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更新日:2022年02月01日 訪問者数:2151
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日本の山々の地質;第10部 近畿地方の山々の地質;10−5章 京都盆地周辺の山々の地形と地質
ベルクハイル
図1 京都盆地周辺の地質図(比叡、北山、愛宕山)
[地点の凡例]
・中央下の赤い●印;四条河原町(京都市中心部)
・盆地西側の赤い●印;嵐山
・図の最上部の赤い●印;叡山電鉄鞍馬口駅

・東側(右側)の赤い▲印;比叡山
・北側(上部)の赤い▲印;鞍馬山
・西側(左側)の赤い▲印;愛宕山
・図の右上、「花折断層」沿いの小盆地地形;大原地域

[地質の凡例]
・南北の青い線(図の右手);「花折断層帯」
・南北の緑色の線(図の最右手);「琵琶湖西岸断層帯」の一部

・グレー;メランジュ相付加体(ジュラ紀)
・黄色;砂岩(ジュラ紀付加体)
・オレンジ色;チャート(ジュラ紀付加体)
・緑色;玄武岩(ジュラ紀付加体)
・ピンク色;花崗岩(白亜紀)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
図2 比良山地 中心部の地質図
[地点の凡例]
・赤い▲印;(上から)武奈ヶ岳、打見山、蓬莱山

[地質の凡例]
・比良山地の左手(西側)の紫色の線;「花折断層帯」
・比良山地の右手(東側)の緑色の線;「琵琶湖西岸断層帯」

・ピンク色;花崗岩(白亜紀)
・グレー;メランジュ相付加体(ジュラ紀付加体、丹波美濃帯)
・オレンジ;チャート(ジュラ紀付加体、丹波美濃帯)
・黄色;砂岩(ジュラ紀付加体、丹波美濃帯)

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者加筆
武奈ヶ岳山頂付近
この付近は、起伏が少ない小起伏面(隆起準平原)が広がっている。

(筆者撮影、4月)
嵐山付近より望む愛宕山
愛宕山は、周辺の低い山並みより一段 突出した山であることが解る。
特に山頂部は少し出っ張っているのが良く目立つ。

(筆者撮影)
(はじめに)
 京都は言うまでもなく、平安の昔からの、歴史のある都(みやこ)で、その街を囲む山々にもさまざまな歴史があります。

  京都市街を含む京都盆地は、南側だけは奈良盆地へとつながっていますが、東、北、西の3方は低い山並みに囲まれており、それぞれ古くから、東山、北山、西山、と呼ばれています。それぞれの山域の山麓部には金閣寺、銀閣寺、清水寺、鞍馬寺などの名刹が多く、穏やかな里山地域の中に名刹が点在していることで、京都の独特の風情が、より深まっているようにも思えます。

 この章では、京都の東山、比叡山から、さらに滋賀県との県境を作っている比良山地、鞍馬などの北山地域、及び愛宕山を中心とした西山地域の地質と地形について説明します。
1)比良山地、比叡山、東山地域
 京都市街地の東側は「東山」と呼ばれる低い山並みが南北に延びていますが、その北側には、京都盆地を巡る山では筆頭格にあたる比叡山(848m)があります。
 比叡山は京都市街から見て、鬼門にあたる北東方向にあり、京都の町を守る鎮守の山という意味を持っており、延暦寺が比叡山にできたのも、そういう背景があるのだといわれています(文献4)。

 さらに比叡山から北側には、滋賀県と京都府との境ともなっている比良山地(ひらさんち)が南北に長く延びています。
 比良山地は標高1000m前後の山並みで、稜線の一部はスキー場として開発されていますが、最高峰の武奈ヶ岳(ぶながたけ;1224m)辺りは、近くにあったスキー場の閉鎖や、アクセス用のリフト、ロープウェーが廃止されたため、むしろ本来の山の姿を取り戻しつつあるのではと思います。

 さて、前置きが長くなりましたが、「東山―比叡山―比良山地」は直線状に南北に並んでおり、断層で形成された一連の山脈状地形です。
 この山脈の東側(琵琶湖側)には、堅田断層、比良断層、比叡断層などの活断層があり(文献1−b)、(文献2−a)、また琵琶湖の中にも「(琵琶湖)西岸湖底断層系」と呼ばれる断層群があります(文献1−b)。どこまでをひとまとめの断層系(断層帯)とするかは、文献によって多少違いがありますが、(文献2−a)では上記断層群をまとめて「琵琶湖西岸断層帯」と呼んでいます。
 この断層帯の活動センスはすべて、比良山地側が隆起、琵琶湖側が沈降の逆断層型です。
 この断層帯による落差は、比良山地から琵琶湖湖底の基盤地質まで、約2000mもの大きな落差を持った大断層(帯)です(文献2−a)。

