温泉に入るか隠すか ― 登山後の“見えない意思決定”
登山のあと、温泉に立ち寄る。
多くの登山者にとって自然な流れですが、乳がん術後では少し意味が変わります。
問題は、術後の身体所見そのものと、それを他者に見られる状況です。
創部、左右差、瘢痕。
これらは機能的な制限ではありませんが、行動の選択に影響します。
この点は医学ではあまり扱われませんが、実際には無視できません。
________________________________________
当院では患者会のLINEトークルームを運用(全参加者約160人)しており、今回のことがきっかけでアンケートを行いました。
設問は「友人から温泉に行こうと誘われたとき、どうするか」です。
結果は以下の通りです。(n=69)
・堂々と入る(開示あり):25
・傷を隠して入る(開示あり):24
・非開示で堂々と入る:4
・非開示で傷を隠して入る:3
・入浴自体を断る/うやむやにする:10
・その他:3(事前に施設へ開示など)
(開示:自分が乳がんで手術をうけたと相手に伝えること)
まず分かるのは、多くの人が病気のこと自体は周囲に伝えているという点です。
開示ありは49人に達し、非開示で入浴するのは7人にとどまります。
一方で、開示の有無にかかわらず「堂々と入る」と「隠して入る」はほぼ同数で拮抗しています。
ここから分かるのは、意思決定は「開示するかどうか」と「見せるか隠すか」が独立しているという構造です。
開示は前提条件の一つであり、その後の行動(見せる/隠す)は別に選択されていると考えられます。
入浴自体を断ると答えたのは10人(約15%)でした。
この群に対し「乳がんサバイバー同士であれば入浴可能か」を確認したところ、2人のみが可能と回答し、残りはそれでも入浴不可でした。
この層は「参加しない」という選択を一貫しており、他の選択肢とは異なり、“入浴そのものを選ばない”という意思を通していると考えられます。
なお、本アンケートは「友人に誘われた場合」を前提としており、一人での入浴や関係性の浅い同行者との場面は含まれていません。
追加の自由意見では、
・親しい友人には事前に伝えて一緒に入る
・関係性が浅い場合は共に入らない
・一人であれば気にせず入る
といった意見が多くみられました。
また、「思ったより他人は見ていない」という指摘も複数あり、実際に親子で入浴した例では、親は他のサバイバーに気づいたが、同伴の娘は全く気づかなかったという報告もありました。
________________________________________
行動の違いは価値観の優劣ではなく、
「どこまで開示できるか」
「どこまで見せられるか」
「参加するか」
という条件設定の違いで説明できます。
開示にハードルを感じる場合でも、実際には一定数が開示しているという事実は一つの参考になります。
開示してしまえば、その後の対応(見せる/隠す)は比較的自由に選べるため、結果として温泉という行為自体のハードルが下がる可能性もあります。
ただし、これはあくまで一つの選択肢であり、開示しない判断も含めて個別に決めてよい問題です。
実際の選択肢としては、
・空いている時間帯を選ぶ
・貸切風呂を使う
・タオルでカバーする
・入浴しない
などがあります。
加えて、患者会では入浴着(バスウェア)を使用しているという声もありました。
現在は市販品も増えており、施設に確認のうえで使用し、多くの場合は許可が得られているとのことです。
このように、「隠す/隠さない」以外にも実務的な選択肢は存在します。
重要なのは、「同じ選択をする必要はない」という点です。
________________________________________
次に温泉は術後創部にどう医学的に影響するか。
乳がん術後であること自体が、温泉の明確な禁忌になる根拠はありません(急性期は除く)。
ここでいう急性期とは、創部未治癒、放射線皮膚炎の活動期、化学療法中の皮膚・免疫状態低下などを指します。
注意点はあります。
・皮膚トラブル
・高温・長時間による負荷
・小外傷や感染リスク
つまり問題は「可否」ではなく「条件」です。
________________________________________
放射線治療後についても、皮膚状態が落ち着いていれば、短時間・低刺激であれば許容されることが多いと考えられます。
ただし、
・照射中〜直後は回避
・皮膚炎がある場合は回避
・高温浴、長時間入浴、刺激を感じやすい泉質や高温浴は避ける
といった条件は必要です。
________________________________________
なお、温泉の禁忌として「悪性腫瘍」が挙げられていることがありますが、これは現在の臨床実態とは一致していません。
歴史的・制度的な記載を引きずっている面があり、術後であることのみを理由に一律に避ける根拠は明確ではありません。
判断は、
・全身状態
・皮膚・創部の状態
・治療状況
といった個別条件で行うべきです。
_______________________________________
これまでの回では「できるか/できないか」を扱ってきました。
しかし実際の行動は、それだけでは決まりません。
温泉に入るかどうかは、医学的な可否だけでなく、誰と行くか、どこまで伝えるか、どこまで見せられるかで変わります。
つまりこれは、「入ってよいかどうか」ではなく、
自分にとって無理のない条件がそろっているかどうかで判断する問題です。
その条件がそろっていれば入ればよいし、そろっていなければ入らなくてよい。
それだけの話です。
多くの登山者にとって自然な流れですが、乳がん術後では少し意味が変わります。
問題は、術後の身体所見そのものと、それを他者に見られる状況です。
創部、左右差、瘢痕。
これらは機能的な制限ではありませんが、行動の選択に影響します。
