恵那山
- GPS
- 32:00
- 距離
- 41.6km
- 登り
- 1,883m
- 下り
- 3,029m
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 タクシー
|
コース状況/ 危険箇所等 |
山頂部は積雪 |
写真
感想
中津川駅に着き、改札口を出ると、正面には恵那山の穏やかな山容が目に入ってくる。白い残雪がちらほら見えるので、おそらく山頂は雪に埋もれていることだろう。
タクシー乗り場で、黒井沢林道の様子を聞いてみる。4月中旬の情報では、問題はなかったのだが、タクシー運転手たちの話では、まったく通行ができないとのこと。
このまま、ここから馬籠・妻籠へのウォーキングを検討しようとしたところ、「神坂峠へ行かないか?」と運転手に誘われた。
恵那山には黒井沢から登るルートと神坂峠から登るルートがあり、この二つが代表的な恵那山の登山ルートとなっている。ただ、神坂峠はタクシー代もかかるし、また峠からのやせ尾根は残雪のあるこの時期には危険すぎると思った。
当初の私の計画では黒井沢ルートを往復する無難なコースである。恵那山は3度目の登山だ。過去2回は、ともに黒井沢ルートから登っている。最初は往復、2度目は神坂峠へと下山し、やせ尾根を経験した。
このとき、ふと別案が浮かんでしまった。これは絶対に試してみる価値があると思った。まったくの予定外の行動だが、GWは始まったばかりだ。
それで、そのままタクシーに乗り込んでしまった。
いつものようにタクシーの運転手は饒舌だ。近くに宿泊したのかと聞くので、そうだと答える。すると、普通はビジネスホテルに泊まったのなら、朝5時には出発すべきだと言う。ちょっとムッとしながら、「ハハハ、そうですね。」とだけ答える。私にすれば、過去2回とも電車の都合で同じ時間だが、問題なく山頂に登り、下山している。もちろん、早い時間に行動できれば、それにこしたことはない。
「今年は残雪がいっぱいあるようだから、大変だね。登頂は難しいかもしれないね。」
正直、この無責任ぶりな発言には呆れた。登山が無理なのを承知で、騙して峠まで登山者を連れて行くようなものではないか?
初心者だと、尾根の途中で立ち往生してしまうかもしれない。やせ尾根では、登りはどうにか登れても、降りは足元が確認しずらいので、足がすくんでしまい、一歩も足が出せなくなってしまうことがある。
「ハハハ、そうですね。」便利な言葉だ。
「帰りはどうするね。」
「ハハハ、まったく見当がつきませんね。雪が多ければ、引き返さなければならないので。」
正直なところ、どんなにへばっても、帰りにタクシーを使う気はまったくなかった。それに必ず登頂するつもりだ。
軽アイゼンは用意していなかった。私には軽アイゼンを使いこなす技量がないのだ。すぐにはずれてしまうので、逆に危険な代物となってしまう。もちろん、アイゼンなしで、残雪のやせ尾根を登るほど無謀ではない。
峠についた。7000円だ。居心地の悪いまま、ここまで来てしまったので、「想定外の出費だ」とつい思ってしまうが、「そうではないんだ」と心をなだめる。
風はかなり強い。峠に特有の風だ。薄曇りだが、南アルプスの見事な連なりがいやでも目に入る。
さて、タクシーもいなくなった。右手の登山道をそのまま登れば、やせ尾根を経由して恵那山山頂に至るが、このまま、林道を歩き続ける。
峠なのにしばらくはゆるやかな坂道を登っていくが、すぐに下り坂になる。ゲートが見えてきた。神坂峠からの場合、車ではここまでのようだ。ゲートの横をすり抜け、そのまま林道を突き進む。
ここから見る恵那山は巨大だ。右手はギザギザのやせ尾根の稜線。左手にゆったりとした尾根が見える。この尾根が私の目標だ。最近できた広河原ルートがこの尾根にある。かなり楽なコースに見える。通常は伊那側の昼神温泉から入るのだが、私は神坂峠から入ったという訳だ。
地図ではゆるやかな林道も、見た目はかなり険しい崖に沿って通じている。しかも、その崖にかろうじてへばりついているような林道だ。登山道自体は楽そうでも、その登山口へ至るまでの林道でうんざりする。高低差も地図で表示された以上にあるような錯覚に陥る。せっかくの高度がどんどん失われていく。ようやく、08時30分に谷底の広河原に到着だ。登山道はすぐに見つかる。「3−4時間で山頂」と書かれている。
