蒜場山「山奥に眠る幻の鉄路」新潟県新発田市
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- GPS
- --:--
- 距離
- 10.2km
- 登り
- 1,202m
- 下り
- 1,216m
コースタイム
天候 | 晴天だが湿度が高く蒸し暑かった。 |
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過去天気図(気象庁) | 2012年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
ただし、雪に覆われる冬期はもちろん、残雪期も道路脇の斜面からの落雪があるため、道路の開通が遅いので要注意。 残雪期は道路の雪が溶けていれば、下流にあるゲート(脇に俎倉山登山口あり)まで車が入れる。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
主稜線上の烏帽子岩付近に若干の岩場があるが、何ら難しくはない。 水場も烏帽子岩から蒜場山山頂の間にある。 ただし、飲み水としてはあまり水質は高い方ではないかも。 |
その他周辺情報 | 付近にはかつて赤谷鉱山があり、鉄鉱石等の鉱物を採掘していた。かつてその鉄鉱石を輸送するために様々な軌道が敷設された。 現在は全て廃止され、廃線跡を随所に認める。 羽越、白新線新発田駅から麓の赤谷集落まで通っていた国鉄赤谷線は自転車道に、その上流の日鉄鉱業線跡は、同集落から登山口の加治川治水ダムまでの道路に一部転用されている。道中にある片側車線のみのトンネルや洞門が正にそれである。 その道路脇にある使われていない鉄橋もそうだ。その他、その道路脇の小さめのトンネルや坑道は、鉱業線の廃止後使用されていたナローゲージ(狭軌)の赤谷鉱業の鉱山専用軌道と、坑道の跡である。 これらは廃線に関する本も広く掲載されている。ただし、今回のものはそれらの本にも一切掲載されていない。 廃線ファンの作成するサイトにすら把握されていない、正に幻の鉄路である。 |
写真
装備
個人装備 |
雨衣
登山靴
水
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感想
新潟県内で数ある私が未踏の山の一つ蒜場山(ひるばやま)に知り合いのNさんと登ってきた。
本来、鳥海山を予定していたが、前日、私が深夜まで仕事だったので、急遽県内の山に変更してもらった。Nさんすみませんでした。
さて、「蒜(ひる)」というと、「え、あの血を吸う憎き奴」と勘違いされる方もいるかもしれないが、それは「蛭(ひる)」。蒜とは野蒜(のびる)というユリ科の植物だ。食用にも薬用にもなるという。夏には紫色を帯びた白色の花を咲かせるとか。確認はしていないが、野蒜の群生地ということからこの名前が付いたのではないだろうか。ちなみに、この山にはあの憎き蛭(ひる)はいないので安心して登ってほしい。
加治川治水ダムからは、歩道として整備されている堰堤の上を渡る。ダムを渡った先に登山口がある。登山口からはまずは、主稜線のある岩岳を目指す。40分ほど登ると、登山道の地面に埋まっている線路や、登山道脇に朽ちたトロッコらしきものを認める。
線路跡があるので索道(ロープリフト)ではないだろう。
私は、以前から廃線に関心を持っているので、下山後調べたが、少なくともこの軌道の記録は、廃線に関する本には認められなかった。
通常、人車軌道(トロッコ)でも掲載があるのだが。
登山道脇は掘割の様に深くなっており、ここに何らかの採掘場があったのだろう。
通常言われている赤谷鉱山跡は、ダムの下流沿いにある。
しかし、赤谷鉱山の歴史は、明治以降、廃山と開山の繰り返しで、かなり古いので、かつてはここにも、採掘場があったのかもしれない。
ここから、さらに1時間以上登ると岩岳に着く。ここまで約2時間。中間点だ。ここからは、蒜場山へ向かう稜線だ。
岩岳からは左折し進行方向が一気に東へ向く。
岩岳(標高932m)と蒜場山(標高1363m)は、標高差が約400m弱あるので、稜線の縦走とはいえ登りだ。
ちなみに稜線は右折し、西へ向かう道はないのだが、西の主稜線上には俎倉山(まないたくらやま、標高858.6m)や馬ノ髪山(標高757m)がある。それぞれ独自に取り付く登山道があって、同じ稜線上にあるが縦走することはできない。
さて、稜線を東へと進むと烏帽子岩がある。この辺りにはちょとした岩場がある。といってもクライミングではなく、登山道歩きの範疇のレベルなので、なんら難しくはない。
烏帽子岩のピークは見晴らしがよい。
北側には、加治川を挟んで対岸にある焼峰山(標高1085.8m)、さらにそこから東に赤津山、藤十郎山へと稜線が延びており、最後は飯豊連峰主稜線の門内岳に繋がっている。
もちろん、飯豊連峰も望める。
南側は、手前に阿賀町(旧三川村)の山々が見える。西寄りに、ボコボコした峰と、その稜の先に、四角い峰が見える。特徴的な形の山で気になる。おそらくは、四角い峰は人品頭山、ボコボコしたのはその稜線上の八ッ峰だろうか?
