鋸岳(憧憬の鹿窓を潜る)


- GPS
- 32:00
- 距離
- 13.9km
- 登り
- 1,488m
- 下り
- 2,278m
コースタイム
- 山行
- 8:10
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 8:10
- 山行
- 8:40
- 休憩
- 0:40
- 合計
- 9:20
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2016年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
その他周辺情報 | 仙流荘(バス停・駐車場直結) 宿泊、日帰り入浴可(休憩室有) |
写真
感想
以前、神さんと甲斐駒、仙丈に登った時、長谷村営バスで北沢峠に向かう途中、鋸岳稜線に小さな風穴が見えた。そこにあるというのは分かっていたが、実際に眺めて見ると、不思議な光景だった。そして、いつかは潜ってみたいと思った。しかし、実際に調べてみると、いい加減な気持ちでは行けない山であることが分かる。
鹿窓を潜る機会は過去に一度あった。山で知り会い、山友としてメールの交換をしていた方から鋸岳縦走の誘いがあったのだ。もういつ雪が降ってもおかしくない時期だったが、彼女の所属する山岳会のメンバーと行くのでいかがですかということだった。メンバーはかなりバリエーションルートも歩いているということで、その好意に甘えることになる。しかし、雪の心配のある時期に“そんな危険な所に行ってはダメッ”と家族から猛反対をくらって彼女は参加を辞退し、私も辞退することになったのだった。その後は行く機会もなく時は過ぎた。
しばらく登山は休止していたが、再開してみるとやっぱり気になる鹿窓である。鹿窓は難路として知られている。いつ行くことが出来るかはわからないが、ちょっと訓練だけはしておかなければと思う。
岩場の山で一番近いのは御神楽岳だが、蝉が平コースは廃道になったらしい。とすれば八海山であろう。深田久弥は、自身の著書「日本百名山」で八海山について「恐怖の度合において、おそらく日本一だろう」と書いている。少し遠いが鹿窓潜りの訓練にはピッタリの山である。
昨年は、八海山に2回出かけた。ところが一回は途中から雨。二回目は、出発が遅れて時間切れ中途撤退となる。全然訓練になっていない。成果はサルナシの実を初めて収穫したくらいである。今年は、暑い日ではあったが、屏風道から八ツ峰を周回することが出来た。一回でも、鎖と岩に戯れていれば何とかなるだろう、と策を練り始める。しかし、八月から九月は天候不順で山行回数はゼロ。10月に入り今年はダメか、と思ったら15、16の週末に晴れの予報がでた。絶好の山行機会到来。今年最後のチャンスである。
行程は三案作った。私の目的は鹿窓を潜ることだが、六合石室にも泊まって見たいし大岩下ノ岩小屋にも泊まって見たい。難路だから、軽量で速戦突破も考えられる。エキスパートは別にして、王道は、北沢峠から甲斐駒経由、六合石室泊。角兵衛沢を下降、戸台大橋帰着だろうと思う。しかし、月曜日の朝には帰宅しなければならない事情がある。それぞれ一長一短はあるが、戸台大橋からバスで丹渓新道下車、熊穴沢登行、中ノ川乗越泊。次の日、鹿窓を潜って角兵衛沢下降、戸台大橋に至るルートとする。ヤマレコで検索すると、このルートを採用した例は少なかった。ということは、このルートには何か短所があるということであろう。それは、ひとえに体力。テン場に水場が無いのもそれに輪をかける。熊穴沢を中ノ川乗越のテン場まで登り切れるか。登りきる体力の有り無しが問題。そこまで這い上がれれば、まず問題は無いと思われた。登れなかったらその時点で撤退すれば良い、と気楽に考えてこの案に決める。
前夜、車中泊として前日10時半出発。ナビで最短距離を選択。17号線経由で豊野・飯山ICから高速に乗るルート。道の駅「ちぢみの里」で昼食。国道117号線を飯山へ向かう。道路は空いていて、予定通り到着できるな、と余裕の走り。突然右手に白っぽい物体がせまる。バリーッという音。衝撃は感じなかったが、衝突されたのだ、と思った。あ〜あ、何ということだ。絶好の山行日和が台無しか、とまず思った。
