筑波山


- GPS
- 05:59
- 距離
- 6.5km
- 登り
- 782m
- 下り
- 753m
コースタイム
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
コース状況/ 危険箇所等 |
女体山から奇岩地帯を抜けて下る道は、急な岩場が多く、すれ違いにくい。多数の登山者があるのですれ違い時に譲り合いが必要で登りも下りも大渋滞になる。 |
写真
感想
そろそろ高尾山麓以外の山にも行ってみようということで、筑波山へ行くことにした。
季節は秋、折りしも筑波山ではもみじ祭りなるイベント期間中である。ケーブルカー周辺がライトアップされ、もみじの夜景が楽しめるという。
昼は登山を楽しみ、夜にはケーブルカーでもみじを愛でようという計画である。
登山は早起きが基本。日の出とともに登り始め、日の入り前には行動を終えるべし。
この原則に基づき、4時起きで筑波へ向かう。常磐道は意外に朝でも交通量があることを知った。
「筑波に足を踏み入れるのは初めてだなあ」
というおっさんに、この辺りに詳しいうちのかみさんは、
「筑波は昔から何だか陰気な雰囲気が漂っている場所だったよ。万博後こそ新しい街づくりっていう風潮だけども」
まあ、霊山だったんだろうからなぁ、そんな雰囲気もあったのだろう。おっさんには筑波と聞けば学園都市くらいのイメージしかない。
そう言えばマラソンランナーの大学生の幽霊話があるのは筑波大学だったろうか。
夜、真っ暗な道を走るランナーの霊は、ゴールするとともに満足そうな顔で消えていくのだったか。
毎晩毎晩マラソンを続けているなんて、なんてマラソン好きな幽霊だろう。
そんな怪談話も“陰気な雰囲気”が生み出したフォークロアの一つか。
午前8時前、筑波山神社に到着。
勝手がわからず適当な駐車場に車を停めた。装備を身につけ、筑波山神社に向かっていくと、もっと登山口に近い場所にも駐車場がたくさんあるようだった。
「あんたは常に大変なほうを選択する。つらいほうばっか選ぶハゲだ」
とかなんとかかみさんに言われつつケーブルカー駅へ。
御幸ヶ原コースと呼ばれる登山道の入り口は、ケーブルカーみやわき駅のすぐ傍だ。
午前8時ジャスト、登山開始。
この時間にして、何故かすでに下ってくる人とすれ違う。どうも筑波山には高速登山者がいるようだ。トレイルラン、というほどの速さではないものの、コースタイムの倍くらいのペースで縦横無尽に筑波山の各登山道を歩き回っている。しかもご年配の方が多い。
御幸ヶ原コースはケーブルカーと並走するルートなので、行き違うケーブルカーに手を振るのを楽しみにしていたのだが、運行は9時からとのこと。ちょっと残念。
道は古い森の中を抜け、やがて石ころがごろごろする斜面が続く。木々は背が高いので展望はない。山道っぽい山道とでも言うか。
毎週どこかの山に登っていたので、おっさんたちもややレベルアップしたのだろう。バテることもなく順調に登っていった。適度な間隔でベンチが設けられていて、かみさんはベンチに各駅停車しながらしっかり歩いていた。
「階段を見ると絶望するよね」
と言う。階段の段差が高いと自分の歩幅にうまく合わないことがあるからだろう。
果たして筑波山の登山道にも、擬似木の階段があるのだが……。
「段差細かっ」
半歩くらいのペースで細かい階段が続く。これはこれで歩幅に合わないと苦笑。
登山道の整備は難しいんだろうなあ。
ケーブルカーのトンネルの上をまたぎ越した辺りで男女川の源流付近に到着。
湧き水が飲めるようなら汲んでいこうかと、空のポリ容器を用意していたものの、水は登山道をわずかに湿らしている程度の微々たる量だった。
