(はじめに)
北海道のほぼ中央部は、北海道最高峰の大雪山(旭岳)を含め、火山が多く集まっている火山地帯を形成しています。それ以外にも、非火山性の地質や古い火山岩でできた山々もあります。
この一帯は標高が2000mを越える山々が集中しているため、「北海道の屋根」という別称も持ちます(文献3)。なお一般の地図では、この付近全体を「石狩山地」と呼びますが、登山界ではあまり使われないようです。
登山ガイドブックである(文献3)では、この一帯の山々を、大雪山を中心とした「表大雪(おもてたいせつ)山系」、石狩川の北側の「北大雪(きたたいせつ)山系」、東側の「東大雪(ひがしたいせつ)山系(あるいは石狩山地)」、および「十勝連峰(とかちれんぽう)」の4つの山群に分けています。
この、北海道中央部の山々については、説明を解りやすくするため、主に西側に分布する火山性の山々(上記区分でいうと、「表大雪山系」と「十勝連峰」、なおトムラウシ山付近も含む)と、主に東側に分布する非火山性(および古い火山)の山々(上記区分でいうと、「北大雪山系」と「東大雪山系(石狩山地)」)の2つのグループに大別します。
まずこの8-10章では、火山性の山々として、大雪山系、十勝連峰、及びトムラウシ山付近の山々について、火山の形成史を中心に説明します。
次章では非火山性の地質及び古い火山岩でできた山々(「東大雪山系」と「北大雪山系」)を、主に地質的な面を中心に説明します。
またこの章では、大雪山系特有の、寒冷気候によって形成された地形的特徴も説明します。
この一帯は標高が2000mを越える山々が集中しているため、「北海道の屋根」という別称も持ちます(文献3)。なお一般の地図では、この付近全体を「石狩山地」と呼びますが、登山界ではあまり使われないようです。
登山ガイドブックである(文献3)では、この一帯の山々を、大雪山を中心とした「表大雪(おもてたいせつ)山系」、石狩川の北側の「北大雪(きたたいせつ)山系」、東側の「東大雪(ひがしたいせつ)山系(あるいは石狩山地)」、および「十勝連峰(とかちれんぽう)」の4つの山群に分けています。
この、北海道中央部の山々については、説明を解りやすくするため、主に西側に分布する火山性の山々(上記区分でいうと、「表大雪山系」と「十勝連峰」、なおトムラウシ山付近も含む)と、主に東側に分布する非火山性(および古い火山)の山々(上記区分でいうと、「北大雪山系」と「東大雪山系(石狩山地)」)の2つのグループに大別します。
まずこの8-10章では、火山性の山々として、大雪山系、十勝連峰、及びトムラウシ山付近の山々について、火山の形成史を中心に説明します。
次章では非火山性の地質及び古い火山岩でできた山々(「東大雪山系」と「北大雪山系」)を、主に地質的な面を中心に説明します。
またこの章では、大雪山系特有の、寒冷気候によって形成された地形的特徴も説明します。
1)大雪山系(表大雪山系)の形成史
大雪山(たいせつざん)は言うまでもなく、北海道を代表とする山で、日本百名山の一つでもあります。大雪山は、単独の山というより、いくつものピークを持つ、複合火山です。
大雪山は、最高峰の旭岳(2290m)を含め、標高2000mを越える峰が多数あります。
ただ、産総研「シームレス地質図v2」を良く確認すると、その標高の全てが第四紀の火山体ではなく、基盤岩(日高層群や、新第三紀 中新世から鮮新世にかけての火山岩類など)が、最大で標高1300m辺りまで確認されるので、その上に乗っかっている火山群と推定されています。
(文献1-a)でも同様に、基盤岩類の高まりの上にできた火山群、と説明されています。
地質を細かく読むと、第1層から第5層までの、5つの層が区別できますので、以下、それに基づき説明します。
産総研「シームレス地質図v2」で詳しく確認すると、まず第1層(基盤岩類1)としては、日高帯に属すると思われるメランジュ相付加体型の地質(白亜紀~古第三紀 始新世)が、層雲峡の一部で確認され、標高 約800m付近まで分布しています。
