黒檜岳-社山 〜朝靄、笹原、湖畔の宿〜
- GPS
- 08:17
- 距離
- 15.9km
- 登り
- 988m
- 下り
- 992m
コースタイム
天候 | 晴れのち曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
11/3赤沼着4:40、赤沼車庫発5:00(低公害バス、300円)小田代原着5:12、発5:42(300円)千手ヶ浜着6:00 11/4中禅寺温泉発7:25(東武バス日光、1,150円)東武日光駅着8:00、発8:12(東武日光線)下今市駅着8:21、発8:32(スペーシアきぬがわ、4,080円)新宿駅着10:18 |
コース状況/ 危険箇所等 |
黒檜岳を過ぎてから社山までの間、笹原の中、鹿道の交錯する個所がある。ここでは左の小ピークを目指して進めば何とかなる。また、疲れていても各ピークは巻かずに越えてゆく。(巻道はいつの間にか鹿道に変わってゆく) |
その他周辺情報 | 民宿「越後屋」 中禅寺湖畔の小さな宿。すっかり疲れを癒やしてくれた。夕食は地元の食材中心、8品もいただけた。また訪れたい。夕食付で7,500円。 |
写真
感想
竹橋の登山バス受付カウンター前は閑散としていた。外には、日光方面の大型バスと谷川方面の中型バスがそれぞれ待機しているだけだった。そして2台のバスは、同時刻22時30分に出発する。予想に反して日光方面のバスは満席であった。
丸沼高原で半数以上の人が降りた。続いて菅沼から三本松の間で5,6名、赤沼で下車したのは私一人だった。午前4時40分、国道120号線を走る車両は無く、目指すバス発着所の灯りだけが、夜明け前の暗闇の中、ぼんやりと浮かんでいた。
近づくと多くの人の声が聞こえてくる。既に10名ほどの人が並んでいた。皆、大きなカメラと三脚を携えている。大きなザックを背負っている私は、場違いな人間のように思えた。日光の誇る低公害バスは、5時ちょうどに発車した。
小田代原に着くと、既に始発バスで到着していた人々が三脚を立てていた。写真家の方々は辛抱強い。日の出の1時間半前からその時を待っている。私と言えば、小さなデジカメを片手に、何も見えない草原を見つめるだけ。瞬く間に30分が過ぎ、定刻どおり現れた千手ヶ浜行きのバスに乗り込んだ。
夜明け前の中禅寺湖には朝靄が立ち込めていた。男体山は圧倒的な存在感で迫ってくる。しばらくその場を動けなくなった。黒檜岳から先で途方に暮れたら潔く戻って来よう。今日はこの光景を目にできたのだから。
湖畔の道をゆっくりと歩いて行くと、少し寂しげな登山口に着く。進路を見るといきなり多くの倒木に迎えられるようだった。早くも撤退の勇気が湧いてきた。でももう少し様子を見よう、意を決し歩み始めた矢先、小さな沢の渡渉で転倒した。運よく左上腕部の強打だけで済んだ。目が覚めた。
地形図どおりの急登が続く。ここを下りたくは無い。是が非でも社山に辿り着いてみせる。久しぶりの登山をもがきながら楽しむことにした。長丁場ゆえ、とりわけ体力温存に努めたい。視界の開けない樹林帯の中、可能な限りゆっくりと歩を進めた。鹿には出会いそうもなかった。
再び南西方向に進むようになると、徐々に勾配は緩くなる。尾根が広がり始めると、分岐点は近い。登山口から導いてくれた正方形の標識は、黒檜岳山頂への「道」を明確に示している。そう、そこに道は無い。彷徨ってくれと言わんばかりに深い森が広がっていた。
ほどなくして山名を記した標柱が現れる。ここより先に真の山頂があることを、多くの記録から教えられている。なおも歩き続けた。7,8分後、黒檜岳山頂に到達した。期待どおりの静寂。草木のざわめきも鳥たちのさえずりも、ここには無い。この先のことを考えなければ、腰を下ろし、目を閉じていたかった。
分岐点に戻る途中、案の定彷徨った。GPSで現在地を確認しながらようやく復帰する。そこから先も、かの標識は頼もしく導いてくれた。やがて木々の間隔が疎らになると、足元には笹の姿があった。いよいよだ。高まる気持ちを抑えながら前方を見つめる。笹原が広がっていた。
予想以上に伸びやかで、この上なく気持ちの良い空間、思わず駆けだしそうになった。笹は腰まで、踏み跡は明瞭だった。少しずつ高度を下げながら尾根道を進む。右手には足尾の山々。雲は高く、風は微かに笹原を撫でる。どこまでも続いてほしい。そう願った途端、道が消失した。というよりも、か細い踏み跡が縦横無尽に走っていた。
