山チビ2号が行く 春の羊蹄山は厳しくも楽しい(2号日記追記)
- GPS
- 07:38
- 距離
- 11.2km
- 登り
- 1,558m
- 下り
- 1,544m
コースタイム
- 山行
- 6:08
- 休憩
- 1:25
- 合計
- 7:33
天候 | 晴れ→ガス |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
2号日記
金曜日の晩、父に「日曜日は羊蹄山に行くよ」と言われてから、本当に行けるのか?と思いながら準備を進めていました。
私が初めて羊蹄山に登ったのは小学1年生の時で13時間くらいかかりました。その時は、早朝から登り始めたのにも関わらず、帰る頃には真っ暗になってしまい、鼻血が出て大号泣しながら歩いたのをよく覚えています。2回目に登ったのは3年生の時でした。その時はチチとアネは喜茂別コース、ハハと私は倶知安コースから登り山頂で待ち合わせ大作戦でした。
さて、そんな思い出深い羊蹄山に、いざ、出発です。
羊蹄山には4つのコースがあります。私が登ったことがあるのは、倶知安コースと真狩コースで、喜茂別コースは下りたことがあります。今回行くのは京極コースです。このコースは山頂に向かってほぼ急登が続き、一番距離は短いですが一番辛い道です。冬に登るのも京極コースも初めてなので、私にとってはある意味初めての山、という感じでした。
下界では、雪がとけ、いよいよ春だなぁと思い始める季節ですが、山は今日も雪に覆われています。尾根に沿って樹林帯の中を進んでいきます。
今日は、アイゼンをつけて歩いているので、雪上にアイゼンの刃の跡が残ります。人も少なく、チチと2人旅となりそうです。
雪の上を真っ直ぐ進んでいくので、標高はぐんぐん上がっていき、振り返ると京極町が広がっています。山頂に着くまでこんな綺麗な天気だといいな、と思いながら歩きます。まぁ、そんなことが本当にあったらいいのですが...
どのくらい歩いたでしょうか。父が止まりました。私たちの前には一本の木が立っていました。すると父が「おばあちゃんの木だよ」と言いました。祖母が亡くなる前にチチは羊蹄山に来て、今と同じようにこの木の前に立ったそうです。そして、この木の皮を少しだけもらいました。その木の皮は祖母と共に天国に旅立ちました。きっと祖母はその小さな木を手に、羊蹄山に来てくれているはずです。羊蹄山は、私達家族とおばあちゃんを繋いでくれています。なので、羊蹄山は私たちにとってとても大切な山なのです。しばらくの間、おばあちゃんとお話してきました。
さて、少し心がきれいになったので、気を取り直して進んでいきます。今日は雪が積もっていますがふかふかな雪ではないので、スノーシューではなくアイゼンです。このコースはひたすら登りなので、1歩歩く事に靴の中で足がズレて、かかとが靴擦れのように痛みます。思うように足が動かない中、ただただチチの背中を追っていきます。
そう言えば、チチが今日やりたいこと、それは父釜滑走です。羊蹄山には大きな釜があります。山頂から釜の底までは大体標高差200mくらいで、底に向かってボブスレーで滑り降りるのです。私は、あまり乗り気ではありませんでしたが、底は、高い釜の壁に何もかも遮断されたような不思議な空間なんだろうなと思っていました。
どのくらい上がってきたでしょうか。長かった樹林帯を抜けました。先程から、晴れていた空もだんだん曇ってきて、今は、すっかり真っ白です。太陽が遮られ、標高が上がっていくのとは裏腹に、体温はどんどんと下がっていきます。会話も無くなり黙々と歩いていると、チチが「あと350mくらいで釜の上に出るよ」と言いました。よし、あと少しだ、私はそう思いました。