その上には第2層(基盤岩類2)として、新第三紀 中新世中期(約16-7Ma)に噴出した、安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩があります。
さらに第3層(基盤岩類3)として、中新世後期~鮮新世(約7―2.6Ma)に噴出した、溶岩、火砕岩や、大規模火砕流堆積物が乗っています。第3層の火山岩類は、大雪山系の東側、銀泉台(ぎんせんだい)登山口(標高 約1300m)付近まで確認されます。
その上に、第4層として、第四紀 カラブリアン期(約160―77万年前)の安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩が分布しています。
さらに第5層として、第四紀 チバニアン期(約77―12万年前)以降の安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩で、大雪山の主なピーク(旭岳、北鎮岳、黒岳、北海岳、白雲岳など)が形成されています。
(文献2-a)によると、大雪山の第四紀の活動史は、ステージ1~ステージ4に分けられます。
以下、(文献2-a)を元に、(文献1-a)も参照して大雪山の活動史を述べます。
ステージ1は、約100~50万年前の活動で、大雪山の基盤部分と、高根ヶ原(たかねがはら)などの溶岩台地を形成しました。上記の第4層に相当すると思われます。
ステージ2は、数十万年前の活動で、北鎮岳(2224m)、黒岳(1984m)などの約10個の溶岩ドームが形成された時期です。これ以降は上記の第5層に相当すると思われます。
ステージ3は、約3万年前の活動で、火砕流を伴う巨大噴火が起こり、現在、大雪山の中央部にある大きな凹地である「御鉢平(おはちだいら)カルデラ」が形成されました。
その際に噴出した火砕流が溶結して、周辺部にも、ぶ厚い火山岩層が形成されました。その後、石狩川の浸食によって層雲峡の、忠別川の浸食によって天人峡の、それぞれ最大標高差 約300mにおよぶ、みごとな柱状節理の断崖が形成されました。
また御鉢平は直径約2km、深さ(比高)約200mのカルデラ性の凹地で、その内側には湖成堆積層が確認されており、これは産総研「シームレス地質図v2」でも確認できます。このことは、カルデラが形成されたのち、一時期はカルデラ湖が形成されたことを示しています。
ステージ4は、約2万年前から現世まで続く活動で、主に旭岳付近で活発な火山活動が起こり、溶岩流の噴出やスコリア丘の形成などの活動が起こりました。
現在、旭岳西側の地獄谷で噴気活動が起こっていますが、地獄谷は、約1500年前に、(おそらく火山活動に伴う)山体崩壊によって形成されたものです。
またロープウエー駅のある姿見の池(すがたみのいけ)付近も、比較的新しい時期に活動した、小規模な爆裂火口が15個ほどある一帯です。
なお大雪山の火山活動でできた地質は、(文献2-a)では、ステージ1~4のいずれも、「安山岩及びデイサイト質」の火山活動と説明されています。
一方、産総研「シームレス地質図v2」の解説によると、山体部の大部分が「安山岩、玄武岩質安山岩の、溶岩、火砕岩」であり、西側山麓部や天人峡付近の地質は「安山岩、玄武岩質安山岩の、大規模火砕流堆積物」とされています。
大雪山は、最高峰の旭岳(2290m)を含め、標高2000mを越える峰が多数あります。
ただ、産総研「シームレス地質図v2」を良く確認すると、その標高の全てが第四紀の火山体ではなく、基盤岩(日高層群や、新第三紀 中新世から鮮新世にかけての火山岩類など)が、最大で標高1300m辺りまで確認されるので、その上に乗っかっている火山群と推定されています。
(文献1-a)でも同様に、基盤岩類の高まりの上にできた火山群、と説明されています。
地質を細かく読むと、第1層から第5層までの、5つの層が区別できますので、以下、それに基づき説明します。