ここが鹿道の交錯する、迷うべき場所なのだろう。どれを選んでも誤りのような気がした。ここではGPSも、最近養われてきた「道迷い回復機能」も役には立たなかった。仕方なくみんなの足跡の最も濃いルートを選ぶことにした。果たして大きく遠回りをすることとなった。
素直に直線状に進むべきだったのだが、それほどのロスでもない。気を取り直して小ピーク1792峰への登りにとりかかる。頂からは、左手に男体山、太郎山、奥白根山が、行く手に社山、半月山を望めた。暫時佇み、社山への最後の登りに備えた。
次のピークには、比較的明瞭な巻道があった。笹原だ。どうにかなるだろう。安易な気持ちで、やがて鹿道に変貌する道に入って行った。徐々に笹は深くなり、薮状態に。またやったか。高度を落とさないよう気を付けながら、辛うじて見える足元に注意を払いトラバースを続けた。
復帰後、僅かな労力を惜しんだことを後悔し、大いに神経をすり減らしたことを実感していた。ほんの少し傷心のまま、社山直下の登りが始まった。今山行一番の急登、ストックだけでは心許なかった。15分後、息を切らして陽の光の眩しい場所に到達する。千手ヶ浜を離れてから初めて人に出会った。
5時間ぶりに腰を下ろした。軽量化を企図し、今日もコーヒーの準備をしていない。そそくさとパン2個を食し、中禅寺湖を目指し下り始めた。明確な道に安堵しながら急坂を注意深く進んだ。
阿世潟峠へ着く頃には、疲労の蓄積を感じ始めていた。堪らず座り込む。あと1時間半も経てば、横になれる。阿世潟からは、少しくらいよろけても安全な湖畔の道。重い腰を上げた。
山上から期待したとおり、湖畔の木々は正に黄葉の最盛期にあり、紅、黄、緑の3色共演を楽しめた。湖水は変わらず透明で美しく、さざ波の音色は実に心地よい。狸窪を過ぎると、ハイカーやサイクリングを楽しむ人々とすれ違い始め、やがてイタリア大使館別荘記念公園が近づくに連れ、徐々にリゾートの空気に包まれてゆく。
コーヒーショップから漂う香りに思わず足を止めそうになったが、今は一刻も早く今日の宿に着きたい、多くの人々の間を足早に進む。英国大使館別荘記念公園を抜け、歌ヶ浜の駐車場を過ぎると、ほんの少しの間、静かな湖畔の道に戻った。立木観音前の土産店が現れ始めると、今度は立ち並ぶ幟から目が離せなくなった。とはいえ、疲れはピーク、食欲よりも睡眠欲が遥かに上回っている。さらに歩みを速めた。
そしてとうとうその場所に着く。「早かったですね。すぐにお風呂の準備をしますね」その声に、瞬く間に解けてゆくのがわかった。入浴、午睡、期待以上の料理、至福の時間を過ごせた。期せずして今年最も印象的な山旅となった。部屋から望む男体山に向かって次回の登頂を誓ったのち、再び深い眠りに落ちた。
コメント
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kimichin2さん こんばんは
夜明け前の小田代原に立ち寄られたのですね!
週末は早朝のバスが運行するので多くのカメラマンが遊歩道に三脚を並べていた事とおもいます
みなさん、小田代原に朝陽が入った瞬間を撮影するための場所取りでまっ暗なうちから並び、朝陽が入ったほんの数分間撮影して帰っていきます。
kimichin2さんが小田代原から千手ヶ浜に向うバスに乗られたのが5時40分くらいですので、小田代原に光が入る一時間前ですね。
この日の先の行程を考えられるとそこまで待っていられないですものね。
千手ヶ浜では朝霧に包まれた美しい中禅寺湖の夜明け、静かな山歩きに、宿で過ごす癒しの時間。まだ紅葉の残る晩秋の奥日光を存分に楽しまれた事とおもいます。
素敵な山旅、お疲れさまでした。
kazuto645様
コメントをありがとうございます。
いつも美しく趣のある作品を拝見させていただき、気持ちが豊かになるのを感じています。
時々デスクトップに貼り、鑑賞させていただいています。
今回のコースは、以前から歩いてみたいと思っていたのですが、急遽小田代原に立ち寄ることにしました。
写真のコメントにも書きましたように、kazuto645さんの写真を見て、ぜひ一度この目で見たい、と無計画に行ってしまいましたが、夜明け前でも、事前にじっくり見て行ったおかげで十分画像を重ねることができました。
ありがとうございます。
これからも思わずため息の漏れる写真を堪能させてください!
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