飲めるかどうか微妙……(あとで男女川の源流にある注意書きを読んだ。生水なので飲料とせず、手洗い程度にとどめて下さい、とのことだった)。
おっさんはこの時すでにアドレナリン全開だったので、どれだけでも登れる状態だった。
この状態で下手に休むと、脳ミソが(あれ、実は疲れてる!)と気づき、どっと疲れが襲ってくる。
ここ何度かの登山で、おっさんの体調がどのように変化するのかは自覚していた。
おっさんは登山開始から徐々にテンションが上がっていき、1〜2時間ほどでアドレナリン全開状態に突入、その後は長い休憩を取るまで無敵状態となる。休憩を取らなくても、無敵状態が1〜2時間ほど経つと急速にパワーダウンし、今まで脳ミソが気づかなかった身体のあちこちのダメージが知覚されて節々が痛くなってくる。
本来、全身の筋肉をしっかり鍛えて、ダメージを最小限にすることが重要なのだろうが、リハビリ中のおっさんにはまだ頑強な筋肉がない。脳ミソがダメージに気づくまでの無敵状態を如何にして維持するかが、おっさんの登山成否にかかっているのである。
ともかくこの時おっさんは無敵状態にあった。御幸ヶ原への最後の階段を一段飛ばしで駆け上がり、マイペースで登ってくるかみさんを待つ。
御幸ヶ原にはケーブルカーの駅がある。何軒もの茶店が並んでいる。回転展望台レストランもある。
少し水分を補給し、コレクションしている山バッヂなぞを購入。かみさんはソフトクリームをペロペロ。
無敵状態なのであまり長くは休みたくない。軽く休んだら男体山のほうからさっそく攻略だぜ、と、かみさんを先頭に出発しかけたところ、男体山方面への道の入り口にある茶店に、まだ買ってない登山バッヂを発見。
「あ、これも買ってこう」
かみさんは一人で先へ行ってしまったが、バッヂ購入するくらいの暇はあるだろうと考えて茶店へ。
しかし、茶店には優しそうな婆ちゃんがいて、
「おうおう、よう来なすった、まあ、お茶でも飲んでいきなされ」
もてなされてしまった。おっさん、婆ちゃんには弱い。かみさんに追いつかなければいけないというのに、のんびり婆ちゃんとお茶してしまう。
「いかん、すっかり遅くなってしまった」
茶店を辞して男体山へと向かう。かみさんはどのくらい進んだろうか。
幸いにも無敵モード中のおっさんには、
「ブラジャーからミサイルまで、何でも登ってみせるぜ」
と言い切れるくらいの余裕がある。男体山の岩場程度は問題にならない。
怪鳥のようなフットワークで跳び進み、間もなくかみさんの後ろ姿を捕捉。しかし大勢の登山者が行列しているため追いつけそうもなかった。
男体山の頂上への道は、鎖場があったりして無理に人を追い越すのは危ない。かみさんの姿は見えているので慌てることもなかろうと、無理のない範囲で他の登山者を抜きつつ後を追う。
ほとんど頂上に到着すると同時に追いつくことが出来た。
頂上には筑波神社の本殿の一つがある。展望も良いが、展望ポイントには人が鈴なりだったので軽く眺めただけで通り過ぎた。
かみさんはおみくじを引いていたが、結果は……末吉。半分凶みたいなもんだ。
頂上のすぐ脇に立っている建物は元気象庁の測候所らしい。現在は筑波大学管轄だそうだが、使われてるんだろうか。
休憩するようなスペースもないし、次から次へと人がやってくるので、さっさと御幸ヶ原へ戻る。
勢いに乗っているおっさんたちは休憩することもなくそのまま女体山方面へ。
女体山方面にはいろいろな奇岩があるとのこと、おっさんは楽しみにしていた。
おっさんはグッと来る木も好きだが、グッと来る岩も好きだ。
最初の奇岩はセキレイ石。この石の上でセキレイが男女の道を教えたという。よくわからないが大きな石ころだ。
次に現れるのはガマ石。なるほど、口を開けたガマのような形の石ころだ。