産総研「シームレス地質図v2」で詳しく確認すると、まず第1層(基盤岩類1)としては、日高帯に属すると思われるメランジュ相付加体型の地質(白亜紀~古第三紀 始新世)が、層雲峡の一部で確認され、標高 約800m付近まで分布しています。
その上には第2層(基盤岩類2)として、新第三紀 中新世中期(約16-7Ma)に噴出した、安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩があります。
さらに第3層(基盤岩類3)として、中新世後期~鮮新世(約7―2.6Ma)に噴出した、溶岩、火砕岩や、大規模火砕流堆積物が乗っています。第3層の火山岩類は、大雪山系の東側、銀泉台(ぎんせんだい)登山口(標高 約1300m)付近まで確認されます。
その上に、第4層として、第四紀 カラブリアン期(約160―77万年前)の安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩が分布しています。
さらに第5層として、第四紀 チバニアン期(約77―12万年前)以降の安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩で、大雪山の主なピーク(旭岳、北鎮岳、黒岳、北海岳、白雲岳など)が形成されています。
(文献2-a)によると、大雪山の第四紀の活動史は、ステージ1~ステージ4に分けられます。
以下、(文献2-a)を元に、(文献1-a)も参照して大雪山の活動史を述べます。
ステージ1は、約100~50万年前の活動で、大雪山の基盤部分と、高根ヶ原(たかねがはら)などの溶岩台地を形成しました。上記の第4層に相当すると思われます。
ステージ2は、数十万年前の活動で、北鎮岳(2224m)、黒岳(1984m)などの約10個の溶岩ドームが形成された時期です。これ以降は上記の第5層に相当すると思われます。
ステージ3は、約3万年前の活動で、火砕流を伴う巨大噴火が起こり、現在、大雪山の中央部にある大きな凹地である「御鉢平(おはちだいら)カルデラ」が形成されました。
その際に噴出した火砕流が溶結して、周辺部にも、ぶ厚い火山岩層が形成されました。その後、石狩川の浸食によって層雲峡の、忠別川の浸食によって天人峡の、それぞれ最大標高差 約300mにおよぶ、みごとな柱状節理の断崖が形成されました。
また御鉢平は直径約2km、深さ(比高)約200mのカルデラ性の凹地で、その内側には湖成堆積層が確認されており、これは産総研「シームレス地質図v2」でも確認できます。このことは、カルデラが形成されたのち、一時期はカルデラ湖が形成されたことを示しています。
ステージ4は、約2万年前から現世まで続く活動で、主に旭岳付近で活発な火山活動が起こり、溶岩流の噴出やスコリア丘の形成などの活動が起こりました。
現在、旭岳西側の地獄谷で噴気活動が起こっていますが、地獄谷は、約1500年前に、(おそらく火山活動に伴う)山体崩壊によって形成されたものです。
またロープウエー駅のある姿見の池(すがたみのいけ)付近も、比較的新しい時期に活動した、小規模な爆裂火口が15個ほどある一帯です。
なお大雪山の火山活動でできた地質は、(文献2-a)では、ステージ1~4のいずれも、「安山岩及びデイサイト質」の火山活動と説明されています。
一方、産総研「シームレス地質図v2」の解説によると、山体部の大部分が「安山岩、玄武岩質安山岩の、溶岩、火砕岩」であり、西側山麓部や天人峡付近の地質は「安山岩、玄武岩質安山岩の、大規模火砕流堆積物」とされています。
2)十勝連峰の形成史
十勝連峰とは、大雪山系とはトムラウシ山を間に挟んで、オプタテシケ山(2012m)、十勝岳(2077m)、富良野岳(1912m)などの、1900-2000m級の火山が北東から南西方向に約30km並ぶ火山列です。このうち十勝岳は百名山の一つでもあります。他にも富良野岳(1912m)、上ホロカメットク山(1920m)、美瑛岳(びえいだけ:2052m)の山々も、富良野側からのアプローチが良いために、良く登られている山のようです。
