サッシビチャリ川ルベツネ山西面本流


- GPS
- 80:00
- 距離
- 40.1km
- 登り
- 1,924m
- 下り
- 1,923m
コースタイム
- 山行
- 5:30
- 休憩
- 0:30
- 合計
- 6:00
- 山行
- 11:20
- 休憩
- 0:10
- 合計
- 11:30
- 山行
- 9:00
- 休憩
- 1:30
- 合計
- 10:30
- 山行
- 2:00
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 2:00
9/1
元浦河林道ゲートは閉じていた。が、気がつけば神威山荘にいた。お馴染みのベッピリガイ乗越を無心でこなし、ペテガリ山荘を通過してサッシビチャリ川へ入渓。この沢に下から入るのは3人とも初めて。下部の函を楽しく泳いだりして内部突破し、河原歩き。中盤で木に登る熊に遭遇。少し待つがこちらに気付かずしばらく動かなそうなので、笛を吹いたら逃げていった。後から考えるとこれは序章に過ぎなかった。気を取り直して、河原を飛ばして西面出合の薪だらけ超快適テンバまで。豪勢な焚き火にあたってウイスキーを回しながら、西面の岩壁を眺める。
9/2
出合からすぐに滝が現れ、左岸を登る。今回は全員ラバーソール(本当はちゃんとした沢用が欲しかったが、今シーズンは全く在庫が無いので3人ともモンベルのパドリングシューズ)で来たが、そのフリクションはフェルトとは比べ物にならない程いい。フェルトだったらいきなりここが難しかったかもしれない。以後そんな場面が多々あった。この滝を越えると一気にV字の函となり、滝を2つ直登。3つ目ツルツル直瀑は直登できそうにないので、少し手前の左岸バンドから一段岩登りでリッジに上がる。ここは先頭竹中が後続にザイル垂らした。そこから灌木帯をトラバースして滝落ち口少し先に降りる。ここがCo650までの廊下状であろう。Co680で左岸から滝が合流しているところから、ツルツル系の小滝がいくつか現れ、突っ張ったりフリクションを効かせたりして越えていく。Co700付近の屈曲には直登は厳しそうな函滝。右岸側壁を登り、バンドからトラバースを試みるが途中からかなり外傾したツルツルスタンスとなったので、ザイル出して井上が空身でクラックにアングルやカムを決めながらエイドで抜けた。直後にもツルツル系10m滝があったがこれはシャワーで比較的容易に登れた。その上に更にツルツルの20mスラブ滝。シャワーを試みるがヌルヌルツルツルで厳しいので右岸リッジを微妙な岩登りで灌木まで、ザイル垂らしてラストの成田はゴボウで上がり、そのまま振り子トラバースで水流に戻って直登し、後続ゴボウ。これがCo780辺り。荘厳なV字谷を歩いていくと、Co820二股。進む左股には15m+40mの二段大滝。周囲の岩壁と相まって圧巻の光景だ。下段は直登は難しそうなので左岸岩壁を登ってバンド状をトラバースして落ち口へ。上段はザイル出して成田リードで左岸クラック沿いに登る。下部25mは容易。上部は次第にツルツルになったのでザックを置いて空身にしてジャミングを決めたりしながら登った。斜め気味に登ったのもあるが、意外と滝が大きく1pでは微妙に足りなそうなので途中のテラス状で切った。2p目は竹中リードで引き続き左岸を登り、落ち口から噴水のように吹き出す水流をくぐって抜ける。右に屈曲していたので見えなかったが、その先も樋状となって滝は続いており、右岸側壁の岩壁を登ってハーケンと灌木で切った。ここでザイルを仕舞う。樋状の上は厳しそうなスラブ滝となっていたので、このまま岩壁を登ってトラバースしてから、藪へ突入して巻いた。藪と木を少しトラバースして降りられそうなところで岩壁をクライムダウンして水流に復帰。滝を登ると今度はひたすらスラブ状の滝が続く。ノーザイルで思い思いに登るが、結構微妙なフリクションのところもあった。標高差150mぐらいはスラブ登りをこなすと、Co1100屈曲。先は再び深いV字谷となり、その中に滝が詰まっているのが見える。直登沢に入るには、この途中で側壁から注ぐ滝を登るはずだ。一休みして、連瀑帯へ突入。一段目は容易。