車を道路わきに寄せて後ろを見ると、道路上にサイドミラーの残骸が散らばっていた。相手の車も一端止まったようだったがそのまま走り去って行った。そんなのあり! 万歩譲って私が悪かったとしても、ぶつかって置いて走り去る、というのはどう考えてもおかしい。相手がいないんじゃ、是非もなし。セオリー通り警察に通知する。ほどなくして警察がやってきて、事情聴取と現場把握。それで約1時間のロス。
幸いだったのはサイドミラーのカバーは吹っ飛んで、本体も曲ってしまったが、それで走っても違反にはならない、というお墨付きをもらえたことだった。(後日、相手が判明。相手の居眠り運転で、私の責任はゼロということで解決した)少し運転しづらかったが、バックミラーを調節して走った。伊那市内は混んでいて、明るいうちに着いて駐車場などを確認する頃は真っ暗だった。戸台大橋の駐車場は見つけられなかったが、駐車スペースはあった。
仙流荘に戻り入浴。汗を流す。バスの状況を確認すると、8時05分の始発バスは、6時05分に臨時バスが出るとのことだった。問題は戸台大橋から乗れるかどうかだ。「乗れるけれども確実なのは、ここ(仙流荘)からです」とのこと。ただ、バスは270人分確保してあるとのことだった。多分、27人乗りマイクロバス10台で運行するということであろう。それならば多少の遅延はあるが乗れないことは無い。と判断して戸台大橋直近の道路脇で眠る。
疲れていたと見えて直ぐに眠りについた。2時頃目が覚めてうつらうつらしていて気が付いたら朝の5時だった。体調は異常なし。天気は快晴。絶好の登山日和である。バスには数台スルーされたが、思ったよりも早く乗車できた。途中、かわいい小熊が前走を務め車内ざわめく。登るルートが熊穴沢。これは吉兆だ、と思う。鋸岳の稜線が連なり、その一角に小さな鹿窓。それらに計画のルートをイメージしてみると、思い描いていたよりは、易しそうだった。稜線に戸板を立て掛けたような急峻な斜面は、やっぱり、最後は、体力だ、とあらためて思う。
丹渓新道入り口で下車。一人旅。九十九折の道を下る。河原に出て左岸寄りを歩く。左岸は行き詰まり、徒渉点を探す。細い丸太が有り、それを渡る。そのまま下れば、熊穴沢だが途中で崖崩れ地形になり通れず対岸へ徒渉。少し歩くと右岸に泥の付いたような石の積み重なるところが見えた。地図を見るとそこが熊穴沢のようだ。河原に近づいてみると、石に“クマ”と書いてあって、対岸の木立にテープも下がっていた。そこで、また、徒渉。出だしから靴は濡らしたくないので裸足で渡る。さすがに深山の流れ、切れるような冷たさ。
渡渉して濡れた足を拭いていると男性が一人やって来た。ああ、これはこれは、相棒が出来たか、と思ったが“ここは、クマですね。角兵衛沢を通り越してしまったようだ”と戻って行った。やっぱり今日は一人旅か。道はしっかりしていて、テープも多く付いている。間違うことは無い。たとえ間違ったとしても、上へ上へと辿れば問題はないはずだ。
最初は順調だった歩行だったが、足が攣った。一度ならず、二度三度。休み休み、だましだましの登りとなる。臨時バスが出たので2時間のアドバンテージが有り、早く着き過ぎるのでは、なんて思ったのは浅はかであった。ガレ場になるとルートらしいものは無く、自分の感性で歩くことになる。がっちり組み合わさっていると思う石も、簡単に崩れてしまうことも有り油断はできない。いったん崩れて足が宙に浮いてしまうと体の自由が奪われてしまうのでガレの上で転んでしまう。一度そういう状態になって石とともに流され転んでしまった。足を挟まれたりする危険もある。慎重にならざるを得ずスピードは上がらない。
テン場が近くなるにつれて、先客があればテン場は確保出来るか、などという不安が頭をもたげる。まあ、一人旅だ。何とかなるでしょう。上部から二人降りて来た。いったん姿が消えたらなかなか現れなかった。なんでだろうと思ったが、安定しないガレ場だから、そうそう簡単には歩けないのだった。若い男性だった。戸台まで時間との勝負、だとか。「これから先のルートは最悪だ」とのこと。明日は正念場だと気合を入れ直す。鞍部は見えているのだが遅々として進まない感じ。それでもジリジリと進んで中ノ川乗越に着いた。