この点は医学ではあまり扱われませんが、実際には無視できません。
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当院では患者会のLINEトークルームを運用(全参加者約160人)しており、今回のことがきっかけでアンケートを行いました。
設問は「友人から温泉に行こうと誘われたとき、どうするか」です。
結果は以下の通りです。(n=69)
・堂々と入る(開示あり):25
・傷を隠して入る(開示あり):24
・非開示で堂々と入る:4
・非開示で傷を隠して入る:3
・入浴自体を断る/うやむやにする:10
・その他:3(事前に施設へ開示など)
(開示:自分が乳がんで手術をうけたと相手に伝えること)
まず分かるのは、多くの人が病気のこと自体は周囲に伝えているという点です。
開示ありは49人に達し、非開示で入浴するのは7人にとどまります。
一方で、開示の有無にかかわらず「堂々と入る」と「隠して入る」はほぼ同数で拮抗しています。
ここから分かるのは、意思決定は「開示するかどうか」と「見せるか隠すか」が独立しているという構造です。
開示は前提条件の一つであり、その後の行動(見せる/隠す)は別に選択されていると考えられます。
入浴自体を断ると答えたのは10人(約15%)でした。
この群に対し「乳がんサバイバー同士であれば入浴可能か」を確認したところ、2人のみが可能と回答し、残りはそれでも入浴不可でした。
この層は「参加しない」という選択を一貫しており、他の選択肢とは異なり、“入浴そのものを選ばない”という意思を通していると考えられます。
なお、本アンケートは「友人に誘われた場合」を前提としており、一人での入浴や関係性の浅い同行者との場面は含まれていません。
追加の自由意見では、
・親しい友人には事前に伝えて一緒に入る
・関係性が浅い場合は共に入らない
・一人であれば気にせず入る
といった意見が多くみられました。
また、「思ったより他人は見ていない」という指摘も複数あり、実際に親子で入浴した例では、親は他のサバイバーに気づいたが、同伴の娘は全く気づかなかったという報告もありました。
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行動の違いは価値観の優劣ではなく、
「どこまで開示できるか」
「どこまで見せられるか」
「参加するか」
という条件設定の違いで説明できます。
開示にハードルを感じる場合でも、実際には一定数が開示しているという事実は一つの参考になります。
開示してしまえば、その後の対応(見せる/隠す)は比較的自由に選べるため、結果として温泉という行為自体のハードルが下がる可能性もあります。
ただし、これはあくまで一つの選択肢であり、開示しない判断も含めて個別に決めてよい問題です。
実際の選択肢としては、
・空いている時間帯を選ぶ
・貸切風呂を使う
・タオルでカバーする
・入浴しない
などがあります。
加えて、患者会では入浴着(バスウェア)を使用しているという声もありました。
現在は市販品も増えており、施設に確認のうえで使用し、多くの場合は許可が得られているとのことです。
このように、「隠す/隠さない」以外にも実務的な選択肢は存在します。
重要なのは、「同じ選択をする必要はない」という点です。
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次に温泉は術後創部にどう医学的に影響するか。
乳がん術後であること自体が、温泉の明確な禁忌になる根拠はありません(急性期は除く)。
ここでいう急性期とは、創部未治癒、放射線皮膚炎の活動期、化学療法中の皮膚・免疫状態低下などを指します。
注意点はあります。
・皮膚トラブル
・高温・長時間による負荷
・小外傷や感染リスク
つまり問題は「可否」ではなく「条件」です。
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放射線治療後についても、皮膚状態が落ち着いていれば、短時間・低刺激であれば許容されることが多いと考えられます。
ただし、
・照射中〜直後は回避
・皮膚炎がある場合は回避
・高温浴、長時間入浴、刺激を感じやすい泉質や高温浴は避ける
といった条件は必要です。
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なお、温泉の禁忌として「悪性腫瘍」が挙げられていることがありますが、これは現在の臨床実態とは一致していません。
歴史的・制度的な記載を引きずっている面があり、術後であることのみを理由に一律に避ける根拠は明確ではありません。
判断は、
・全身状態
・皮膚・創部の状態
・治療状況
といった個別条件で行うべきです。
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これまでの回では「できるか/できないか」を扱ってきました。
しかし実際の行動は、それだけでは決まりません。
温泉に入るかどうかは、医学的な可否だけでなく、誰と行くか、どこまで伝えるか、どこまで見せられるかで変わります。
つまりこれは、「入ってよいかどうか」ではなく、
自分にとって無理のない条件がそろっているかどうかで判断する問題です。
その条件がそろっていれば入ればよいし、そろっていなければ入らなくてよい。
それだけの話です。
その6 (今回は術前もあり)抗がん剤治療中でも登れるのか? はこちら
著者のヤマレコページでのこの日記に、もともと記載していた内容をヤマノートに転記しております。
この記事に対するご意見、コメントは小生のヤマレコページでの日記にてお願いいたします。
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