登山道自体は快適だ。快調に高度を稼いでいける。「3/10」と書かれた標識が現れた。この標識が本当に「3/10」であるならば、「1/10」あたり、20分を要したことになるので、全体で3時間20分。あと2時間20分で山頂ということになる。
「5/10」の標識を過ぎると、快適な尾根コースになる。概ね、標識は正確のようだ。「6/10」の標識を超えると、残雪が見られるようになり、道がところどころぬかるんでいる。
「7/10」の標識を超えると、完全に残雪の上を歩くようになる。尾根の端の方にルートがあるので、雪庇ではないことを念入りに確認しながら、他の人の歩いた跡を忠実にたどる。北アルプスだと、振り返ってみたら雪庇の上を歩いていたということがたまにある。だから、人が歩いた跡があるからといって、簡単に信用してはいけない。雪庇かどうか自分の目で確認する。
「8/10」の標識を過ぎると雪に覆われた樹林の中となる。木に近づきすぎると、ずぼっともぐることがあるので、木と木の中間を歩く。
何組かが下山していく。みな、アイゼンまで持っていないようだ。歩きなれていないのか、みなへっぴり腰になっている。かかとで踏み込んでステップを作るか、もしくはストックでステップを作れば良いのだが、どうもそういうことは知らないらしい。
残雪のおかげで快調に登れるのも事実だ。雪がかなりのクッションになってくれるのだ。しかも、頂上まで一直線でルートが作られている。
見慣れない展望台が見えてきた。山頂のようだ。「9/10」の標識は見逃したようだ。山頂の標識があるので、間違いない。11時50分、あっけなかった。10年以上前に登ったときにはそんな展望台はなかったような気がする。その上、雪ですっぽり覆われているので、別世界のようだ。恵那山山頂は樹林に覆われていて、視界が全くない。だから展望台が作られたのだろう。展望台では年配の男女2名がコンロを使って食事をしていた。だから、展望台に登るのは遠慮した。というか、「みんなの展望台なんだから、そんなところで、食事をしてくれるなよ!」と心の中でぼやく。
すぐに下山する。昼食の時間ではあるが、雪の上ではコンロが使えない。コンロの台となるような板までは持ってきていなかった。10分ほど歩けば、避難小屋があるはずだが、下山する方を選ぶ。残雪の時期の天候の急変だけは避けたい。12時過ぎに下山開始。
下りも快適だ。「9/10」の標識も見つけることができた。どうして見逃してしまったのか?登りに夢中になっていたのだろうか?まあいい。
雪のクッションが実に快適だ。斜面が少し険しいところでは、棒で斜面を削ってステップを作るだけのこと。だが、ほとんどシャーベット状なので、かかとから踏み込むだけでまったく問題ない。どんどん下っていく。膝の心配がいらないのは救いだ。雪がなくなったところで、ペースを落とし、ゆっくり降る。でも、コースがかなり良いから、快調に下っていける。「2/10」の標識も見つけるが、「1/10」の標識は見つけることができなかった。でも、この2010年07月19日に設置されたという標識は、本当に助かる。
14時45分に広河原に到着。地名通りの広い河原で遅めの昼食だ。いつものインスタントラーメンを食べる。
さて、ここから神坂峠まで登り返さなければならない。15時20分に出発。あわてず、ゆっくりと登り始める。無理をしても仕方がない。車が通れる林道に達っしたので、とりあえずは、安全だ。夜間でも、懐中電灯さえあれば、歩き続けることができるし、天候が急変しても、傘や雨具で十分対処できる。そして、いつでも、好きな場所でビバークできる。その安全を確かなものにするためにも、ゆっくり歩くことが肝心だ。
ゆっくり歩くことで、斜度はそれほど気にならない。むしろ、気持ち良いくらいだ。ようやくゲートを通過し、南アルプスを一望する。気持ち良い風に、明るい空。いつしか、時間を忘れる。そして17時15分、神坂峠に到着だ。
どうにか、出発点である神坂峠に到着。本来なら、ここでタクシーに乗り込んで、恵那山登山は完了のはずである。だが、私の場合はまだまだ話が続く!