この節では、十勝連峰火山群の形成史を、(文献1-b)、(文献2-b)を元に説明します。なお、トムラウシ山付近は、次の節で説明します。
十勝連峰は、(文献1-b)、(文献2-b)によると、新第三紀 鮮新世末から第四紀前期にかけて活動した、大規模な流紋岩質火砕流堆積物が基盤となり、その上に乗っかって形成された火山群です。
なお、産総研「シームレス地質図v2」でより詳しく確認すると、十勝連峰の西側山麓には第1層(基盤岩類)として、日高変成岩類(苦鉄質片岩:古第三紀 始新世~ 新第三紀 中新世に変成:基盤岩1)や、新第三紀 中新世末から鮮新世にかけて(約7.2~2.6Ma)の大規模火砕流堆積物(基盤岩2)があります。オプタテシケ山東斜面の、標高 約900m付近まで、この基盤岩類は確認できます。
その上には第2層として、第四紀 カラブリアン期(約160-80万年前)のデイサイト、流紋岩質の火砕流堆積物、及び 安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩層があります。
さらにその上に、第3層として、現在の火山体を形成している、第四紀後期~現世(完新世)にかけて噴出した、安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩が分布しています。
十勝連峰の活動は、(文献1-b)では古期、中期、新期の大きく3つのステージに分けられています。但しそれぞれの時期が具体的にどれくらい前の時代かは明確ではないようです。
まず古期の活動では、玄武岩質~安山岩質の、大規模な溶岩流の流出が特徴です。
続く中期の活動では、粘性の低い溶岩から、次第に粘性の高い溶岩へと変化し、その時期にオプタテシケ山(2012m)、上ホロカメットク山(1920m)、美瑛岳(2052m)が形成されたと推定されています。十勝岳(2077m)の原型(溶岩ドーム)もこの時期に形成されたと推定されています。
さらに新期の活動では、美瑛富士(1888m)が形成され、また十勝岳では北西斜面での活発な活動が生じました。現在も十勝岳北西部では、主に玄武岩質の溶岩活動が活発です。
最新の大規模な噴火活動は、十勝岳で1929年に起こり、爆発的噴火により、火砕流とそれが積雪を溶かして変化した泥流が、約25kmも流れ下り、144名が死亡するという大きな被害が出ています。
その後も十勝岳は活発な火山活動が続いており、しばしば登山規制が行われています。
この節では、十勝連峰火山群の形成史を、(文献1-b)、(文献2-b)を元に説明します。なお、トムラウシ山付近は、次の節で説明します。
十勝連峰は、(文献1-b)、(文献2-b)によると、新第三紀 鮮新世末から第四紀前期にかけて活動した、大規模な流紋岩質火砕流堆積物が基盤となり、その上に乗っかって形成された火山群です。
なお、産総研「シームレス地質図v2」でより詳しく確認すると、十勝連峰の西側山麓には第1層(基盤岩類)として、日高変成岩類(苦鉄質片岩:古第三紀 始新世~ 新第三紀 中新世に変成:基盤岩1)や、新第三紀 中新世末から鮮新世にかけて(約7.2~2.6Ma)の大規模火砕流堆積物(基盤岩2)があります。オプタテシケ山東斜面の、標高 約900m付近まで、この基盤岩類は確認できます。
その上には第2層として、第四紀 カラブリアン期(約160-80万年前)のデイサイト、流紋岩質の火砕流堆積物、及び 安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩層があります。
さらにその上に、第3層として、現在の火山体を形成している、第四紀後期~現世(完新世)にかけて噴出した、安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩が分布しています。
十勝連峰の活動は、(文献1-b)では古期、中期、新期の大きく3つのステージに分けられています。但しそれぞれの時期が具体的にどれくらい前の時代かは明確ではないようです。
まず古期の活動では、玄武岩質~安山岩質の、大規模な溶岩流の流出が特徴です。