テン場はすぐに見つかったが、岩壁が崩れれば直撃されるような所であった。大地震でも無ければ崩落することは無い。と思うが、万が一にもは無くても、億や兆に一はあるかもしれないと考えると、ゆっくりできる気分にはなれなかった。ヤマレコの報告には、甲斐駒側に進めば良いテン場が有ると読んでいたのでそちらを探すことにした。たしか3分位、とあったはずだが、30分だったかもしれない。たとえ30分だとしても一夜の安寧には代えがたい。意を決して歩き始めると直ぐに見つかった。時間は3分だった。ここならば崩落岩の直撃は無い。
上空は飛行機の航路になっているのかひっきりなしに飛行機の音が聞こえてくる。中央アルプス、仙丈ヶ岳、八ヶ岳など、ほぼ360度の眺望が広がる。いよいよ明日は鹿窓を潜るのか。正念場は、大ギャップの横断から鹿窓に直結する鎖間のルート、とりわけ大ギャップから草付きに至る間の歩行が問題。そこを無事に乗り切れば、後は慎重に行けば重大事故は無い、と思う。
いつ寝て、いつ起きたかわからないよう状態で一夜を過ごし、6時出発。荷物が軽い。昨日は、2日分の水を背負っての登りだったからなあ。食料もチョットは減った。今日は快調だ。
中ノ川のコースは良く踏み込まれていて歩きやすかった。途中で昨日熊穴沢取りつきから戻って行った人とすれ違う。昨日は、第二高点でビバークしたとのことだった。九十九折に登っていくと鉄剣が少しずつ大きくなって第二高点に着いた。誰も居ない。快晴、三百六十度の展望広がる(^^;
大ギャップへのルートは、木立にテープが巻いてありすぐにわかる。踏みあとはしっかりしていて、迷うことなく大ギャップへ導かれる。霜柱が立ち、凍り付いている石もある。高山は、もうすっかり冬を迎えた。鹿窓へのルートは、大ギャップへ降りていく途中で全体が俯瞰できた。私が、熊穴沢から鹿窓を目指したのは、鹿窓を登りのルートにしたいと思ったのが最大の理由。この間を最大の難関と捉えてのことである。そのルートの全体像がハッキリしたことで、この山行の成功を確信する。
大ギャップからのガレ場から取り付き、草付きの踏み跡をたどると、鹿窓から下がる鎖の末端に出た。長い鎖である。鹿窓は見えない。いよいよだ。ホイッスルを吹き、注意喚起。「いきま〜す」と声を掛けてから登りだす。鎖に頼らなくても登れそうだった。途中、鎖の流れが悪く2、3mフリーで登って前を見ると、鹿窓の天井が見えた。拍子抜けするほどあっけなく我が憧憬の鹿窓を潜る。長い鎖を登ったせいか、緊張のためか、心臓がドックン、ドックン音をたてていた。
潜った先には、青空。八ヶ岳の山並みが連なっている。核心部は過ぎた。ザックを降ろし、鹿窓の脇で大休止。この先は稜線に上がる踏み跡があるはずだが、判然としなかった。後続の男性が登って来て鹿窓を登る写真を撮らせてもらう。踏み跡を進み、鎖のかかる岩の下を行くか岩の上に上がるかの二者択一だが、どちらも稜線に上がるのだから、手掛かりがしっかりしている鎖のかかる岩の上にあがった。一応その先も確認したが踏みあとは良く分からなかった。
小ギャップへの下りは、鎖は使っても使わなくても降りることができる。鋸岳への登りは、急な鎖が下がるが、力任せでもクリヤ出来る。あとは鋸岳まで問題無し。
快晴の鋸岳山頂は、ぐるり360度の大展望。北ア・中央ア・立山連峰・穂高連峰・八ヶ岳・秩父の山々。しばし寛ぐ。あの大惨事の有った御嶽山も、変わらぬ姿を見せていた。鹿窓で一緒になった方は、神栖まで帰らなければならないと一足先に出発していった。私は、明日の朝までに帰ればよいので、のんびり休んで下る。
角兵衛沢のガレ場は熊穴沢と比べると小さな石が多く滑りやすい。ガレを足で押さえつけるような感じで下る。砂走りを歩くときのような感覚である。登りだと稼いだ距離をマイナスとすると、下りはプラス。登りよりは距離も稼げて楽である。沢上部は踏み跡も定かでないが、途中から左側に踏み跡が出てくる。踏みあとの左側には岩壁が続く。その下に大岩下ノ岩小屋が有るはずだが気づかなかった。
角兵衛沢の徒渉点まで休まず歩こうと思ったが、樹林帯の歩きが延々と続き、我慢できずに途中で休んでしまった。単独の男性が降りてきたので、大岩下ノ岩小屋のことを聞いてみたら、やっぱり通り過ぎてしまっていた。地図でも確認して注意深く歩いたつもりなのにミステリーである。
