岩木山弥生ルートピークハント
- GPS
- 07:57
- 距離
- 11.8km
- 登り
- 1,404m
- 下り
- 1,401m
コースタイム
天候 | 曇のち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
8合目1400m付近まではスキー可。その後はアイゼン必要。 |
写真
感想
2012年4月8日(日) 曇りのち晴れ 気温マイナス4度
青森の独立峰岩木山弥生ルートは今季5回目となった。わずか1625mだが、日本海から吹き付ける西風は山を厚い雲と雪で覆い、これまでいずれも吹雪で視界が確保できず登頂断念なくされた。なんとも不全感が募り、今度こそ。気分を変えるために、登山道へのアクセスを南寄りに変えた。ルートを自由に選べる残雪期はこれがうれしい。雪が溶ければ市民がピクニックに訪れる弥生いこいの広場スタート地点に選び、西側の奥に開ける切り開かれた林道に入る。歩き始めは林道上を歩き、その後は、緩やかな尾根にとりつき、行き先は程良い間隔で取り付けられたピンクのテープが示してくれる。弥生登山道に近づくと取り付けているテープの間隔が狭まり、登山道上の真ん中にも目立つテープが小さな灌木に取り付けられていた。これなら、上から下りてきた際にも、脇道を見落とすことはない。夏道はどんな状態なのだろう。歩いたことがないので、今年の課題が一つ増えた。
7時20分に弥生登山道600m付近に出た。ここから30分歩いて7時50分に大長峰の終端に到達。延1時間35分でここまで来られたのだからペー スは上々だ。ザックを下ろし一息。行動食の蒸したさつまいもをかじり、キンカンをほおばる。目の前にそびえる急斜面は、最近、緩やかな蛇行コースをとりの んびり歩く事が多いのだが、今日は一人なので一挙に行くぞと、気合いを入れスキー直登に挑む。シールをつけたスキーでの急斜面直登は、足首がある程度自由 になる登山靴でなければ無理だ。片足を前に出し、ずり落ちないよう体重を掛けてスキーを斜面にぐっと押しつける。押しつけが弱いと後ろのスキーを引き揚げ ようとした途端、前のスキーがずり落ちてくることになる。そうなると、斜度を緩やかにするために斜めに登る羽目になる。今日の雪は湿り気味で都合がいい。 ぐっぐっと踏みしめながら一直線に登る。心拍が徐々に早まり、額から汗が噴き出し始めるのが分かる。急ぐな、マイペースだ、といいきかせ、小休止を繰り返 しながら3段に積み上がっている急坂を登り切り、いつもの平らに開けた地点でザックを投げ出した。どれどれ。時計を見たら8時10分。おお、実質10数分 で登り切ったぞ。やった〜。ひとりごち機嫌が良くしていたが、考えてみればつまらぬことで遊んでるものだ。ま、こういう単純な頭だから仕方ないか。スキー を外し、尾根の縁から下界と大黒沢を写す。今日の視界は上々だ。巌鬼山の頂上付近もはっきり見えている。これはいいぞ。登頂できそうだ。
ここからはきれいなブナ林帯が続く。陽がまだ登り切っていないので、後ろから射す光がブナの木の長い影を作る。こういう景色もなかなか撮れない。パシャパシャとシャッターを切りながら歩く。腕にくくりつけられるカメラケースはとても便利だ。ぶらぶらする事もないし、撮りたいときにすぐ取り出す事ができる。おかげで今回の山行で撮った枚数は130枚にもなった。下手な鉄砲も数撃てば当たるで、その中から 気に入った写真が何枚かは出てくる。カメラはパナソニックのLumix FT20。撮影場所がGPS機能で自動的に記録され、低温、水中、何でもオーケーというアウトドア用。一眼レフで交換レンズを持ち運ぶ重さと手間を考えると冬山には重宝だ。
8時50分にブナ林帯を抜け、小さな丘状に開けた場所に出た。ここは900m地点。ここからだけ頂上が見えるんだよ、ほらあれが頂上だ、あなたは運がいい、と一昨年亡くなった私の登山の先輩に言われたのは2007年2月のことだった。下山途中、ここに立ち振り向いた ら、夕日に照らされた耳成岩の後ろに山頂が見えていた。写真を撮っておいたらどうだい、と言われるままにシャッター押し、それが「岩木山を考える会」という市民団体が毎年催している写真展への初めての出展となった。そのとき以来、何度この場所に立った事だろうか。一度も頂上は姿を現してくれなかったのだ。それが今日ははっきりと見えるではないか。ああ、本当にあのときは運が良かったのだな。亡くなった先輩の言葉が鮮明によみがえった。雲で隠れないうちに、と急いでカメラを構えシャッターを何度も押す。ああ、きっと今日は登頂できるに違いない。
