(はじめに)
前章で説明した足尾山地の北側は、観光地としても登山対象としても有名な「日光」地域です。
ここには、日光白根山、男体山、女峰山など多数の火山があり、通称「日光火山群」と呼ばれています。
この連載では元々、火山は説明対象外としていましたが、途中から方針を変更し、第四紀火山についても形成史を中心に記載することにしました。
日光地域の火山群の形成史は、第9部でより詳しく説明しますが、この章では、著名な火山について簡単に説明し、かつ日光火山群周辺の地質についても触れ、それに基づき、日光火山群の基盤岩についても考察します。
ここには、日光白根山、男体山、女峰山など多数の火山があり、通称「日光火山群」と呼ばれています。
この連載では元々、火山は説明対象外としていましたが、途中から方針を変更し、第四紀火山についても形成史を中心に記載することにしました。
日光地域の火山群の形成史は、第9部でより詳しく説明しますが、この章では、著名な火山について簡単に説明し、かつ日光火山群周辺の地質についても触れ、それに基づき、日光火山群の基盤岩についても考察します。
1)日光火山群、主要な火山の概要
以下、主要な火山の概要を、主に文献1)に基づいて説明します。
なお、※印部分は、文献2)を参照、★部分は、文献3)を参照しました。
(1)男体山(なんたいさん:2484m)
・活動時期※;約2万年前〜 現在(活火山認定)★
・火山形式;成層火山
・火山岩種類;玄武岩、安山岩、デイサイト
(2)日光白根山(2578m)(「奥白根山」とも呼ばれる)
・活動時期※;約1.4万年前〜 現在(活火山認定)★
・火山形式;山頂部は溶岩ドーム型
・火山岩種類;安山岩
・なお、山頂部と、北西側以外は中新世〜鮮新世の火山岩
(奥鬼怒カルデラ火山噴出物)
(3)女峰山(にょほうさん:2483m)
・活動時期※:約50万年前後(その後も多少の噴火と、大規模な山体崩壊あり)
・火山形式;成層火山、(一部は溶岩ドーム)
・火山岩種類;玄武岩、安山岩、デイサイト
(4)大真名子山(おおまなこやま:2375m)、太郎山(2368m)など
・活動時期※:約10〜5万年前
・火山形式;溶岩ドーム
・火山岩種類;安山岩、デイサイト
なお、※印部分は、文献2)を参照、★部分は、文献3)を参照しました。
(1)男体山(なんたいさん:2484m)
・活動時期※;約2万年前〜 現在(活火山認定)★
・火山形式;成層火山
・火山岩種類;玄武岩、安山岩、デイサイト
(2)日光白根山(2578m)(「奥白根山」とも呼ばれる)
・活動時期※;約1.4万年前〜 現在(活火山認定)★
・火山形式;山頂部は溶岩ドーム型
・火山岩種類;安山岩
・なお、山頂部と、北西側以外は中新世〜鮮新世の火山岩
(奥鬼怒カルデラ火山噴出物)
(3)女峰山(にょほうさん:2483m)
・活動時期※:約50万年前後(その後も多少の噴火と、大規模な山体崩壊あり)
・火山形式;成層火山、(一部は溶岩ドーム)
・火山岩種類;玄武岩、安山岩、デイサイト
(4)大真名子山(おおまなこやま:2375m)、太郎山(2368m)など
・活動時期※:約10〜5万年前
・火山形式;溶岩ドーム
・火山岩種類;安山岩、デイサイト
2)日光地域の基盤岩について
産総研 「シームレス地質図v2」を見ると、日光地域は、日光火山群の火山群の火山体と、それらから噴出、流失した溶岩、火砕岩でかなり覆われています。
しかし、それらの火山ができる前の地質が、あちこちに分布しています。
以下、時代順(古い順)に列挙します。
(1)JR,東武日光駅の南側にある低い山々(代表は「鳴虫山」:なきむしやま 1104m)付近には、ジュラ紀付加体性地質(足尾帯)が分布しています。
(2)中禅寺湖の西側に、白亜紀後期(約84-66Ma)にできた花崗岩類が部分的に分布しています。
(3)「いろは坂」やその南部一帯、および中禅寺湖の南西側の一部には、「いろは坂溶結凝灰岩」と名付けられた、白亜紀最末期(約65Ma)の大規模火砕流噴出物が、最大層厚 約1500mで分布しています(文献4)。
なお、この時の大規模火砕流噴出物の総量は、日光地区に限っても約200km^3、周辺域を含めるとおよそ1000km^3にも達する破局噴火だった、と推定されています(文献4)
(4)日光白根山の山頂部以外(前白根山を含む)の部分、金精峠付近、その北の温泉が岳(2333m)の辺りは、新第三紀 中新世末〜鮮新世にかけて(約7.2〜2.6Ma)の、巨大火山噴出物と考えられるデイサイト/流紋岩質の大規模火砕流噴出物が広く分布しています。
これは(文献5)によると、日光地域の北側、現在のいわゆる奥鬼怒温泉郷あたりに、直径20km程度の巨大カルデラ型火山(「奥鬼怒カルデラ」という名称がついている)が存在し、その破局的大噴火により噴出したものと考えられています。層厚は最大で1000mに達します(文献5)
次に、より広い範囲の地質を、「シームレス地質図v2」にて、見てみます。
日光火山群の南に隣接する足尾山地には、ジュラ紀付加体である「足尾帯」型堆積岩と、その下部で形成されて、その後、隆起によって地上に現れた白亜紀〜古第三紀の深成岩体(ほとんどが花崗岩類)が分布しています。(文献4)
次に日光火山群の北方、奥鬼怒地域(鬼怒川源流域)には、「足尾帯」に相当すると考えられるジュラ紀の付加体型地質(メランジュ相地質、砂岩、泥質岩、チャート岩体、玄武岩体、石灰岩岩体)(文献4)と、白亜紀に貫入した深成岩である花崗岩が、部分的に分布しています。
これらのことから考えると、第四紀に、日光地区で火山活動が始まって日光火山群ができる前、この地域一帯は、以下の基盤地質が分布していたと推定されます。
(1)ジュラ紀付加体である「足尾帯」に属する堆積岩層
(2)それに貫入した白亜紀〜古第三紀の深成岩(主に花崗岩)
(3)白亜紀末に噴火したと思われる巨大火山由来の火砕流噴出物
(4)さらにそれらを覆った、新第三紀 中新世末〜鮮新世に出来た巨大火山
(奥鬼怒カルデラ火山)由来の火砕流噴出物
※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