二段目CS滝は直登は厳しいので左岸草付きと岩登りでバンドへ上がり、そのままバンド状をクライムダウンで巻いた。うまく繋がっていてよかった。ここで、右岸側壁から簾状に水が滴ってきており、これが直登沢か?と確認するがもはや地形図ではこの辺りは壁でしかなく、よくわからない。このままV字谷を詰めると魅力的な滝がまだ連続している。水の滴る岩壁を登るのが直登沢なのかもしれないが、この谷を詰めてみるのも魅力的に感じたので、そのまま真っすぐ谷を登ることにする(Co1120右股本流)。傾斜は強いがホールドはいい滝を2つ登ると、20mの滝。ザイルを出すかどうか悩んだが、一応出して井上リード。途中で空身にして突破。+くらい。ザイル出しておいてよかった。その上も滝は連続。何か寒いしテンションもおかしくなっていたので叫びながら登っていく。5個ぐらい登ると傾斜は緩くなっていき、終焉を感じる。もう16時で明るいうちに稜線に上がって下降に取り掛かるのは不可能なので、テンバを探しながら登る。が、中々適地が見つからず源頭まで行ってしまった。少し降りて適当なところで横の尾根へ入ると、3人がギリギリ横になれる鹿が整地したっぽい所を奇跡的に発見。薪を集め焚き火を着けたらあっという間に快適テンバとなった。就寝前にガサガサと草をかき分ける音が近づいてきて一同戦慄。絶対鹿じゃない雰囲気を感じた。どんどん接近してきたので笛を吹いたら遠ざかっていった。成田はこの夜熊に殺される夢を見た。井上は夕飯を食いながら、羆との戦闘が必至な沢は山谷!!!!、などとよくわからないことを言っていたが、これらは全て翌日へのフラグだった……。
9/3
源頭を登り、少しの藪こぎでガレとお花畑地帯に突入。ブルーベリー大量で貪りながら登る。朝日を浴びながら爽やかにルベツネ山の少し南の稜線に出た。ザック置いて藪の稜線を少しでルベツネ山ピーク。稜線が全て見渡せる気持ちのいい日高日和。ヤオロ南面が凄まじい。ここから1599まで藪こぎして、本流を下るのは何だか面倒そうだったので、ルベツネ南峰(・1720)まで行って、そこから西に伸びる尾根を下ってC1へ戻ることにした。ここを降りることによって直登沢の岩壁も観察できる。西尾根は、壮絶な木とハイマツと笹のミックス藪こぎで、いきなりこの尾根を下ったことを後悔。これはヤバいですよと思っていたらCo1400辺りから鹿道がかなり明瞭になり、鹿さんに感謝しながらニコニコで下る。直登沢の岩壁もよく見えていい感じ。と思っていたら岩混じりの細尾根になってきてアヒアヒ。最後にはめちゃめちゃ急な岩混じりの斜面になって、木を掴んで垂直クライムダウン、崖を避けて微妙なルンゼトラバースやグズグズの沢型の下降などで、何とか河原に降り立つ。この尾根のリピートはありえないでしょう。大人しく稜線藪こいで本流を下るのが賢いです。C1のデポを回収して、快適テンバに泊まりたくなる衝動を抑え、今日中の下山を目指して河原を歩き始める。函は内部をへつったり泳いだり。上流側一個目の函をプカプカ下りていたら急に土砂降りとなって、なんだかやるせなくなったので今日はペテガリ山荘に泊まろうという話にまとまった。河原を飛ばして最初の函手前にて、事件が起こった。成田が先頭を歩いていて、岩を回り込むと、ガサガサという物音。見ると、子熊2頭と母熊が斜面を駆け上がっているところだった。今回はよく熊に遭うなと思っていたら、母熊がクルッとUターン。マジの殺気を纏った咆哮をあげながら、こちらへ走ってきた!嘘でしょ、と思うがこれは現実である。圧倒的絶望。背中を見せて逃げないように、出来る限りの最高速度で後退りをして僕は沢の真ん中の方へ、井上は沢の上流側へ逃げるが、当然一瞬で距離を詰められ、井上の方へ。井上に30cmまで接近し、完全にリーチ圏内に入ったのを見たとき、横で見る僕も少し後ろにいた竹中も、そして井上本人も死を覚悟した。終わった……。と思ったら、熊は立ち上がって威嚇の咆哮を再度あげ、再度Uターンし子熊のもとへ戻っていった。こ、殺されなかった……。一安心するが、岩棚の上から親子はまだこちらの様子を伺っている。なんならまたこっちに来ようとすらしている。やめてください本当に、と思わず泣きそうになりながらゆっくりと後ずさりして距離をとる。熊の視界の外へ行き、追ってきていないことを確認し、少し待ってから先を覗くと居なくなっていた。今日、この河原で泊まるのは論外として、帰るには熊がさっきいた河原を通過しなければならない……。ゆっくりと熊がいた対岸を歩くとすぐに最初の函だった。函の中に熊は来そうにないので、少しだけ安心する。本当に少しだけ。心身ともに震え上がった身体で水に浸かるととてつもなく寒い。周囲に警戒しながら河原を歩いて橋から林道に上がり、林道を鹿にビビりながらペテガリ山荘へ転がり込む。人工の建造物の安心感がありがたい。