9時25分、森林限界に出た。空と明確な区切りをつけて、どこまでも真っ白な稜線がなだらかな弧を描く。さ あて戦闘モードだ。スキーで行ける所まで行く。行けなくなったところからアイゼンだ。スキーの二本の踏み跡を真っ直ぐに残しながら8合目をめざして進む。 さすがに風は冷たい。だが気温は相変わらずマイナス5度程度。森林限界からはオーバーヤッケ上下で身を包む事にしてザックに入れては来たのだが、この程度 だと歩く発熱と相殺してちょうどいいだろうと、上はアンダーシャツとインナーフリース、カッターシャツの上にチョッキ。下はアンダーの上にモンベルのパン ツ、スパッツの軽装のままで進む事にした。なあに、寒くなったら着ればいい。予想は的中で、時折猛烈な風で耐風姿勢を取りながら進んだものの、寒さに凍え る事はなかった。汗もかかず、出入りちょうどのウェアマネージメントだった。
まっしろな雪面の正面に、徐々に頂上直下の巨岩、耳成岩が顔を現す。その後ろに頂上も見える。1300m付近でもう見え始めるのだ。今まで4回。いくら前をにらんでもこんな光景は拝めなかった。くそ〜、こんなによく見えるんじゃないか。腹立つな〜しかし気分がいいな〜今日はまったく気分がいい。上機嫌で1400m付近まで進む。
ずるりとスキーが滑る。氷だ。見ると雪面の中にでこぼこの氷がところどころ敷き詰められている。ここまでだなスキーは。スキーを外すが横にし ておく訳にもいかない。立てなければ。氷が混じった斜面は固い。ピッケルでスキーを立てる分の穴をうがつ。よしこれで大丈夫。スキーとストックを遠目にも 分かる様に立て、アイゼンを装着する。先輩がソ連の山に登に行ったときに使ったという12本爪の奴だ。がっちりと氷に食い込み、安心感抜群。ザク ザクと音を立てながら8合目の赤倉ルートとの出会う平坦部まであと少し。
スノーモービルの甲高い音がさっきから聞こえている。だんだん近づいている様だ。止まった。上に何台かいるようだ。ひょっこり上から頭が見えた。人 だ。こちらをのぞくとまた見えなくなった。8合目平坦部に着くと、そこにはスノーモービルに乗った若者。5〜6台いる。人目を避ける様に、エンジンを吹かしながら反対の大鳴沢に降りていく。二人だけ残り、一人が私が行くのを待っている様だったので、こちらから声を掛けた。いつもここまで登ってきてるんですか?は い。今頃でなければここまで来られないので土日に。ここは国定公園の特別保護地域になっているのでスノーモービルはダメなんですよ、と「自然公園指導員手帳」を見せる。こんなこともあろうかと、出発前にチョッキの胸ポケットに忍ばせておいたのだ。え、そうですか?知らなかった、それじゃおります。もっと下 の方で遊んで下さいね。エンジンをうならせながら消えていく。その姿を追いかけてシャッターを2、3度切る。スノーモービルに乗る方もスノーモービルを売る方も、あまりにも自然保護や法律に無頓着だ。
さて、ここから登るか。GPSを見ると立っている所はほぼ赤倉ルートの真上。ここからまっすぐ耳成岩の裏側に直登だ。斜面は10センチ程の足が埋まる。ところどころ浅く氷に爪が咬む。時折猛烈に風が上から吹き降りる。じっと耐風姿勢だ。風を切り分け切り分け、耳成岩の裏側に到達した。ああ、あと少しだ。正面にまあるく岩木山頂がそびえたつ。雪と氷が入り交じった平坦部から正面を見ると登山道の直登は、雪のつき加減で斜度がありすぎる。横から行こう。耳成岩を背にして東側から頂上をめざす。斜面 は10センチ程アイゼンが埋まり、滑落の心配はない。安心だ。右、ピッケル、左、ピッケル、右、ピッケルと歩を進め、11時20分山頂を得た。出発から5 時間5分、岩木山神社奥院はかろうじて屋根部分が頭を出している。雲は切れ、青空が眼下に津軽平野を広げる。鰺ヶ沢から小泊へ向かう海岸線が美しい。南側 を見下ろすと、丸い屋根の建屋が見える。鳳鳴避難小屋か?いや鳳鳴小屋はここからは見えないはずだ。南斜面8合目から9合目まで伸びているスカイラインリフト終点の建屋だ。なんと、こんなに近くに見えるとは思わなかった。こんなに視界のよい山頂は久しぶりだ。しかし、ごおっと来ると体がよろめく。吹きつけるのは南からの風で、さすがに強い。神社奥院の陰で風を避けながら一休 み。お茶を一杯飲みどら焼きでエネルギー補給をし、長居は無用、下山だ。下山は楽だった。ほどよい深さの足跡をたどる。アイゼンの効き具合も良好だ。巌鬼山に連なる4つの峰は何度見ても、下界から眺める優しい姿の岩木山からは想像もつかない雄大な眺めだ。
