3−2−(3)節 「中国(脊梁)山地の地形概要」の項、及び
3−2−(4)節 「(中国山地の)地形と断層との関係」との項
このリンク先の、11−1章の文末には、第11部「中国地方の山々の地質」の各章へのリンク、及び、「序章―1」へのリンク(序章―1には、本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第11部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2022年3月7日
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