それ以外にも、越後白山や五頭連峰の裏側も見えたはずだ。
稜線をさらに蒜場山山頂方向へ進む。
途中、南側の斜面に水場がある。地図には案内がないかもしれないが、現地には看板がある。
沢の源流のような湧き水だ。
ただし、枯れ葉などが混じっており、あまり水質が高くない。
当日は、残暑が厳しい上、あまりに湿度が高かったので、そうも言ってはおられず、帰りに水を汲んだが。
私は、普段は少量の水で足りるのだが、今回は久々に脱水症状になりそうな気分だった。
前日、深夜まで仕事だったのも、かなり影響していだろうか?
岩岳から2時間ほどで蒜場山山頂に着いた。
人気のない山頂だが、立派な標柱が立てられてあった。
山頂から先へは、登山道はない。
しかし、登山道はないが、稜線はさらに東へと繋がっている。実はこの稜線は、さらに東にある飯豊連峰最高峰の大日岳(標高2128m)まで真っ直ぐ繋がっている。(そこまで、かなり距離はあるが。)大日岳から先は、登山道があり、1時間40分ほどで飯豊連峰の主稜線にある御西小屋に着く。御西小屋から飯豊山までは、そこからさらに1時間40分ほどで着く。
私は常日頃から、この先に登山道があれば、どれほど素晴らしいだろうと考えている。
もしこの先に登山道があれば、日本海から新潟平野を隔て、飯豊連峰の最高峰の大日岳を通り、新潟県と福島、山形県境にある奥深い飯豊山(標高2105m)まで縦貫する正に海と山を繋ぐルートになるはずだ。
大日岳は飯豊連峰最高峰でありながら飯豊連峰の主稜線から外れているので、主稜線から往復3時間以上をピストンしなければ行きづらく、飯豊山からの縦走コースに選択されにくい。
もし、このルートがあれば、大日岳を経由する縦走ルートを選択しやすくなるだろう。
また、下りは常に日本海を望みながら歩ける眺めのよいルートになるはずだ。
ちなみに平行する湯の平登山道は、谷筋にあるため繰り返し崩落して、通行不可になっている。
そのバイパスになるだろう。
さて、今回の蒜場山への登山道も、実は近年まで存在しておらず、平成9年に地元の新潟県新発田市の下越山岳会が開拓したものだ。それまでは登山道はなかったそうだ。
山頂の立派な標柱も、彼らが立てたものだ。
実はこういった地元有志による開拓例は、同じ新潟県内にある。白馬岳から、北アルプスが日本海に落ち込む断崖絶壁の景勝地、親不知(おやしらず)までを縦貫する栂海新道(つがみしんどう)だ。ここもかつては登山道がなく地元在住の登山家小野健氏を中心にサワガニ山岳会が開拓したものだ。
その白馬岳に連なる新潟県の最高峰の北アルプス小蓮華山(2766m)の別称も大日岳である。
奇しくも、新潟の北端と西端で、各々の最高峰が「大日岳」というわけだ
さらに、お互いに稜線を通じ地元有志が開拓した登山道がある。何かしらの縁を感じてしまう。
ぜひ、こちらも栂海新道の様に、日本海から東北のアルプスまで貫通してほしいと願いたいところだが、その予定はないらしい。
ちなみに、残雪期、この稜線上は厚く締まった雪に木々が覆われるので、その上を快適に歩くことができる。
実際、残雪期に大日岳を経由し、飯豊連峰主稜線を縦走している人もいる。残雪期は、蒜場山の登山口の加治川ダムまでの道路は開通していないので、その手前の俎倉山(まないたくらやま)登山口に車を留め、俎倉山山頂に登り、そこから厚く締まった雪に覆われた稜線を歩き、大日岳や飯豊連峰主稜線を目指すものである。
時間のある方はぜひお試してはどうだろうか。
蒜場山は、飯豊連峰を始め付近の山が一望できるだけでなく、朽ちたトロッコや地面に埋まった幻の鉄路、周辺の廃線、坑道跡など、かつての鉱山開発華やかしき頃に思いを馳せたり、近年の登山道の開拓やこの先の大日岳の延長に夢を見たりと、歴史や思いを感じさせてくれる山である。
日帰りで手軽に登れる山なので、ぜひ付近の散策も兼ね、登ってみてはいかがだろう。
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