北穂高岳・北東面滑降
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- GPS
- 18:28
- 距離
- 46.5km
- 登り
- 2,782m
- 下り
- 2,785m
コースタイム
- 山行
- 6:04
- 休憩
- 0:34
- 合計
- 6:38
- 山行
- 9:44
- 休憩
- 3:00
- 合計
- 12:44
過去天気図(気象庁) | 2024年04月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
|
写真
感想
2024年04月27日(土) 上高地〜横尾(デポ)〜横尾本谷〜黄金平〜横尾
深夜1時半、アラームが鳴る前に起床。絡んだ息子の足をよけて体を起こし、行くべきか二度寝すべきかしばし思案するが、やはり行くしかない。中央道を走り、途中で下りて沢渡へ。駐車場で屏風岩に行くというコミネムと中嶋渉氏に遭遇。準備を整えて6時のバスに乗る。黙々と2時間超歩き横尾へ。途中、徳澤ヒュッテでツキノワグマを見たが、かわいかった。横尾にテントを張り、宿泊装備をデポして斜面の偵察に向かう。
この時季ここに来たのは2017年なので実に6年ぶりだ。あの時は橋を渡った直後から板を履けたが、この日は本谷橋までひたすら担ぎ。足元はスニーカーのままだ。本谷橋を渡ったところでスキーブーツに替えるが、谷筋が割れているので、トレースに沿ってもうしばらく担いだ。途中で道を逸れて沢に下り、涸沢と横尾本谷の出合に向かうところで、ようやくシール歩行を始める。谷筋はデブリでやや歩きにくい。
二俣から左俣を覗くが、雪面がきれいだ。そちらは標高差があり、谷を抜けるまで眺望が得られないため、右俣を選んで詰めていく。最後は水が出ており、そのあたりでキックターンをした時になぜか板が外れ、200mほど滑り落ちて止まった。しかたなくもう片方の板も脱いで残置し、ツボ足で灌木を掴んで水場を越える。北東へ少し歩いたところから、目的の斜面がよく見通せた。
かろうじて雪がつながっている…。道中、雪の少なさに愕然とし、どこで引き返そうかと考えを巡らせ、この時も帰りのバス時刻を考慮してタイムリミットを設けていた。もっとよいコンディションは当然あり得るが、次はいつ行けるかもわからない。他の誰かが先に滑るかも知れない。チャンスがあるなら行くべきだ。ズームレンズで拡大した写真を何枚か撮る。実際に滑ることを想像すると胸が苦しくなった。
途中まで片脚で滑り、板を回収して二俣まで下り、そこに板とシールだけデポした。横尾まで歩く道中、次第に気分は軽くなっていった。横尾までもう少しというところで、ガイド仕事中の鳴海氏に遭遇。会話の中で、明日北穂沢から北穂に登ると聞いた。当初、同ルート登下降で考えていたが、登りはそっちでもいいかも知れないと考え始めた。持ってきた缶ビールを空け、食事を済ませて18時前には眠りについた。
2024年04月28日(日) 横尾〜涸沢〜北穂〜横尾本谷〜横尾〜上高地BT
3時前に自然と目が醒めた。袋麺とソーセージを食し、3時半過ぎにテントを出て歩き出した。横尾谷の左岸から屏風岩の方を見ると、取付きにつながる雪渓のあたりにヘッドランプの灯りが見えた。前日と同じように二俣まで行き、板を回収。ここに至るまでの間に、登路を北穂沢にすることを決めていた。登りで落石や雪崩に晒される時間を減らせるし、体力も温存できる。また、雪面をきれいなままに保ち、残り少ないいくばくかの未知を残すこともできる。
少し板を担いでから、シール歩行に切り替えて涸沢ヒュッテより少し上くらいまで登る。涸沢のテント場はもの凄いデブリの上にあり、この時季にここを指定キャンプ地とすることへの疑問が膨らむ。この日は雪が緩むタイミングを考え、10時以降ドロップを見込んでゆっくり登る。他の登山者も多いので、ほとんど何も考えずにステップをトレースするが、しんどい。登りの半分くらいまでストックとウィペットで登ったが、200mくらい滑落した中年男性を見て、ウィペットとアックスに切り替えた。
喘ぎながら稜線へ出る。空気はよく澄み、山頂からは大パノラマで富士山まで見渡せた。風も少なく気温も高く(予報ではこの日の凍結高度は3700m)、北面側を滑るには絶好のコンディションだ。北穂高北峰を経て、小屋番の方々がチェーンソーで削って作った雪の階段で北穂小屋のテラスに下りる。おそるおそる北東面側の雪をチェックするが、まだ硬いので、憧れのコーヒーを注文する。まだ昼前だが「昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なもの」だと自分に言い聞かせる。
まだ少し胸が苦しいが、テラスで休む他の登山者の方々と会話するうちに、また昨日撮った写真を何度も見返すうちに、自然と心が軽くなっていった。滑るラインは当初から考えたいたラインで、現状ではほぼそこしかないように思えた。コーヒーを飲み干して、再度斜面をチェックすると先ほどより緩んでいる。山頂付近でこれなら問題なく行ける。勢いで準備をする。その場にいた方に訊かれ、滑る場所やチャンネル名を伝えたので、ついでに手持ちの名刺(ステッカー)を全て配布した。
深呼吸を3回、「スキーを履けばこわくない」と3回唱えてから、「行ってきます」と挨拶してドロップ。出だしは雪面がきれいで気持ちのいいザラメ。北穂東稜からのトレースも見え、ここからならまだ北穂沢に逃げられる。とはいえ、ここまで来ると不安もない。振り返って雪の出方を確認して、トラバースに入る。ここまでは滑落が許されない。トラバース中に雷鳥に遭遇し、心が和む。あとは縦溝と点発生に気をつけながら、ジャンプターンに横滑りや斜滑降を繰り返して下りた。
斜面を抜けて一安心。突き抜けるような素晴らしい爽快感と安堵感。今回は一人だったが、一人でも仲間と一緒でもさほど変わらない気持ちに思えた。しばし休んでから横尾本谷を下る。ここで一名の登山者と遭遇。板を担いでニッコニコで横尾まで下る間には、何度も滑った斜面を振り返り、どこを滑ったのかと尋ねられた時には、「待ってました」とばかりに滑ってきた場所を伝えた。
横尾でテントを片付けながら何人かと会話した。あとは再び黙々と歩き、バスに乗って沢渡まで。雪のない道でスキーヤーに遭うのは奇異なようで、行き交う人にも何度かどこを滑ったのかと訊かれたが、その度に笑顔で答えた。まだ滑りたい気もするが、GW後半は妻の実家に帰るので、これでシーズンアウトとなりそうだ。今季は、自分が抱えていた長年の課題を2つ終えることができた素晴らしいシーズンだった。
<2024/5/29追記>
その後、穂高エリアで小屋番をしていた方々に話を聞いたところ、北穂小屋から北穂池に下りるラインは当時や過去の小屋番により滑られていたとの情報を得た。具体的な当事者やラインは現時点で不明だが、今回自分が滑ったのは最も弱点を突いたラインだと思われるため、既に滑られていた可能性はある。
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