ガマの口に石を投げ入れて入ればOKという遊びが流行っているらしい。すれ違うおばちゃんの団体が、ガシガシ石を投げ、
「来るたびにやってんのよアタシ!難しいわね!」
とかなんとか言ってるのを聞いていた、次に続いていた高校生くらいの集団が、
「バスケ部としては外すわけにはいかないな!」
とかなんとか言って一発でシュートを決め……とかやってたけど、周囲はひっきりなしに人が通る。コントロールしたってブレそうなおっさんは投げるのをやめておいたよ。
この辺りから何だか反対方向から大勢の人が歩いてくるようになる。人の列が途切れないので、狭いところでは気長に待たないと先に進めない。
そのうち女体山山頂へと続く階段が見えてきて、そこを登れば筑波山神社の本殿、そして女体山山頂……って、
「うわなんだものすごい人の壁」
山頂の岩の上にみっしりと立ち尽くす人の群れが。展望はない。不安定な場所で人を掻き分けて前に出る度胸もない。
高尾山の頂上もすさまじい人口密度だったが、ある程度の広さがあるので動き回るのに不便はなかった。女体山は狭いところにみっしりと人がいるので、何の気なしに立ち止まったり、急に振り向いたりするだけでも誰かとぶつかりそうだ。
自分がけつまづいて転ぶだけなら良いが、誰かを岩の上から突き落としたりしたら大変だ。
おっさんは逃げるように山頂を後にした。
「下る道はこっちだよなぁ……うああ」
弁慶茶屋のほうへ下る道は急な岩場道なのだが、岩場を這い登ってくる人の列が延々と続いている。すれ違える場所は限られているので人の流れが途絶えるのを待つしかない。
子供、ねーちゃん、にーちゃん、おっさん、おばさん、じーちゃん、と、いろんな人たちが次から次へと登ってくる。登るほうも登るほうで、先がつかえているので行列を作って待っている。
(これを見たアメリカ人は『日本人は山登りでも行列する民族さ』とかなんとかジョークを言うじゃろう!コーラを飲んだらげっぷが出るのと同じくらい確実じゃ!)
とジョセフ・ジョースターが言うのが聞こえた気がした。
何しろ先へ進めないので待つしかない。待つ即ち休憩と同じ。おっさんの無敵状態は急速に終了へと向かっていった。
アドレナリンから覚めた鈍い脳ミソが、
『あれ?もしかして身体、疲れてない?疲れてるよね?!』
ちっ、気づかれちまった。節々に痛みが出てくる。
ちょっと辛くなってきたところで、親切な人たちが現れて、
「ささ、待ってますのでどうぞ〜」
にこやかに道を譲ってくれる。大勢の登山者が生暖かく見守る中、おっさんたちは下るのだ。
“がんばれ〜”とか“気をつけて〜”とか、声援まで送られてくる。1人2人とすれ違うならそんな挨拶も心地よい交流だが、15、6人の視線はなかなかプレッシャーがある。
こんな大勢のギャラリーがいる下りは嫌だ・・・・・・。
筑波山はこれが日常的に起こる山らしい。
時刻はお昼に近づきつつあった。
どこかで食事にしようと思うものの、どこも人がいっぱいで腰を下ろす場所もない。
屏風岩を過ぎ、北斗岩をくぐり、裏面大黒を見上げ、出船入船をながめた。母の胎内くぐりは人が大勢だったのでスルー。弁慶七戻りを通り抜けると、道もだいぶ緩やかになり、すれ違う人の列も少なくなってきた。
森の中にやや開けた斜面があった。斜面を背にして座り、平らな石の上にコンロを出して調理をすることにした。
メニューは餃子鍋。水餃子と野菜のスープである。
かみさんが調理している間、ふと気配を感じて斜面の上を振り向いてみると、10メートルほど上に小太りの男性が立っていた。なんだかそわそわしているような、何か言いたげなような、奇妙な様子だった。
男性の立っている場所は登山道ではない。そもそも我々が登山道からちょっと林の中に踏み込んだ場所にいるわけで、男性のいる場所も登山道からは外れている。
