前穂高北尾根
- GPS
- 32:00
- 距離
- 17.6km
- 登り
- 1,849m
- 下り
- 1,839m
コースタイム
7:00上高地 - 8:30徳沢9:00 - 10:00パノラマ新道分岐 - 13:00奥又白池
2日目
5:15奥又白池 - 5:45五峰基部のガレ場 - 8:15五六のコル8:30 - 10:15三四のコル11:30 - 13:45前穂高岳山頂14:00 - 15:30岳沢 - 16:45上高地
天候 | 1日目:終日雨 2日目:曇り後晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2008年09月の天気図 |
アクセス | |
ファイル |
非公開
3401.xls
計画書
(更新時刻:2010/07/28 08:54) |
写真
感想
念願のアルパインデビュー。ここ一年、つまらなく退屈な街中での走りこみ、週2回のフリークライミング、無駄に重量化された歩荷、心技体を自分なりに磨いてきたのだ。数年前には一日に歩く距離はトイレの往復だけだった自分がこうなるなんて、人生とはわからないものだ。
起床と同時に降り始めた雨は昼に一度落ち着いたが、その後はまた夜中まで降り続いていた。休んでいるときの冷えた体に乾かない衣服はホントにしんどい。
今回も靴の中はずぶ濡れで、前回に続き靴と靴下は生ゴミの臭い。もう一泊になっていたらテント内は大惨事だっただろう。
奥又白池へは、分岐点からはすぐにリッジを進むのが正しいのだろう。しばらく松高ルンゼを登るが、途中で通常のルートではないことに気づく。リッジへ10〜20m程度の高巻きにて這い上がる。不安定で見えない足場のまま、草の根や木を頼りに体を上げていくのはやはり怖い。これがバリエーション、アルパインだ、とは言えるんだろうけど・・・なかなかに悪く、明日はこれに比べたら全然快適だろう。先にキツイ経験をしといて良かった。
疲れた体にブルーベリーの酸味が麻薬のように効く。やったことないから知らないけど。
リッジの傾斜が緩んでくると、目の前に突然奥又白池が現れる。大変気持ちのいい場所だった。しばらくは濡れ物を干したりするが、その後も一日雨で生乾き状態。気温も低く、真冬のようなテント生活。濡れたパンツの不快さは格別だ。
翌朝起きると満点のガス空だが晴れ間もあり、星が見える。気圧の谷の通過は本当に早まったようだ。今日は絶対晴れる。
五六のコルまでは幅50mほどのルンゼをトラバースし、五峰の支岩稜を上がるはずだが取り付きを間違えたようだ。草付きを騙し騙し握りながら上がっていくと、グイグイ状況は悪化してくる。傾斜は50度ぐらいだろうか、いつのまにか戻ることはできない状況になっていた。進退窮まった。幸い足が安定している場所に立っていたのでしばらくは我慢できる・・・
そこから先は草もやや疎らでツルツルの岩が草に隠れ、大変困難かつ危険だった。ケンちゃんが生死を賭した会心の登攀でテラスに到達。ロープを貰ってようやく生還。ロープにテンションを感じながらケンちゃんのバイタリティに感服。久々に味わった恐怖に体が強張る。ケンちゃんがそっち系の人だったら全然抱かれてもいいよ、って思いました。
あれ、これは昨日の高巻きより遥かに恐ろしかったじゃん?
程なく正しい踏み後に合流し、怯えながらも恐ろしいガレをトラバースして五六のコルに到達。堂々と五峰が待ち構えている。涸沢が強烈な日差しに輝いている。上高地側はガスが沸いているが、向こうに青空がしっかりと透けて見える。確実に天気は回復しつつある。今日の核心はもう越えたはずだ、最高の一日になるだろう。
四五のコルまではなんてことのない山歩き。四峰から先はミスをしてはならない岩稜帯。慎重にルートファインディングしながら通過していく。難しくはないが緊張を強いられる、危険な領域であることは間違いない。なんでこんなことやってんだろ?いつも感じる不思議な疑問というか理不尽な気持ちが沸いてくる。
四峰のピークに立つと、目前にクライミングエリアである三峰がいよいよ聳え立つ。ついにここまで来た。ここから先はこれまでの困難、危険を越えたことへのご褒美だ。素晴らしい登攀を最大限に楽しみつくしてやれる!
前には数パーティが待機中。1時間半ほどの待ち時間・・・。2つ前にとんでもない二人組がいた。ほとんどは15分程度で1ピッチを終了している中、それよりも遥かに長い時間をかけている。コミュニケーションもまったくとれていない。いつまでたっても何のコールもない。リードが落ちて死んだのか?なんて連中だ!
なぜか「ビレイ解除」の掛け声でようやく登り始めた緩慢な動作のフォローがありえない言葉を叫ぶ。「テンション!!」だって?今マジで「テンション!!」って言ったのか??何しに来てんだ?ここはフリーのゲレンデじゃねえんだぞ?しかも何回テンションって叫んでるんだ?このレベルでテンション張ってるようなヤツは、ここに来る資格はないだろ?
