乳がん手術後、ストックは使っていい? ― リンパ浮腫と登山の現実―
乳がん術後の登山について考えるとき、「ストックを使うと腕に負担がかかるのではないか」「リンパ浮腫は大丈夫だろうか」と気になる方もいるかもしれません。
実際のところ、私の患者では、乳がん術後で登山を趣味にされている方はそれほど多くない印象です。
私自身、現在の病院に赴任してから約8年間でおよそ600例ほどの乳がん手術に関わってきましたが、「登山が趣味です」と言われた方は2〜3人ほどでした。ご年配の患者さんで「若い頃は山に登っていた」という方まで含めても10人前後という印象です。それだけに、山を趣味にしている方にとっては「山に戻れるのか」という問題は切実だと思います。
そこで今回は、登山装備の一つであるストック(トレッキングポール)について考えてみます。
________________________________________
まず知っておきたいことですが、リンパ浮腫の起こりやすさは、手術や放射線治療の内容によって大きく変わります。
一般に
・センチネルリンパ節生検のみ → リスクは比較的低い
・腋窩リンパ節郭清→ リスクは上昇する
・さらに胸壁や鎖骨上リンパ節への放射線治療(PMRT)が加わる → リスクはさらに高くなる
ことが知られています。
乳がん術後リンパ浮腫をまとめたメタ解析では、発症率はおおよそ
・センチネルリンパ節生検のみ:約5〜6%
・腋窩リンパ節郭清:約20%前後
と報告されています(参考文献1)。
さらに腋窩リンパ節郭清に加えて胸壁や鎖骨上リンパ節への放射線治療が行われた場合、リンパ浮腫の発症率は25〜40%程度まで上昇するとする報告もあります(参考文献2)。
つまり同じ「乳がん術後」と言っても、もともとのリンパ浮腫の前提リスクは患者さんごとにかなり異なるということです。
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ではストックはどう考える?
現在の研究では、適切な範囲での運動がリンパ浮腫を悪化させるという明確な証拠はありません。
むしろ乳がん術後女性を対象とした無作為化試験では、段階的な筋力トレーニングはリンパ浮腫を悪化させないことが示されています(参考文献3)。
さらに、がんサバイバーに対しては、身体活動や運動は推奨される行動とされています(参考文献4)。
ただし、登山やストック使用が個々の患者さんでどの程度影響するかについては、はっきりしたデータは多くありません。
________________________________________
登山の実際の場面で考えると・・・
ストックの目的は「腕の運動」ではなく、体重を分散して膝や足への負担を減らすことです。特に下山では、膝に大きな衝撃がかかります。
ストックを使うことで
・膝への負担を減らす
・バランスを保つ
・転倒を防ぐ
といった効果があります。
長い下山で膝がじわじわ痛くなる、という経験をされた登山者の方も多いのではないでしょうか。
そうした場面では、ストックはむしろ安全性を高める道具とも言えます。
________________________________________
注意したいポイント
・術後まもない時期は無理をしない
・急に長時間の行動をしない
・腕のむくみや違和感が出たら休む
といった基本的な配慮は大切です。
特に
・腋窩リンパ節郭清を受けた方
・放射線治療を受けた方(胸壁と鎖骨上照射:PMRT)
では、もともとのリンパ浮腫リスクが高いため、
急に負荷を増やさず、段階的に体を慣らしていくことが現実的だと思います。
________________________________________
まとめ
乳がん手術後にストックを使うこと自体が、リンパ浮腫を悪化させるという明確な医学的根拠はありません。ただしリンパ浮腫のリスクは、腋窩リンパ節郭清や放射線治療の有無などで大きく異なります。
ストックは「使ってはいけない道具」ではありません。
大切なのは、無理をせず少しずつ体を慣らしていくことです。
実際のところ、私の患者では、乳がん術後で登山を趣味にされている方はそれほど多くない印象です。
私自身、現在の病院に赴任してから約8年間でおよそ600例ほどの乳がん手術に関わってきましたが、「登山が趣味です」と言われた方は2〜3人ほどでした。ご年配の患者さんで「若い頃は山に登っていた」という方まで含めても10人前後という印象です。それだけに、山を趣味にしている方にとっては「山に戻れるのか」という問題は切実だと思います。
そこで今回は、登山装備の一つであるストック(トレッキングポール)について考えてみます。
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まず知っておきたいことですが、リンパ浮腫の起こりやすさは、手術や放射線治療の内容によって大きく変わります。
一般に
・センチネルリンパ節生検のみ → リスクは比較的低い
・腋窩リンパ節郭清→ リスクは上昇する
・さらに胸壁や鎖骨上リンパ節への放射線治療(PMRT)が加わる → リスクはさらに高くなる
ことが知られています。
乳がん術後リンパ浮腫をまとめたメタ解析では、発症率はおおよそ
・センチネルリンパ節生検のみ:約5〜6%
・腋窩リンパ節郭清:約20%前後
と報告されています(参考文献1)。
さらに腋窩リンパ節郭清に加えて胸壁や鎖骨上リンパ節への放射線治療が行われた場合、リンパ浮腫の発症率は25〜40%程度まで上昇するとする報告もあります(参考文献2)。
つまり同じ「乳がん術後」と言っても、もともとのリンパ浮腫の前提リスクは患者さんごとにかなり異なるということです。
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ではストックはどう考える?
