皇海山
- GPS
- 32:00
- 距離
- 20.9km
- 登り
- 2,026m
- 下り
- 2,028m
コースタイム
天候 | 晴れ |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
●奥深き皇海山
足尾の奥、群馬県と栃木県の境に「皇海山」と言う山があります。皇海と書いて「スカイ」と読ませるのですが、知っていなければ読めない山名の皇海山、深田久弥が日本百名山に選定することが無ければ、今ほど多くの登山者が訪れる事がなかったであろう山です。最近になって、群馬側の「皇海橋」から不動沢のコルに突き上げ、一気に山頂に立てるコースが整備され、日帰りでも登れる山になりましたが、以前は足尾側から「庚申山」と「鋸山十一峰」を越えて、延々と歩いた後にやっと辿り付く「奥深き山」でした。私が登った95年当時は、まだ「皇海橋」ルートが正式に開かれる前で、10月後半「紅葉」の中、足尾側から登る事にしました。
(庚申山という山名は、何処かで聞いたことがある人は多いかもしれません。滝沢馬琴の「南総里美八犬伝」で、犬退治した事になっている所です。江戸時代に盛んだった庚申信仰の霊山として、庚申山は大いに賑わったのだそうですが、皇海山はその「奥の院」になっていた様です。)
庚申山を越えて皇海山に至るこのルートの難点は、その行程が長く、途中の「鋸山十一峰」のアップダウンが厳しくアルバイトが多い事と、庚申山荘の少し先の水場が最後の水場で、もし途中で幕営する場合は「水」を背負って行かなければならない事です。幸い10月の山では汗が少なく、夏山ほどの水は必要としません。庚申山先の鞍部で幕営する計画で、足尾側の「かじか荘」から登り始めるこ事にしました。
●荷物をデポし皇海山へ
かじか荘から約1時間の林道歩きで「一ノ鳥居」をくぐると、登山道の始まりです。「庚申山荘」までの道は、よく整備された歩き易い道でした。ここから「庚申山」へ向けて、道が急に険しくなります。鎖場や岩屋の下を通り抜け、胎内くぐりを通過、ようやく庚申山の三角点に辿り付きました。三角点の少し先の「見晴台」まで行くと、目の前に「皇海山」の姿を初めて見る事が出来ました。
見晴台に大荷物をデポし、30Lのザックに背負い変えて再び出発です。庚申山の急登で抜かれた軽装の登山者を、次々抜き返します。聞くと前夜に庚申山荘で泊って、軽装で皇海山を往復するという人が殆んどでした。庚申山から鋸山までは、地図上の距離はさぼど無いのですが、アップダウンが急で消耗の激しいコースです。所々の鎖場も「危険」では有りませんでしたが、落ち葉で登山道が不明瞭な箇所が随分あり、木々ニ彫られた印を頼りに進む箇所が結構ありました。鋸山から一旦「不動沢のコル」ら下り、笹原の中を皇海山に登り返します。歩き始めて約7時間、漸く「皇海山」山頂に到着です。
●足が攣った!
皇海山でラーメンを食べた後、下山を開始しました。庚申山迄の行程は約3時間。日没の早い10月後半です。少しでも早く辿り着こうと、登りにも増してピッチを上げたのが、良くなかったのでしょう。或いは「不動沢のコル」で一服するべきだったのかもしれません。鋸山への登り返しには、鎖場が何箇所か有りますが、鎖を頼って滑り易い赤土の混じった斜面をトラバースしている途中、少し先の足場を確保しようと、右足を伸ばした途端、それはやって来ました。足が攣ったのです。「まずい」と思い、足を戻してじっとしようとすると、腿が余計に固まってしまいそうです。「登りかけた鎖を降りて休もうか」とも思ったのですが、下りでは足場が確認しずらく、攣った状態の足で足場を探りながら降りるのも不安。見上げると、鎖を換えて15m位登れば、平坦部に登れそうです。攣った右足を手前の足場に乗せて、ゆっくり体重を乗せながら伸ばしてみると、なんとか伸びます。通常の登る速さの1/10位のスピードで、ストレッチしながら一歩一歩登る事にしました。そのぶん腕の負担は増すのですが、なんとか鎖場を登りきってしまわなければ、休むことも出来ません。外から見たら、まるで「亀さんの山登り」の様に見えたのではないでしょうか。
半分腕の力で、少しづつ高度を稼ぎます。動かすのを止めると、一旦ほぐれかけた筋肉が、再び固まって来るのが良く分かります。「これはいけない」と、両手でマッサージ。色々試してみたのですが、動かすのを止めて休ませるより、筋を伸ばしながら、ゆっくり動かすのが良いようでした。「ストレッチが良い。」という事なのでしょう。随分時間がかかった様に思いましたが、実際には5分とかからないうちに、平坦部に上がる事が出来ました。ほっと一息ついて飲んだ水の美味しかったこと。
●遠かった十一峰
足の筋肉を解しながら少し休んだ後、今までの50%位のスピードで、腿をストレッチングさせながら再び前進です。漸く「鋸山」までたどり着き、時計を見ると2時でした。此処から幕営用の荷物をデポした地点までは、2時間のコースタイムですが、アップタ゜ウンのきつい行程が続きます。足と相談しながら前進を続けるのですが、コース取りも慎重にならざるを得ません。万一道を失いコースを外れた時、ルートを探しなおす時間的な余裕も、足の余裕もないのは明らかでした。よく「秋の日はつるべ落し」と言いますが、この時ほどそれを実感した時はありませんでした。小腹が空いたのですが、だんだん西に傾く御日様が気になります。腰を降ろして食べていく時間が勿体無く、飴をほお張りカロリーを補給。歩くこと約3時間、何とか日の落ちる前に、荷物をデポした「庚申山」展望台に到着しました。
この日は手早く食事を済ませて、早々とシュラフに潜り込みました。幕営地にたどり着いてホッとしたのか、どっと疲れが出た様でした。ランタンの火を消し、シュラフの中で大きく深呼吸。遠くから、もの悲しげな鹿の鳴き声が聞こえてきます。今、自分の周囲数キロの中に「人間は自分一人。」に違いないという事が、妙に頭に浮かんできました。テント山行でも通常の幕営地であれば、自分一人と言う事はまずありません。こういう時、人の五感は本来の機能を取戻すのか、本能的に感覚が鋭敏になるのか、テントの外の「木の葉がこすれる音」や「枝か何かが落ちる音」が、とても大きく聞こえます。庚申山の頂きに横たわっている自分を、遥か上空から俯瞰している姿を思い描いている内に、何時しかまどろんでゆきました。
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