続く中期の活動では、粘性の低い溶岩から、次第に粘性の高い溶岩へと変化し、その時期にオプタテシケ山(2012m)、上ホロカメットク山(1920m)、美瑛岳(2052m)が形成されたと推定されています。十勝岳(2077m)の原型(溶岩ドーム)もこの時期に形成されたと推定されています。
さらに新期の活動では、美瑛富士(1888m)が形成され、また十勝岳では北西斜面での活発な活動が生じました。現在も十勝岳北西部では、主に玄武岩質の溶岩活動が活発です。
最新の大規模な噴火活動は、十勝岳で1929年に起こり、爆発的噴火により、火砕流とそれが積雪を溶かして変化した泥流が、約25kmも流れ下り、144名が死亡するという大きな被害が出ています。
その後も十勝岳は活発な火山活動が続いており、しばしば登山規制が行われています。
3)トムラウシ山とその周辺の形成史
トムラウシ山(2141m)は、百名山でもあるとともに、近年は夏場の気象遭難事故が多発したことでも知られる山になりました。
場所的には、大雪山系と十勝連峰の間をつなぐような場所に位置しており、両方の山系への縦走も可能ですが、なかなか奥深い山です。なお登山ガイドブックである(文献3)では、トムラウシ山付近は「表大雪山系」に含まれています。
さて、トムラウシ山とその周辺も火山群で形成されています。
ただし、大雪山系や十勝連峰と同様に、やや古い基盤岩類の上に形成された火山です。
産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、トムラウシ山の東側には新第三紀 中新世中期(約16~7Ma)に噴出した、デイサイト質大規模火砕流堆積物(基盤岩類1)が標高 約1100m付近まで確認されます。またトムラウシ山とオプタテシケ山の間あたりには、同時期の安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩(基盤岩類2)が分布しています
さらにごくわずかですが、その構造的下位にあると考えられる、白亜紀~古第三紀始新世のメランジュ相付加体層(日高帯に属すると思われる:基盤岩類3)が、トムラウシ山の西側山腹に、地窓状に現れています。
これらの基盤岩類の上に、第四紀に形成されたのが、トムラウシ山です。
以下、(文献2-c)を元に説明します。
トムラウシ火山群は大きく、旧期活動(約110~70万年前)と、新期活動(約30万年前以降)の2つに分けられています。
まず古期活動では、トムラウシ山の北東側の、五色ヶ原と呼ばれる溶岩台地状付近の場所に、「五色ヶ原火山群」が活動を開始したと推定されています。五色ヶ原火山群は、約110―70万年前に活動した火山群です。現在は西側から、かなり忠別川による浸食が進んでおり、忠別岳(ちゅうべつだけ:1963m)、五色岳(1868m)、化雲岳(かうんだけ:1963m)などはこの五色ヶ原火山群が作った溶岩台地のうち、忠別川浸食部の源頭に位置しているピークです。
また、トムラウシ山の西側には、黄金ヶ原(こがねがはら)と呼ばれる溶岩台地状の場所がありますが、この場所は、五色ヶ原火山群とほぼ同時期に、「黄金ヶ原火山群」が活動して形成された溶岩台地状の場所だと推定されています。但し、黄金ヶ原火山群はかなり浸食、開析が進んで、詳しい火山活動は明確ではありません。
火山活動が不活発な時代を間に挟んで、新期火山活動は、約30万年前から始まりました。主に現在のトムラウシ山付近での活動がメインで、多数の溶岩ドームが形成され、溶岩流も流下しました。現在のトムラウシ山の山頂部付近は溶岩ドーム群で構成されています。
なおトムラウシ山とその周辺の地質は、(文献2-c)によると、古期、新期とも、「デイサイト~安山岩質」の火山岩と説明されています。
一方、産総研「シームレス地質図v2」の説明によると、五色ヶ原、黄金ヶ原、トムラウシ山本体いずれも、「安山岩、玄武岩質安山岩」の溶岩、火砕岩とされています。