登り始めてから2時間強、私は、足の痛みに耐え寒さに震えていました。周りが何も見えない中、とても急になった斜面を進みます。気温低下の影響で、表面だけ固くなり、中は崩れやすい雪質は、気を抜くと一気に下に落下する危険があります。体力も奪われ、かかとに痛みを抱えながら、その一歩に集中し続けるのは、正直とても厳しかったです。足を前に出すのが怖い、そんな私の恐怖が伝わってしまったのか、チチがこんなことを言いました。「山頂に行くのは諦めて、今日はもう終わりにしようか」私はとてもびっくりしました。チチの口からこんな言葉を聞いたのは生まれて初めてでした。けれども私は、間も置かず首を横に振りました。今考えると、下りてもよかったのにと思いますが、こんな私にもプライド的なものがあったのか、ここまできて諦めるなんて嫌だ、と思ったのです。諦めないと言った私にチチは「よし、じゃあ頑張ろう」そう一言声をかけてくれました。
そして、11時45分、4時間半の激闘に打ち勝ち、私は羊蹄山の山頂標識にタッチしました。今までで一番長く辛い350mでした。3度目の山頂標識ですが、過去2回の思い出を振り返る余裕などとてもありませんでした。山頂には強風が吹き付けていたので、ぐしゃぐしゃの顔で写真を撮ると3分くらいで退散しました。
父釜は、滑れるほどの雪は全く無く、所々岩肌が見えていました。例え雪があったとしても、この状況では滑らないと思いますが、私の父釜デビューはまたの機会となりました。
少し戻り、風を避けられる場所にきて、ようやく一安心です。下ろしていた髪は凍りつき、真っ白になって、雪の枝のようでした。お昼ご飯をパッと済まし、落ち着いたらすぐ出発です。風よけは出来ましたが、危険ということに変わりはありません。
足早に下山開始です。登りが危険なら、もちろん下りも危険です。行きと同様、一歩滑ると、真っ白な闇の中へ真っ逆さまです。
慎重に慎重に下っていきます。目の前に京極町がひらけるのを想像しながら歩いていました。
さて、最も危険な場所を抜けました。後は、滑れるところは滑りながら麓を目指します。急なところは、そのまま尻滑りでいっていましたが、チチも私もあの恐怖を乗り越え、早くそり滑りの楽しさを味わいたかったので、ボブで滑ることにしました。雪がサラサラでブレーキをかけてから完全に止まるまでに5m近くは落下するなど、多少ヒヤヒヤはしましたが、やはり雪山はそり滑りがあってこそだなと感じました。
登山口を出発してから7時間半。無事に戻って参りました!本当に"無事に"帰ってこられて良かったです。登山口から駐車場まで500mほど平地を歩きます。曇っていたのは上の方だけで下界は晴れ渡っていました。短い時間でたくさんの経験をさせてくれた羊蹄山を背にチチと2人、歩きます。振り返ってみると、怖かった時間の方が多かった気がしなくもないですが、不思議と清々しい気持ちで家路に着きました。
やはり、羊蹄山は簡単には登らせてくれませんでした。でも、それだけ、濃い時間を過ごすことが出来ました。今回私の目に映った羊蹄山は、前来た時と全然違って見えました。それが当然だと思います。同じ日なんてないと言いますが、それと同じように、同じ山なんてないと思います。山は何回来ても、その時々の表情で私たちを迎えてくれます。今回はおばあちゃんも一緒に迎えてくれました。私は、辛くて怖い山より、楽しく登れる山の方がもちろん好きですが、この1日で経験したことが無くて良かったなとは絶対に思いません。今日という日に、今日の羊蹄山を登ったことに意味があると信じていますし、私が山頂に行くことを諦めなかったのは、そういう想いが自然と私の中にあったからなのかなと思います。きっとこの先も羊蹄山に来ては、その厳しさに打ちのめされながらも、羊蹄山の新たな魅力、感動を味わい続けるでしょう。
私の中にある全ての感情が湧いてきたような一日でした。羊蹄山、ありがとう!
【さんか…様か…】
4月の羊蹄山は5年振り。前回の経験から2号を父釜の底へ誘い白銀のプラネタリウムに寝そべってカップヌードルで乾杯…
そんな計画は5合目前に半壊…父釜の縁に立って全壊しました…(笑)
今日の2号は本当に辛そうで、7合目付近で山頂は諦めようかと尋ねた時はほとんど頷くと思っていましたが…2号さんの根性はチチの想像以上だったようで…2号様、大変失礼しました…
2号の父釜への挑戦は来年以降に持ち越しとなりますが、次回は3月の快晴を狙ってリトライしたいと思います。
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