現在の研究では、適切な範囲での運動がリンパ浮腫を悪化させるという明確な証拠はありません。
むしろ乳がん術後女性を対象とした無作為化試験では、段階的な筋力トレーニングはリンパ浮腫を悪化させないことが示されています(参考文献3)。
さらに、がんサバイバーに対しては、身体活動や運動は推奨される行動とされています(参考文献4)。
ただし、登山やストック使用が個々の患者さんでどの程度影響するかについては、はっきりしたデータは多くありません。
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登山の実際の場面で考えると・・・
ストックの目的は「腕の運動」ではなく、体重を分散して膝や足への負担を減らすことです。特に下山では、膝に大きな衝撃がかかります。
ストックを使うことで
・膝への負担を減らす
・バランスを保つ
・転倒を防ぐ
といった効果があります。
長い下山で膝がじわじわ痛くなる、という経験をされた登山者の方も多いのではないでしょうか。
そうした場面では、ストックはむしろ安全性を高める道具とも言えます。
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注意したいポイント
・術後まもない時期は無理をしない
・急に長時間の行動をしない
・腕のむくみや違和感が出たら休む
といった基本的な配慮は大切です。
特に
・腋窩リンパ節郭清を受けた方
・放射線治療を受けた方(胸壁と鎖骨上照射:PMRT)
では、もともとのリンパ浮腫リスクが高いため、
急に負荷を増やさず、段階的に体を慣らしていくことが現実的だと思います。
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まとめ
乳がん手術後にストックを使うこと自体が、リンパ浮腫を悪化させるという明確な医学的根拠はありません。ただしリンパ浮腫のリスクは、腋窩リンパ節郭清や放射線治療の有無などで大きく異なります。
ストックは「使ってはいけない道具」ではありません。
大切なのは、無理をせず少しずつ体を慣らしていくことです。
参考文献
1. DiSipio T, Rye S, Newman B, Hayes S.
Incidence of unilateral arm lymphoedema after breast cancer: a systematic review and meta-analysis.
Lancet Oncol. 2013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23540561/
2. Warren LEG, Miller CL, Horick N, et al.
The impact of radiation therapy on the risk of lymphedema after treatment for breast cancer.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24321523/
3. Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel A, et al.
Weight lifting in women with breast-cancer?related lymphedema.
N Engl J Med. 2009.
4. Campbell KL, Winters-Stone KM, Wiskemann J, et al.
Exercise guidelines for cancer survivors.
Med Sci Sports Exerc. 2019.
Incidence of unilateral arm lymphoedema after breast cancer: a systematic review and meta-analysis.
Lancet Oncol. 2013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23540561/
2. Warren LEG, Miller CL, Horick N, et al.
The impact of radiation therapy on the risk of lymphedema after treatment for breast cancer.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24321523/
3. Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel A, et al.
Weight lifting in women with breast-cancer?related lymphedema.
N Engl J Med. 2009.
4. Campbell KL, Winters-Stone KM, Wiskemann J, et al.
Exercise guidelines for cancer survivors.
Med Sci Sports Exerc. 2019.
その2 乳がん治療中の登山 ― 治療別に気をつけたいこと ―はこちら
著者のヤマレコページでのこの日記に、もともと記載していた内容をヤマノートに転記しております。
この記事に対するご意見、コメントは小生のヤマレコページでの日記にてお願いいたします。
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