もう、タクシーには乗りたくなかった。といって、バスがあるわけでもない。こんな田舎で(失礼!)、しかも夕方になろうとしているこんな時間に運行しているバスなどあろうはずがない。
だから、歩くしかない。問題は「どこまで歩くか?」である。二つ、選択肢がある。一つ目は、JR東海の中央西線の落合川駅まで歩く。二つ目は、木曽路の馬籠宿まで歩くである。
落合川駅の場合、翌朝6時に南木曽行きの電車に乗れる。もっとも、南木曽駅から、朝8時のバスに乗り込むか、もしくは1時間歩かないと、家内の実家には帰れない。
馬籠宿の場合、翌朝8時に南木曽行きのバスに乗れる。家内の実家はその途中の妻籠宿にある。
いずれにせよ、翌朝まで、どこかでビバークし、仮眠しなければならない。
とりあえず、神坂峠を出発。これまた、ゆっくりと下りの林道を歩き始める。ショートカットの登山道を使いながら、ゆっくりと下っていく。まだまだ陽は明るい。まるで指輪物語に登場するエルロンドの館へ通じているような木漏れ日と落ち葉の道を下っていく。近くの川の音は、きっと鳴神川(ブルイネン)のものに違いない。
ようやくあたりが暗くなり始めた頃、強清水に到着する。地名の通り、清水があふれ出ている。その冷たい清水をたらふく胃袋に詰め込む。「うまい!」の一言。
さすがに歩くペースが落ちていく。幸い、懐中電灯無しでも月明かりだけで歩くことができる。うっそうとした樹林の中の林道をとぼとぼと歩き続ける。相当な時間を歩いている。
会社の保養所らしき建物が見えてきた。ようやく街灯が灯る文明の場所にまでやってきた。さらに歩き続ける。
ようやく樹林の中を抜け、少し大きめの橋を渡ると、自動販売機が目に飛び込んできた。さっそく、暖かい缶コーヒーでカロリーを補給する。実は、神坂峠の手前で、最後の食料であるチョコレートを食べ終わってしまっていたのだ。水だけは常に0.5リットル分を残している。これは主に傷口の消毒用で、非常用だ。最後まで口をつける気はない。
もう、足先がジンジンと痛く、ゆっくりでしか歩けない。足の中指に豆ができていた。膝が無事なら、どうということはない。豆が潰れたら、バンドエイドを貼るだけのこと。
やはり馬籠宿の方が近い。落合川駅方面と馬籠宿方面への分岐点で、地図を入念に確認し、馬籠宿の方へ歩を進める。
深夜24時00分、馬籠宿に到着。馬籠宿も観光客さえいなければ、かなり風情がある宿場町だ。宿場町全体が斜面にそって作られている。高札場のある坂の上へ向かって登り返す。高札場よりもさらに上の方には広場ができており、屋根と囲いのある休憩所がある。そこで、仮眠を取るべく坂道を登っていく。
雨具の上下を着込む。多少風が吹き込んでくるので、折りたたみ傘を広げ、完全に遮る。02時30分くらいには目が覚めてしまったが、とにかく横になったまま、体を休める。そのまま03時30分まで横になる。
どうやら、だいぶ体力が回復したようだ。まだ、十分歩ける。さらに馬籠峠を目指し、坂道をひたすら登っていく。
馬籠峠で夜が明ける。もう懐中電灯はいらない。今度は下り坂をゆっくりとゆっくりと下っていく。歩きなれた道だが、丁寧に下っていく。
一石栃白木改番所では、桜が満開だ。撮影したかったが、携帯のバッテリーはすでに切れていた。ツツジはまだ早いが、桃の花や芝桜など色とりどりの花が木曽路の民家を飾っている。
05月02日の朝06時30分、ようやく妻籠宿に到着。
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