 比良山地や比叡山は、これらの逆断層によって隆起した山々です。隆起の時期としては(文献1−b)によると、京都盆地の形成は約100万年前に始まり、比良山地や比叡山を含む周辺の地塁型山地の隆起は、約50万年前から山地の裾にある断層の活動が活発になって本格化した、とされています。(文献2−a)によると過去1万年前以降の平均変位速度は、約2mm/年(=約2m/1000年)と推定されています。また(文献1−a)では「(琵琶湖)西岸湖底断層系」の活動は、約40−50万年前から活動が活発化したと推定されています。

 ところで比良山地のうち武奈ヶ岳山頂付近の、昔はスキー場になっていた「八雲が原」や、琵琶湖バレイスキー場がある蓬莱山(ほうらいさん;1174m)、打見山(うちみやま;1108m)の辺りには小起伏面が存在しています。断層推定活動開始時期や、稜線部に存在する(隆起前の標高が低かった時代の「準平原」の名残と思われる)小起伏面の存在から考え、比良山地は比較的若い山脈だと推定できます(この段落は私見を含みます)。


 なお、比良山地の西側にも、「花折断層」(はなおれだんそう)と呼ばれる明瞭な活断層があります。通称「鯖街道」が通っている直線的な谷状地形が、この断層のある場所です。
 花折断層は、その北側(福井県嶺南)の延長部に「三方(みかた)断層」という断層へと続いており、まとめて、「三方―花折断層帯」と称されます(文献2−a)、(文献3)。総延長 約75kmもある大規模な断層帯です。断層帯に沿って谷状地形が発達しているのは、断層帯にそって破砕帯が発達していて(文献2−a)、破砕帯に沿って河川性の浸食が進んだことが影響していると思われます。

 このうち、比良山地の西側にあたる花折断層主部の活動センスは「右横ずれ」型です(文献1−a)、(文献2−a)(文献4)。
 そのため、花折断層の比良山地の隆起への影響は限定的ではないかと思われます(この段落は私見です)。

 なお「三方−花折断層帯」は、比良山地の西側からさらに南方に延びており、京都東山地域の西側の裾の部分は「逆断層」の活動センスとされています(文献4)。東山の低い山並みの形成は、この逆断層としての活動の結果だと思われます。


 続いて、比叡山から比良山地一帯の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、花崗岩類(白亜紀)と、ジュラ紀の付加体型地質(砂岩、メランジュ相;「丹波・美濃帯」)の地質が入り混じっています。

 細かく見ると、まず比叡山の山頂部付近は花崗岩(白亜紀)です。
 比良山地のうち、蓬莱山、打見山の山頂部付近は、ジュラ紀の付加体型地質(メランジュ相)です。武奈ヶ岳は、山頂とその南側、西側はジュラ紀の付加体型地質(メランジュ相、砂岩)で形成されていますが、東側から琵琶湖側山麓は花崗岩(白亜紀)が分布しています。

 全般的に見ると、この一帯が隆起する以前には、ジュラ紀の付加体型地質(「丹波・美濃帯」)が広がっていたと考えられ、隆起によってそれらが浸食によって部分的に失われるとともに、地下にあった花崗岩類が顔をだしてきた、と考えられます。
 総体的に見ると、六甲山地に類似した地質構造だと言えます。
2)京都北山(鞍馬、大原周辺)
 この節では、京都の北側にある低い山並み(いわゆる「京都北山」)の地形と地質について説明します。
  まず京都北山の地形的特徴としては、京都盆地との間には明確な断層は無く、奥の方の900m前後の山がある辺りから南の京都盆地部へ向かって徐々に標高が低くなり、盆地へと連続する、という地形です。
  (文献1―b)によると京都盆地は沈降型の盆地(「陥没盆地」)であり、北山地域もその沈降活動の影響で、盆地に近い側ほど標高が低くなっているものだと考えられます。
 
  地質については、産総研「シームレス地質図v2」で確認してみますと、京都北山地域は、全体的にほぼ全て、ジュラ紀の付加体型地質「丹波・美濃帯」)で形成されています。

  具体例として鞍馬付近の地質を叡山電鉄の路線沿いに見ていくと、丘陵部の入り口から貴船口駅辺りまで砂岩層です。その先に地質境界があり、終点の鞍馬駅、鞍馬寺、貴船神社辺りは、玄武岩層となっています。その周辺にはチャート層やメランジュ相の地質も分布しており、付加体型地質の典型的な地質構造となっています。