耳成岩直下の平坦部まで降り立ち、ふと耳成岩を見上げると仰天した。あれは人だ。スキーをつけている。耳成岩の頂上をめざして横歩きで登っている。 手を振るが気がついているのかいないのか。あの裏側はがけになっているのではなかったか。あれよあれよという間に、耳成岩を登り切り陰に消えていった。大丈夫か?スキーで降りてくるつもりなのか?頂上に向かうのか?こちらが再び登り返す訳にもいかない。そのうち降りてくるだろう。アイゼンをザックの背中にぶらさげ、スキーにはきかえ、あとは真っ白な大雪原を右へ左へとターンを繰り返し滑り降りてきた。800m 地点まで来ると何か音がする。振り向くとヘルメットをかぶったスキーヤーが颯爽と滑り降りてくる。例のあの人だ。こちらをちらっと振り向きながら、横を滑り降りていった。いやはやたいしたものだ。スキーを滑りに山頂付近まで登っていったのか。それにしてもどこを登ったんだろう。それまで気がつかなかったが、私の残した踏み跡をよくよく見るとストックの跡が2つついている。そうか。私の跡をたどってきたのだ。そのスキーヤーの滑り降りたシュプールは、なんと私が登り始めた弥生いこいの広場まで続いていた。
14時ジャストに駐車場に戻ってきた私の車のフロントウィンドウのワイパーにメモ紙がはさんあった。福島県あだたら高原スキー場が載っている2万5千分の1の地図のコピーを半分にちぎり、裏側にこう書いてあった。「スキーの方ですよね?トレースありがとうございました。(山頂下へ変なところから登っ ていった後続の者です)途中止まりたくなかったもので、失礼しました。」
山を愛する者同士の心のふれあいを感じた。
コメント
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このとき後続していた者です。ぼくもヤマレコ使っていました。偶然ですね。
ぼくが登ったところは耳成岩というのですね。ルートを間違えたのですが、登り切って、崖かと思ったら意外とすんなり降りれて安心しました。手を振って頂いたのは気付きませんでした…
それにしてもこの日は絶好のコンディションだったとのこと。ぼくは非常に幸運だったんですね。おまけに的確なトレースで楽をさせて頂き、お陰様で会心の滑降も出来て、感謝しております。
わざわざメモ書きをいただきありがとうございました。
耳成岩の裏側に結構雪が吹きだまっていたので、大丈夫かと思いましたが、普段は崖になっており、落ちやしないかとはらはらしてました。それにしても、スキーで頂上まで登ってしまうとは恐れ入りました。雪崩が怖いので、地元の者は可能な限り直登が原則です。今回は結構雪も締まっていましたので、良かったですね。
私は皮の登山靴なので軽やかなシュプールが描けないのが残念です。向学のためにブーツは何を履かれておられるか教えてくださいますか?足首の自由度はいかがなものでしょう。自分もブーツを試してみようかなと思い始めました。あんな軽やかな滑りを見てしまえば。
ぼくがこのとき使っていたのはBlack DiamondのFactorというモデルです。滑り重視でシェル硬度130とメーカーでは設定しています。が、ゲレンデ用ブーツの硬度100と同じくらいの感覚です。
この靴は確か3シーズン前に出たものですが、歩き易いという定評はありますし、実際足首はかなり動きます。ぼくはテレマークブーツのScarpa T1も山スキーで使っていますが、足首の自由度についてはそれよりも大分上です。
最近のATブーツの進化は結構すごいです。Dynafitからも来期、軽くて硬くて歩き易い3バックルモデルが出るようですし、是非検討してみて下さい。
あと、ビンディングもDynafit TLTにすれば、軽快に歩けると思います(ぼくはこのときは違いましたが、別の板でTLT Radical FTを使っています。登り重視ならTLT Speedシリーズがよろしいかと)。
以上、ご参考になれば幸いです。
情報ありがとうございました。
これで冬山登山の新しいステージが開けるかもしれません。
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