ようやくという感じで渡渉点に着く。テントが一張。河原に仰向けに大の字になって寝っ転がる。青空がまぶしい。よく頑張ったなあ、と思う。有森裕子じゃないけど、自分で自分を誉めてあげたい。しかし、感傷に浸っている場合ではない。これからまだ約6キロ位の河原歩きが待っているのだ。石伝いだと嫌だなあ。足へのダメージが心配だ。
それは杞憂だった。河原の道は、砂混じりの適度に締まった足に優しいものだった。洪水が有ればどうなるかは知らないが、踏み跡があり、要所、要所にはテープが下がっていて戸惑うこともない。振り返れば甲斐駒が鎮座する。途中で徒渉が一回あると思っていたが、砂防ダムに貯留した土砂の下を伏流していて、それは無かった。ノコンギクなどの秋の花を眺めながら写真を撮り撮り出発点に戻った。アプローチ時のアクシデントに、一時はどうなることかと思ったが、我が憧憬の鹿窓を潜る山行は無事に終演を迎えた。
妙高さん、おはようございます。
素晴らしい山行の記録ですね。
以前仙丈ヶ岳に行く時に、バスの運転手さんに鹿窓の案内をしてもらいました。
ギザギザの岩の頂きにある空間、まさに窓ですね。
あそこに登られたんですね〜。
眺めも素晴らしくて、世界が違う感じ。
もらい事故も無事解決したようでよかったですね。
お疲れさまでした。
harunonekoさん こんにちは。
今日、やっとテントとか山道具を片付けました。帰ってすぐやればいいのに、なかなかできません(-_-;)
天気が良くて、大展望が広がって気分は良かったですね。足はあちこち岩にぶっつけたようで、2,3ケ所あざになってました。長いこと思い続けていたことが実現できてホント良かったです。
山は良かったのですが、出だしからもらい事故でどうなるかと思いましたが、無事解決を見て安堵しています。修理等はデーラーに任せたのですが、持ってきた代車が最新の車で、乗り心地が全然違ってました。買い替えるとこんなにいい車になりますよ、ということでしょうか。このまえ、今度買う時は、軽。軽の中古、と言ったので、ひょっとして深謀遠慮・・・かも。
その手には乗りません。っていうか、乗れません。後のことを考えると。
ではまた。
別世界がみえてくるのですね。
もしそこに鹿が立っていたりしたら
なんて映画みたいな映像を感じました。
テント泊も落石注意なんですね。
足が心配でしたが踏破されて良かったです
hobbitさん こんにちは。
鹿は見ませんでしたが熊は見ました。可愛い小熊でした。バスに追いかけられてちょっとかわいそうでした。場所は違いますが、今年は2回熊を見ました。どちらも小熊でした。山に餌が無いんでしょうかね〜。
一日目は、足が攣って、それも膝の筋肉なんですね。いままで、膝が攣るということは無かったんです。今年、初めてなったんです。原因は何なんだろうなあ。全然わかりません。負荷が大きいか、体力不足のどちらかでしょうね。多分。とりあえず、行程に余裕を持たせることで対処することにして、模様を見ることにします。
すごく天気が良ければ別ですが、今年の遠征、高山山行はおしまいです。これからは、天然なめこや山ブドウなどが取れる里山狙いに方向転換です。
ではまた。
myoukohiutiさん こんばんは
一泊二日のドキドキ感満載の山 お疲れ様でした。
念願の「鹿窓を潜る山行」達成、おめでとうございます。
岩の向こうの真っ青な空や、ギザギザの山が素晴らしい。
余韻に浸り、ゆっくりお疲れを癒されてくださいませ。 (#^.^#)
おはようございます。
ヤマレコのレポをあちこち探して、一番楽なルートは無いかと研究しました。しかも安全で、と欲張りです。軽量第一、メシなんかニ、三日、何食ってたって死にはしないというのが基本。軟弱者です(-_-;)
帰宅一日目は早朝で一日ボーッとしてました。さすが疲れました。しかし、懲りないもので、どっかイイとこ無いか、と次の山行を考えていました。次は、ナメコと山ブドウに照準を定めております。遠征で出費がかさんだものですから、少しでも家計の足しに、と涙ぐましい努力です(-_-;)
ではまた。
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