 次に、小さな盆地状の場所である大原(おおはら)付近の地質を確認すると、ちょうどこの大原(盆地)を縦断するように、前述の花折断層が南北に通っており、その東側と西側では少し地質的な違いがあります。
 寂光院がある大原(盆地)の西側は、ジュラ紀の付加体型地質(「丹波・美濃帯」)のうち、チャートが分布しています。三千院がある大原(盆地)の東側には、ジュラ紀の付加体型地質のほか、比叡山から続く花崗岩体(白亜紀)が分布しています。
 この花折断層沿いに地質を確認していくと、断層を境にその左右で地質分布域がずれたり途切れたりしており、活断層としての活動の跡を示していると言えそうです。
3)愛宕山と西山地域
 嵐山、嵯峨野などの観光地が山麓にある京都西山地域は、なだらかな丘陵状の山並みが多いのですが、その中で愛宕山(あたごさん、924m)はひときわ高くそびえ、目立つ山です。京都の東の要である比叡山と相対するような、京都の西の要(かなめ)と言える山で、頂上にある愛宕神社は、火事防止(火伏せ)の神様としても良く知られており、「愛宕さんには月参り」という言葉もあるくらい、登山者だけでなく愛宕神社へお参りする人も多いようです(文献5)。

 この西山地域と京都盆地との間にはあまり目立ちませんが、断層帯があります(文献1―b)。具体的には、京都盆地の西側に「樫原断層」、京都盆地の南西部に「光明寺(こうみょうじ)断層」があり、いずれも盆地側が沈降、西山側が隆起の活動センスを持つ活断層です。

 続いて愛宕山付近の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、ほとんどがジュラ紀の付加体型地質(「丹波・美濃帯」)で、主にメランジュ相の地質で形成されていますが、愛宕山一帯は、チャートが分布しています。
 チャートは岩石としては非常に硬く、また浸食にも強い性質を持っています。
愛宕山の標高が周辺部より数百mも高いのは、このチャートが分布しているという地質的な特徴のせいではないかと思われます(この段落は私見です)。
補足説明)京都盆地の地下構造
 山々の地質というわけではありませんが、補足として、京都盆地の地下構造について、簡単に述べます。
  (文献2―b)によると、京都盆地はその上部に扇状地性や海成の堆積物が溜まっていますが、以外とその底は浅く、ボーリング調査によると、京都市内(南区)では地下約220mに、盆地南部の巨椋池では約700mに、基盤岩が存在しています。基盤岩としては、周辺の山々の地質と同じ、「美濃・丹波帯」の地質です。
  その他のボーリング調査結果をまとめると、全体に南側ほど基盤岩深度は深く、北に向かって浅くなる傾向を持っています。
(参考文献)
文献1)太田、成瀬、田中、岡田 編
    「日本の地形 第6巻 近畿・中国・四国」東京大学出版会 刊 (2004)

   文献1―a) 文献1)のうち、
      2−2章「近江盆地、伊賀盆地とその周辺の山地」の項の、
        2−2−(7)節 「比良山地東縁の三角末端面と扇状地群」の項、
        図2.2.6「近江盆地の段丘面分布と活断層」、及び
        図2.2.11「比良山地東麓の地形分類図」

   文献1―b) 文献1)のうち、
      2−3章「京都盆地・奈良盆地・大阪平野・大阪湾」の項の、
        2−3−(1)―1)項 「活断層地形」項、
        2−3―(3)節 「京都盆地」の項、及び
        図2.3.6「京都盆地周辺の地形」

 
文献2)日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第5巻 近畿地方」朝倉書店 刊 (2009)

   文献2−a) 文献2)のうち、5−3章「近畿地方の活断層の特徴」の、
      5−3−2節 「琵琶湖西岸断層帯と三方−花折断層帯」の項、及び
      図5.3.2 「琵琶湖西岸断層帯および三方−花折断層帯の概要」

   文献2−b) 文献2)のうち、第4―2章「第四系」の、
      4−2−5―(b)項 「京都盆地」


文献3) ウイキペディア 「三方・花折断層帯」
                  (2022年2月 閲覧)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%96%B9%E3%83%BB%E8%8A%B1%E6%8A%98%E6%96%AD%E5%B1%A4%E5%B8%AF


文献4) ウイキペディア 「比叡山」
                   (2022年2月 閲覧)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E5%8F%A1%E5%B1%B1


文献5) ウイキペディア 「愛宕山(京都)」
                   (2022年2月 閲覧)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E5%AE%95%E5%B1%B1_(%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%B8%82)
【書記事項】
初版リリース;2022年2月1日
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