白川郷での転落事故
- GPS
- 08:15
- 距離
- 12.3km
- 登り
- 561m
- 下り
- 549m
コースタイム
- 山行
- 8:15
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 8:15
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年03月の天気図 |
アクセス |
写真
感想
このたび白川郷の林道で転落事故を起こしてしまい、同行してくれた仲間そして救助頂いた岐阜県山岳警備隊および航空隊の方々、緊急手術を行なってくれた高山日赤病院の皆様に深く感謝申し上げます。
長年登山を続けて来て自身病院のお世話になることは初めてですが医者としてこの経験が一人でも多くの登山者の他山の石になることを願って報告させて頂けたらと思います。
この日僕たちは難関峰・火の御子峰のスキー登攀を目指して三人で野谷橋を深夜0時過ぎに出発した。火の御子峰をこの時期登頂するのは容易ではなくスキー装備一式の他本格的登攀装備が必要でザックには日頃の倍以上の重量の荷物がパンパンに入っていた。
先日間名古の頭まで下見を済ませていて雪は少ないもののうまく谷と尾根を繋げれば行けると確信があった。
大白水谷までの林道は6kmほどで雪は前回より減っていたが大体スキーで問題なく歩けた。大白水谷手前の小谷出合いの林道は豪雨のためか流されて途切れている(冬季は雪崩の直撃を避ける為にあえて外しているとの事)ことはわかっていて今回も少し徒渉して対岸に渡ることになった。
プチ徒渉をして対岸の切れた林道に這い上がるため自分が先頭で雪壁を這い上がり後続の手助けをしようと切落ちた林道に立った途端に足元が崩れて自分は転落した。転落した場所は堰堤の下で4-5mの高さから頭から落ちて回転してなす術もなく右足から落下したようであった。
一瞬何が起きたか分からずなすがままに落ちた。堰堤の下はコンクリで重いザックが衝撃を倍増させたようでスキー靴は沢の水で濡れた。痛いと言う感じはなかったが右足はブラブラで変な向きに曲がっていてすぐに脛骨・腓骨の両方が折れたとわかった。
我にかえるとすぐに痛みが襲った。沢の中から早く出なければ全身濡れてしまう。A君はすぐにロープを張ってくれた。B君にはザックを持ってもらいとにかく水の中からブラブラの右足を地面に付けないように左足を踏ん張りストックで立ち上がった。
骨折をした時に大切なことは二次損傷を起こさないことだ。下手に動かして折れた骨が周囲組織を傷付けて感染を起こすとその後の処置に難儀する。右足は膝は付けたので這いつくばって安全な場所まで移動した。この足で林道を5km以上歩くことは無理だと判断して救助を要請する以外に手段はなかった。
当然電波は届かないのでA君が里まで降りて救助要請をB君が僕に付き添ってfollowしてくれることになった。時間は深夜2時で夜明けまで5時間ほどあった。
取り敢えずB君が雪を整地しザックやロープを敷いてくれその上で休むことができたので寒さは防げた。しかしガタガタ震えが来たのでB君が持っていたツェルトに二人で包まった。風は凌げて暖かくてツェルトの有用性を再認識した。悪天候で風が強ければそれだけで低体温症になりかねないと思った。
右足を少しでも動かすと激痛が走るので最初はB君に雪で型を作ってもらい右足を固定した。これで足は固定され楽になった。そして明るくなるとヘリ搬送に備えて手持ちのスノーバーで膝から足首までテープで巻いて固定した。この作業も一人では無理でB君がやってくれた。
朝6時過ぎ救助要請に向かったA君が戻ってくれて朝イチの8時には現場にヘリが飛ぶ段取りになった。これで救われたと思った。受傷からわずか6時間で搬送されることになったのは両君がいてくれたおかげでもし単独ならどのような展開になったか考えただけでも恐ろしい。
予定通り8時には上空にヘリが飛んできてくれて僕はピックアップされあっという間に高山日赤まで搬送された。多くの方に迷惑をかけたことを申し訳なく思う一方、仲間や関係者の有り難さを心から感謝した。医師として患者さんを救う側から救われる側になり感謝しかなかった。
病院に搬送され休日にも関わらずDrやナースはとても親切に対応してくれた。右足のブーツは無理に脱げないので電動カッターでブーツを壊して脱ぐことができた。レントゲンでは予想通り脛骨腓骨が折れていて転位が激しいので緊急で創外固定手術を行うことになった。無事手術が終わりようやく安堵してこれからの本手術やリハビリを行う段取りとなる。幸い無事手術が終われば仕事は早めに復帰できるかもしれないが山の復帰はかなり時間がかかると思うしこれまでのような山行ができるかどうかも分からない。
今回の経験からぜひ多くの登山者に参考にしていただきたいのは
1、単独行は避ける、何か事故った時は届を出していたとしても救助が遅れ、最悪は発見されない可能性がある。山奥で一晩過ごすこと自体冬山では致命的になる。
2、どんな山でも100%安全な場所はなく何が起きるか分からない、自然の中ではヘルメットは欠かさない、手や足は折れてもなんとかなるが頭部外傷はそれだけで致命的になりかねない。今回メットのおかげで頭部は無傷であった。
3、万が一の防寒具としてツェルトほど有用なシェルターはないと思う。雪山では雪洞が掘れるが怪我をしていたら無理、ダウンジャケットにも救われた。ツェルとダウンは軽量コンパクトで嵩張らない上にこれほど有用なものはないと思う。
今回お世話になった関係者の方々に感謝申し上げると同時に多くの登山者の教訓になれれば幸いです。
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