場所的には、大雪山系と十勝連峰の間をつなぐような場所に位置しており、両方の山系への縦走も可能ですが、なかなか奥深い山です。なお登山ガイドブックである(文献3)では、トムラウシ山付近は「表大雪山系」に含まれています。
さて、トムラウシ山とその周辺も火山群で形成されています。
ただし、大雪山系や十勝連峰と同様に、やや古い基盤岩類の上に形成された火山です。
産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、トムラウシ山の東側には新第三紀 中新世中期(約16~7Ma)に噴出した、デイサイト質大規模火砕流堆積物(基盤岩類1)が標高 約1100m付近まで確認されます。またトムラウシ山とオプタテシケ山の間あたりには、同時期の安山岩、玄武岩質安山岩の溶岩、火砕岩(基盤岩類2)が分布しています
さらにごくわずかですが、その構造的下位にあると考えられる、白亜紀~古第三紀始新世のメランジュ相付加体層(日高帯に属すると思われる:基盤岩類3)が、トムラウシ山の西側山腹に、地窓状に現れています。
これらの基盤岩類の上に、第四紀に形成されたのが、トムラウシ山です。
以下、(文献2-c)を元に説明します。
トムラウシ火山群は大きく、旧期活動(約110~70万年前)と、新期活動(約30万年前以降)の2つに分けられています。
まず古期活動では、トムラウシ山の北東側の、五色ヶ原と呼ばれる溶岩台地状付近の場所に、「五色ヶ原火山群」が活動を開始したと推定されています。五色ヶ原火山群は、約110―70万年前に活動した火山群です。現在は西側から、かなり忠別川による浸食が進んでおり、忠別岳(ちゅうべつだけ:1963m)、五色岳(1868m)、化雲岳(かうんだけ:1963m)などはこの五色ヶ原火山群が作った溶岩台地のうち、忠別川浸食部の源頭に位置しているピークです。
また、トムラウシ山の西側には、黄金ヶ原(こがねがはら)と呼ばれる溶岩台地状の場所がありますが、この場所は、五色ヶ原火山群とほぼ同時期に、「黄金ヶ原火山群」が活動して形成された溶岩台地状の場所だと推定されています。但し、黄金ヶ原火山群はかなり浸食、開析が進んで、詳しい火山活動は明確ではありません。
火山活動が不活発な時代を間に挟んで、新期火山活動は、約30万年前から始まりました。主に現在のトムラウシ山付近での活動がメインで、多数の溶岩ドームが形成され、溶岩流も流下しました。現在のトムラウシ山の山頂部付近は溶岩ドーム群で構成されています。
なおトムラウシ山とその周辺の地質は、(文献2-c)によると、古期、新期とも、「デイサイト~安山岩質」の火山岩と説明されています。
一方、産総研「シームレス地質図v2」の説明によると、五色ヶ原、黄金ヶ原、トムラウシ山本体いずれも、「安山岩、玄武岩質安山岩」の溶岩、火砕岩とされています。
4)大雪山系の、寒冷地地形の特徴
この節では、大雪山を始めとする大雪山系における、寒冷気候に基づく地形的特徴について、説明します。
日本アルプス(北アルプス、中央アルプス、南アルプス)、及び北海道の日高山脈では、氷期に形成されたカール地形やU字谷がいくつも確認されており、山岳氷河があったことが明確になっています。特に北アルプス北部では、現生氷河が近年、いくつも確認され、注目を浴びています。
さて、大雪山を始めとする北海道中央部の山岳地は、標高が2000mを越えるピークが日高山脈よりも多いので、氷河期には氷河が形成される条件下にあったと推定されます(文献4)。
しかし大雪山を始めとする北海道中央部の一帯は、火山が多く、前の氷期(最終氷期;約10~1万年前)の間にも火山活動が起こっていたと推定されますので、その影響で、カール地形やU字谷といった、山岳氷河に特有の地形は、明確には残っていません。
ただ、大雪山を始めとする北海道中央部は、現在でも日本で有数の寒冷気候の元にあるため、寒冷気候地に特有の、「周氷河地形(しゅうひょうがちけい)」が現在でも形成されており、確認ができます(文献1-c)、(文献1-d)、(文献4)、(文献5)。
以下、主に(文献1-c)に基づき説明します。