ガチャを下げ、ザイルで結び、フラットソールを履くと一気に昂ってくる。支点をセットし、クライミングの準備が完了した。ケンちゃんがグイグイとピッチを進めていく。ロープが止まり、いよいよ自分の番だ。ホールドに手をかけ、足裏に馴染んだフラットソールの感触を確かめ、登攀を開始する。瞬間、熱いアドレナリンが体内に廻りだす。ガッシリとキマる手足の感覚、絶対に安心できるパートナーのビレイ、脳内に超ブ厚い高速ハードコアサウンドが響きだす!!なんたる無敵感!!なんたる疾走感!!後ろには遥か下方、涸沢の白い砂が輝いている。手に張り付くガバ、足裏に粘りつく強烈なフリクションが、その高度感を恐怖から気持ちいいマッサージのような刺激に昇華してくれる。
グイグイ体を上げていくと1P目の核心に。肘で突っ張るようなクラックとフリクションが効くスラブをフリーのムーブで越える。ケンちゃんここをリードしたのか。さすがだな!不確実なムーブをリードで繰り出すのは、やはり慣れがいるんだな。また越沢で練習しよう!
2P目をリードする。ガバを取り、細かいスタンスで垂直な一歩を乗越す。すぐに次のガバが現れ、すぐにバッチリ決まる細かいスタンスが現れ、走るようにグイグイ登っていける。なんて快適なフェースクライミングだろう。
まだまだ終わって欲しくない。この快適なピッチがいつまでも連チャンしてほしい!!電撃あらっ太郎での10連チャンか?CR黄門ちゃま2での確変17連の時か?スティッキー5の15連か?猛獣王のサバチャン100連オーバーのあの時か?あの熱かった気持ちを思い出す!!
2P終了点には、「あの2人組」がいた。リードが頼りなく支点らしきものを、もたもたと作っている。あのどうしようもないフォローが一段下のテラスでぐちゃぐちゃのロープを垂らしている。腰程度の高さのテラスに上がれずに難儀している。何をやってるんだあんたらは?
ようやくフォローがビレイの準備を始める。リードが自らビレイのセッティングをしている。ようやく上り始めようとするのを眺めているとビレイ用のビナのゲートが開いたままでリングだけ回っており、全く開ききっている。本気かこの人たちは?「すみません、今日が初めての本チャンでして。」だって。そんな風俗店での筆下ろし告白みたいなこと俺にしてんなよ。あのね、自分も初めてなの。おたくら、一度も練習してないんじゃないの?フォローの人なんてセルフビレイも知らなかったんだって?
ようやくリードが上り始める。どうしようもないフォローがどうしようもないビレイごっこをしている。真剣にやれよ!俺に話しかけてる余裕なんかないでしょ?「あの石落ちてきそうで危ないね。やっぱり地震とか、怖いね。」だって。そう話しかけながら、今、あんた石を指差して俺を見てたよね?ちょっと待てよ!!今のその手、右手じゃん!?なんでロープ手放してんの!?あんたの方が果てしなく危ないって!!
30分ぐらいだろうか。リードは遥か大気圏を突破したのだろうか。相変わらず音信普通だ。何度か呼び出しを無視した後、ようやく彼らの登攀開始の合図である「ビレイ解除」コールがかかる。せいぜい死なないでくれよ・・・
ようやく支点を作れる。すぐにケンちゃんが上がってくる。時間は既に予定を大幅に超えている。上高地のバス、なくなるかなあ・・・。すかさずツルベで3ピッチ目を登る。相変わらずガバガバなフェースを気持ちよく越えると、そこはもうクライミングの終了点だった。時間があれば三峰ピークまでピッチを伸ばせるらしいのだが・・・。そこから二峰までは四峰と同じく、ミスしたら終わりな岩稜地帯。コンテで歩き、二峰からはアルパインの醍醐味の一つ?懸垂で5m程度を下りる。10m程度上ると、そこはもう前穂高岳の山頂広場だ。遥かに槍、上高地も見渡せる。極上の充足感!!これは最高だ!!
15分ほど休み、14:00にピークを出発。上高地には17:00の最終バスにジャストのタイミングだった。牛乳で乾杯!やはり下山後は即牛乳が最高!
ロープにフラットソールを武装できるクライミングエリアよりも、そこに至るノーザイルの岩稜帯やブッシュ帯の方が危険だというのは、なんとも理不尽なものに感じる・・・
marinaさん、初アルパインおめでとうございます!
しかし、そのとんでもない2人組って見てみたいですね 。
自分もそうならないともいえないんですけど…
ああいうのが事故を起こすんだろうなぁ・・・目前で大惨事が展開しなくて良かったですw
hatchさんは技術的には全然問題ないっすよ。
越沢をあれだけやってたら、現場で焦ることも全くないし!
重要なのはやはり、体力と気力だということを痛感しました。
これからも一緒に頑張りましょう〜!
面白い!
気迫が伝わる!
今、菊池さんが「登山時報」で連載している話のボンボリーズが目に浮かぶ。
なかなか良い記録だ。
感動し、感心した。
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