なんだろうなぁとは思ったが、男性はこちらに声をかけてくるわけでもなく、じっと見つめてくるわけでもなく、こちらもジロジロ見るのもどうかと思ったので気にしないことにした。
そうこうしてるうちに餃子鍋が煮えて、美味しくいただいた。
調理して食事して、少し休んで片付けて……小1時間ほどの昼食休憩だった。
荷物をまとめて出発しようとした時、何気なく顔を上げると、斜面の上には相変わらず男性が立っていた。何だか狼狽したような表情を浮かべ、男性は背を向けた。おっさんは男性が何の荷物も持っていないことに気づいた。男性は登山道に戻り、姿を消した。
筑波山は軽装でくる人も多いから、荷物なしという人もたまにはいるのだろう。別に驚くようなことでもないんだろうなぁ、と思いつつ、ずっと上に立っていたのが奇妙に思えたので、
「今の人、何だったんだろうな?」
そうかみさんに尋ねてみたら、
「え?何のこと?そんな人いなかったよ?」
だそうだ。
単に連れを待っていた登山者だったのだろう。かみさんが見ていなかったのはボーっとしていたせいだろう。
それとも陰気な雰囲気の漂う筑波山麓、何か怪談じみた体験だったのだろうか。
おっさんは高校時代の山の師、N先生の体験談を思い出した。
「○○方面に行ったときの事だ(どこだったか失念した)。
湖沿いの一本道をテン場に向かって歩いていたら、後ろから何の装備も持ってない人が来て、俺を追い抜いていった。マラソンランナーのようないでたちだった。
“こんにちは”と挨拶したように思うが、どうにも顔は思い出せない。結構深い山なのに装備が無いというのはどうにもおかしいが、この先のテン場に装備を置いて来ていたのかも知れないと思って、テン場についてから聞いてみた。
そしたら、テン場にずっと居た人から、
『そんな人は誰もいない、そっち方面から来たのは今日はあなただけだ』
そう言われた。道は一本道で、途中で追い抜いたりもしていないし、テン場を通らないはずもないのに……」
時々山では奇怪な出来事が起こるものだ。
昼食後、白雲橋コースを下る。
これから登っていく人たちとすれ違う。
「あとどれくらいですか?」
そう尋ねる人が多い。
「結構渋滞してたんで、2時間くらいはかかるかも知れませんねぇ」
「そんなに!30分くらいでしょ?ね?」
って、希望を述べられても事実は曲がりませぬ。
白雲橋コースはなかなかに急な箇所もあり、確かにこれを登ってくるのでは途中でバテもするだろう。
登りを御幸ヶ原コース、下りを白雲橋コースにしたのは正解だった。
無敵モードはとっくに終了し、膝にガタが来始めていたものの、無事に筑波山神社に到着。
時刻は13時40分。今回は余裕のある計画を立てていたので、途中の渋滞による遅れも何の問題にもならなかった。
これにて山行は無事完了である。
しかし、もみじ祭りはこれからだ。
夜間のケーブルカーライトアップを楽しむというのも今回の目的の一つ。
一度車まで戻り、不要な装備を置いて再度みやわき駅へ向かった。
今度はケーブルカーで御幸ヶ原へ。
「また来たじょ〜」
お茶をご馳走になった茶屋で今度はモツ煮とトン汁をいただく。
みやげ物を物色したり、回転展望レストランで景色を眺めたりして、のんびりと過ごした。
やがて日は傾き、山頂は急速に暗くなっていった。
その後、夜景を楽しんだり、筑波大学生によるマジックショーを楽しんだり、ケーブルカーからライトアップされた山を眺めたり、登山とはまた少し違ったイベントを堪能した後、家路についた。
特にマジックショーはなかなかに楽しめた。だが、その話はまた別の機会に。
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