まず、大雪山系のうち、標高が2000mを越える一帯(例えば小泉岳、北海平)には、あちこちで「永久凍土(えいきゅうとうど)」が確認されています。
「永久凍土」とは、一年を通じて地温が氷点下の温度であり、地面が表面部を除き、一年中凍結している状態です。いわば、シベリアのツンドラ地帯と似たような状態です。
大雪山の永久凍土は、深さが8m以上まで凍結していると推定されています。
なお日本列島で「永久凍土」が確認されている場所は、この大雪山系の他には、富士山と、ごく最近(2000年)に発見された、北アルプス 立山の内蔵助カールのみです(文献4)。
他に、「凍結割れ目多角形土」(とうけつわれめ たかっけいど)と呼ばれる、地表に現れている割れ目状の不思議な模様のような地形が、大雪山の一帯、特に砂礫地で見られます。
また「岩塊斜面」(がんかいしゃめん)(あるいは岩塊流)と呼ばれる巨岩が累々とした斜面は、特にトムラウシ山の山頂部付近で形成されていますが、これも寒冷気候によって岩盤が砕かれて巨岩の群れとなったものです。
さらに、トムラウシ山に近い、高根が原のような湿原状の場所には、「パルサ」と呼ばれる、高さ 数mのまんじゅう型の高まりがあり、これも永久凍土と関連して形成された地形です。
このように、北海道中央部、特に大雪山系では、各種の「周氷河地形」のモデル地のような多様な地形を見ることができます。
日本アルプス(北アルプス、中央アルプス、南アルプス)、及び北海道の日高山脈では、氷期に形成されたカール地形やU字谷がいくつも確認されており、山岳氷河があったことが明確になっています。特に北アルプス北部では、現生氷河が近年、いくつも確認され、注目を浴びています。
さて、大雪山を始めとする北海道中央部の山岳地は、標高が2000mを越えるピークが日高山脈よりも多いので、氷河期には氷河が形成される条件下にあったと推定されます(文献4)。
しかし大雪山を始めとする北海道中央部の一帯は、火山が多く、前の氷期(最終氷期;約10~1万年前)の間にも火山活動が起こっていたと推定されますので、その影響で、カール地形やU字谷といった、山岳氷河に特有の地形は、明確には残っていません。
ただ、大雪山を始めとする北海道中央部は、現在でも日本で有数の寒冷気候の元にあるため、寒冷気候地に特有の、「周氷河地形(しゅうひょうがちけい)」が現在でも形成されており、確認ができます(文献1-c)、(文献1-d)、(文献4)、(文献5)。
以下、主に(文献1-c)に基づき説明します。
まず、大雪山系のうち、標高が2000mを越える一帯(例えば小泉岳、北海平)には、あちこちで「永久凍土(えいきゅうとうど)」が確認されています。
「永久凍土」とは、一年を通じて地温が氷点下の温度であり、地面が表面部を除き、一年中凍結している状態です。いわば、シベリアのツンドラ地帯と似たような状態です。
大雪山の永久凍土は、深さが8m以上まで凍結していると推定されています。
なお日本列島で「永久凍土」が確認されている場所は、この大雪山系の他には、富士山と、ごく最近(2000年)に発見された、北アルプス 立山の内蔵助カールのみです(文献4)。
他に、「凍結割れ目多角形土」(とうけつわれめ たかっけいど)と呼ばれる、地表に現れている割れ目状の不思議な模様のような地形が、大雪山の一帯、特に砂礫地で見られます。
また「岩塊斜面」(がんかいしゃめん)(あるいは岩塊流)と呼ばれる巨岩が累々とした斜面は、特にトムラウシ山の山頂部付近で形成されていますが、これも寒冷気候によって岩盤が砕かれて巨岩の群れとなったものです。
さらに、トムラウシ山に近い、高根が原のような湿原状の場所には、「パルサ」と呼ばれる、高さ 数mのまんじゅう型の高まりがあり、これも永久凍土と関連して形成された地形です。
このように、北海道中央部、特に大雪山系では、各種の「周氷河地形」のモデル地のような多様な地形を見ることができます。
(参考文献)
文献1) 小畔(※)、野上、小野、平川 編
「日本の地形 第2巻 北海道」 東京大学出版会 刊 (2003)
