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更新日:2023年11月16日 訪問者数:1624
ジャンル共通 技術・知識
日本の滝の落差についての論考
tamoshima
滝の落差の重要性
 滝は、人の心を引き付ける。多くの滝が古来より信仰の対象となっているし、現在では観光地となっている。滝を巡ることを趣味とする者も多いし、登山者の多くも道中で見る滝を楽しみにしている。沢登りともなれば、滝はその主役である。登攀するにしろ巻くにしろ、滝をどのように越えるかが、沢登りの神髄である。
 そんな滝の規模の指標としては、落差、水量、幅、長さが考えられる。しかし、一般的には落差が最も多用されている指標である。何故か。幅は水量によって変わるし、水量は天候によって変わるため、指標としては使いづらい。長さが長くても、見る者に与える印象は強まらない。それに比べて、落差は常に変わらないし(湖や海に直接落ちる滝のような例外を除く)、高ければ高いほど見る者に与える印象は強まる。やはり、滝を論じるうえでは、落差が重要である。
 そんな落差だが、現代の日本においては、測量による正確な値、いつの頃からか言い伝えられている値、誰かが目測した値が入り乱れ、1つの滝についても複数の値が流布しており、ましてや滝間の比較など、意味があるのかどうか分からないような状態である。日本の重要な地形的資源かつ観光資源である滝の、最も重要な指標である落差を、こんないい加減なままにしておいて良いはずがない。
日本の主な滝の落差
 上記のような状況を憂慮した私は、近年整備されつつある航空レーザー測量データを活用し、日本の主要な滝の落差を図上で計測することを考えた。今回は、日本の滝のデータベースを提供している「滝ペディア」で公開されている「落差ランキング50」を基に、いくつかの主要な滝を独断で追加し、それらの落差を地理院地図上で計測した。
「落差ランキング50」:https://www.takipedia.com/ranking/rakusa
 滝の落ち口の標高と滝下の標高について、再現性を持たせるため、それらの位置の緯度経度も記録し、一覧表とした。その結果は以下の通りである。
 なお、段瀑や斜瀑の場合、どこからどこまでを1つの滝とみなすかによって落差は大きく変わってしまう。今回の計測に当たっては、地上から一望にできる範囲を考慮して、体感に近いものとなるよう心掛けたが、異論があることは承知している。
 計測の結果、日本一の落差を誇る滝は、常時水量のある滝としては称名滝、水量が少なくなることもある滝としてはハンノキ滝であり、揺るがない。しかし、計測した落差はハンノキ滝467.7m、称名滝331.1mであり、公称落差がそれぞれ500m、350mであることを考えると、1割弱程度過大評価されているようである。
 次に落差3位の滝を確認すると、落差300mという説が流布している越後三山ジロト沢の布晒の滝が入っていたが、測定の結果269.5mとなった。一方、落差250mとされていた大台ケ原の中ノ滝が、測定の結果282.0mとなり、計測落差3位となった。布晒の滝は、計測落差ではこれに次ぐ4位となる。
 落差4位とされていた北海道天人峡の羽衣の滝(公称270m)は、どこまでを1つの滝とみなすのかが難しいが、一望にできると思われる範囲では落差208.2mと計測された。その結果、計測落差ではワニ口の大滝(頚城)265.4m、越後沢右俣大滝(奥利根)227.4m、ガンガラシバナの大滝(川内)222mに次ぐ8位となったが、これらの三滝は水量が少なかったり傾斜が緩かったりと、あまり滝らしい滝ではないため、羽衣の滝がこれらを凌ぐ名瀑であるのは間違いないだろう。

 落差150m以上という説があるのに、計測落差が小さかった滝を見てみると、北海道島牧村の白糸の滝31.3m、鹿児島県の刀剣山大滝67.4m、岩手県のアンモ浦の滝69.0m、オロオソロシの滝78.9m等がある。これらはいずれもさほど知名度が高くない滝であり、誰かが言い出した目測値が独り歩きしてしまった結果なのではないかと思う。また、滝の上や途中にあるナメの部分が遠望では滝のように見え、水平距離が落差に変換されて更なる過大評価に繋がっているとも推測される。このような、流布している落差と実落差が大幅に異なる滝については、誇大広告的な落差表記をやめるべきであろう。
 また、落差のある段瀑とされる滝の中には、単独の滝とみなすのがかなり無理があると思えるほど各段が離れているものもあった。例えばヌク沢大滝(奥秩父)、三階の滝(蔵王)、サンナビキの滝(黒部)、クルキチの滝[フウチブルの滝](奄美)、オロオソロシの滝(奥鬼怒)などがそれで、いずれもかなり遠くから見ると一つの滝のようにも見えるが、実際に遡行してみると、明らかに別の滝だと思えるようなものである。このような滝は、落差を論じる上では扱いが難しい存在である。

 以上のように、流布している滝の落差には大きな誤差があり、それらが航空レーザー測量データにより検証可能であることが明らかになった。今後、重要な地域資源の、重要な指標である滝の落差が、滝愛好家や観光業界によって、より正確に記載され、訪れる者に誤解を与えないようになることを願ってやまない。
日本最大の滝とは
 ところで、既に述べたように、日本一の落差を誇る滝は、水量が少なくなることもある滝としてはハンノキ滝である。常時水量のある滝としては通常称名滝とされるが、2段目と3段目の間には河原(L=60m)が存在し、遡行者の感触としては、別の滝のようにも思えるようである。これを別の滝とみなすと、下2段は落差204.9m、上2段は126.2mとなる。落差3位の中ノ滝にも段の間にL=20m程度のテラスがあるが、称名滝ほどの長さはない。考え方次第では、中ノ滝が日本最大の滝と言えなくもないかもしれない。なお、ハンノキ滝は途中に河原もテラスもないが、やはり水が殆ど無くなることもあるのが微妙な所である。

 落差ランキング50に入る滝は、いずれも段瀑であり、一直線に落ちる直瀑はない。しかし、直瀑こそが滝の中の滝。直瀑の中で落差1位の滝は、那智の滝(一の滝)(公称落差133m、計測落差125.7m)とするのが一般的だが、択捉島蘂取村のラッキベツの滝(落差140mとされる)が1位であるとする説がある。今回、この説についても可能な限りの検証を行った結果、下記のブログの3枚目の写真により、ラッキベツの滝は段瀑であると判断された。
https://moto-tomin2sei.hatenablog.com/entry/20221112/1668219718
 従って、那智の滝(一の滝)こそが、落差日本一の直瀑であると、ここに断言する。
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