9/4
ベッピリガイ乗越へ向かう林道でも親子熊に遭遇。本当にどうなってんだ。マジで勘弁してください。笛吹いたり叫んだりしながら乗っ越して、神威山荘まで。
最後の熊襲撃事件に全てを持っていかれてしまった感がすごいが、ルベツネ西面は素晴らしい内容の沢だった。充実感としては中ノ川支六の沢と並ぶくらいだと思う。これで更に直登沢に入るCo1120側壁から上部の岩壁を登れば、日高、いや道内、いや国内?でも有数のビッグルートになるのではないだろうか。今回はルベツネ西面の沢を溯行したが、ピークに直接突き上げる"直登沢"は、やはりこの岩壁を経た沢型であると思うので、"ルベツネ山西面直登沢"の名称はそちらに譲るとして、便宜的に今回のルートは"ルベツネ山西面本流"と呼ぶことにしたい。これだけの予感を感じさせる地形図で、実際溯行しても素晴らしい内容だったので、既に誰かが登っているのかもしれない。"直登沢"の方は、必ずまた近いうちに行きたい。
天候 | 9/1 晴 9/2 晴→曇 9/3 晴→雨 9/4 晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年09月の天気図 |
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
サッシビチャリ川は熊の巣窟。 |
その他周辺情報 | 天政 |
写真
装備
個人装備 |
パドリングシューズ
|
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共同装備 |
ダブルロープ50m×2
お助けひも
カム
トライカム
ナッツ
タープ
|
感想
世界的な感染症流行で余儀なくされた自粛期間は、僕にとって夢を広げる時間でした。2年前の3月、デナリ入山全面禁止の報を受け、あまりの絶望に無為な日々が続きました。「デナリのために生きてきた。この1年間は一体何だったのか。。。」それでも国内外の山の写真や記録に触れて少しずつ元気を取り戻し、日高に眠る未踏の渓谷に思いを馳せ、「プロフェッショナル」になる勇気の出ない僕なりの最大限の真摯さで山登りに取り組んできました(ただ単純に1つ1つの山行を楽しんできただけではあるけれど笑)。山を教えてくれた先輩と、憎たらしいほど頼れる同期と共に、今日という日を迎えることができたことを、僕は幸せに思います。
その一方で自分の目指す山に対して課題が多すぎることも痛感しました。まずは体力、ルートファインディング能力(主にピッチをどこで切るか?)、安全確保に関する様々な判断基準・知識など。これらを少しずつでも着実に克服していき、こんな風にワクワクする山登りを続けていきたいと思いました。
常日頃自分はろくな死に方をしないだろうと思っているが、熊がこちらに向かって突進してきて手を振りかざした時はまだ死にたくないなと思ってしまった。後々調べるとブラフチャージと呼ばれている習性らしい。
ヒグマに対して正しい知識を持つ事は身を守るためだけでなく、彼らをウェンカムイにさせないという点で重要だと思う。
日高は彼らの土地であり、我々はお邪魔している立場であることを忘れてはならない。
色々と濃い山行だった。大自然が牙を向くとき、人間は成すすべもなく蹂躙されるしかない。残酷であるがそれ故に美しい。
コメント
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ルベツネは三角点と南の肩の標高が7mしか違わないので、今回遡行した筋を「西面直登沢」と呼んでも良いんじゃないかな?