文献1-a) 文献1のうち、
2-5章 「石狩山地の古い火山群と大雪・十勝・然別火山群」の、
2-5-(5)節 「大雪火山群」の項
文献1-b) 文献1のうち、
2-5章 「石狩山地の古い火山群と大雪・十勝・然別火山群」の、
2-5―(6)節 「十勝火山群」の項
文献1-c) 文献1のうち、
2-6章 「大雪山の周氷河現象」の項
文献1-d) 文献1のうち、
1-5―(2)節 「現在の周氷河地域と凍結溶解作用」の項、及び、
1-5-(3)節 「氷期の北海道の地形形成環境」の項
※ 「畔」は、本来は旧字体
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第1巻 北海道」朝倉書店 刊 (2010)
文献2-a)
第8部「火山」、8-3章「北海道中央部」の、
8-3-6節 「大雪火山」の項
文献2-b)
第8部「火山」、8-3章「北海道中央部」の、
8-3-4節 「十勝岳火山群」の項
文献2-c)
第8部「火山」、8-3章「北海道中央部」の、
8-3―7節 「トムラウシ火山群」の項
文献3) ヤマケイ アルペンガイド 「北海道の山」山と渓谷社 刊 (2000年版)
第2章「大雪山系」の項
文献4) 米倉、貝塚、野上、鎮西 編
「日本の地形 第1巻 総説」 東京大学出版会 刊 (2001)のうち、
5-3章「氷河地形・周氷河地形」の項、及び、
図5.3.4 「現在と最終氷期の雪線高度、周氷河限界と現在の永久凍土の分布」
文献5) 小泉、清水 編
「山の自然学入門」 古今書店 刊 (1993)のうち、
第5項「大雪山」、他。
「日本の地形 第2巻 北海道」 東京大学出版会 刊 (2003)
文献1-a) 文献1のうち、
2-5章 「石狩山地の古い火山群と大雪・十勝・然別火山群」の、
2-5-(5)節 「大雪火山群」の項
文献1-b) 文献1のうち、
2-5章 「石狩山地の古い火山群と大雪・十勝・然別火山群」の、
2-5―(6)節 「十勝火山群」の項
文献1-c) 文献1のうち、
2-6章 「大雪山の周氷河現象」の項
文献1-d) 文献1のうち、
1-5―(2)節 「現在の周氷河地域と凍結溶解作用」の項、及び、
1-5-(3)節 「氷期の北海道の地形形成環境」の項
※ 「畔」は、本来は旧字体
文献2)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第1巻 北海道」朝倉書店 刊 (2010)
文献2-a)
第8部「火山」、8-3章「北海道中央部」の、
8-3-6節 「大雪火山」の項
文献2-b)
第8部「火山」、8-3章「北海道中央部」の、
8-3-4節 「十勝岳火山群」の項
文献2-c)
第8部「火山」、8-3章「北海道中央部」の、
8-3―7節 「トムラウシ火山群」の項
文献3) ヤマケイ アルペンガイド 「北海道の山」山と渓谷社 刊 (2000年版)
第2章「大雪山系」の項
文献4) 米倉、貝塚、野上、鎮西 編
「日本の地形 第1巻 総説」 東京大学出版会 刊 (2001)のうち、
5-3章「氷河地形・周氷河地形」の項、及び、
図5.3.4 「現在と最終氷期の雪線高度、周氷河限界と現在の永久凍土の分布」
文献5) 小泉、清水 編
「山の自然学入門」 古今書店 刊 (1993)のうち、
第5項「大雪山」、他。
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第8部の他の章をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2021年8月20日
△改訂1;文章見直し、リンク先修正、書記事項追記(2021年12月27日)
△最新改訂年月日;2021年12月27日
△改訂1;文章見直し、リンク先修正、書記事項追記(2021年12月27日)
△最新改訂年月日;2021年12月27日
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