戸谷峰
- GPS
- 32:00
- 距離
- 4.2km
- 登り
- 754m
- 下り
- 754m
コースタイム
9月4日山頂→松本
アクセス |
---|
感想
三才山から往復
登山道無く、上部は初のヤブこぎで登ると、山頂は青い花の草原だった。これまでの中で一番感傷的で、感激した山行。
戸谷峰は家の2階の東の窓から見える。昔からサトイモのような形だと思っていた。名前を調べて知ったのは高校生になってからだ。あまり誰にも知られていない山だった。地図でみれば、隣の美ケ原高原や武石峰の高まりから北東にはり出した一つの尾根の一部だ。しかし家の窓からは大きく急傾斜で、北東の空を占めていた。名前は知らずとも存在感は憶えている。子供の頃スケートに通った美鈴湖から真正面に圧倒的に見えた。故郷の川、女鳥羽川の源流最高峰でもある。
1982年9月、高校3年の最後のとんぼ祭の夜、この山で過ごそうと決めた。みんなで調和する、焚き火に参加する気になれなかった。友達もいたし、最高のとんぼ祭だったけど、こういう特別な夜を自分の方法で過ごしたかった。最後の演奏を終えたあと、一泊分のご飯を持ってオートバイで三才山峠へ向かった。ふもとの農家で水をもらい、たくさん汲んでいく。道は無いと言う話だったので、適当に見当をつけた踏み跡から取り付く。暫く行くと芝刈りか薪拾いか、おっさんに会い、この先の「野間橋」という橋のたもとの道からなら、稜線まで行けると教わった。道路に戻ってもう一度出直す。数時間登っていくと道は稜線の送電線鉄塔までついていた。戸谷峰はこんな山で、登山をする人は誰も登ってこない。
ここからは本当に道がなくなった。そこで僕は、山頂方向目指して初めて薮こぎをした。不安だった。少し進んではこれでいいのかとしゃがみ込む。くたびれたせいか、しゃがみこんだまま寝込んでしまった。気がつくと薄暮、秋の雑木林のなかで、暗くなってはますます心細い。
不安になって急に息をきらしてこぎ進んだら、これまでうっそうと茂っていた薮がそこだけきれいに生えていない。山頂だった。突然開けた視界にショックを受けた。その広場はいちめんが青い花畑で、この秋のおそらくたった一人の訪問者として受け入れたようだった。青い花の名は何だったのか。秋の太陽は西の北アルプスの彼方に沈むところだった。
道のない山を登ったのはこれが初めてで、それが朝晩仰ぎ見た山で、花いっぱいのもてなしを受けたのだから感動した。
のびのび広がる北アルプスは長く、白馬連峰まで続いていた。日が暮れると、月が青い光を落とし、山頂の草原は明るい広場に、松本平の灯かりは宇宙船のように浮かび上がった。とんぼ祭のファイヤーストームの炎が見えた気がした。月光の花畑で灯かりを消して、色々なことを考えた。
朝が来て、山を降りた。戸谷峰は僕だけの秘密の山だと思えて嬉しかった。これまでにたくさん山に登ったが、このとき山に感じたような感情は未だない。
下り道でこれは絶対ウスユキソウだ、と思ってとって帰り、山崎林治さんに聞きに行ったら、ヤマハハコだと教わったのはこのときだ。この年、北大への受験勉強を初めたので、これが高校生時代最後の山登りになった。でも山に行かずに勉強をしていても、散歩に出かけて樅の木を見たりしていた。
(1992年頃/記)
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