上部右股も面白そう。
しかし、秋の日高は「熊」も核心になるとは、、、
確かに今回の筋も直登沢と言っていいかもしれませんが、Co1120右と左岩壁ではまた異なった内容になると思われるので、区別する必要があるかなと思いました。直登沢岩壁は宿題になったのでまた行く必要がありそうです。
去年今年と山に人があまり入っていないから熊も安心しているんでしょうか。
次々と現れる核心に一同驚嘆の声を挙げながら遡行しました。
おめでとう!!!
これで日高主稜線の主なピークへ直上するルートで記録が残されていないのは、ルベツネ東面、ヤオロ西面、シュンベツ西面くらいでしょうか
あとは1839北面の右股とかそれこそ上部の細かな沢形選択の世界となってきますね
ちなみに少し余計な事ですが、ルベツネ西面はたしか「北の山脈」でちょっとした記述を見た記憶があるので、トレースそのものは初ではないかもしれません
ルベツネ東面はルベツネピークの上から見た感じ、そんなに内容のある渓ではなさそうな印象を受けました。
ヤオロ西面、僕も地形図を見て気になっていました。ナナシからニセヤオロに突き上げる沢の支流ですよね。また今度行きたいと思います。
シュンベツ西面はルベツネ西面と並んで日高のラスボス的なポジションで残っていた沢と勝手に思っています。道内各地にいらっしゃる日高愛好家の方々もきっと共通の認識だと勝手に信じています。僕はカムエク沢未遡行なので、あそこに入ったらカムエク沢を行ってみたい気持ちもあって、でもシュンベツ西面もとても気になるのでさてどうしたものか、という感じです(笑)。でも、近いうちに誰かが行ってしまう前に僕が謎を解き明かしたいです。
1839北面は、僕が本格的な日高の直登沢として初めて足を踏み入れた沢で、とても思い入れ深いです。その時もCo1100二股の右股を軽く偵察してズタズタ雪渓の奥に絶望的な直瀑が落ちているのを見てここに行くのはまだ早いなと思った記憶があります。地形図を見ると迷うことなく1839ピークにストレートに突き上げる格好いい沢型なので、近いうちにまた行ってみたいと思っている次第です。
北の山脈にルベツネ西面載っていたのですね。存じ上げませんでした。北の山脈は今見てもびっくりするような記録が時折載っていたりして、昔のアルパイン人口の層の厚さを感じます。確かにこの地形図でピークにダイレクトに突き上げているのに誰も行っていないのは違和感があります。誰かが行っていたにしろ、そうでないにしろ、もっと有名になるべき渓だと思います。ただ、Co1120左岩壁の直登岩壁は未登かつ、ピークに直接突き上げる最高に格好いいラインだと思うので、また行きたいと思います。
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