宝剣岳・山頂滑降への挑戦


- GPS
- 32:00
- 距離
- 32.2km
- 登り
- 2,291m
- 下り
- 2,290m
コースタイム
- 山行
- 4:47
- 休憩
- 0:30
- 合計
- 5:17
- 山行
- 11:05
- 休憩
- 0:50
- 合計
- 11:55
過去天気図(気象庁) | 2020年03月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
・バスは平日駒ヶ根橋まで、土日は一時間おきにしらび平までの運行だが、当日の路面状況によっては運行しないそう(要電話確認) ・蛇腹沢登山口までは所々凍結している。最後1kmくらいは雪が豊富でシール歩行できた ・清水平手前からはシール歩行できるくらいの十分な積雪があった ・七号目手前あたりからは氷化したため、アイゼンでシートラにした ・宝剣への登りも氷化している。一部鎖の支点が出ていたのを使用 ・黒川は黒川渡渉点までは所々沢割れしているため、夏道沿いにトラバースした。それなりに藪があり、細かな沢をいくつも越える必要がある ・1939m地点に建物があり、そこからは快適な林道。伊勢滝あたりから所々水流により雪が途切れる ・オッ越との分岐からはブルトーザーで除雪されていて、スキーは使えない |
写真
感想
<3/6㈮> 駒ヶ根大橋〜清水平:快晴
こまくさの湯に車をとめて歩き出す。今回の目標は宝剣岳山頂からの滑降。この可能性については4年以上前に想像し、何度も頭のなかでイメトレを繰り返してきた。4年間手が出せなかったのは、理想的なコンディションが整うのがパウダー期であること、そして千畳敷カールには通常人が多いこと、この2つを複合的に考えて「無理だ」と結論づけていた。万一上部で雪崩を発生させた場合、それによりカールにいる他人を巻き込むおそれがある。己のエゴに他人を巻き込んではならない、と自分に言い聞かせた。
今回この禁忌を解くことにしたのは、ロープウェイの運休により千畳敷カールに誰も人がいないであろうこと、そして前週に入山したpakuminのレコを見る限り、宝剣岳に付いた雪の状態がいつになく良さそうに見えたからである。パートナーのtakutokbが来てくれたことも大きかった。ただでさえ山スキーの単独行はリスクが高いのに、未知のラインに一人で挑むのは自分が取れるリスクの許容範囲を逸脱している。行程的に日帰りもギリギリ可能だったが、余裕をもって対象に挑むには1泊2日がより良いと考えた。
初日はピーカンの中、清水平までゆっくり歩く。道中地元の釣り人に会って色々とお話を伺った。ロープウェイ沿いに登山道が存在すること(かなり急峻でオススメしないとのこと)、黒川からうどんや峠への道は廃道になっていること、黒川は林道で雪が多いから下山に適していること、などだ。これらの情報から、我々は未だきちんと定まっていなかった最終的なエスケープラインを黒川に決めた(結果的にそれは正解だった)。標高1600mあたりから北北西に伸びる蛇腹沢登山口へ向かう林道には十分に雪がありシール歩行できたが、それ以外は清水平までほぼシートラだった。
finetrackのツェルトロングをフロアレスにして張り、食事を済ます。takutokbが退職後にアメリカやNZランドのロングトレイルで300日以上過ごしたという由緒正しいツェルトだった。計画書の生年月日欄を見て気を利かせた彼が、ロールケーキと100均のローソクで祝ってくれた。私は明日3月7日に37歳になる。果たしてうまい具合に誕生日を祝えるだろうか。ウィスキーを飲んで19時頃には就寝したと思う。
<3/7㈯> 清水平〜宝剣岳〜黒川〜駒ヶ根大橋:晴ときどき曇
翌朝は3時起床、4時半発。フィッシャーのウロコシール・PROFOILの調子が悪いとわかっていたので、前日に入念にテーピングしていたが、尾根に出て最初の下りで全て千切れてしまう。めくれ上がった端から雪が入って剥がれ、かつてないシールトラブルに見舞われた。最終的にスキーバンドで対応し森林限界までかなりの時間をかけて登った。シートラになってからは快適そのもの。高曇りで少し風はあるが、穏やかだ。しかし、伊那前岳から見た目標の宝剣は先週ヤマレコで見た画像よりもいささか黒い。
乗越浄土で宿泊装備をデポし、宝剣岳に向かう。木曽駒ケ岳に視線を向けると2人のスキーヤーが滑ってくる。この時間にこんな所にいるスキーヤーはいったいどんな変態だろうか。宝剣は西側が切れ落ち、また氷化している。せっかくロープがあるので念のために出して同時登攀で山頂まで登る。いつの間にか他の2人は木曽駒の方へ登り返していた。動きの速さが只者ではなさそうだ。目的のラインは思っていたより急ではなく、全然行けそうだ。が、ロープを出して雪面を確認すると、柔らかい雪の下にアイスバーンが見つかった。ウィンドクラストだろうか、厚さ1cmくらいあり、昨シーズン白馬岳山頂直下で出くわしたような厄介なシロモノだ。
横滑りでアックスを刺しながら行けたかもしれないが、それではただ下りただけになってしまう。「宝剣岳の山頂から滑った」という事実が欲しいわけではない。自分が想像したラインを理想的な方法で滑りたいのだ。おそらく一生に一度の挑戦だったが諦めることにし、山頂を下りる。念のため直下だけロープを出し、あとは少し下にあるルンゼの入口までクライムダウン。ルンゼを静寂の千畳敷カールに楽しく滑り降りたが、後から合流したtakutokbがなぜか浮かない顔をしている。いわくルンゼでスラフにやられて10mほど流され、ウィペットを失ったという...。
カールでは電波が入ったので、スマホをチェックするとpakumin氏からLINE「もしかして今、宝剣登ってます?」というメッセージあり。え?あぁ、なるほど、あれはあなたたちか!納得である。それにしても、2週連続木曽駒とは...。
登り返してからデポを回収。予定通り黒川を下る。黒川渡渉点までの2kmくらいは登山道が不明瞭で登ったり下ったりのハイトラバース、それ以降は明瞭な登山道となりやがて林道となり快適になった。オッ越との分岐までは何回か板を脱ぎながらだがスキーで滑って行けた。そこからはなぜか除雪されていたため、ひたすら(約9km)シートラ。宿泊装備とスキー、スキーブーツの重さで肩にザックがめり込んで痛かった。最後のつづら折れをこなすと、終わりを告げるゲートが見えた。とても3月上旬にすることとは思えなかったが、充実した山行だった。
目的を達成することはできなかったが、行けだだけでも良かったと思う。前週に行っていれば...という悔いはあるが、それでも自然に敗れるのは清々しい。生きるためには時として敗北を受け入れる必要がある。
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