しかし、それらの火山ができる前の地質が、あちこちに分布しています。
以下、時代順(古い順)に列挙します。
(1)JR,東武日光駅の南側にある低い山々(代表は「鳴虫山」:なきむしやま 1104m)付近には、ジュラ紀付加体性地質(足尾帯)が分布しています。
(2)中禅寺湖の西側に、白亜紀後期(約84-66Ma)にできた花崗岩類が部分的に分布しています。
(3)「いろは坂」やその南部一帯、および中禅寺湖の南西側の一部には、「いろは坂溶結凝灰岩」と名付けられた、白亜紀最末期(約65Ma)の大規模火砕流噴出物が、最大層厚 約1500mで分布しています(文献4)。
なお、この時の大規模火砕流噴出物の総量は、日光地区に限っても約200km^3、周辺域を含めるとおよそ1000km^3にも達する破局噴火だった、と推定されています(文献4)
(4)日光白根山の山頂部以外(前白根山を含む)の部分、金精峠付近、その北の温泉が岳(2333m)の辺りは、新第三紀 中新世末〜鮮新世にかけて(約7.2〜2.6Ma)の、巨大火山噴出物と考えられるデイサイト/流紋岩質の大規模火砕流噴出物が広く分布しています。
これは(文献5)によると、日光地域の北側、現在のいわゆる奥鬼怒温泉郷あたりに、直径20km程度の巨大カルデラ型火山(「奥鬼怒カルデラ」という名称がついている)が存在し、その破局的大噴火により噴出したものと考えられています。層厚は最大で1000mに達します(文献5)
次に、より広い範囲の地質を、「シームレス地質図v2」にて、見てみます。
日光火山群の南に隣接する足尾山地には、ジュラ紀付加体である「足尾帯」型堆積岩と、その下部で形成されて、その後、隆起によって地上に現れた白亜紀〜古第三紀の深成岩体(ほとんどが花崗岩類)が分布しています。(文献4)
次に日光火山群の北方、奥鬼怒地域(鬼怒川源流域)には、「足尾帯」に相当すると考えられるジュラ紀の付加体型地質(メランジュ相地質、砂岩、泥質岩、チャート岩体、玄武岩体、石灰岩岩体)(文献4)と、白亜紀に貫入した深成岩である花崗岩が、部分的に分布しています。
これらのことから考えると、第四紀に、日光地区で火山活動が始まって日光火山群ができる前、この地域一帯は、以下の基盤地質が分布していたと推定されます。
(1)ジュラ紀付加体である「足尾帯」に属する堆積岩層
(2)それに貫入した白亜紀〜古第三紀の深成岩(主に花崗岩)
(3)白亜紀末に噴火したと思われる巨大火山由来の火砕流噴出物
(4)さらにそれらを覆った、新第三紀 中新世末〜鮮新世に出来た巨大火山
(奥鬼怒カルデラ火山)由来の火砕流噴出物
※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
(参考文献)
文献1)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)
のうち、7−3章「第四紀火山概説」のうち、表7.3.1
文献2)貝塚、小池、遠藤、山崎、鈴木 編
「日本の地形 第4巻 関東・伊豆小笠原」 東京大学出版会 刊(2000)
のうち、2−2章 関東北部の火山群、(3)節 「日光火山群」の項
文献3)気象庁 ホームページより、「活火山」の項
2021-2月 閲覧
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/katsukazan_toha/katsukazan_toha.html
文献4)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)
のうち、第2部「中・古生界」
2―3章「足尾山地」、2―4章「帝釈山地」の項
文献5)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)
のうち、第3部「第三系」、3−5―5節「奥鬼怒地域」の項
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)
のうち、7−3章「第四紀火山概説」のうち、表7.3.1
文献2)貝塚、小池、遠藤、山崎、鈴木 編
「日本の地形 第4巻 関東・伊豆小笠原」 東京大学出版会 刊(2000)
のうち、2−2章 関東北部の火山群、(3)節 「日光火山群」の項
文献3)気象庁 ホームページより、「活火山」の項
2021-2月 閲覧
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/katsukazan_toha/katsukazan_toha.html
文献4)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)
のうち、第2部「中・古生界」
2―3章「足尾山地」、2―4章「帝釈山地」の項
文献5)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第3巻 関東地方」朝倉書店 刊 (2008)
のうち、第3部「第三系」、3−5―5節「奥鬼怒地域」の項
このリンク先の、6−1章の文末には、第6部「関東北部の山々の地質」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第6部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第6部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
日光地域の火山群のそれぞれの山について、その形成史を中心に解説した章です。
【書記事項】
初版リリース;2021年2月12日
△改訂1;文章見直し、加筆修正。6−1章、9−3章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月3日
△改訂1;文章見直し、加筆修正。6−1章、9−3章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月3日
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